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第一話『パルセノス女学院に転入します!』
さて、俺は親父から渡された依頼を遂行するため、パルセノス女学院の正門前に来ていた。
今日から俺は『草川さち子』として、2年3組に転入することになっている。
といっても、護衛対象が二人共2年3組にいるわけではない。
聞いた話だと、春日部雪葉は3年生、峯岸凛は2年生。
学年が違う以上、どちらかのクラスにしか転入できないので、既に脅迫状が届いており、危険度が高いと考えられる峯岸凛のクラスに転入するわけだ。
そして、今日が転入初日。
俺の姿は、赤紫っぽい色のブレザーとフリルのついた可愛らしいスカートに身を包んでいるんだけど、制服がちょっと大きく、ダブダブだ。
スカートって、なんか変な感じがするな。
はぁ、俺は男だっていうのに、女子の制服に身を包んで、情けない……
落ち込んでいると、ゆらりと優しい風が吹く。
風は心地いいけど、ボサボサに伸びた髪が風に揺れるのは、少しばかし鬱陶しい。髪を邪魔にならないよう、耳元の方に避けた後、俺はゆっくりと校門を見上げた。
今まで傭兵をやっていて、学校なんて行ったことなかったけど……なんかスゲーな。
パルセノス女学院の校門は登って侵入されないように、高さが約3メートルと大きく作られており、監視カメラが4箇所も設置されているぐらいの厳重さだ。
しかも、カメラの設置角度が他のカメラを含んでおり、死角が全くない。
これじゃあ、カメラに細工して侵入することができない。それぐらいの厳重さだった。
やっぱりお嬢様学校ってだけのことはある。だけど、俺みたいなのが雇われるぐらいなんだから、完璧じゃないんだろうな。
俺は俺の仕事をするだけさ。
さて、そろそろ時間だし、理事長室に行かないと……
ガチャ、ガチャ
「あ、あれ?」
学院内に入るために、校門を開けようとしたんだけど、鍵が閉まっていた。
転入することは伝えられているはずなんだけど……どうして?
もしかして、ちゃんと伝わっていない?
あのクソ親父め。仕事しろよ……
お、よく見ると、校門に鍵穴がある。てっきり電動ロックなのかと思ったんだけど、アナログ式の鍵なんだな。
「はぁ、仕方ない。あれをやるか……」
大きくため息をついたあと、ブレザーのポケットからある道具を取り出した。
そう、ピッキング道具だ。
さーって、ちゃちゃっと開けますか。
俺がピッキングを開始しようとすると、校門の内側から、一人の女性がやってきた。
青っぽい色のシスター服に身を包んだ、金髪碧眼の女性だった。
「迷える子羊よ。どういたしましたか?」
「あのぅ、今日からこの学校に通うことになった、草川さち子です。これから理事長室に向かう予定でしたが、校門の鍵が閉めてありまして……」
そして、しばし見つめ合う。
あれ、シスターさん。何にも反応しない?
もしかして、俺が男だとバレたんじゃ……
すると、シスターは何かを思い出したように、手をポンっと叩いた。
「そういえば、そんな話がありました。可愛らしいお嬢さん。ようこそ、パルセノス女学院に。これも主のお導きです。わたし、シスターティアが理事長室に案内しますね」
「あ、ありがとうございます」
ふぅ、バレずに済んだみたいだけど、なんか複雑な気分。何だろう、涙が出てきた。
「さち子さん。ホームシックですか?」
「あ、えーっと……そんなところです」
適当な返答をすると、シスターティアは、突然俺のことを抱きしめてきた。
柔らかな胸が顔にあたり、心臓の音が跳ね上がる。
え、なんで。なんで俺が抱きしめられるわけ。ていうか、今の状況何。おれが女性の胸に顔を埋めているこの状況で、俺が男だってバレたら……まずい!
「大丈夫ですよ。今は寂しいかもしれませんが、ここにはたくさんの仲間がいます。だから、今は私の胸の中で泣きなさい。そして、スッキリしたら、今日ある出会いに感謝をして、沢山のお友達を作るんですよ」
「ふぁい……」
……この人、めちゃくちゃいい人じゃん。
シスターティア……覚えておこう。
そして、女装生活で困ったことがあれば、相談しよう。
俺は、シスターとの出会いで、女学院生活に希望を持てたような気がした。
ちなみに、理事長室に向かう途中で聞いたんだけど、校門の鍵穴はダミーらしい。
あの鍵穴をピッキングすると、警報が鳴るとかなんとか。
ふう、やらなくてよかった!
