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第8話 酒のノリでいろいろ開放的になる
かつて、魔王ベルフェリアは自前の魔力で魔王城を支えていたと言う。
だったら、ピオニーの有り余る魔力を使えば、魔王城の改造も思いのままになるのでは?
そう思った。
思った通りだった。
「ピオニーの魔力は数値に変えると800~1000くらいみたい。全部絞り取るのは危ないけど、8割くらいなら大丈夫。で、魔力は大体11時間を目処に全回復するから……」
「寝る前に城に注ぎ込んどけば、朝起きる頃にはほぼ回復してるじゃん。使いたい放題かよ!」
「いやー、これでも結構キツイよ~。いろいろ試行錯誤するんだから」
ピオニーの魔力を借りておれたちがやろうとしていること。
それはもちろん、魔物を自動で退治する装置――モンスタートラップの開発だ。
「ローダン。標的は何にする?」
「この辺にそこそこいて、実入りもいい魔物ってなると……やっぱりミノタウロスじゃないか?」
「ミノタウロスかぁ。肉食だから、エサを置いておけば誘き寄せるのはできると思う。問題はどうやって倒すか……」
「ちょっとやそっとの落とし穴じゃあ無理だよな?」
「わたしは、溺れさせちゃうのがいいんじゃないかな? って思う。ミノタウロスってね、泳げないの」
「えっ、そうなのか?」
「そう。だから、水深のある池を作っておいて、そこに落とし穴で―――」
そうして、あーでもないこーでもないと試行錯誤し―――
1週間が経った。
「……ひとまず、完成」
クルミが言う。
「1体倒すごとに消費する魔力が5。プラス維持費が1日に30。で、ミノタウロスの魔力が50。つまり、1日に1体でも倒せれば15のプラス収支で、2体目以降は丸儲けってことになるよ」
「上手く行けばな……」
テストが上手く行ってこその成功だ。
おれたちが作ったトラップは単純なもんで、深い池に繋がった落とし穴にミノタウロスを誘い込んで溺死させてしまう、というものだ。
エサの匂いを効率的に拡散できる配置や、ミノタウロスに気付かれない落とし穴の隠し方、それに池の設置場所なんかを決めるのに、それはもう手間と魔力がかかった。
「見てろよ、ピオニー。これから、お前の魔力がミノタウロスをばったばったと倒しまくるぜ」
「う、うまくいくのかしら……。ミノタウロスを罠にかけるなんて、聞いたことが……」
「なんであれ最初は前代未聞だ。――シッ、声を潜めろ」
のしのしとミノタウロスが歩いてきた。
エサの匂いに釣られてきたのだ。
ミノタウロスは意外と賢いらしく、木から肉を吊るしたりしておいても、不自然に思って近付いてこない。
だから、落とし穴の上に、イノシシ(っぽい魔物)を立たせておいた。
落とし穴の蓋に、イノシシの重さには耐えられるがミノタウロスが踏み抜けば落ちる程度の強度を与えておいたのだ。
結果、ミノタウロスはイノシシごと池に直行して溺死。
ところがイノシシは実はそこそこ泳げるので生き残る率が高い。
再利用可能ってことだ。
他にもミノタウロスの厄介なところはいろいろあった。
耳がいいから、水を満たした落とし穴を作っても、水音を察知して近付いてこない、とかな。
だから別の場所に作った池に繋げてしまう形にしたんだが。
今度こそ上手く行けよ……!
祈るおれたちの前で、ミノタウロスが不用意に囮のイノシシに近付いていく。
と。
その足が、ズボッ、と落とし穴を踏み抜いた。
「かかったっ!」
おれたちは落とし穴に駆け寄って、中を覗き込んでみる。
ミノタウロスの姿は見えない。
「池のほう行こうぜ!」
落とし穴から繋がっている池に移動した。
さっぱり底が見えないような、深い池なのだが……。
その水面を、イノシシだけがぷかぷかと泳いでいた。
クルミが魔王城操作の魔導書を開く。
「……魔力、増えてる……。成功!」
「よおしっ!」
おれとクルミとピオニーは、3人でハイタッチした。
これで魔力事情がずいぶん楽になる!
