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第108話 虚獣と廃墟
織原は大多数には嫌われ、でもこういうキャラが好きな人もいる、と言うのを目指しました。
性能の壊れ具合よりも『仁の性質を理解している』と言うのが何よりの脅威です。
多分、最終話近くまで出て来ないんじゃないかな?もしかしたら、最終話付近でも出て来ないかも。メインシナリオから退場して、クリア後の話まで出て来ないキャラとかもいるし。裏ボス?
俺達は走りながらさくら、ミオ、セラの報告を聞いていた。
ドーラも念話には参加しているが、報告は期待していない。
《王族達の生き残りは全員確保したわよ。今はギルバート達竜騎士がエルディアの後始末をしている所ね》
《そうか。問題がないならそれでいい》
俺達がいなくなった後のエルディアの様子を、ミオが報告してくれた。
曰く、俺達がいなくても、戦争は事実上終了しているので問題はなかったそうだ。
王族の生き残り達(未成年)は全員無事に確保できて、今はエルディアの牢獄にまとめて収監されているらしい。
追ってカスタール側から、つまりはサクヤから沙汰が下されることになるだろう。そして、その気になればその沙汰に関与することも出来るはずだ。
ミオ達も手伝いはしているようだが、実務のほとんどはカスタールからやって来た騎士達が担っているそうだ。
騎士達も俺が戦争の後処理で役に立つとは思っていなかったようだ。
エルディアに攻め入る前の会議で、『戦後処理は門外漢』とサクヤが宣言していたからな。逆に言えば、サクヤはそれを見越して戦後処理に学のある者を寄越しているはずだ。
そうでなければ、サクヤのお尻をペンペン(強)する。
俺も自分に出来ない事をするつもりはない。自分に出来ない事は本職に任せる主義だし、向こうの世界に居ても何も役には立たなかっただろうな。
そう言う意味では、こちらの世界に転移させられたのはタイミングが良かったとも言えるのだろう。もちろん、織原に感謝などしてやらないが……。
《お兄ちゃん、今、私に何か酷いことしようと考えなかった?背筋がぞわっとしたんだけど……。怖くてちょっとチビりかけたし……》
《いや、別に》
ちょっと遅れてサクヤが念話に割り込んできたが、短く返事をして切る。
《? 何でサクヤちゃんが……。まあ、いいわ。それで、街中が酷い有様だから、メイド達も呼んで大掃除の最中よ》
《魔族侵攻の被害で死体が多いですからね……》
ミオはあっさり言ったが、さくらの気分は重そうだ。
エルディア王都の街中は酷い有様だったし、グロ耐性の低いさくらには厳しかっただろう。
でも、以前よりはマシな感じかな?
と言うか、メイド達はエルディアに行っていいのだろうか?交通手段とか、大義名分的な意味で……。
《まあ、魔族が来なくても、俺達が侵攻していたから被害を受けること自体は変わらなかったんだけどな。もちろん、無暗矢鱈に被害を出すつもりは一応、なかったけどな》
《そこは一応、ではなく断言するべきですわよね?ご主人様》
《一般市民が相手でも、石でも投げられたら殺すと思うからな》
セラが恐る恐る聞いてくるが、修正することは出来ない。
エルディア相手だと、沸点が低くなるのは仕方がない。
《その場合は私が殺します。仁様のお手を煩わせることはありません》
《……ご主人様達がこっちに残ってなくて良かったわ。カスタールの竜騎士達、石投げられたこともあるみたいだし……》
俺とマリアの少しだけ物騒な発言に、ミオが引きつったような声を出す。
それにしても、エルディアの連中は自分達の立場が分かっていないようだな。
《ミオ、石を投げた奴を含め、竜騎士達に害をなそうとした奴らを奴隷にするようにギルバートに伝えておいてくれ》
《え?どゆこと?》
ミオは俺の言っていることが今一理解できなかったようだ。
《言っただろ?エルディア戦争後の後始末に関わらせてもらうって。今の時点で不利益が確定している相手に遠慮する必要もない。それに、カスタールに害をなした者がどういう末路を辿るかを知れば、少しは自分達の現状が理解できるだろ?》
