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戦い疲れた元勇者のご褒美ハーレムな余生 作者:紙城境介
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第7話 ポンコツお嬢様になった伝説の傭兵


 要するに。
 生まれ変わったのだと言いたいらしい。
 前世の記憶を持ったまま。
 ランドラからピオニーに。

「「……うーん」」

「なんですの、その怪訝そうな目は!」

 そりゃそうだろ。
 んなこといきなり言われて信じられるかよ。

 英雄の一人であるランドラは有名人だ。
 その生まれ変わりを自称している奴なんて、世界にいくらでもいそうなものだ。

「天空魔将と戦ったときの傷を知っているのはわたくしやホップ、サルビアだけでしょうに! それが証拠になりますでしょう!?」

「まあ、そこは確かに、そうなんだよな……」

「なんだったらあのときのことも話しましょうか! ヴァルング王国の国境辺りの宿場町で、あなたが初めてわたくしを抱いた―――」

「抱いっ……!?」

「待った!! わかった! わかったから!!」

 クルミがじとーっとおれを見た。

「……本当だったんだ。おばあちゃん以外のパーティメンバーと関係を持ってたって」

「いや、まあ、そのー、明日をも知れぬ立場ではよくあることっつーかー」

 この話は終わり!

「……生まれ変わりって言っても、そんなのが本当にあるんなら、もっと知られててもいいはずだと思うけどなあ。文献でも見たことないし」

 クルミが理知的なことを言った。
 そりゃそうだよな。
 前世の記憶を持ってる人間が目立たないはずがない。

「転生魔法がどうたらと、サルビアが言っていた気がしますわ」

「サルビアが? いつ?」

「あなたと魔王が揃って異空間に消えた直後です。そう、確か……『もし生まれ変われるとしたら、もう一度ローダンに会いたい?』と」

 サルビアが、そんなことを……?
 ピオニーは眉間にしわを寄せて頭を押さえた。

「でも、そこから先の記憶が曖昧で……国に戻って貴族になった覚えなんて、わたくし、ありませんの。気付いたらピオニーとして6歳のお誕生日パーティをしてましたわ」

 ランドラは魔王との戦いの後、ヴァルング王国の貴族になったと言う。
 生まれ変わりってことは、死んでからピオニーになったってことで……。

「っつか、きみがランドラなんだとしたら、その口調はなんなんだ? 現代にどう伝わってるか知らんが、あいつはガサツが服を着たような女傭兵で、喋り方も男みたいな感じだったぞ」