***
俺はシスターティアに案内され、理事長室にやってきた。
「失礼します。理事長、転入生を連れてまいりました」
「ありがとう、シスターティア。あとはこちらでやっておきます」
「分かりました。失礼します」
そして、シスターティアは、理事長室を去っていく。
この部屋にいるのは、俺と理事長である北条千歳だけだ。
北条理事長は、修道服に身を包んだ80歳ぐらいと思われる女性だった。
優しげな雰囲気から、もし俺におばあちゃんがいたら……とか思ってしまう。
「森畑修さん。よく来てくれましたね」
なるほど、北条理事長は俺の正体を知っているのか。まぁ、それもそうだろうな。女学院に男を通わせるのに、理事長が知らないはずないよな。
「は! 本日から着任することになった森畑修です。よろしくお願いします」
「まぁ、可愛らしい事。私が予想していた姿の何十倍も可愛らしいですね。男の護衛が来ると聞いていたんですが、まさかこんなに可愛いなんて。これならバレる心配もなさそうですね」
「それを言われると複雑な気分になります……」
俺がそう言うと、北条理事長は、クスクスと笑う。俺的には、あまり笑わないで欲しいのだけど……仕方ないか。
北条理事長が笑い終わった後、俺は再度、依頼について確認することにした。
「まず、依頼の再確認します。この度、わたしは、春日部雪葉と峯岸凛の護衛任務としてまいりました。
期限は、安全が確保されるまでとなります。
これで間違いないですか?」
「ええ、間違いないわ。あなたには凛さんと同じクラスに転入してもらった後、なでしこ会にも加入してもらうことにします」
「なでしこ会……ですか?」
「ええ、そうです。なでしこ会は、他の学院で言うところの生徒会にあたります。そこで、雪葉さんは会長、凛さんは副会長を務めています。
護衛には最適な環境かと思われますので、手配しておきました」
「ご配慮、ありがとうございます。
また、今回の依頼内容について、再確認できました。本日からよろしくお願いします」
とりあえず、再確認は終了っと。
依頼内容に問題なし。
なでしこ会っていうのはちょと不安だけど、そんなに目立つ事ないでしょう。
「もうそろそろ、あなたの担任になる先生が来るはず……あ、来ました」
「すいません、遅くなりました!」
理事長室に入っていたのは、20代前半と思わせるような容姿、ふわっとした髪型とおっとりとした雰囲気が特徴の女性だった。
「笹野先生。この子があなたのクラスに転入する『草川さち子』さんです」
やっぱり、知っている人は理事長だけで、担任すら事情を知らないんだんな。
だったら、俺は女の子を演じるまでだ。
「あのう、草川さち子って言います。よろしくお願いします」
「はぁ~い。任せてください!」
笹野先生が俺の腕をいきなり掴んだ。
ちょっとまて、この先生は一体何を……
「私のクラスの一員になるんです。しっかり面倒見させてもらいます」
「そうですか。よろしくお願いしますね」
「はい、分かりました。では、失礼します!」
笹野先生は、北条理事長にそう言うと、俺の腕を引っ張って、理事長室を出た。
「さて、さち子ちゃん。私の名前は笹野美紀っていうの。あなたのクラスの担任の先生で、担当教科は国語です!」
「はい、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。
という訳で、早速学校探検しましょうね!」
「……えっ」
この先生は突然何を言い出すんだ。
「やっぱり~来たばっかだと道に迷って危ないと思うので~
まずは学校探検をして、学校のことを知ろう!」
オーと握った手を、空高く突き上げた。
「ほら一緒に、オー!」
「オ、オー!」
誰も見ていないと分かっていても、やっぱり恥ずかしい。
てか、そろそろ、俺の腕から離れてくださいと言いたい。
だけど、俺の願いは届かず……笹野先生は俺の腕を引っ張って進み始めた。
読んでいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします!
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