《ご主人様、容赦ないわね……》
《エルディアの連中に甘い顔をすれば、ツケ上がるに決まっているからな。厳しめで丁度いいんだよ。何なら、即処刑でも構わないぞ》
敗戦国の人間が戦勝国の人間に石を投げたら、処刑されてもおかしくないよね。
《本当にご主人様のエルディア嫌いは凄いですわね》
《ああ、勿論だ》
今のボロボロになったエルディア相手でも容赦はしないよ。
死体蹴りは伝統文化だからね。
他にもいくつか報告を受けている中で、ミオが思い出したかのように訪ねてきた。
《あ、そうだ。ご主人様、私達はそっちの世界に行かなくてもいいの?ちょっとビビるけど、マリアちゃんと同じ方法を使えば、行くだけなら行けないってこともないわよね?》
《ああ、こちらには来なくてもいいぞ。と言うか、来ない方が良いと思う》
《仁君……》
《ドーラ、じゃまー……?》
悲しそうな声でさくらとドーラが呟く。
《邪魔と言う事はないが、出来るだけ危険は減らしておきたいんだ。こちらの世界では俺も何が起こるかわからないからな。……さくらに尋ねたいんだが、急に危機的状況に陥ったとして、すぐに適切な対処が出来る自信はあるか?》
《あまり自信がないです……》
《ドーラもー……》
何が起こるかわからないところに、無暗に大勢で押し掛けるのは悪手だ。
運動音痴のさくらや幼いドーラに土壇場での対処を任せるのは不安がある。
戦力バランス的にもセラは向こうに残しておきたい。
ミオは連れてきても名物料理がないので意味がない(無慈悲)。
身の回りの世話を任せられ、対応力にも優れるマリアだけを連れて行動するのが1番いいと思ったのだ。
それよりも皆にはそちらの世界にいて欲しい。俺の配下の中でも最大の戦力であるメンバーがもれなくこちらにいたら、何か起こった時に咄嗟に対応できないかもしれない。
そんな俺の考えをみんなに伝えると、さくらとドーラも納得してくれたようだ。
《分かりました……。寂しいですけど、こっちで待っています……》
《ドーラもごしゅじんさまのことをまってるー》
《おう、そっちの事はよろしく頼むな》
《うーん、なんか私の扱いが酷い気もするけど、いつもの事だから良しとしましょう。あ、料理は<無限収納>に入れておくから、忘れずに毎食食べてよね?異世界に行っても、ご主人様の料理担当はミオちゃんなんだからね?》
《ああ、食事の準備はよろしく頼む。こっちには食えるものがあるのかわからないからな》
今のところ、食べ物に該当するモノは見つかっていない。
<無限収納>が無かったらヤバかったかもしれない。
《こちらは私が守りますから、マリアさんはご主人様の事を頼みましたわよ。ああ、でもマリアさんもあまり無茶はしないようにして欲しいですわ》
《仁様の事はお任せください。無茶は……努力します》
セラがマリアの心配をしている。
確かに、俺の傍にマリアしかいないとなると、俺の護衛のためにマリアは常に気を張った状態にならざるを得ないだろう。
時々は端末を回収してマリアを休息させる必要があるだろうな。
さくら達との念話が終わってしばらくしたところで、今度はアルタからの連絡だ。
A:ベガが敵性体を発見いたしました。ベガの戦闘能力では不足する恐れがあるので、放置いたしました。周囲の建造物を破壊して回っているようで、適性体を見つけた個所よりも外側の建物はほぼ壊滅状態となっております。
ふむ、どうやら織原が言っていた、『魔物に近い生き物』の事だな。
それなりにステータスの高いベガが勝てなさそうとなると、結構な強敵なのだろう。
ついでに倒していくとするかな。
そうして、走ること数時間……結構遠いね。
ついに『魔物に近い生き物』がマップ(狭め)に表示された。
個体名:ドヴォルザーク
種族名:単眼巨人
所属:虚獣
階位:
・体力:A
・攻撃:S
・防御:A
・俊敏:D
・技術:F
特性:
[剛腕][乱視]
ステータスを確認したところ、今までと全く異なるステータス画面が表示された。
…………もしかして、仕様が違うのか?
A:はい。今までとは異なる仕様で設定・表示されています。
色々と気になることが多いな。ざっくり説明してくれるか?
