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戦い疲れた元勇者のご褒美ハーレムな余生 作者:紙城境介
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第0話 ある日の魔王城の朝


 ある日の魔王城。

「いよっし! あとは、と……」

 物干し竿に洗濯物をあらかた干し終えたおれは、滲んだ汗を拭った。
 正六角形をしたこの部屋は、デカい天窓から燦々と日光が降り注ぐので、洗濯物がよく乾く。
 しかも急な雨に降られても取り込まなくていいオマケ付き。

 以前のこの部屋の持ち主である魔王軍四魔将の一人、不死魔将デッドキルケも、きっと鎖帷子を干すのに使っていたに違いない。
 あ、いや、そういやあいつ、日光浴びると死ぬんだっけ。
 なんでわざわざ自分の部屋に天窓作ったんだろうな……。
 おれたち勇者一行としては、非常に都合が良かったわけだが。

 ともあれ、晴れやかな気分で、おれは残った洗濯物を手に取った。
 む。
 これは……?

「……女性用下着(おパンツ)……!」

 しかもなかなか大胆な……。
 薄手すぎてちょっと透けてる。

 まったく、どこのどいつだ!
 おれに隠れてこんなパンツを履いていたのは!
 ちゃんと見せろよ! おれに!

 可能性として一番考えられるのは、ピオニーの奴だろう。
 叩き込まれたお嬢様としての品性に、見えない部分で抗っているのかも。

 次に考えられるのはアンズだ。
 ロリでサキュバスで、なのに敬虔なシスターというトリプル矛盾を抱えるあいつは、単純に中身のエロさが折り紙付きだ。

 最後に、一番可能性が低いのが―――

「ろーおおおおおおだあああああああああん!!!!」

 噂をすれば。
 廊下の向こうから、クルミの奴が全速力で走ってきた。

 黒っぽいローブの上に、エプロンのような白い前掛けを着けている。
 それが、本来だぼだぼのローブの腰をきゅっと縛り、彼女の抜群のプロポーションを際立たせていた。
 髪は栗色で、長いそれを太い1本の三つ編みに結っている。
 ちょっと野暮ったいが、その絶妙に垢抜けない村娘みたいな感じが、おれはとても好きだった。

 彼女はクルミ。
《城守の賢者》と呼ばれる少女で、この魔王城での同居人の一人。
 賢者の名の通り、瞳には知性を窺わせる煌めきが―――
 ……ないな、今は。
 うん。

「ろ……ろーだっ……せ……せんたく……せんたくものっ……!」

 ぜえぜえと息を切らしながら何事か訴えようとするクルミに、ははーん、と勘が働いた。

「これか?」

「あっ……!?」

 手に持ったおパンツを広げて見せると、クルミは見る見る顔を真っ赤にした。

「そ、それ……返してっ!」

「ほっほーう。つまり、これがお前のであることを認めると」

「あ、あうう……!」

 語るに落ちる賢者。
 おれはにやにやと笑う。

「いやあ、これは捨て置けんなあ。可愛い可愛いおれのクルミが、まさか、昨日、一日中、男であるおれの前でこーんなエッチなおパンツを履いていたとは。教育を間違えたかもなあー!」

「……ち、違うもん……! ちょ、ちょっと魔が差しただけだもん……! 行商の人が勧めてくるから仕方なく買って……せっかく買ったし、1回くらい……!」

 クルミは大きな瞳に涙を浮かべ始めた。
 こう言うとゲスに思われるかもしれないんだが、クルミは涙目になってるときが笑顔と同じくらい可愛い。

「と、とにかく返してよぉ! わ、わたしのパンツなんて持ってたって、何にも面白くないでしょっ!?」

「返してもいい。ただし!」

 おれは一切の欲望を我慢しなかった。

「この場で履き替えてくれたらなあーっ!! がっはっは!!」

「言うと思った……! 言うと思った……!! ローダンのスケベ!!」

 応とも!
 おれはスケベだ!
 誰に恥じることもない!

「で? 履くか? 履かないか?」

 選択を迫ると、クルミは「うう~っ」としばらく唸って、

「……履けば、いいんでしょ……!?」

 半ばヤケっぽい顔と声で、ローブをたくし上げた。
 まずはいま履いてるのを脱ぐわけだ。
 お手並み拝見と行こう!

