漫画違法配信サイト「漫画村」の黒幕に迫る

私は数ヶ月にわたり、海賊版の漫画を違法配信するサイトとしては最大手の「漫画村」の詳細について調査を進めていました。私一人では調べられることにも限界があり、途中で壁に突き当たることになってしまいましたが、これまでに掘り下げたものを公開することで、誰かが持っている情報と関係しているか知ることができると思い、中途半端な内容ではあるものの、これを記事にすることに決めました。

5月上旬に「フリーブックス」の騒動があって以降、その代替サイトとも言われるようになった漫画村は、フリーブックスと同様、サイトには多数の海賊版の漫画が並んでおり、大量のアクセスを集めてたちまちサイトは急成長していきました。
漫画村の運営者らは「運営会社はベトナムにある」と主張し、日本の著作権者の削除要請などには応じない姿勢を見せていました。しかし、私の今回の調査では、実際の彼らの運営拠点はベトナムではなく日本にあり、ベトナムに拠点があるというのは嘘であるか、もしくはペーパーカンパニーを後ろ盾に、日本からこれらの活動を行っているのではないかと考えています。

まず私がこのサイトに目をつけたきっかけは、5月の「フリーブックス」の一連の騒動が収束しつつあったころでした。どこで見かけたのかは忘れましたが、フリーブックスの代替となるサイトの候補として「漫画村」というサイトの名前が挙がっていたのです。私はまだこのサイトについて知らなかったので、フリーブックスの時と同様、興味本位からこのサイトについて調べてみることにしました。
フリーブックスについて書いた記事はこちらをご覧ください。

「フリーブックス」についてもう少し踏み込んで書く – 無能ブログ
https://blog.crosslab.xyz/2017/05/02/「フリーブックス」についてもう少し踏み込んで/

漫画村はデザインこそ粗悪なものでしたが、先にも述べたとおりこのサイトには多数の海賊版の漫画が違法に掲載されており、私の調べでは今現在その件数はフリーブックスをしのぐ6万2000件以上にも及びます。海外のオンラインストレージのリンクを掲載しているような、いわゆる「リーチサイト」とは違い、また第三者によってデータがアップロードされているわけでもなく、漫画村は自らが所有するサーバーにコンテンツを保管し、それらを公開しているようです。

私は誰が漫画村を運営しているのか知りたくなり、しばらくサイトを見ていたところ「漫画村はベトナムの会社でベトナムは万国著作権条約に加盟してないので日本の著作物は保護されません。ですのでご利用の方は安心してご利用ください。」と書かれたページを見つけ、このような主張を堂々と行う運営者の姿勢には少し驚かされました。そして私はこのサイトについて継続的な調査を始めることにしました。

漫画村の運営者は誰か?

漫画村のサイトは、DDoSからサイトを保護するサービスのCloudflareが提供するリバースプロキシによって物理的なサーバーの位置を隠していますが、調べたところ現在はWebCare360という海外企業が提供する防弾ホスティングサービスを利用し、ウクライナにサーバーを設置していることがわかりました。

防弾ホスティングサービスについてもっと詳しく知るには、セキュリティ企業のノートンが制作した動画が参考になります(*1)。

そして興味深いことに、あの「フリーブックス」も同じ企業のホスティング業者のサーバーを閉鎖するまで利用していました。これについては後述します。以下が漫画村が利用しているサーバーのIPアドレスです。

87.120.36.96
78.142.19.19

漫画村のドメイン(manga-free-online.com)は、Whoisによると2016年1月18日の25時に、「WorldJobProject」というセーシェル共和国の企業の名義で登録されており、その7時間後の朝8時に初めての漫画がアップロードされたようです。

manga-free-online.com のWhois
manga-free-online.com のWhois [キャッシュ]