A:はい。まず、『個体名』、『種族名』は飛ばします。『所属』の虚獣ですが、この世界の崩壊を助長するような存在の総称のようです。
この世界の崩壊を助長?さっき言っていた建造物の破壊の事か?
A:はい。どうやら、この世界の崩壊は壊れた物が多い方が速く進むようです。虚獣は建造物を破壊して、この世界の崩壊を速めているようです。
それは厄介だな。見つけ次第倒しておいた方が良さそうだ。
それにしても、『所属』と言うくらいなのだから、「虚獣」の1種類だけと言う事もないだろうな。向こうのステータスで言えば、『称号』に近いイメージだし。
A:私も同じような推測をしています。説明を続けます。『階位』は向こうの世界のステータスに該当しますが、数値制ではなく、分類のみとなっております。SSSが最大でSS、S、A、Bと続いて行きます。最低値はHです。
ある意味では、よりゲームっぽい表示の仕方とも言えるな。
考えてみたら項目数も向こうのステータスより少ないな。これ、<生殺与奪>で奪ったらどうなるんだ?と言うか、奪えるのか?
A:いいえ。<生殺与奪>による能力の強奪は不可能です。
でも、さっき<生殺与奪>の機能を全て有効にしたって説明をしていたよな?
A:はい。向こうの世界のステータスを持っていれば、この世界でも奪うことが出来ます。しかし、この世界のステータスしか持たなければ、そのステータスを奪うことは出来ません。
少しだけ面倒だな。
ん?よく見たらLVの項目がないな。スキルは『特性』に該当するんだろうけど……。
A:レベル、経験値の概念もなく、この生物達は強くなることも弱くなることもありません。故に奪うことが出来ないのです。そして、『特性』は確かにスキルと似ているのですが、スキルほどの影響力がありません。あくまでも、長所、短所を表示しただけだと思ってください。もちろん、変化しないので奪うことが出来ません。
つまらない。
アルタの説明を聞いて、真っ先にそんな感情を抱いた。
別に、ステータスを奪えないことが理由と言う訳ではない。
ただ、その在り様がつまらないのだ。
強くもならなければ弱くもならない。成長も劣化もしない。
この世界の崩壊を助長するために、建造物を破壊し続ける。ずっと、変わらず、繰り返し、延々と……。そんなものは生き物ではない。生き物とは言わせない。
……ああ、だから『虚獣』なのか。虚ろの獣……、生き物ではない獣……、そう考えると納得だ。
やっぱり、在り様は気に食わない……。
そんなことを考えていると、件の虚獣が見えてきた。
単眼巨人を名乗るだけのことはあり、巨大な一つ目の鬼のような魔物だった。最近、鬼と良く縁がありますね。
単眼巨人は身長17mくらいの巨体で、緑色の肌をしていた。手には同じく巨大な棍棒を持ち、周囲の建造物に向けて振るっている。
「GOOOOOOOOOOO……」
叫んでいる、と言うよりは唸っていると言った方が正しいような重低音を発し、建物をボカスカ殴っている。
アルタの言っていた通り、その破壊痕は俺の進行方向に向かっている。
単純に考えると、崩壊中の世界の果てから、中心に向けて破壊活動を行っているようだ。
「GOOOO……、GOO……?」
単眼巨人が不意に動きを止め、移動中の俺達に焦点を合わせる(単眼なので比喩表現)。
「GOOOOOOOOOOO!!!」
次の瞬間には単眼巨人は俺達の方に突進してきていた。
なるほど、問答無用と言う訳か。こちらも倒そうと思っていたのだから丁度いい。さあ、この世界で初めての戦闘と洒落込もうではないか(織原戦は別扱い)。
「GOOOOOOOOOOO!!!」
叫びながら突進してきた単眼巨人が、手にした棍棒を振り上げる。
ん?
「仁様……」
どうやら、マリアも同じものを感じとっていたようだ。
-ドゴオオオ!!!-
俺達は迫りくる棍棒を無視してその場に立ち止まる。次の瞬間、棍棒が振り下ろされ、地面に小さなクレーターを作り上げた。
俺達から10m近く手前の地点に……。
どう考えても俺達に当たる軌道ではない棍棒に、思わず首を傾げてしまう。
この距離で明確に外すって、一体何が起こったというのだろうか?威嚇?
