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【社説】

やまゆり園再建 暮らしの選択肢広げて

 地域に多彩な生活の場を用意する契機としたい。障害者殺傷の現場となった相模原市の津久井やまゆり園の再建問題である。利用者自らが暮らしを選べるよう取り組んでこそ、事件を克服できよう。

 人里離れた閉鎖的な環境で集団生活を送るか。それとも、町中の開放的な環境で自立生活を送るか。どちらの人生を選びたいか。

 前者を好んで選ぶ人は、おそらくほとんどいないだろう。そんなふつうの感覚にしっかりと寄り添った結論といえよう。

 昨年七月の悲劇を受けて、津久井やまゆり園の再建のあり方について神奈川県障害者施策審議会の部会がまとめた提言である。

 現在地をふくめ、県内の幾つかの場所に、小規模な入所施設を分散して整備するべきだとしている。併せて、利用者が望めば、地域のグループホームやアパートなどでの自立した暮らしに移行できる仕組みづくりを求めている。

 神奈川県は当初、山あいの現在地に定員百人を超す同様の大規模施設を再建する構想を示した。障害があろうと、地域でふつうに生きる権利を保障されるという社会福祉の基本原理に反するとして、批判を浴びたのは当然だった。

 ノーマライゼーションと呼ばれるその理念は、一九五〇年代にデンマークの知的障害者の親の会が繰り広げた大規模施設の改善運動から生まれた。北欧諸国から世界に広がり、日本でも八〇年代からよく知られるようになった。

 その親の会が当時掲げたスローガンをほうふつさせる提言が、現代の神奈川県に対して出されたのである。そのこと自体が、日本の障害福祉がいかに立ち遅れているかを象徴的に物語っている。

 もちろん、大規模施設の再建を求めてきた津久井やまゆり園の利用者家族の反発も理解できる。

 殊に「親亡き後」を心配すればこそ、身の回りの介護から医療的ケアにいたるまで手厚い支援を期待したいに違いない。施設職員や地元住民と時間をかけて培ってきた信頼関係もあろう。

 けれども、利用者本人の気持ちは異なるかもしれない。地域から隔絶された場所で、集団として管理された画一的な生活を送り、どんな思いでいただろう。

 提言はだからこそ、利用者の思いを尊重して暮らしの場を決めるべきだと説く。意思を確かめる営みそのものが、犯人が意思疎通の図れない障害者を襲ったという事件を乗り越えることにも通じよう。神奈川県の針路に注目する。

 

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