現場仕事をやっていたころの最初で最後の部下は声優になるために上京した男だった。ちなみに同じ時期に入った最初でたぶん最後の事務員はツインテールで黒縁メガネですきっ歯のロリ系地下アイドルだった。秋葉原でのライブに一度誘われたのでユニット名をネットで検索すると全員ブスだったので行くのをやめた。そんなことはどうでもよくて、部下は初仕事にいきなり遅刻した。私は激怒してしまったので、あえて部下を置いて仕事に向かい、電話はシカトした。次の日からの私が部下にとても厳しくあたったのは言うまでもないが、とうとう根をあげたのか、また時間通りにこなかった。電話をすると「親が倒れて今病院にいます」というので、ならば俺も立場上見舞いに行かなければいけないから今すぐ病院名を教えてくれと返した。もちろん嘘だと分かった上で意地悪をしているのだが、親を利用したことにカッとなったこともある。結局何度も迫るうちに白状して泣き出した。
嘘にはついていい嘘と悪い嘘があるし、ついていい嘘にも嘘のつき方というのがある。嘘をつかなきゃいけない時、というものもある。なんでも正直に言えばいいというものではない。
有給の理由欄にドラクエやるからと書いたことが話題になっている。それが本当か嘘かは別にして、あそこは嘘をつかなきゃいけない場面であって、正直に理由を書いてもよく思わない人が多いだろうことは、社会に出る歳の人なら誰もがわかっていることだ。常識というやつだ。だからそういった場合は当たり障りのない嘘をつくのが一般的な対応で、そういった嘘はよほど性格の悪い人でない限り追求はされない。それが分からないのなら、あまりにもコミュニケーション経験がなさすぎるかもしくは頭がおかしいかのどちらかか両方だ。正直であることは、時と場合によっては開き直っていると思われることもあるし、事実そうである場合は経験上多い。だから反発を受ける。それはドラクエをやることそのものに問題があるのでなく、有給の理由についての正直さと正しさを盾にして相手を押し退けようとする戦意に問題があるのだ。「正直者がバカを見る」とはそういうことだ。
ドラクエやるから、という理由がおかしいと思っていない人や擁護している人がとても多くて困惑している。なんでもかんでも正直に言って、正論だからとか、自分はこうだからとか開き直ればいいと思っている人たちがとても多くて恐ろしい。そこまで自己主張する必要あるの?と思う。どうでもいいことなんだから、旅行とか帰省とか適当に嘘をついて何事もなくやり過ごせればそれがお互いにとって一番なのに、わざわざ波風立てて何の意味があるのか?って考えると、やっぱりそれは無意味で過剰な自己主張でしかなく「ドラクエやりたくて有給とりますけどなんか文句ありますか?俺間違ってませんよね?」と突っかかっていっているようにしか思えない。私だったら、そういう時は適当に嘘つけばいいんだよ、と言って書き直させるよね。それが優しさだと思う。