「しっ、失礼ですわね! この喋り方は生まれ変わってから叩き込まれましたの!」」

 うーん、とおれとクルミはもう一度首を捻った。

「転生魔法なんて、心当たりないけど……おばあちゃんがやったかも、って言われると……」

「だよな……。サルビアならできるんじゃねえかって思っちまう」

 あの不世出の大天才、賢者サルビアなら。

「どうしても信じられないなら、今この場であなたの×××を○○○して差し上げましょうか、ローダン!? 今日知り合ったばかりの女にそんなことができまして!?」

「別に……クルミとも知り合った日の翌朝に結婚したし……」

「なっ……! ついぞサルビアに告白さえできなかったあのローダンが……!? 確かにクルミさん、あからさまにローダンの好みですけれど……」

「えっ!? そ、そうなのっ!?」

「ローダンの妄想が形になったんじゃねえかと思うくらいですわ」

 あっ、ちょっとだけランドラの口調出た。
 お嬢様言葉と混ざって変なことになってるが。

「え、えへへ……。そうなんだ……好みなんだ……」

 そうでもなきゃあんな四六時中――まあいいや。

「とりあえず、きみが本当にランドラなのかどうかは、いまいち判断できないからさておくとして……これからどうするつもりなんだ? どこか目的地があるのか?」

「何を言いやがってますの! せっかくローダンと再会できたのに、どこかに行っちまうわけねえじゃありませんの! ……どうせ目的地もありませんし」

「ええー……。正直に言うが、新婚だから邪魔しないでほしい」

「明け透け! ローダンって、わたくしにだけは本当にそうでしたわよね! サルビアにははっきりしなかったくせに!」

 クルミがくいくいとおれの服の袖を引いた。

「……ローダン。なんだか仲良さそう」

 あっ。
 少しむくれていらっしゃる。
 この顔は初めて見たかもしれない。

「口調は違うけど、確かにおれへの当たり方はランドラっぽいんだよ。あいつとは悪友みたいなもんだったから、ついな」

「悪友とエッチするの!?」

 ……するんだよなあ、ランドラの場合は。
 不思議なことに。
 ランドラとの行為は、行為って言うほど大仰なもんじゃなかったが……。

「む~……!」

「嫉妬すんなよ。嬉しいし可愛いけど」

「仮にも客人の前でイチャつかないでくれます!?」

 おっと、そうだった。
 その辺りのラインはわきまえていかないとな。

「まったく、見ないうちに腑抜けてしまって……。
 わかりましたわ! あなたたちがわたくしをここに置きたくなるよう、わたくしの有能さを証明してご覧に入れます!」



◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆



 そう言って自称ランドラのピオニーは外に飛び出し、森の中を歩き始めた。

「くんくん……。こっちですわね」

「うわ、マジで? あれできるのか」

「ねえ、ローダン。あれって何してるの?」

「ランドラは魔物の位置を匂いで捕捉できたんだ」

「えっ……? 犬みたい……」

「性格はゴリラみたいだったけどな」

「ちょっと! 聞こえてますわよ!!」

 しかし、あれができるってことは、やっぱり本物なのか……?

「……いましたわ」

 森の中をのしのし歩く大柄な影。
 ミノタウロスだった。
 この辺には結構いて、よくアイアン号に殴り倒されている。

「あのミノタウロスを焼き尽くしてやりますわ! よくご覧なさい!」

「へーい」

 ピオニーがミノタウロスの前に身を晒す。
 もしものことを考えて、ちゃんとアイアン号も連れてきている。
 危なければコイツになんとかしてもらおう。

「はあああああっ……!!」

 ピオニーが手に持っていた杖を掲げ、魔力を漲らせた。

「おおっ……!?」

 それを感じたおれは目を見張る。
 すっげえ魔力量だ……!!
 焼き尽くすどころか消し飛ばせるぞ!

「行きますわよっ……!! 覚悟ーっ!!」

 そして、ピオニーは励起させた膨大な魔力を―――
 ―――まるで使う気配なく、うおおおおっ、と叫びながらミノタウロスに突撃していった。

「は?」
「えっ」

 しかも遅っ。
 身体はあまり鍛えてないらしい。

 ミノタウロスがヴモーッと叫ぶ。

「アイアン号!」

 危険と判断したおれはアイアン号を動かした。
 とてとてと突撃するピオニーにミノタウロスが殴りかかる前に、鉄の拳が牛人をボコボコにする。
 魔物にも慣れがあるのか、最初にミノタウロスと戦ったときよりスムーズだった。

「何やってんだ、きみ……」

 おれたちは、戦闘の余波で地面に尻餅をついたピオニーに近寄った。

「何のために魔力を励起させたんだよ……」

「ううっ……だって、身体が勝手に……。敵は近付いて倒すものなのですもの……」

「それは、それこそランドラみたいな、体格に恵まれた戦士がやることであって――あ」

「あっ!」

 おれとクルミは顔を見合わせた。
 そういうことか。

 もし彼女がランドラの生まれ変わりだというのが真実であれば、その頃の戦い方が身体から抜けない、ということはありうる。
 そして身に染み込ませた技術と、持って生まれた才能が噛み合わない、ということも。

 普通は、自分が楽にできること――つまり才能があることの技術を、優先的に磨いていくものだからな。
 そもそもある程度才能がないと、技術なんて身に付かん。
 だから、技術と才能が致命的なほど噛み合わないってことは、たぶん、そうそう起こらないはずだ。
 だが――曰く、彼女は記憶と経験を持って生まれ変わった。

「……記憶を持って生まれ変わるとか、もし本当だったらとんでもねえズルだなと思ってたが、逆効果になることもあるんだな……」

 悲劇だとしか言いようがない。

「ううっ、うううっ……! 王国一の傭兵と呼ばれたわたくしが、どうしてこんな……。父親にもきょうだいにもバカにされるし……ううう……」

 ピオニーはめそめそし始めた。
 ランドラも落ち込んだときはこんな感じだったよな。
 そして、旅をしている理由もなんとなく見えてきた。
 貴様、家出娘だな?

「よくもまあ、その有様でこの魔界の奥地まで来られたな。魔力の量は確かにすごかったから、戦い方が多少アレでも―――ん」

 待てよ?
 魔力量が凄まじいのは確かだ。
 人間の中でも最高クラスだと思う。
 彼女の戦い方を今すぐどうにかすることはできないが、その魔力量を役立てる方法はあるんじゃないか?

「ピオニー」

「んぁ……?」

 おれはピオニーの傍に膝を突いて、その肩に手を置いた。

「その魔力、おれたちに――おれたちの家に、分けてくれないか?」
並行世界の物語
『最低ステータスの最賢勇者』
人間や魔族を捕食する天敵・外獣が跋扈する世界で、最低クラスのステータスしか持たない少女クルミを、最強クラスの勇者(冒険者)へと育て上げる。
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