「これは、社会問題解決型AI(人工知能)の分析結果から導き出された“ムチャな提言”に、マツコ・デラックスが耳を傾けてみる番組である」――こんなナレーションで始まる番組が、NHK総合で7月22日に放送された。
タイトルは『AIに聞いてみた どうすんのよ!? ニッポン』。NHKの開発した「AI」なるものがはじき出した“社会への提言”を、司会の有働由美子アナウンサーとマツコ・デラックスさんがゲストとともに論じるという内容だった。
その提言の中には「40代ひとり暮らしが日本を滅ぼす」という過激な内容も飛び出し、ネット上で話題を呼んだ。「本当にAIなのか」「統計的に正しい操作がされているのか」「40代ひとり暮らしを全否定するのか」「AIという“虎の威を借りて”発言の責任転嫁をしているのでは」――など批判の声も目立った。
これらの真相は。番組内や公式サイトでは十分な答えが得られなかったため、ITmedia NEWS編集部はNHKに質問状を送った。その回答が届いたので、論点を整理しながらNHKの回答を紹介する。
NHKが独自に開発したという「社会問題解決型AI」とは何者なのか。
番組内では、「日本のあらゆるデータ」30年分、合計700万個のデータをAIにインプットし、さらに1万5000人分の人生を10年以上に渡って追跡したデータも用いたという。「パターン認識」や「ディープラーニング」を駆使したといい、「AIは因果関係は分からないものの、(中略)値が連動して変動するあらゆるデータを瞬時に見つけ出すことができる。その時、データの名前や意味は気にしない」とも、解析アプローチの一端を明かしている。
開発者は誰か。開発リーダーはNHKディレクターの阿部博史さんで、これまでもビッグデータ解析を使った番組を制作してきたという。
開発時には「東京大学・坂田一郎教授、京都大学・柴田悠准教授など、さまざまな研究者のアドバイスを受けた」としている。この2人は番組にゲストとしても登場した。
「研究者のアドバイスを受け」「700万個のデータを」「ディープラーニングなどを駆使し」「ビッグデータ解析をしてきたNHKディレクターが作った」AIだから――その提言には信用が置けるのだろうか。
一般に、新しい研究結果は論文とともに発表される。研究結果がいかにセンセーショナルな内容であっても、その結果に至るまでの研究過程が正しいかを客観的に判断できなければ、そこから導く答えは信頼が置けないからだ。
NHKが開示している内容は、“提言”までの過程を吟味できるほど詳しい内容だろうか。少なくとも筆者には「まるで足りない」と感じられた。
「ディープラーニング」や「パターン認識」を使ったという漠然とした情報だけでは、それでどういう計算をしたのかは分からない。「計算には電卓を使用した」というのと本質的に変わらない。式が正しければ正しい値が計算できるかもしれないが、どんな式を計算したのかが伝わってこなかったのだ。
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