この会社のホームページがありました。

WorldJobProject
http://worldjobproject.com/

一見するとウェブ制作会社のようです。漫画村の他に「ShareVideos (share-videos.se)」という動画共有サイトの開発を担当したり、防弾ホスティングサービス (protect-server.net) の提供もしているようです。

protect-server.net
防弾ホスティングサービスの protect-server.net (大きな画像を取得できませんでした)

share-videos.se のWhoisを照会してみます。

share-videos.se のWhois
share-videos.se のWhois [キャッシュ]

この紹介結果の「holder: rootan0038-76075」という部分に私は注目しました。この holder というのはスウェーデンの.seドメインが個別に登録者に割り当てているIDで、見たところ登録者名から生成されているようです (*2)。この「rootan」という文字列で調べると以下の記事がヒットします [キャッシュ]。

「rootan」の検索結果
「rootan」の検索結果

記事によると、「rootan」というのはかつて星野ロミという人物がアメリカで創業した企業名のようです。記事には彼の顔写真もしっかり掲載されており、この人物はかつて「関係ないニュース」2chまとめアンテナの「楽々アンテナ」、「スオミネイト」などのサイトを運営していたなど、アフィリエイト業界では有名なようです。

運営者のミス

私はこの人物が漫画村の関係者ではないかと疑い始めました。しかし、この情報だけでは証拠として弱いため、記事を公開するには至りませんでした。

ところが、私は最近、更にこの人物の関与を裏付ける重要な証拠を手にすることができました。この情報を得たのは、5月に漫画村のサイトを調査していたときのことです。

漫画村の運営者は、以下のURLに誤って自らのサイトのデータベースのバックアップファイルをインターネット上に公開していました。

http://matome.manga-free-online.com/dump.sql

漫画村のデータベースその1
漫画村のデータベースその1(クリックで拡大、現在は削除済み)

私はハッキング等ではなく推測によってこのURLを特定し、運営者がこの問題に気づく前にファイルを閲覧することに成功しました。このファイルを調べていくと、どうやらブログソフトウェアのWordPressのデータベースであることがわかり、その中には運営者のものと思われる個人的なメールアドレスや、管理画面にログインしたIPアドレスなどの重要な情報が含まれていました。

漫画村のデータベースその2
漫画村のデータベースその2(クリックで拡大)

rominews @ gmail.com というメールアドレスがデータベースに格納されているのがわかるかと思います。これが星野ロミという人物が関与していると思われるであろうもう一つの根拠になります(romi = ロミ)。また、他に重要な情報としてWordPressのログイン履歴があります。

漫画村のデータベースその3
漫画村のデータベースその3(クリックで拡大)

これを見やすくした結果が以下になります。
a:4:{
s:2: "ip";
s:15: "106.161.171.143";
s:2: "ua";
s:110: "Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/49.0.2623.110 Safari/537.36";
}
a:4:{
s:2: "ip";
s:13: "60.76.239.169";
s:2: "ua";
s:124: "Mozilla/5.0 (iPad; CPU OS 9_0 like Mac OS X) AppleWebKit/601.1.46 (KHTML, like Gecko) Version/9.0 Mobile/13A344 Safari/601.1";
}

106.161.171.143 (KD106161171143.au-net.ne.jp) = au
60.76.239.169 (softbank060076239169.bbtec.net) = ソフトバンク

以上の情報から判断するに、2016年4月7日時点で運営者の星野ロミは日本国内のネット回線からWindows 10を搭載したパソコンのGoogle Chrome、およびiPadでサイトを管理していると考えられます。
現在まで同じプロバイダを利用し続けているかどうかは不明ですが、仮にそうだとすると漫画村の管理権を持っているIPアドレスとして有力な手がかりになるのではないかと思われます。

他の根拠としては、彼がかつて運営していた2chまとめブログのアンテナサイトの「スオミネイト (suomi-neito.com)」、「楽々アンテナ (matomeru2ch.com)」と、TV番組違法配信の「SmaTV (smatv.se)」が同じIPアドレスにホストされていることです。

