新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2017年7月28日、東京都内で会見を開き、電機や機械など製造業を中心にAI(人工知能)分野の即戦力人材を育成する特別講座「AIデータフロンティアコース」を、大阪大学(吹田キャンパス)と東京大学(本郷キャンパス)に開講すると発表した。2017~2019年度で総額約2億2000万円を投資し、3年間で250人以上のAI人材を育成する計画だ。
政府が2016年度に立ち上げた「人工知能技術戦略会議」では、AIの研究開発や産業化を担う人材育成を重視している。しかし、2020年には国内で求められるAI人材が約4万8000人不足するという調査もあり、AI人材の育成に向けた取り組みは急務だ。
その一方で産業界は、AI人材について「全くいない」「把握できていない」「検討自体ができていない」という企業が多い傾向にあるという。そこでNEDO講座では、「AI技術の問題解決」「AI技術の具現化」「AI技術の活用」という3点を重視して、即戦力人材を育成することとした。
同講座の研究開発責任者を務める大阪大学 理事・副学長の八木康史氏は「AI人材不足の規模に対して、3年間で250人は少なすぎるかもしれない。しかし、NEDO講座がを呼び水になって、大学や教育機関、企業などでのAI人材の育成の取り組みが進めば、1000人、2000人と増やせるはずだ」と語る。
2017年度はパイロットプログラムとなっており、下期中に両大学で約20人ずつ受講生を募集する。大阪大学の授業内容は大学院生向けで、同年7月28日から参加募集の公募情報を公開している。8月7~21日に募集を行い、9月に受講生のコンピュータサイエンス(CS)の基礎学力を測定するCSプレースメントテストを実施の後、10月1日に開講する。東京大学はの授業内容は学部生向けで、2017年11月の1カ月間で募集を行い、12月にCSプレースメントテストを実施、2018年2~3月の2カ月間で授業を行う。
受講生が支払う料金は、東京大学は一般の授業とは別建てになっており無料。大阪大学は一般学生と同じ授業に登録する必要があるためその分で10万円程度が必要になる。授業の時間帯は、大阪大学が就業時間後となる6時限目、東京大学は土曜を予定しており「企業に勤める技術者が参加しやすい体制とした」(同講座の研究開発責任者を務める大阪大学 理事・副学長の八木康史氏)という。
2018年度からは、両大学とも前期と後期に分けて講座を実施する。大阪大学は前期の授業内容に「脳機能計測概論」が入っていることが特徴。情報通信研究機構(NICT)と大阪大学が共同で開設した「脳情報通信融合センター」を活用して、脳認知機能に関するこれまでの知見をAIに関連する部分のみ抽出し、体系的に学習できる。
東京大学は、より多くの受講生を受け入れることを前提に、前期と後期ともに同じ授業内容とした。人工知能の基礎や統計的機械学習などの必修科目の他、受講生として想定する企業の技術者が自身の業務に役立てやすいように、広く提供されている人工知能処理用APIを紹介する「即AI」や、自然言語処理とコンピュータビジョンを選択科目としている。
両大学の講座では、AI関連講義に加えて演習科目も必修になっている。この演習科目では、さまざまなデータセットを用いた「リアルコモンデータ演習」を行う。今回のNEDO特別講座は、教育や人材育成に求められるリアルコモンデータの作成も研究目的となっている。3年間のNEDO講座の後、教育に適したリアルコモンデータを充実させることが可能になり、他大学なども巻き込んだより多くのAI人材の育成に向けた展開も期待される。
講座の終了後は、単なる修了認定を出すだけでなく、英語検定試験のTOEICやTOEFLなどと同様に認定(Certification)スコアを出して能力評価を行う。このスコアが、企業内におけるAI人材活用の目安になる可能性もある。
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