A:[乱視]です。目測を見誤ったようです。単眼ですから、距離感が上手く掴めないのではないでしょうか。
……………………マジか。
驚愕の真実、単眼巨人が乱視で攻撃を外す!
アホか。何が「虚ろの獣……」だよ。凄く人間臭い弱点を持っているじゃねえか。もっと虚ろえよ!
確かに、人間は2つの目で物との距離を把握している。
片目を失ったら距離感が掴めないというのもよく聞く。そして、そこに乱視が加われば、真っ当に攻撃を当てるのは困難だろう。
理屈はわかる。理屈はわかるのだが、何だろうこのがっかり感は……。
「とりあえず、倒すか……」
「仁様、私が戦いましょうか?」
マリアが聞いてきたが、俺は首を横に振る。
「いや、この世界に来てからの初戦闘だし、俺にやらせてくれ」
「承知いたしました。どうかお気を付けて。……初戦闘?」
首を傾げるマリアを無視して単眼乱視巨人と相対する。
がっかり感は半端ないが、戦闘は戦闘、真面目にやらないといけない。
うん、本当にがっかりしているけど頑張る。
「GOOOOOOOOOOO!!!」
再び棍棒を振り上げる単眼巨人だが、やはり攻撃の焦点がずれている。
避けるまでもなく外れる攻撃を無視して単眼巨人へと接近する。
「はあっ!」
そのまま跳躍した俺は、単眼巨人へ向けてその拳を振るう。
「喰らえ!!!」
-メキョッ!-
そんな音と共に俺の拳は単眼巨人へと突き刺さった。
その、巨大な、単眼に……。
「GOOOOO!?GOOOOOOON!!??GOOOOOOOOOOON!!!???」
痛かったのだろう。
単眼巨人はその場に崩れ落ち、眼を押さえてのたうち回る。
少し様子を見ているのだが、一向に立ち直る気配がない。
いつまでものたうち回り続けている。
A:どうやら、『変化がない』と言うのは『回復しない』と言う事でもあるようです。受けた傷や痛みの回復にも、かなりの長時間が必要になるようです。
それは良い事を聞いた。
つまり、1度有効打を与えたら、それ以降は有利な条件で戦いを続けられると言う事だ。
と言う訳で、死に体の単眼巨人をもう数発殴る。
それだけで単眼巨人は動かなくなった。そして、光の粒子となってすぐに消えて行った。若干、迷宮の守護者に似ているな。倒すとすぐ消える代わりに強い所とかが……。強い?
ああ、一応言っておくと、織原戦が終わってからステータスは元に戻したよ。
あのステータスは普段使いするには過剰すぎると思うんだ。
「仁様、お疲れ様です」
「まあ、全然疲れてないがな」
マリアが労ってくるが、本当に全く疲れていない。
と言うか、疲れるようなことをしていない。
A:マスター、ご自身のステータスをご確認ください。
ん?どうかしたん……ってレベル232!?
いきなり大幅にレベルアップしたぞ。能力は奪えないのに、経験値は普通に入るのかよ。
それに、どうやら強さの割には得られた経験値が多いようだ。
「経験値が凄い多いみたいだな」
「私もレベルアップしています。あの程度の相手でこれだけレベルアップするのは凄いですね。恐らく、始祖神竜や鬼神以上の経験値かと思われます」
経験値だけで見ればLV200や300の魔物以上と言う事か。
基本的にステータスを奪える俺にとって、レベルアップは大して魅力には映らない。
しかし、ここまで経験値効率がいいとなると話は別だ。出来るだけ経験値を稼ぎたいと思ってしまうのは、ゲーマーの性と言えるだろう。
《ご、ご主人様!今、いきなりレベルがドカンと上がったんだけど、何したの!?》
ミオからの念話が入って来た。
不思議なもので、経験値の共有は向こうの世界にいるミオ達ともできているようだった。
A:頑張りました。
アルタの努力の成果だった。
《今、こちらの世界の魔物を1匹倒したんだ。かなり経験値効率がいいみたいだな》
《やばい、行きたい……》
同じくゲーマーのミオには、この世界はかなり魅力的に映っている模様。
《気持ちはわかるが、さっき来るなって言ったばかりだろ。上手く帰還方法を見つけて、いつでも使えるような状態になったら連れてきてやる。》
《微妙にハードル高いわね……。まあ、仕方ないか。じゃあ、こっちは楽々パワーレベリングをさせてもらうわね。ご主人様、頑張れー》
茶化すように言うミオだが、そんな事を言われたら本気を出さざるを得ない。
《こっちにいる間にカンストでもさせるか……》
《ガチね……》
ガチレベリング……する?
