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ペンは剣より無双
投げ出された三人は、翼を広げて、ふわりと宙に舞う。ふくらはぎから、くるぶしにかけて、水平尾翼の如き羽根が生える。メイドサーバント達の眼下では、破壊の限りが尽くされていた。
マストが爆散し、構造物が倒壊する。短い飛翔音、多数。風切る音が次々と重なる。閃光! 駆逐艦の砲塔が外れて、浮き上がる。激しい振動と熱風。中腹に被弾し、真っ二つに折れる重巡。
スクリューを破壊され、螺旋を描く駆逐艦。傾いた別の船と衝突し、誘爆する。劫火が噴きあがる。幸い、無人であるから良かったものの。
「対艦ミサイル。航跡を逆探知」
ソニアが自分の艦に命じると、視界が赤く曇った。濃い線が何本も住宅地から生えている。
「何で、あんな場所から?」
網膜の画像を、共有していたグレイスが驚く。プロットされた航跡に、自分の艦から、ルックダウンレーダーの映像を取り寄せて、重ねる。
「攻撃機やミサイル発射台の類は見当たらないわ」
ふわりと爆煙を飛び越えつつ、シアが旋回する。軌道上にある自艦へ、解像度アップを指示。じわじわと、網膜に航空写真が浮かび上がる。
住宅街のはずれ、ひときわ寂れた一角に、ぽつんと一軒家がある。映像が別ウインドウで拡大される。赤外線の残像がここに集中している。
「ここの農家は、ミサイルでも植えとるんか?」
グレイスが仰け反る。勿論、畑から採れるはずはないが、ニア=ステイクローズは、政治将校用の別荘地を一部開放して、外貨を稼いだり、星の周囲に絶対防衛圏を敷くような国である。農民が兵器生産に従事していてもおかしくない。
「こんな事もあろ~かと、地上部隊を用意しといたわ」
シアが雲を突っ切って降下していく。戦闘ヘリが、ぎっしり並んだ滑走路。強襲揚陸艦の甲板に三人は着地した。芋づる式に、ヘリ部隊が離陸し、重火器を構えた重装歩兵が、舟艇に乗り込む。
右舷のランチャーから砂浜に向けて、投網が発射される。砂塵が、数珠つなぎに弾ける。
「地雷撤去完了。行け~」
シアの号令で、艦首のウェルドックが、ごうん、と開く。波を蹴立てて、エアークッション型揚陸艇が、吐き出される。
ワームホール太陽が、じりじりと照り付ける。風は無く、停止した時間の中で、セミだけが謳歌している。乾いた木造家屋が並ぶ。装甲車のアイドリングが、緊迫した空気をあぶっている。
稜線の向こうまで、装甲車・装甲車・装甲車・装甲車…。標的を包囲する歩兵。満員電車のド真ん中に、一軒家が建ったよう。
一人が閉ざされた門に身を寄せ、呼び鈴を押す。背後には銃を構えた兵士。全ての窓に銃口が当てられ、突入の準備が整っている。投球の構えに入る者もいる。手には催涙弾やスタングレネード。
ピ~ンポ~…
「こんにちわ~。ミサイル宅急便です~」
ロボット兵士が振り返って、仲間にうなづく。突入の準備だ。
ピンポ~♪…
かち、かち、と銃の安全ロックを解除する音が鳴り響く。
「返事が無い…まるで、しか…」
喧騒が、ぴたりと止んだ。
セミの合唱が1オクターブ上がる。男達の息遣いや、退屈なエンジン音が消えている。
「きゃ~~っ」
グレイスは尻餅をつきそうになって、慌てて羽ばたく。さっきまで立っていた場所には海面が広がっている。
「ちょっと。どこ行っちゃったの? 揚陸部隊」
慌てふためくシア。揚陸艦を含めた大部隊が、一瞬で消滅した。
「え~なになに?」
ソニアが、力いっぱい翼を広げて、上昇する。ぐるぐると大きく輪を描いて、部隊を探す。
「磁気的、電気的、電子的、光学的、光磁気的、念力的、超能力的、魔術的、音声的、音波的、会話的、電磁波的、重力波的、物理的、スキャナー的、文学
歴史の五〇的、肉眼的、いかなる手段でも確認できないわ」
グレイスが、自艦のセンサーをフル稼働させている。
「ハイ、消えました♪」
ソニアがシアの肩を叩く。
「叩いても、×マークは点きません」
ムッとするシアの横で、グレイスが歌う
「鳥も~ぉ…魚も~ぉ…何処へいったの~♪」
「おね~ちゃんも歳がバレるよ」
「うっさいわね!」
「あ~ん。おか~~さん。おねーちゃんが叩いた~」
「いい加減になさい! それにしても、どういうイリュージョンを使ったの?」
母娘の狼狽ぶりを嘲うかのように、潮風が吹き抜けた。
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