同じIPアドレスにホストされているサイト
同じIPアドレスにホストされているサイト https://myip.ms/info/whois/94.254.0.178 [キャッシュ]

逃亡

私がこの問題を調査中、運営元とされているWorldJobProject社は日本時間の6月26日早朝、IT事業から撤退することを自社のホームページ上で公表しました。

WorldJobProjectの発表(6月26日)
WorldJobProjectの発表(6月26日、クリックで拡大 [キャッシュ])

翌月の23日には、ページの内容が以下のように変わり、同社が提供する防弾ホスティングサービスの protect-server.net についても、サービスを終了するとの発表がなされました。

WorldJobProjectの発表(7月23日)
WorldJobProjectの発表(7月23日、クリックで拡大 [キャッシュ])
protect-server.net の発表
protect-server.net の発表(クリックで拡大 [キャッシュ])

また、漫画村のドメインも manga-free-online.com から manga-mura.net に変更されました。

この一連の流れが何を意味するか、考えられることとしては、私もしくは他の人間の動きに気づいた運営者(星野ロミ)が、運営会社のWorldJobProjectに捜査の手が及ぶ前に事業を他者に売却したのだと思わせようとしているのだと思いますが、おそらくそれはフリであって運営者は同じままでしょう。そもそも同社サービスのShareVideos自体、自分らは開発担当だと言っていたのにもかかわらず、最終的には「弊社グループなので会社を分けた上で存続します」と、主張が二転三転しています。防弾ホスティングサービスの提供終了の理由についても「2018年に香港の法律改正に伴い活動していくことが難しいと判断した」と述べていますが、このような主張でごまかせると思っているあたり滑稽と言わざるを得ないでしょう。

まとめ

  • 漫画村の運営会社はベトナムだから潰れない?
    ベトナムに会社があると主張しているがおそらく嘘で、漫画村の関係者である星野ロミは日本に在住している。
  • 「星野ロミ」とはどういう人物なのか?
    漫画村を運営するWorldJobProjectの関係者である可能性が高い。今現在運営しているかどうかは不明だが、データベースに残されていた情報から考えると開発に携わっていたことは間違いない。
  • 「フリーブックス」との関係は?
    フリーブックスが利用していた防弾ホスティングサービスと同じ業者を漫画村も利用していることから、何らかのつながりがあると考えられる。仮にWorldJobProjectを請負業者として考えた場合、第三者から開発を請け負ったとも考えることもでき、その場合黒幕は他にいる可能性がある。

おわりに

近年、フリーブックスのような日本人による日本人を対象にした違法コンテンツを取り扱うウェブサイトは大きな人気を獲得しています。かつては外国人がその立場をうまく利用して日本のコンテンツを侵害しつつ利益を獲得するという構図があり、それは未だに続いています。しかし、徐々に日本人の間でも防弾ホスティングサービスなどが認知され始め、今では裏DVD業者もアメリカのサーバー会社からスウェーデン辺りのオフショアの業者に移るなど、いわゆるその筋の人間たちもようやく知識をつけつつあるのだなと感じています。海賊版コンテンツは低リスクで集客し収益化ができる、ある意味では一番手を出しやすい違法産業です。

漫画村および星野ロミについては、彼が摘発されるまで今後もその動向を監視し続けていきます。

この記事について何か意見がある場合、あるいは星野ロミという人物や漫画村のサイトに関連する情報について何かご存知の方がいましたら、私のTwitter、もしくはホームページにある連絡先や、このブログのコメント欄(コメントは承認制です)にお願いします。また、この記事が面白いと思ったらSNS等でシェアして頂けると弱小ブログですので大変喜びます。よろしくお願いします。

最後に、その他に調べた情報と、参考資料を掲載しておきます。

その他の情報

漫画村に関連するドメイン

  • manga-free-online.com
    2016年1月から2017年6月27日までこのドメインで運営されていた。
  • manga-mura.net
    2017年6月27日以降このドメインで運営されている。変更した理由について説明はない。
  • mangamura.net [Whois]
    ミラー?スウェーデンのドメイン登録業者のBineroでWJB社の名義で登録。登録者名が「kenji saitou」なのが謎。
  • manga-mura.com [Whois]
    ミラー?ケイマン諸島の企業名義で登録。なぜかドメインが停止されている。

