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待て勇者、お前それジャングルでも同じ事言えんの? ~勇者に腹パン、聖女に頭突き、美少女騎士に回し蹴り~ 作者:吾勝さん

第三章

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第六十八話『コア祭りやでぇ!!』

宜しくお願いします。
次話は夜に上げられそうです。




 ダンジョンコア。
 人類から迷宮核とも呼ばれているその物体は、この世界で生きる生物にとって必須元素となる『魔素』を放出する重要な物体である。

 その形は様々で、美しくカットされた大きな宝石のような物から、自律的に歩く人の形をした物まで千差万別。

 共通しているのは『意思』を持っている事と、マスターとしてダンジョンに縛った契約主に『力』を与える事の二つ。

 契約内容や与える力は微妙に違う。
 そして、コア自体の『格』と存在理由も違う。

 例外は未契約のコア。
 神々が用意した遊戯盤の上に遊戯開始当初から設置され、未だ誰からもから発見されずに未契約状態であるコアは、これから説明する『格』が基本の一つしか存在しない。

 コアの格は三つ。メインコア、サブコア、ダミーコア。

 格が一番高いのがメインコア。ダンジョンマスター(以下ダンマス)と接触して直接契約を交わし、ダンジョンの管理を統括する最重要キーアイテム。これを破壊するとダンマスは滅び、ダンジョンも崩壊する。未契約のコアは必然的にこのメインコアとなる。

 次がサブコア。簡単に言えば保険だ。メインコアが奪取された場合や、破壊されそうになった場合、メインコアはサブコアに全権限と力を委譲してメインとサブを入れ替える。

 サブコアと入れ替わった旧メインコアには何の力も残っていないので、奪われたり破壊されたりしたところでダンジョンに何の影響も無い。サブコア一個分の『ダンジョンポイント【DP】』、即ちコアが貯めた生気が無駄になるだけだ。

 俺が下賜品を購入するとFPが減る理屈と同じで、コアはDPを消費して何かを創造、または『力』を行使する。

 サブコアが持つもう一つの役割は、サブマスター(以下サブマス)が使用する疑似的なメインコアとしての役割。

 ダンマスは自分の眷属からサブマスを任命出来る。
 サブマスは支店の店長と思っていい。

 サブマスの主な役割は支店的な役割である『サブダンジョン』の運営、並びにダンマスの補佐。

 サブダンジョンはダンマスの避難場所としての意味合いが強いが、メインダンジョンから離れた場所にダンマスの支配するダンジョンが創造されるので、生気の徴収をメインダンジョン一ヵ所に頼らず、あらゆる場所で徴収可能となる。

 サブダンジョンで徴収された生気は全てメインコアに送られ、生気をDPに変換したメインコアからサブコアへDPが供給される。

 サブダンジョンを創造する際は、サブコアを持ったサブマスが指定された場所まで移動し、そこで『ダンジョン創造』か『ダンジョン化』の能力を使用する必要が有る。

 しかし、ダンジョン創造とダンジョン化という特殊能力は、本来ダンマス専用の能力である為、その能力の使用許可を一時的に得たに過ぎないサブマスが使用すると、通常の百倍ほどDPを消費しなければならない。効率は非常に悪い。

 その為、魔人としての期間が短いダンマスや、生気徴収率の低いダンマスは、避難場所としてのサブダンジョンを一つ確保するに留める場合が多い。

 三皇五帝ほどのダンマスになると、数多くのサブダンジョンがメインダンジョンと連結出来るほど支配領域が広大である。

 まるで妖蟻の地下帝国のようだが、ダンジョンは入り口以外が異空間なので、実際の支配地は世界の理から外れた場所に在る。

 しかし、ダンマスが指定した家屋や洞窟等の『出入り口』が在る場所を『ダンジョン化』という特殊能力で異空間化せずにダンジョンの一部として支配する事が出来る。

 ダンジョン化によって支配された場所はいつでも異空間と非異空間の切り替えが可能だが、ダンジョン創造で生み出した空間は自動的に異空間で固定となり、切り替えは不可能。

 生気徴収の効率は下がるし大量のDPを消費するが、ダンジョン化の能力を使えば異空間以外に支配領域を広げる事も可能となる。俺達が最も恐れる能力がコレだ。

 ダンジョン化された場所はダンマスやその眷属が自由に転移可能な上、その構造を自由に改変出来る。さらに、ダンマスも眷属も『ダンジョン外ペナルティー』の枷から解放され、コアによる補佐と補助支援を受けながら全力を出せる。

 俺が必至こいて神像を作り、地下帝国の壁を簡易結界で覆いたい理由をお解り頂けただろうか。やっと北側は塞ぎ終えたが、まったく安心出来ない。

 話が逸れたが、サブコアは基本的にメインコアと同じ力を有する。しかし、ほとんどの場合はダンマスがサブコアに制限を設けてサブマスに渡す。一日で消費出来るDPに上限を設けるなど、制限はダンマスのサジ加減で縛る範囲が大きく変わる。

 サブコアの説明は以上。
 最後はダミーコア。

 ダミーコアは只のイミテーション、模造品だ。
 メインコアの力を移す事も出来ず、何の能力も無い模造品だが物の質は良い。

 貴重なコアは無事に安置されてあると冒険者等に認識させる為、飛竜の魔核かと驚くほどの大きな宝石で造られたダミーコアが、第五層から第十層に掛けての低階層に設置されてある事が多い。メインコアとダンマスはダミーコアの存在で侵入者を安心させつつ、ダンジョンの拡張に励む。

