前回も取り上げた百田尚樹氏の一橋大学での公演が中止になった件ですが、同じ意見がこのブログにも何件も寄せられたり、ネットでも騒がれていたりするんで、改めて書いておきたいと思います。


産経新聞が経営するiRONNAというウェブ記事で、潮 匡人という人物が、こんな風に書いていました。

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 本件は憲法上も「表現の自由」に加え、「学問の自由」そして「思想・良心の自由」に深く関わる。ともに「内心の自由」と呼ばれ、「表現の自由などの外面的な精神活動の自由の基礎をなす」(芦部信喜『憲法』岩波書店)。とくに「思想・良心の自由は、内面的精神活動の自由のなかでも、最も根本的なものである」。そう、護憲リベラル派が大好きな教科書にも明記されている。

 その「最も根本的な」人権が侵害されたにもかかわらず、護憲リベラル派は「自由を守れ」と声を上げない。彼らに、自由や人権、立憲主義を語る資格があるだろうか。少なくとも「内心の自由」を掲げて「共謀罪反対」を唱えるのは、もう止めてほしい。

 今回、百田氏を含む「保守」陣営の言論に「ヘイト」のレッテルが貼られ、「差別扇動」されたあげく、「違法行為」の誹謗中傷も受けた。脅迫行為を含む「深刻な差別・暴力が誘発」された。そうした「差別・テロ煽動に大学がお墨付きを与えること」になってしまった。だが、懸念の声をあげたのは保守陣営だけ。いまも護憲リベラル派は沈黙を続ける。最も根本的な人権が侵害されたにもかかわらず…。

 彼らは口先で「リベラル」と言いながら、拠って立つべき「自由」を理解していない。問答無用で「保守」を断罪しつつ、守るべき「自由」を踏みにじっている。自身が憎むべき全体主義に加担していることに気づきもしない。
iRONNA

とまあ、「保守派」である潮氏は、「リベラル」という人たちは言論の自由を守れと言いながら、他人の言論の自由は認めない全体主義者だ、と言っているわけです。


潮氏はこれを「共謀罪」反対運動に結びつけ、共謀罪反対デモの写真を貼るという、安倍総理の言うところの「印象操作」を行っています。共謀罪反対デモは、言論の自由を守るデモではなく、言論の自由を脅かす連中の行っているデモだ、という印象操作をしようとしているわけですね。


さらに、今回の百田氏の講演に反対運動をした人たちを「護憲リベラル」と呼んで、「護憲」「リベラル」全体に対する印象操作を行っています。素晴らしい言論手法ですねえ、潮さん。今回の騒動に、なにか護憲派って関係あるんですか?


今回の百田尚樹の一橋大学講演が中止された件について、反対派を批判している人たちは、大体この潮 匡人氏と似たような主張ですね。言論の自由が侵害された、言論の自由を理解していないのはお前らの方だ、と。



「君の意見には反対だが、その意見を表現する権利を死んでも守る」

ということはマジで分からないんだろうなぁ…

自分がムカつくからそういうのは

排除してやればいい、黙らせてやればいい、

って極右と言われる人と一緒だよ…


しかし、こういう意見の人たちは、私に言わせれば、最も根本的なことを完全に失念しています。


これが新入生歓迎の大学祭におけるイベントで、反対運動をしたのは大学の在学生だということです。


もしも、百田尚樹がどこかのホールを借りて行う講演会を、「百田に講演させてなるものか」と言って止めたとしたら、言論の自由の侵害になりうるでしょう。


しかし、今回は、中国韓国からの留学生が大勢いる一橋大学の、新入生歓迎の大学祭における出し物の一つとして百田尚樹が講演に来るのを、「百田尚樹は一橋大学で講演するゲストとして相応しくない」と、在学生が反対した、というだけの話です。


なんでこれが「言論の自由の侵害」になりますかね? はっきり言って、的外れもいいところだと思うんですが。

大学祭の講演ゲストとして相応しいかどうかが問題


百田尚樹が中国や韓国に対する暴言を繰り返していることは、よく知られているところで、今回の講演中止が決定された後も、一橋大学の中国人・韓国人留学生を中傷するような発言をしています(こちら参照)。百田氏の講演を企画した実行委員会の中でも、百田氏の差別発言を問題視する意見は出ていました。にもかかわらず、実行委員会は、「集客が見込める」という理由で百田氏をゲストと呼ぶことを決定しています。

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集客を見込めるということが最大の理由です。

一部の委員からは「アジアからの留学生も多い本学に、そうした国々に対し差別的な発言が目立つ百田氏を呼ぶのは不適切だ。祭りのイメージを損ねてしまうのではないか」といった声も上がっていました。

一橋新聞WEB

実行委員会や百田尚樹本人は、講演内容はマスコミについてであり、ヘイト内容は含まれないから問題ない、と言っていますが、百田氏はマスコミについても、こんな差別的な発言をしています。

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参照

それに、今回の講演内容が学祭にふさわしいかではなく、中国や韓国からの留学生が大勢いる大学の新入生歓迎イベントのゲストとして、百田尚樹という人間が相応しいかどうか、という問題です。


例えば、女子大を想像してみましょう。


普段からツイッターなどでセクハラ発言や女性差別発言を繰り返している人物がいるとします。「女は昔から嘘をつく。男にはない性質だ」とか、「女とは分かり合えないから、女の書いた文学など学校で教えるな」とか「犯罪者の名前が報道されない。犯人は女なんじゃないかという気がする」とか「女性が会社の幹部になると、女性ばかり出世する」とか「女性が人事部の役員になると、女性を優先的にとる」とか言っているとしましょう。


この人物が女子大の新入生歓迎イベントでゲスト講演することになりました。講演テーマはマスコミについてで、女性差別問題とは関係ないとしたら、この人物の女子高でのゲスト講演は問題ないのでしょうか?


