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大道芸の人たちのプロ根性

2017年7月16日(日曜日)
【ドイツ】 バンベルク









さあー!!今日も気合い入れて歌うぞー!!!



日曜日なのでいつもなら路上は休みのところだけど、町にやってくると、もうとんでもない人混みで溢れかえっていた。














今日も午前中から町の路上のあちこちでマジックショーが繰り広げられており、人だかりから拍手と歓声が飛び交っている。



うー、こりゃみんな他に負けじと気合い入ってる。


こいつはフェスティバルのイベントであるけど、自分の稼ぎはおひねり次第というシビアなお祭り。


みんなこうした夏のフェスティバル巡りで1年分のお金を荒稼ぎするのかもな。




俺も負けてらんねーぞー。





















旧市街にやってくると、昨日のヒッピー楽団たちもすでにスタンバイしており、今から演奏開始というところだった。





朝のことだけど、車の外で歯磨きをしていると、向こうのほうを彼らが機材を抱えて歩いているのを見かけた。



彼らも住宅地の奥のほうにある広い駐車場に車を止めてそこから出勤してるようだった。



彼らは6人メンバー。


デカいバンか何かで共同生活しながらヨーロッパの町を回っているみたい。







そんなヒッピー楽団のメンバーの中に、1人アジア人の女の子がいる。


彼女は演奏はしていないけど、いつもメンバーと一緒にいるということは誰かの彼女なのか、それともただのグルーピーの女の子なのか。




アジア人の女の子ヒッピーなんて珍しいのでそれだけで目立つんだけど、ヒッピー具合でいったら楽団の中で1番それっぽい。



化粧はもちろんしておらず、よく日に焼けて男の子みたいだし、ドレッドヘアーに編み込み、タンクトップでノーブラ、だらしなくジャージのズボンをまくりあげて裸足。


さらに人が行き交う地面に寝転がっており、猫にでも育てられたのかな?って思ってしまうくらい現代人から遠ざかっている。




楽団の周りにはいつもそうしたドレッドでゆるゆるの服を着た連中が集まっており、仲間意識で似た者同士が集まってくるんだろうな。



メンバーが俺のことを見つけると笑顔で手を振ってくれた。



みんないいやつらだけど、俺はあっち側には行けそうもないかな。

















さぁ、俺は俺で彼らと離れ、お互いの邪魔にならない路地で演奏開始。






昨日もだいぶ歌ったので喉が少し疲れてるけど、しばらく歌っているうちに喉が町に馴染みはじめる。


すると分かりやすく反応が良くなっていき、人々が足を止めてくれ拍手が起こる。




人通りは半端じゃなく、そして俺の前を日本人のマジシャンパフォーマーさんたちが通っていく。


フェスティバルは今日で終わり。



でも夏のヨーロッパはフェスティバルまみれなので、彼らもバンベルクが終わればまた次の町に行ってパフォーマンスするんだろう。













町はマジックや大道芸一色だけど、俺は俺のパフォーマンスをしよう。



細い路地でポロポロと静かにギターを弾いて歌うと、この活気に満ち溢れた町の中でここだけゆるやかな空気になる。


老夫婦や家族連れたちが周りの石段に座り、のんびり聞いていってくれる。


爆音でド派手なパフォーマンスがあちこちで繰り広げられているフェスティバルなので、一息つきたい人たちの休憩所みたいだ。



これはこれでいい役割できてるかな。














何ヶ所か場所を変えながら歌い、最後にこの町のシンボルである壁画が見事な橋のど真ん中でやってみたんだけど、これが大当たり。





















ちょうどトンネルになっているので音が響き、生音に最適。


1番の観光ポイントなので人通りがものすごいんだけど、たくさんの人がトンネルの向かいに座って演奏を聴いてくれた。








そして今日は折り鶴をめっちゃ配った。














マジで100個くらい配ったんじゃないかな。



カンちゃんが横に立って子供たちに鶴を渡してくれるんだけど、1人あげると周りの子供たちも欲しがってどんどん集まってくる。



折りたたんだ状態から頭を作り、羽を広げて見せると、子供たちはワアアアオ!!と目をひんむいて驚いている。


ここまで喜んでくれたら渡し甲斐があるよ。


お父さんお母さんたちも、周りの通行人たちも、みんなニコニコしてそのやり取りを見ている。




この折り鶴も、子供たちからしたちょっとしたマジックみたいなもんかもしれんな。



俺たちなりの、ささやかなショーだ。






















人通りは夕方になっても尋常じゃないくらい多くて、まだまだ行けそうだけども今日はこの辺にしとくかな。


あがりは3時間半で316ユーロ、40900円。



ふー、充実感のある疲れで気持ちいい。




















路上を終えたら車に荷物を置きに行き、今日も手ぶらで町をぶらぶらした。





















美しい町の中を歩いてはパフォーマーさんが作ってる人だかりに遭遇するので、それを楽しみながら大道芸のハシゴをする。



屋台の冷えたビールを買い、人だかりの最前列に入っていって地面に座り、ジョッキを傾けながら特等席でパフォーマンスを楽しむ。





クラウン、ジャグリング、ファイアーパフォーマンス、みんな磨いた芸を披露しては喝采を浴び、おひねりをもらっている。



俺たちもポケットにたくさんコインを入れて、楽しませてもらったチップを入れて回った。



あー、楽しいなぁ。















この人たちファイアーパフォーマンス界のアイドル。多分。












あんたあのジャグラーとエッチしたでしょ!!フン!!そんなの私の勝手でしょ!!とかそんなのないかな。








風で火があおられて体を炙ってて、めっちゃ熱そうのに絶対に笑顔をくずさないプロ根性!!

