「って言っても、まだ改良はできそうだけどな。囮の再設置を自動化するのが次の課題か」
岸に上がってきたイノシシに、ご褒美のエサを与えてやる。
「でも、完成は完成だよ。ピオニーさんも、ありがとう!」
「そ、そんな……わたくしは、特に何も……」
「いーや。今回の立役者はお前だ。トラップの完成を祝して、今日は贅沢しちまおうぜ!」
◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆
そうして、その夜は3人でパーティになった。
ダイニングにおれやクルミが作った料理を並べて、普段はあまり飲まない酒も引っ張り出してくる。
「さっきも言ったが、今回の立役者はお前だ、ピオニー。飲め飲め!」
「……でも、わたくし、本当に魔力を貸しただけですわよ?」
「エサの匂いの広がり方とか、調べてくれたじゃない。その鼻を使って」
おれとクルミが口々に褒めていると、ピオニーは急にぐすぐす涙ぐみ始めた。
「おい!? なぜ泣く!?」
「だ……だって……こんなに、褒められるなんて……久し、ぶりで……!」
ずびずびーっと洟をすすりながら、ぐびぐびーっと酒を呷るピオニー。
「大変だったんだな、お前も……」
「そうですわよ! 環境も、身体も、才能さえも! 何もかも変わっちまったんですもの! 大変だったんですのよ! うえーん!」
それから、ピオニーは実家のことを愚痴り倒し始めた。
おれの推測は間違ってなかったようで、やっぱり彼女は家出娘らしい。
そのうえ追っ手もさっぱりかからず、ローズモス家のほうも、ピオニーに執着していないらしかった。
冷てえな……家族だろうに。
「確かに、確かに! わたくしには前世の記憶があって、本当にあの家に生まれた、ピオニー・ローズモスじゃねえかもしれませんけれど! それでもわたくしは、ちゃんと家族だと思っていましたのに……!」
「……頑張ったな、ピオニー。そう思ってても、誰にも喋れなかったんだろ?」
「うわーん! ろーだあああん!!」
ピオニーは赤らんだ顔でしなだれかかってきて、おれの胸板を撫で回してきた。
「よしよし。これからは何でもおれに話していいからな」
「ううう。前世より優しい……」
「心に余裕ができたからな」
「うううう! 知らないうちに結婚なんかして! 羨ましい!」
おれの膝の上に跨ってくるピオニー。
「あのヘタレローダンが結婚なんかできるとは思っていませんでしたわ!」
「ヘタレとか言うなよ」
「ヘタレじゃありませんの! あれだけサルビアに好き好きオーラ出しておいて、一向に手すら握らないんですから!」
「……ひ、人にはペースってもんがあるんだよ……」
上の服をはだけて、ぷるんとおっぱいを目の前に突きつけてくるピオニー。
「まったく。わたくしとホップがどれだけやきもきさせられたか!」
「勝手にやきもきされてたのを怒られてもな……」
「覚えてます? わたくしがあなたたちを同じ部屋に閉じ込めたときのこと」
「お前、あれなあ! 『キスするまでこの部屋を出るな!』とかめちゃくちゃだぞ!」
目の前の白い果実に両手を添えて、ぐにぐにと形を変える。
「―――って、ちょっと待って!? 二人とも、堂々と何してるの!?」
「「あっ」」
クルミに指摘されて、ようやく自分たちのしていることに気付いた。
危ねえ。
ベッドに移動する5秒前だった。
ピオニーははだけた服をそのままに、軽く頭を押さえる。
「久しぶりのお酒で……しかもローダンがいるものですから、つい……」
「100年経っても抜けねえもんだな、習慣って……」
「しゅ、習慣……!? え? もしかしてわたしが知らないだけで、世の中の男女って結構そういうノリでそういうことするの!? わたしの知らない世界では普通なの!?」
「文化の違いだなあ」
「わたくしの周りは割とそうでしたわよ! 前世の話ですけれど!」
なっはっは!! と笑うおれたち。
いやー、結構酒が回ってるなあ。
「でもなー、やっぱよくないよなー。ほら、おれ、妻帯者だから!」
よっこらせ、とピオニーを膝の上からどけて、クルミのほうに行った。
「見ろ、この超可愛いおれの嫁を!」
「ろ、ローダン……」
「見ろ、この揉むのにちょうどいいおっぱいを!」
「ローダンっ!?」
背中から腕を回して、クルミの胸をぐねぐねと揉む。
あー、ホントちょうどいい……。
「ふっ……あうっ。ろーだ、ちょっとダメっ……」
声も可愛い。
「あー、そっかー。そうですわよねー。
……でもクルミさん、一人で大変じゃありません?」
「うっ!」
んん?
クルミの身体がぎくりと固まった。
「ローダンって底なしなんですもの。ちょっと休ませてー、とか、今日はゆっくりさせてー、って思うこと、ありません?」
「ううっ!」
「えっ!? あるの!?」
めちゃくちゃショックなんだが!?
ふふふ、とピオニーが怪しい笑みを浮かべながら近付いてきて、クルミの耳元で囁く。
「分担すると楽になれますわよ……? もちろん、したいときがあるなら譲りますし……」
「うう……」
「っていうか、いつもどんな風にしてますの? 普通に気になりますの! 見せてくださいな!」
「見せっ……!? い、嫌だよそれは!」
「お、おれも嫌だ!」
おれたちは顔を赤くしてぶんぶんと首を振った。
あんなの人に見せられるか!
「へー、ふーん。相当恥ずかしいことしてますのねー。
よし、決めましたわ! 二人ともお脱ぎなさい! 裸にして閨にぶち込みますわっ!!」
「はっ!?」
「わーっ!?」
おっぱいモロ出しのままおれたちの服を脱がそうとしてくるピオニーに必死の抵抗を試みながら、夜は更けていった。
並行世界の物語
『最低ステータスの最賢勇者』
人間や魔族を捕食する天敵・外獣が跋扈する世界で、最低クラスのステータスしか持たない少女クルミを、最強クラスの勇者(冒険者)へと育て上げる。
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