……出来ませんでした。
と言うか、あれから1匹も虚獣とエンカウントしていないです。
「……よく考えてみれば当然だよな。虚獣の目的は建造物の破壊だから、既に破壊しつくされた場所にいる訳が無いよな。はぁ……」
壊れたビルの瓦礫の上を走りながら溜息を吐く。
虚獣は建造物を破壊しながら世界の中心に向かっている。つまり、逆向きに進む俺達と虚獣が出会うのは基本的に1回だけと言う事になる。
もちろん、寄り道をすれば他の虚獣にも会えるのだろうけど、真っ直ぐに世界の果てに向かう以上は出会う機会もあるまい。
「1回、世界の果てまで行ったら、中心に向かうときは少し寄り道をしよう」
「はい、わかりました」
少しでも虚獣を多く倒しておいた方が、この世界の寿命が延びるようだからな。
少し遠回りをしてでも可能な限り倒していこう。
「とりあえず、そろそろ食事にしようか」
「はい。料理はミオちゃんが<無限収納>に入れてくれています」
時間的には既に夜になっているのだが、周囲の様子は一切変化のない灰色だ。
変化がないから、気を付けないとどれだけ時間が経ったのか判断できなくなるんだよな。
マリアは瓦礫の少ない箇所でテーブルを取り出し、<無限収納>からミオの料理を取り出した。
イズモ和国で勉強したのだろう。本日の夕食は何とラーメンだった。
それも俺の好きな醤油ラーメンである。半チャーハンも付いている。餃子も付いている。
流石ミオだ。良く分かっている。
「美味いな」
「はい、美味しいですね」
美味しい事は美味しいのだが、最近は大勢で一緒に食事をとることが多かったせいか、少しだけ物足りなく感じてしまう。
マリアは不必要な事はあまり喋らないから、尚更そう感じてしまうのかもしれないな。
ラーメンを汁まで飲み干して一息ついていると、またまたアルタからの連絡があった。
A;マスター、虚獣が接近してきております。
マップを見ると、確かに1匹の虚獣がこちらに向かってくるところだった。
マップの効果範囲が狭くなっているから、もう間もなく接触することになるだろう。
個体名:ショパン
種族名:神狼
所属:虚獣
階位:
・体力:A
・攻撃:A
・防御:C
・俊敏:S
・技術:B
特性:
[嗅覚]
なるほど、鼻が良いから俺達の存在に気が付いたと言う訳か。
確かに、現在はマップの範囲が狭まっているし、単純な嗅覚でそれ以上の感知能力があってもおかしい事はないだろう。……もちろん、異世界基準だけど。
1度捕捉されてしまった以上、この場での戦いは避けられない。
元々、虚獣は倒していく方針だから何も問題はないな。
俺とマリアはラーメンの器やテーブルなどを<無限収納>に仕舞い、武器を取り出して戦闘準備を始める。
……すると、こちらに向かっていた神狼が急に足を止めた。
しばらくその場で立ち止まっていたのだが、くるりと向きを変えるとトボトボと元来た方向に帰っていった。
「はい?」
神狼の行動が理解できず、思わず声に出してしまった。
俺達が戦闘態勢になったことに気が付いて、戦うのを諦めたとか?……そんな訳ないよな。ん、もしかして……。
ふと思いついたことがあるので、ラーメンの器を<無限収納>から取り出す。俺のはスープまで飲み干しているから、スープを残したマリアの分だ。
すると、神狼は再び向きを変えて、俺達の方に走りだしてきたのだ。
「もしかして、ラーメンの匂いに引き寄せられているのか?」
「え?虚獣が、ですか?」
マリアが驚いたような声を出す。正直、俺も驚いている。
でも、どう考えてもラーメンの匂いに向かって走ってきているよな……。
少し待っていると、神狼が俺達の前に姿を現した。
神狼の名に相応しく、青白い毛皮を纏った10m級の巨大な狼だ。
その存在感は以前に戦った銀狼王とは比較にもならない。
「グルルルル……」
その鋭い眼は俺のことをじっと見つめて離さない。
俺は持っていたラーメンの器を右上に持ち上げてみた。
神狼の鋭い眼は俺の右上に向けられている。
俺は持っていたラーメンの器をマリアに手渡した。
神狼の鋭い眼はマリアに向けられている。
完っっっ全にラーメン目当てだコイツ!