WorldJobProjectに関連するドメイン

  • protect-server.net: Toal Support Hosting&Advertisement Provided by worldjobproject
    WJB社の提供する防弾ホスティングサービスごっこ。
  • share-videos.se: Share Videos 動画のシェアでお金稼ぎできるサイト
    動画共有サイト。リンクを共有するだけでアップロード機能はない。
  • smode.net
    動画共有サイト。ShareVideosとほぼ同じ?
  • eromate.net → eromate.se: エロメイト 無料のアダルト動画共有サイト
    アダルト動画サイト。AdvancedHostersのCDNで動画を配信。漫画村とデザインが似ている。Contact-ID: regist5028-71087
  • manga-library.com: 漫画工場
    現在は閉鎖。漫画村と同様雑誌類のスキャンが置かれていた。中国人による運営に装っていた可能性。[キャッシュ]
  • smatv.se: SmaTV | 日本のテレビがオンラインで見れるサイト
    かつての「風雲LIVE日本語」のようなことをしていたようだが現在は閉鎖した模様。
  • himatube.se: Himatube
    動画共有サイト。アニメやドラマなどが多く、自分でアップロードしている可能性がある。SmaTVで終わらせたプロジェクトをこっちで復活させている?
    WJB社の廃業と共に閉鎖した
  • eromanga.se
    不明。Contact-ID: regist5028-71087
  • matomeru2ch.com: 楽々アンテナ
    2chまとめブログのアンテナ。
  • suomi-neito.com: スオミネイト
    同上。
  • diet-moudame.com: Football Days
    まとめサイト?登録名義がWJB社 [キャッシュ] IP: 133.130.106.85 (GMO)

関連するメールアドレス

  • admin @ worldjobproject.com
    WorldJobProject名義のドメインの連絡先として使われているメールアドレス。
  • rominews @ gmail.com
    星野ロミの個人的なメールアドレス。
  • mfocom @ protonmail.com
    最近新しく作った?このメールアドレスでWebCare360などのホスティングサービスに登録している。
  • manga.mura2017 @ yandex.com
    漫画村の連絡用に使われているメールアドレス。

参考資料

  1. ホーム | サイバー犯罪が潜む場所の真実
    https://jp.norton.com/mostdangeroustown2
  2. Service Description – WHOIS
    https://www.iis.se/docs/service_description_whois_en.pdf

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“漫画違法配信サイト「漫画村」の黒幕に迫る” への6件の返信

  1. セーシェルIBCって2018年12月1日付けで取締役の情報がPublic Inspection可能になるんだよね。これぐらい間抜けならこれで死にそう

    1. 情報ありがとうございます。そもそもの話彼が本当にセーシェルで登記しているのか疑いがありますが、掘れそうな時は誰かに投げたいと思います。

  2. 記事本当にすごいと思います。
    よく個人でここまで調べられるなと・・。
    これで逮捕できれば日本にある有数の
    違法アップロードサイトがバンバン閉鎖
    されるんじゃないですかね。(今現在も
    されてる?)
    情報提供は詳しくないのでできないですが応援しております。

    1. ありがとうございます。漫画村はかなり高いシェアを持っているので、大きな打撃になるのではないかと思います。

  3. 最近大手のはるか夢とかも潰れましたが、アドとかも変えて復活してますね。鯖は恐らく中国かアメリカかと。成年コミックは会員制になってます。

    こっちもそのうちでしょうねえ

  4. 面白い読み物ありがとうございました
    フリーブックスにしろ漫画村にしろ足がつけば困るようなサイトを運営しているのに随分詰めが甘いのになんとも驚きます
    これからもブログ楽しみにしています

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