<ゾンビハンターにまつわる都市伝説> およそ30年前に発売されたファミコンソフト『ゾンビハンター』には、一部のマニアの間だけで語られている未確認情報、いわゆる
都市伝説のようなものがありました。それは下記の通りです。
※イメージ図 『ゾンビハンター』には、茶色いカセットが存在する……
本来なら『ゾンビハンター』のカセットの色は黒。しかし茶色いカセットバージョンも存在すると言うのです。
古くは第1次ファミコン再評価時代から、中古ショップやオークションでごく稀に目撃されていた茶色い『ゾンビハンター』の存在について、多くのコレクターは「そういえば、見たことあるような、ないような……」という程度の認識しかなかったのですが、近年、SNSの発達により、コレクター同志の情報交換が容易になると
「正体は不明だが、少なくとも存在はする」ということがわかってきました。
実際に、この茶色い『ゾンビハンター』をまんだらけで偶然、手に入れたという非売品ゲームコレクターじろのすけさん(
@jironosuke99)の話では、そのとき「経緯不明」として売られていたんだとか……
※タイトル画面より 今回はそんな茶色い『ゾンビハンター』の謎についての調査報告です。
<ファミコン雑誌界の異端児> 『ゾンビハンター』を語る上でどうしても外せないファミコン雑誌があります。
1986年3月8日に創刊されたハイスコアメディアワーク発行のゲーム雑誌「ハイスコア」は、当時、ファミコン4大メジャー誌と呼ばれていたファミマガ、ヒッポン、マル勝、ファミ通とは
一線を画すマイナー誌でした。
※オロチ所有のハイスコア創刊号(デビュー号)はビデオボーイ3月号増刊。ちなみにファミマガの創刊は85年7月。以降、ヒッポン86年3月、マル勝86年4月、ファミ通86年6月の順で創刊されています。 しかしマイナー誌と言えども世はファミコン全盛期。創刊号は40万部も売れました。そこにはマイナー誌だからこその
「しがらみの無さ」があったのです。たとえば、もう少し配慮が必要だったであろう際どいスクープ記事だったり、あるいは怪しい非公認ツールの広告だったり、今見てもその誌面は、独特の味わいであふれています。
ぶっこみ過ぎて、某メーカーから怒られた(訴訟ともいう)事件もありましたよね(笑)
※エスキモーの「ゾンビハンター」アイスキャンディ 創刊から4、5ヶ月過ぎたある日――
編集長が広告代理店を通じて、とある企画をもって帰ってきたそうです。それはエスキモーの怪獣グミ入りアイスキャンディ「ゾンビハンター」とコラボして、同名のオリジナルファミコンカセットをつくるというものでした。
念のために、そのときの経緯について森永乳業(エスキモーは同社の元ブランド名)へ問い合わせたところ「ゾンビハンターはファミコンソフトとコラボレーションして誕生した商品」という回答を頂きましたが、それ以上のことはわかる人間がいないとのことです。ですよね(笑)
<ゾンビを食べてゾンビを当てよう!!> ゲームソフトが完成しキャンペーンが始まったのは翌年でした。期間は1987年3月16日~7月15日。毎月2,000名様×4ヶ月で計8,000名様に、このオリジナルファミコンカセットを配布することになりました。
※ハイスコア1987年6月号より つまり『ゾンビハンター』はもともと
アイスの懸賞品だったのです。
しかしその反響があまりにも大きかったためか、早い段階から『ゾンビハンター』は通常販売に踏み切っています。最終的に通常版の発売日はキャンペーン期間が終わる直前の7月3日となりました。
※ハイスコア1987年5月号より 当初は5月に発売する予定だったことはわかる資料。ファミコンソフトの発売が遅れることはよくあることです。 ファミコンには「実は行われてなかった」というキャンペーンも存在するので、そもそもあったのかという視点は重要です。この「ゾンビハンターのキャンペーン」については、様々な証言や資料が残っており、開催されたことに疑いの余地はありません。
※ハイスコア1987年4月号より こういった広告も貴重な資料のひとつ。 そのことから、いつしかマニアたちの間でひとつの仮説が成り立ちました。つまり、茶色い『ゾンビハンター』はアイスの懸賞品だったのではないかというものです。
しかし8,000本も配布されたにしては目撃された数、及び、確保された数があまりにも少なく、また
「茶色いゾンビハンター=アイス版」を裏付ける証拠もまったく出てこないため、仮説の域を出ませんでした。(この時期に発行された雑誌「ハイスコア」すべてに目を通しましたが、そのような記述は見られませんでした)
<そして辿り着いた真実> それは突然やって来ました。当ブログが元ハイスコア編集部の大森田不可止さんへ別件でお話を伺っていたときのこと。大森田さんは『ゾンビハンター』のプログラマーでもあります。つくった方なら何かご存知かもしれない……
そう思って、茶色いカセットのことを尋ねてみたところ
「それは私の手作りです」という、想像以上の応えが返って来たのです。まさか振り下ろしたツルハシが一発で鉱石に当たるとは!
以下、正式に許可を頂いたので、そのやりとりを公開させて頂きます。
|  | オロチ:『ゾンビハンター」には茶色いカセットが存在するのですが何かご存知でしょうか。アイス版という説もあるのですが…… |
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|  | 大森田:アイス版は複数バージョンあって、そのひとつが茶色です。これは発送が遅いとクレームがきたユーザーに、私が手作りして送ったものですw |
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|  | 衝撃で震えます。 というか、手作りが可能なんですか!(※1) |
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|  | 任天堂から基板とカセットの外側を譲ってもらって、EPROMという個別にデータを描き込めるROMで作ってました。外側のケースに収まらないので、穴をあけてました。 |
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|  | なるほどEPROMですか…… ちなみに、それは何本ほどあるのでしょう? |
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|  | 100本くらいは手作りしたかな。 |
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※1:ファミコンカセットは(一部のメーカー以外)任天堂に委託するという形でしか作れませんでした。 ※アイコン画像の使用許可も頂いております。 判明している数字で計算すると『ゾンビハンター』の販売数が9万本、アイス版8,000本、そして茶色版が100本だとして、およそ
「980本に1本」という割合になりますね。案外、確率高いですよ。人生で累計980本も『ゾンビハンター』のカセットを見て来たかなあって考えると、とんでもない数字ですが(笑)
ちなみに通常版とアイス版ではゲーム内容に違いはないようです。
<30年のときを経て……> 今回は思いがけず、事実にたどりつくことができました。
このようなオフレコ性の高い話の公開を快く許可して下さり、30年間、マニアたちを悩ませて来た謎の解明へ(ご本人自ら)導いてくださった大森田さんには感謝の言葉しかありません。
※「ゾンビハンターキャンペーン」の実際の応募はがき 気になるのは
複数バージョンの存在ですが、今回、これ以上お話を伺うことはできませんでした。なんせ30年も前の話ですからね……
我々ができることは、こうやってひとつひとつ資料を集め、証言を集め、たまには『ゾンビハンター』で遊びながら、事実を積み重ねていくことのみです。そういった意味では、ファミコン考古学に
終わりはないのかもしれません。当ブログでは引き続き、調査をしていくつもりです。
※と言いつつ定番のやつ。『ゾンビハンター』ゲームーオーバー画面より って、終わっとるやないかい!(笑)
Souce:
大森田不可止氏によるゲーム雑誌「ハイスコア」あれこれ(togetter)
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手始めに、桂文珍に聞いて「知らん」と言われて欲しい