百田尚樹に、中韓からの留学生が大勢いる一橋大学の新入生歓迎学祭で講演させることは、女性差別主義者に女子大の新入生歓迎学祭で講演させることに等しいです。



これに反対する声が上がるのって、当たり前じゃないですかね?


百田尚樹が一橋大学で講演できなくなったことが言論の自由に対する弾圧だっていう人は、女性蔑視発言を繰り返すことで有名な男に女子大の新入生歓迎の学祭で講演させなかったら、それも言論の弾圧だっていうんですかね?


繰り返し言っていますが、これはあくまで大学祭に於けるイベントにおいて、百田尚樹という人物がふさわしくない、というだけのことに過ぎません。百田尚樹の日常の発言を潰したり、百田尚樹がどこかのホールを借りて講演したりするのを妨害したわけではありません。


百田は、「自分たちの気に入らない人物を、勝手に『レイシスト』というレッテルを張り、発言を封じてしまうということが正義と思っているのだろうか」などと言っていますが、とんでもない的外れな発言です。百田氏は自分の言論が弾圧されたと言っていますが、「一橋大学での新入生歓迎イベントのゲストとして相応しくない」として、在学生に反対されただけ、ということが頭からすっぽり抜け落ちているのでしょう。



「大学の自治が失われた」という的外れ発言を堂々とする門田隆将


産経新聞は、驚くべきことに、ノンフィクション作家の門田隆将氏の、今回の百田氏の講演中止を「大学の自治が失われた」とする発言を掲載していますが、大学祭のイベントでふさわしくないと思われるものに対して、在学生が反対運動をして中止させたことが、どうして大学の自治が失われたことになるのでしょう? 門田隆将氏と産経新聞の頭の悪さには心底驚かされてしまいます。


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↑門田氏の驚くほど低レベルな的外れな発言。問題の根本を理解できていない自称ノンフィクション作家の質の低さに呆れざるを得ない。


私は、大学祭における百田尚樹の講演の中止を在学生が求めることは、全く言論弾圧でも何でもなく、あまりにも当たり前の行為であると考えています。これが言論弾圧なのならば、女子大で女性差別主義者に講演会をさせなくても言論弾圧になってしまいます。


まして、講演を計画したのも在学生、反対したのも在学生、中止を決めたのも在学生なのに、なんでこれで大学の自治が失われたことになるんですかね。門田氏はノンフィクション作家の看板を下ろすべきじゃないですかね。

「不当な圧力」はあったのか


あと残る問題は、反対運動に、暴力や脅迫などといった不当な行動が含まれているか、という問題です。産経新聞や、産経新聞が運営するiRONNAは、百田氏側の主張をそのまま掲載し、脅迫があったとしていますが、取材をした清義明氏はこのように述べています。





この取材内容はこちらの記事にもまとめられています。


実行委員会側も、脅迫があったというようなことは述べておらず、一橋大学教職員組合も、以下のように述べています。

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ウェブやSNS上では特定の教員・学生・学内団体が圧力をかけたとのデマが広められ、誹謗中傷や脅迫とも受け取れる言葉が向けられるという事態が生じています。こうした状況は当該教員・学生・団体の心身の安全という観点から看過できないものです。学生の安全について責任を持つ教職員として、また、教職員自身の労働環境の観点から、一橋大学教職員組合はこうした事態をたいへん憂慮しています。
一橋大学教職員組合ブログ

もしも暴力的な振る舞いがあったのなら問題ですが、今のところ実行委員会がそのような発表をしてはおらず、あるのは百田氏の伝聞情報程度です。「なかった」ということを証明することは不可能ですが、現時点で脅迫が「あった」と断言して論じるのは間違いでしょう。


いずれにせよ、暴力的な振る舞いがあったらもちろん問題ですが、もしそれがなかった場合、百田氏の講演に対して反対運動を起こすことは、何一つ言論の自由の侵害ではありません。なぜなら、今回は、あくまで「一橋大学の大学祭の講演ゲストとして、百田氏はふさわしい人物ではない」として、一橋大学の在学生が反対運動を起こしたからです。


百田氏が被害妄想をしているような、「気に入らない奴の言論を封じてしまえ」というものではないことは、まともな頭があれば、すぐにわかることです。女性蔑視発言を繰り返す人間を、女子大の大学祭の講演ゲストとして呼ぶのがふさわしくないから、在学生が反対運動を起こした、というのと同じレベルの話です。


潮匡人氏とか、門田隆将氏とか、産経新聞とか、そして百田尚樹氏とか、さらにそのフォロワーの人たちとかは、今回の件が、百田氏がどっかのホールで公演するのを関係ないやつが妨害したかのようなイメージの主張をしていますが、「留学生が大勢いる一橋大学の大学祭での講演ゲストとして、百田尚樹がふさわしいかどうか」という観点で反対運動が起きた、という、基本中の基本が分かっていれば、今回の騒動が「言論弾圧だ」などと言う主張がどれだけ的外れか、理解できることでしょう。

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