中学校給食は「食べる力」低下招く 前・川崎市長が反対論唱える理由

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   「中学校給食は、家庭と本人の食べる力の低下をそのままにして(中略)将来の食べる力の芽を摘み取るものです」――一通の新聞投書が、ネット上で議論を呼んでいる。

   投稿の主は、2001年~13年にかけて神奈川県川崎市の市長を務めた、阿部孝夫氏(73)だ。阿部氏はいったいなぜ、中学給食に反対するのか。そして、「食べる力」とはなんなのか。J-CASTニュースでは、本人に話を聞いた。

  • 5月末、川崎市に新たに設置された「南部学校給食センター」(市ウェブサイトより)
    5月末、川崎市に新たに設置された「南部学校給食センター」(市ウェブサイトより)
5月末、川崎市に新たに設置された「南部学校給食センター」(市ウェブサイトより)

全国では90%弱の中学で導入

   「中学生の食べる力育成を」。こんなタイトルの投書が掲載されたのは、2017年4月3日付の神奈川新聞だ。

「川崎市で中学校給食が始まり、今年中に全校で実施される予定です。(中略)私は市長として、中学校給食に反対でした。食べる力の低下と他への依存がここまできたのかと、憂慮します」

   川崎市では長らく、中学校給食を導入していなかった。全国での実施率が88.1%に上ることを考えれば(文部科学省、2015年度時点)、かなり後発と言っていいだろう。しかし2013年就任した福田紀彦市長は、看板政策として取り組み、2017年内の完全導入に踏み切った。先行導入した4校で市が行ったアンケートでは、生徒の78%、保護者97%が高く評価するなど、歓迎ムードが広がる。

   それに真っ向から反論するのが、前任者である阿部氏だ。投書では、中学給食が「食べる力」の低下を助長する、との主張を、繰り返し訴えている。

「旧長岡藩に米百俵の話があります。現在の需要を優先するか、将来への投資を優先するかの話です。中学校給食は、家庭と本人の食べる力の低下をそのままにして、行政が補完することによって将来の食べる力の芽を摘み取るものです」

「なんだ食べる力って......?」

   2017年7月、一般ユーザーが、この投書を撮影した写真をツイッターに投稿したことで、この一文は広く注目を集めることになった。ツイートは2000件以上拡散されたが、

「なんだ食べる力って......?」
 「食べる力が何を指すのか意味不明です。給食は不要だから不要だとしか言っていません」

など、批判的な意見が目立つ。約400字程度の短文ということもあり、特に「食べる力」が何を指すのかピンと来ず、首をかしげる人が多かったようだ。また、共働きが増えた現在、親が弁当を作ることは難しい、との意見もある。

   真意を探るべく、J-CASTニュース編集部は、阿部氏本人に話を聞くことにした。

   そもそも阿部氏がこの一文を書いたのは、給食問題を論じた神奈川新聞の社説(1月23日付朝刊)で、「『愛情弁当論』を唱えていた前市長時代は(導入が)進まなかった」と言及されたことがきっかけだった。だが、阿部氏は「親(特に母親)が弁当を作ってあげるべき」という愛情弁当論には反対だという。

「私は、母親に弁当を作れと言っているのではなくて、(生徒が)自分たちの力で食べるものを確保することが重要だと考えているのです」

   「働き方改革」の旗の下、共働き家庭が増える一方で、今なお家事の負担は女性に集中しがちだ。給食導入論もその前提に立つ。

   だが阿部氏はむしろ、子どもが男女問わず、早くから自立して家事を行い、その習慣を身に着けて成長すべきだと唱える。そうすれば、親の負担が軽減するだけでなく、大人になってからも、女性だけに家事を押し付けるようなこともなくなる。その訓練の機会として、子どもが自ら弁当を作るべきだ――というのが阿部氏の主張だ。

一律の給食で「食育」になるのか

   現代はスーパーもコンビニも増え、ある程度下ごしらえがされた食材や、出来合いの惣菜を買うのもそう難しくない。

「あるものから選ぶことも含め、栄養のあるものを安上がりに、おいしく取れるよう工夫する。それは勉強よりも大切な、生きる力の基本ではないでしょうか。14~15歳といえば、昔なら『元服』ですよね。そのくらいになったら、日常生活の中で自分が食べるものは自分で選択し、自分で自分を育てていく努力が必要だと考えるのです」

   どのみち、食は一生ついて回る。十分な経験を積んでいなければ、社会に出てから、かえって不健康な食習慣に陥りかねない。そう考えれば、早いうちから実践を通じ、知識や自信を得るべきだ。投書にある「食べる力」は、こうした考えによるものだという。

   また、阿部氏は、給食推進派による「食育に役立つ」という議論にも否定的だ。

「税金を使う以上、中身にしろ食器にしろ、どうしてもお金をそうかけられません。どうしても安いものを選ばざるを得なくなる。それを一律ワンパターンに押し付けることが、本当に教育になるのか。どうしても私は割り切れないのです」

   川崎市教育委員会によれば、中学校給食に伴う保護者負担は1食あたり約320円だが、それだけで給食にかかる費用を賄えるわけではなく、相当額が公費=税金で補われることとなる。川崎市が導入のため、2031年度までの18年間で費やす金額は、総計約446億円にも上る。「本当に、市民全体がそれを負担しなければいけないのか。それだけの税金を使う意味があるのか」と、かつて市政を預かった経験からも、阿部氏は重ねて疑問を呈する。

「同じお金を割くのなら、食育の専門組織を作って、中学生に料理を定期的に指導するなどして、『自分で弁当を作る』ことを運動として展開していくべきでは。もちろん今すぐ、と言われても無理で、十分な準備が欠かせません。自治体だけでなく、国も含めて仕組み作りをしていくことが必要かもしれませんね」

   7月30日投開票の横浜市長選でも、その導入の是非が争点の一つとなるなど、今なお「中学校給食」をめぐっては議論が続く。阿部氏は、「私の意見が賛否含め、いろいろと考えるきっかけになってくれればうれしいです」と取材を締めくくった。

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