すると、向こうのほうで今まさにショーが終わったパフォーマーさんたちが片付けをしていた。


よく見るとその人たちはゆうべメインステージでトリを務めていた日本人のファイアーパフォーマーさんだった。




「あ、こんにちはー。ゆうべすごかったです。日本人のかなんですね。」



「あ!!路上で歌われてたかたですよね!!僕もお見かけしました。」




昨日の夜、クオリティーの高いファイアーパフォーマンスをしていたファイアーサムライのお兄さんだったんだけど、話してみるととても気さくな、普通のお兄さん。



でも手や顔のいたるところに火の黒いススがついており、こうして近くで見てみるとファイアーパフォーマンスの壮絶さがよくわかった。


あれ、涼しい顔してやってるけど、みんなめっちゃ熱いんだろうなぁ。





「本当すごいです!!他にも日本人のジャグリングのかたがたくさんいましたけど、みなさんお知り合いだったりするんですか?」



「あ、いや、みんな知らないです。ファイアーパフォーマンスとジャグリングってまったく別の世界なのであんまりイベントとかでもかぶることがなくて、接点って少ないんですよ。」




あ、そうなんだ。



音楽でもロック畑の人とジャズ畑の人ってまったく接点がないけど、それと同じようにこうしたパフォーマンスにもそれぞれジャンルがあってはっきり分かれてるんだな。



お兄さんの雰囲気から、ファイアーパフォーマンスの人はジャグリングとひとくくりにされるのを嫌がるのかなと感じた。



知らずに失礼なことを言ってしまって申し訳ありません。




面白そうな人で、仲良くなれそうだなって思ったけど、またもしどこかで会えたらその時はゆっくり話したいな。


















日が沈み、夜の闇が町を怪しく包み、街灯が石畳を照らし出す。



そんな町の中で、フェスティバルは終わりへと向けて静かになっていく。



なんでマジックのショーなんですか?って、今日歌ってるときに声をかけてくれた地元の人に聴いてみたんだけど、なにやらこの町はかつて中世に魔女狩りの中心地だったんだそう。



それが由来してか、バンベルクは魔法の町という一面もあるんだそう。




1年に一度、町が楽しい魔法で彩られる、それがこのフェスティバルなんだ。



いいなぁ、負の歴史ではあるけども、そこからこんなフェスティバルをやってしまうなんて、素敵な趣旨だよ。











そろそろ車に帰ろうかとホロ酔いで旧市街を歩いていると、町のはずれのところで1人のクラウンさんがショーをしていた。



フェスティバルの終わりを惜しむ人たちが円を作り、みんな大笑いしながらショーを楽しんでいる。













クラウンのお兄さんは観客の中から5人を選び、彼らにそれぞれ違う音の鳴るラッパを渡し、一列に並ばせる。


そして5人の後ろに立ち、柔らかい棒でポンポンと彼らの頭を優しく叩く。



叩かれた人は持っているラッパを鳴らし、クラウンのお兄さんは上手いこと順番に頭をポンポン叩いて人間オルガンを演奏する、という楽しい見世物だ。




上手くメロディになれば拍手、叩かれた人の反応が悪くて音がズレれば大爆笑。



うーん、よく考えられてる。







「カンちゃん楽しいね。みんなこんなにたくさん人だかり作って、俺も刺激になるわー。」



「フミ君の路上も素敵だよー。このフェスティバルの中で、フミ君のところにしかない素敵な空気があったもん。」





自分の良いところを理解して、それが活きるシチュエーションでパフォーマンスする。


それはパフォーマーにとってとても大事なこと。



昔は全局面型でありたいと思っていたんだけど、歳とってズルくなってきてるのかな。


いや、先を尖らせて自分の色を作っていくのは悪いことじゃない。



もっともっと突き詰めないとな。





あー、この2日間は路上ミュージシャンとして改めていろんな勉強させてもらったな。







最後のフィナーレで、体の大きなクラウンのお兄さんが小さな三輪車にまたがって坂を滑り降り、火のついた輪をくぐるという芸を披露した。






三輪車でそんな坂を滑り降りたら絶対コケるよ!!しかもそんな狭い輪をくぐるなんて無理だよ!!ってみんなハラハラしながら見守っていると、兄さんはかけ声を上げて勢いよく坂を駆け下りた。



しかしこんなデカい大人がすごいスピードで三輪車を操るなんてとても無理な話で、案の定バランスを崩して倒れそうになった。



その瞬間、兄さんは足をついて持ち直し、ほとんどズルみたいな感じで無理やり輪をくぐり、そして反対側に待機していたフェスティバルの救急班の人たちの前に行ってひっくり返り、ウワアアアア!!助けてくれえええ!!と叫んだ。




救急班の人たち苦笑い。


観客、大爆笑。






いやー、本当いい勉強させてもらったわ。








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