匂いに釣られて来やがった!だから、虚獣だろ!もっと虚ろえよ!どうしてそんなに強い個性を持っているんだよ!
「グルルル!ガオオオオン!!!」
そう言って神狼はマリアに向けて飛びかかった。
違う。ラーメンの器に向けて飛びかかった。
「えい!」
マリアはラーメンの器に残っていた汁を神狼に浴びせかけた。
すると神狼は汁を飲み干さんと大きく口を開けた。
ラーメンの汁は神狼の口に吸い込まれるように入っていった。
-ズシュッ!-
同じく、マリアが構えていた『太陽神剣・ソルブレイズ』も神狼の口に吸い込まれるように刺さっていった。
こうして、口内を刺し貫かれた神狼は光の粒子となって消えていくのであった。
神狼の存在感は銀狼王以上だけど、末路はあまり変わらなかったかな。どっちもかなり情けない。
「仁様、終わりました。……思っていたよりも遥かに簡単に倒せるんですね」
「俺も驚いているよ。虚獣なんて大層な名前で、世界の滅びを助長する存在って聞いていたから、もう少し脅威を感じるような相手だと思っていたら、その結果がアレだぞ。完全にネタ扱いの魔物達のどこに脅威を感じればいいんだ?俺の「虚ろの獣……」っていうセリフを返せよ!せめてもっと虚ろえよ!」
「仁様、少し落ち着いてください……」
マリアが俺を宥めようとするが、俺の不満は収まらない。
「そのくせ経験値だけはたっぷり手に入って、何となく得した気分になるのも気に食わない。雑魚敵なら雑魚敵らしく、経験値も能力に合わせておけよ!」
「お気持ちは分かりますが、少し落ち着きましょう」
マリアの必死の説得により、少しだけ落ち着きを取り戻す。
「何か疲れたからもう寝よう。今日はかなり濃いいイベントが盛り沢山だったからな」
「テントの用意をしますので、しばらくお待ちください」
再び出したイスに座り、テーブルに突っ伏している間にマリアがテントを張ってくれた。
流石に風呂はないので<清浄>を使って汚れを落とした。珍しく、<清浄>本来の使い方をした気がする。……基本的に俺達は失禁の除去にしか<清浄>を使わないから。
テントが完成したところで、マリアを休ませるために、ベガを呼び戻した。
「マスター、タモさんを1匹呼び寄せることを推奨いたします」
「ああ、そう言えばタモさんも向こうの世界に置きっぱなしだったな」
織原に転移させられる直前にタモさんも取り外していたんだよな。
ベガだけに寝ずの番を任せるのも何だし、タモさんに任せるのもいいだろう。
《タモさん、凍るか石化して<無限収納>に入ってくれないか?》
《わかった……》
俺が頼むと、すぐにタモさんAはタモさんBが<擬態>したバジリスクの石化攻撃を受けて石化した。
その後、タモさんBはタモさんAを<無限収納>へと回収した。
タモさんAを<無限収納>から取り出し、石化を解除。そのまま寝ずの番を頼むことにした。
《わかった……》
こうして、大精霊との契約から始まり、エルディア侵攻、魔族四天王との戦い、異世界への転移、織原との戦い、虚獣との戦いと言う濃いい1日が終わったのだった。
ホントに濃いいな!