「あ、あんまり見ないで……」

 目を見開いた。

「いじわる……!」

 おれに見えないよう、ローブの側面から手を入れて、するするっ……と降ろしていく。
 ローブの下におパンツ様がお目見えして、クルミは右足、左足と順番に足を抜いた。

「よし。脱いだやつは預かろう」

「絶対イヤ! 今度はそれと交換で何かやらせる気でしょ!」

 チッ。
 さすがは賢者を名乗るだけある、褒めてやろう。

 おれが差し出したエロい方のパンツを手に取ると、クルミはその穴に足を通した。
 するすると手が持ち上げられ、パンツがローブの中に消える。

「あっ……! つめたっ……」

 そういえば干す前の洗濯物だった。
 すっかり忘れてた。
 だがそれがいい。

「……クルミ」

 おれは真面目な声と顔で呼びかけて、クルミに近付いた。

「えっ……? ろ、ローダン……?」

「虐めてごめんな? クルミがあんまり可愛い反応するからさ」

「……っ!? い、いや、騙されないからね! いつもそんなこと言って誤魔化すんだか―――ひゃっ!?」

 おれはクルミを力強く抱き寄せると、その耳元で囁く。

「その下着、おれのために頑張ってくれたんだろ?」

「そ、それは……」

「気付かなくて悪かったな。でも気付いた以上は、男として無視は不可能」

「…………し、したいの……?」

「したい」

 はっきりと耳元で告げると、その耳が真っ赤になった。
 ああ、本当に可愛い奴だな。

「クルミ。顔上げて……」

「あっ……」

 クルミの顎をくいと上げる。
 唇を触れ合わせ、舌を絡ませた。

「んっ……ちゅ……ふぁ……」

 そうしながら、細い腰を抱き寄せて―――



「朝っぱらから何を発情してますの!」



「あだっ!」
「ぷあっ!」

 後頭部に拳骨を喰らい、その勢いでクルミと歯が当たって、二人揃って悶絶した。

「いっでえ……! 人がキスしてるときに殴るなよ、ピオニー!」

「麗らかな朝にいたいけな女の子がケダモノに襲われていたんですから、助けもするっつーものですわ。狼男だって変身するのは夜だけですってのに、あなたと来たら昼夜問わずなんですから」

「据え膳食わぬは男の恥って言うだろ?」

「自分で用意した据え膳のように見えたのですけど?」

 どこから見てたんだよ……。
 ピオニーは金色の髪をきらきらと日光に輝かせ、口を押さえて悶えているクルミに視線を送った。

「クルミさんもクルミさんですわ! 迫られるままにすぐ許して!」

「だ……だってぇ……ローダンがぁ……」

「あなたがそんなだからローダンが付け上がるんですってばよ!」

 ピオニーの口調が変なことになっているが、これはいつものことだ。
 やれやれ、またピオニーのお小言が始まるな。
 その前に逃げて――と思ったら、ピオニーの背中からひょっこりと小さな顔が覗いた。

「うおっ、アンズ? お前もいたのか」

「ローダン様……溜まっているのなら、私に言ってくださればいつでも……」

「非常にありがたい申し出だが、それは食欲か? 性欲か?」

「私はサキュバスとはいえ、聖なる教えに仕える身。精を欲するのは飽くまで命脈を保つためであり、まさか淫らな欲に身を任せるなど……」

 と、おれ以上の絶倫が何か申しておられる。
 幼いサキュバス少女アンズは、「そうです」と不意に手を打った。

「ちょうど朝餉の頃合いですし、どうですか、皆さん? ご一緒に……」

 瞬時、クルミとピオニーが朱に染まった。

「ご、ご一緒にって……」

「あなたとご一緒したら、その、4人でってことになっちまうじゃありませんの!」

「ダメでしょうか? しばらくぶりですし、もしよかったらと……」

「わたくしは1対1派でしてよ!」

「そうですか……。でしたら私だけお先に(ごそごそ)」

「こらあーっ!! せめて閨に行けえーっ!!」

 ついにピオニーがお嬢様言葉をかなぐり捨てて、おれの下半身からアンズを引き剥がした。

 こんな騒がしくも穏やかな毎日が、もうどれだけ続いただろう。
 戦いに明け暮れていた日々は、もう思い出すのも難しい。
 実に結構なことだ。

 魔王を倒し、現世に戻ってきたあの日。
 おれはもう二度と、剣を握らないと誓ったんだからな。
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『最低ステータスの最賢勇者』
人間や魔族を捕食する天敵・外獣が跋扈する世界で、最低クラスのステータスしか持たない少女クルミを、最強クラスの勇者(冒険者)へと育て上げる。
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