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「飼い始めて1年ほどのゴールデンハムスターなのですが、最近食欲が落ちてきたようなので動物病院で受診しました。特に病気ではないが、歯が伸び過ぎていて餌が食べにくいのではないか、とのことで切ってもらいました。飼育ケージ内でかじるものも入れていたのですが、このようなことは良く起きるのでしょうか? また、少し様子を見て、定期的に切る必要があればなるべく飼い主が切ったほうが良いと言われたのですが、一般の人でも可能なのでしょうか?」」
●一生伸び続ける歯
ご存じのように、ハムスターを含めたネズミの仲間の切歯(前歯)は生涯、伸び続けます。このようにずっと伸び続ける歯を常生歯(じょうせいし)と言います。また、ハムスターは切歯の裏側には硬いエナメル質が無いために、上下の歯がかみ合うことで裏側が早く削れて常に鋭い状態を保てるようになっています。硬い実や種を割るためにいつでも研いでいるようなものですね。何らかの原因でかみ合わせがずれてしまうと歯が削れなくなって伸びすぎてしまいます。このかみ合わせがずれることを「不正咬合(ふせいこうごう)」と言います。
●かみ合わせがずれる原因は?
では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。一般的にいわれるように柔らかい餌しか与えないことはもちろん原因となりますが、飼育情報が普及している今ではあまり考えにくいですね。もちろん相談いただいた方も、積極的にかじることができるものも用意されていますし、そこはお考えになっていると思います。
実際に不正咬合の大きな原因だと考えられているものは、飼育ケージの金網をガリガリかじってしまうことです。個体差はあるものの、このような行動をとるハムスターは決して少なくありません。彼らは力の加減など一切しませんから思い切りかじってしまいます。いくらハムスターの歯が丈夫でも金属には勝てませんから歯茎を傷つけてしまったり、歯の伸びる向きが変わったり、ひどい時には歯がかけたり折れたりすることで、うまくかみ合わなくなってしまうのです。そして削れなくなった切歯が伸び続けさらにかみ合わせがずれていく、という形で進行していきます。
ハムスターが飼育ケージをかじるのは切歯が伸びるために本能的に行っていると思われるかもしれませんが、そうではありません。基本的には何らかのストレスが原因となっているので、より広い飼育ケージに換えたり、トンネルなどの遊び場所を増やすといった方法で少しでもこのガリガリ行動を減らせる可能性があります。また、そもそもかじることのできない水槽型の飼育ケージや爬虫類(はちゅうるい)用飼育ケージに換えることも選択肢となります。ご検討いただければと思います。
●飼い主が歯を切れる?
次に、ご自分でハムスターの歯が切れるだろうか、ということですね。通院等、飼い主側の負担を考えての発言だと思います。端的に言いますと、慣れればそれほど難しいものではありません。ただ、この「慣れれば」という部分が問題になるのでしょうが……。道具は小型で良く切れるニッパーだけです。ニッパーはホームセンターの工具売り場や模型店などで探してみてください、あまり安いものは精度が低いのでちょっとだけ奮発していただきたいと思います。もちろん他の用途には使わないでハムスター専用にしてくださいね。
実際に歯をカットする時は2人で行うとやりやすいと思います。1人がハムスターを持って口を開かせ、もう1人がカットするという役割分担になります。ここで大切なのは、なるべく手早くカットしてしまうことです。当然ハムスターにとっては、とんでもなく嫌なことですから、彼らが何をされようとしているのか分かっていないうちにカットしたいですね。ハムスターを持って口を開かせるとほんの数秒ですが特に反応しない時間があります。この間にカットすれば人間もハムスターも最もストレスが少なくて済みます。すぐに嫌がって暴れ始めますが、ここで無理をするとハムスターを傷つけてしまうことにもなりかねませんから、一度放してやってやり直しましょう。
カットする長さは個体の状況によって千差万別です。ただ、下の切歯のほうがはるかに長い(上の歯の3倍程度)ことは知っておいてください。実際には、長さよりも歯の曲がり具合や方向を見て判断します。
ちなみに、ハムスターの歯は黄色いのが正常です。あまりに白い歯をしている場合には栄養状態に問題があります。
ハムスターは体が小さい上に夜行性なので健康状態がつかみづらい動物です。今回相談いただきました方はかなり早期にお気づきになっているようで、とても素晴らしいと思います。どうぞ、お大事に。
日本ペット&アニマル専門学校講師、つくば国際ペット専門学校講師。幼少時より様々な動物に関心を持ち、採取~飼育に明け暮れる。玉川大学農学部農学科卒業後、大手総合ペットショップに入社。水草専門店舗に始まり、総合ペット店舗店長、統括バイヤーを務めた後に独立し、ペットショップ経営も行った。現在は、各種爬虫類の繁殖技術の確立、原稿執筆、セミナー講師などを中心に活動中。