ドヴォルザーク作曲「新世界より」
単眼で巨大なロボット「ザ○」
ダブルミーニングです。
ショパン作曲「子犬のワルツ」
+注意+
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最終掲載日:2017/07/28 00:00
ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント-
世界最強のエージェントと呼ばれた男は、引退を機に後進を育てる教育者となった。
弟子を育て、六十を過ぎた頃、上の陰謀により受けた作戦によって命を落とすが、記憶を持//
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ハイファンタジー〔ファンタジー〕
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連載(全173部)
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最終掲載日:2017/07/21 20:00
異世界迷宮で奴隷ハーレムを
ゲームだと思っていたら異世界に飛び込んでしまった男の物語。迷宮のあるゲーム的な世界でチートな設定を使ってがんばります。そこは、身分差があり、奴隷もいる社会。とな//
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ハイファンタジー〔ファンタジー〕
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連載(全219部)
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最終掲載日:2017/03/25 21:22
ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた
◆書籍⑧巻まで好評発売中です◆ ニートの山野マサル(23)は、ハロワに行って面白そうな求人を見つける。【剣と魔法のファンタジー世界でテストプレイ。長期間、泊り//
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ハイファンタジー〔ファンタジー〕
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連載(全180部)
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最終掲載日:2017/07/27 21:00
デスマーチからはじまる異世界狂想曲
アラサープログラマー鈴木一郎は、普段着のままレベル1で、突然異世界にいる自分に気付く。3回だけ使える使い捨て大魔法「流星雨」によって棚ボタで高いレベルと財宝を//
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ハイファンタジー〔ファンタジー〕
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連載(全534部)
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最終掲載日:2017/07/23 18:00
奪う者 奪われる者
佐藤 優(サトウ ユウ)12歳
義父に日々、虐待される毎日、ある日
借金返済の為に保険金を掛けられ殺される。
死んだはずなのに気付くとそこは異世界。
これは異//
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ハイファンタジー〔ファンタジー〕
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連載(全227部)
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最終掲載日:2017/07/28 18:00
LV999の村人
この世界には、レベルという概念が存在する。
モンスター討伐を生業としている者達以外、そのほとんどがLV1から5の間程度でしかない。
また、誰もがモンス//
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ハイファンタジー〔ファンタジー〕
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連載(全300部)
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最終掲載日:2017/07/28 20:51
聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~
地球の運命神と異世界ガルダルディアの主神が、ある日、賭け事をした。
運命神は賭けに負け、十の凡庸な魂を見繕い、異世界ガルダルディアの主神へ渡した。
その凡庸な魂//
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ハイファンタジー〔ファンタジー〕
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連載(全359部)
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最終掲載日:2017/03/23 20:00
レジェンド
東北の田舎町に住んでいた佐伯玲二は夏休み中に事故によりその命を散らす。……だが、気が付くと白い世界に存在しており、目の前には得体の知れない光球が。その光球は異世//
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ハイファンタジー〔ファンタジー〕
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連載(全1442部)
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最終掲載日:2017/07/29 18:00
進化の実~知らないうちに勝ち組人生~
柊誠一は、不細工・気持ち悪い・汚い・臭い・デブといった、罵倒する言葉が次々と浮かんでくるほどの容姿の持ち主だった。そんな誠一が何時も通りに学校で虐められ、何とか//
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ハイファンタジー〔ファンタジー〕
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連載(全101部)
- 25776 user
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最終掲載日:2017/07/02 11:09
ありふれた職業で世界最強
クラスごと異世界に召喚され、他のクラスメイトがチートなスペックと“天職”を有する中、一人平凡を地で行く主人公南雲ハジメ。彼の“天職”は“錬成師”、言い換えれば唯//
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ハイファンタジー〔ファンタジー〕
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連載(全276部)
- 36222 user
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最終掲載日:2017/07/29 18:00
二度目の人生を異世界で
唐突に現れた神様を名乗る幼女に告げられた一言。
「功刀 蓮弥さん、貴方はお亡くなりになりました!。」
これは、どうも前の人生はきっちり大往生したらしい主人公が、//
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ハイファンタジー〔ファンタジー〕
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連載(全367部)
- 26720 user
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最終掲載日:2017/07/26 12:00
転生したらスライムだった件
突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた!
え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//
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ハイファンタジー〔ファンタジー〕
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完結済(全303部)
- 27594 user
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最終掲載日:2016/01/01 00:00
八男って、それはないでしょう!
平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//
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ハイファンタジー〔ファンタジー〕
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完結済(全205部)
- 28859 user
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最終掲載日:2017/03/25 10:00