 以上でコアの格と役割についての説明は終了。

 なお、サブコアとダミーコアはダンマスやメインコアの意思で幾らでも創造出来る。サブコアを量産して大勢の眷属をサブマスに任命する事も可能。そうする事によってサブマスはダンジョン内で臨機応変に活動出来るが、DPの消費量は相当なものとなる。


「俺の狙いはカスガの言う通りコアだ。長城の第三城門から出て南東と南西にそれぞれ約100km進んだ位置に在る二ヵ所の魔窟からブン盗る」

「あの二ヵ所は半年置きに蟲を入れて調査している、長い間どちらも五階層しかない魔窟だったが…… 本当に魔窟なのかは判らん。すぐ傍に『魔ドンナ』のダンジョン『パパドンプリーチ』が在るからな」

「そうねぇ、あの二つは魔ドンナの『サブダンジョン』臭いわねぇ~。もし普通の魔窟だったら第五階層に在るコアと接触した冒険者は多いはずよぉ?」

「左様、どちらの魔窟もダンジョン化していない。何年も若いままの魔窟では不自然だ。考えられるのは異空間化を解除したサブダンジョン、もしくは、魔窟コアのお眼鏡に適う侵入者が居なかった…… 如何ですかな姉上様?」

『如何にも。あの二ヵ所に在る魔窟のコアはどうやら二つとも“指南役”が居るようです。恐らく、名の知れた異世界勇者レベルの契約者を望んでいるのでしょう。三皇五帝ほどまでに成長する見込みの有る強力なマスターを確実に得る、指南役がそう考えているのならば、最低でも異世界人との契約を必須と定めているのかも知れません』


 ヴェーダの話を聞いたアカギは「あらぁ」と言って難しそうな表情を作り、カスガは俺の左脚に体を預けながら自分のコメカミを左手中指の指先でトントンと叩き、少しだけ眉根を寄せて黙考している。

 カスガとアカギが話していた二つの魔窟はサブダンジョンではない、この事は蟲を眷属化した翌日からヴェーダが念入りに調査済みだ。魔ドンナのパパドンプリーチ城には蟲を入れなかったが、今もその周囲を蟲に包囲させて監視している。

 何故、サブダンジョンではないと判ったのか?

 ヴェーダは先ず、魔窟に入る冒険者の生気量を侵入前と後で測定し、体力の消耗や魔力使用等で減少する生命維持活動の糧として消費した生気量を侵入時間と取得経験値量で算出した。

 さらに、教国の魔窟に侵入した冒険者とパパドンプリーチに侵入した冒険者にも同様の測定を施したのち、それらの生気量を比較した結果、パパドンプリーチのみ生命維持活動での消費であると説明出来ない量の大幅な生気減少を確認出来た。

 ここまで確認して、ヴェーダは俺から許可を取って蟻を二つの魔窟に一匹ずつ突入させる。

 異変が有ればすぐに撤退出来るように出口付近で待機させていた二匹の蟻は、一時間経過しても生気減少は起きなかった。さらに一時間、また一時間、そうやって確認を続けたが、蟻の生気は減少しなかった。

 それを確認したヴェーダは飛行する蜂も一匹ずつ突入させ、空中浮遊体に対するトラップや、高低差による生気減少の有無を調査。そして、この度も異状無しと確認したヴェーダは、二つの魔窟にそれぞれ百の蜂と九百の蟻を突入させる。

 一つの階層を隅から隅まで念入りに調査し、フロアボスが控える部屋の扉を冒険者が開けるタイミングで少しずつ蟲を次の階層に進め、二週間掛けて五階層全ての調査を終えた。

 蟲に犠牲は無し、二千匹の蟲は今でも魔窟周辺でスパイ活動を続けている。

 調査結果は前述の通り、サブダンジョンではなく魔窟であると断定。

 異空間化していないダンジョンでも生気徴収は必ず行われるので、それが確認出来ない魔窟をダンジョンとして扱うには無理がある。

 両魔窟の魔素溜まりから湧く養殖も、全てのコアが最初から創造出来る基本の五種のみ。マスターの眷属適性によって創造された養殖は居ない。さらに、マスターが居れば創造された養殖は【隷属体】か【眷属体】のどちらかになるが、そのどちらも存在しなかった。

 魔窟の最下層では第五フロアボスとコアを確認している。

 ボスと同族の取り巻きが10体ほど居たが、全てヒャッハーゴブリン並みの能力だった。

 西の魔窟コアを護るボスは一般的な養殖の『コボルトリーダー』、東は『ゴブリンリーダー』。進化種ではなく、ジョブ名が種族名に付いている。

 大森林のコボルトやゴブリンには無いジョブだが、いずれも普通の養殖、サブマスではないし隷属化も眷属化もされていない。東西の魔窟で若い冒険者パーティーと共にボス部屋に侵入し戦ってみたが、蜂や蟻の毒で簡単に死んでしまう。

 その冒険者パーティーも始末して蟲の存在を隠蔽しつつ、魔窟が死体を吸収する様子を確認し、その生気がコアに貯まるのも確認。生気がメインコアに送られる事は無かった。

 ヴェーダはそのままボス部屋で蟲を待機させ、次の冒険者がボスと死闘を繰り広げる様を観戦。

 辛勝した冒険者はボス部屋の奥に安置してあるコアの前に足を進め、コアを見つめて生唾を飲み込むが、首を左右に勢いよく振って奪取を試みたい邪念を払い、ゆっくりとコアに手を伸ばした。東西のボス部屋で同じ出来事が何度も起きている。

 人類の中には自ら進んで魔人になる事を望む者も多い。

 二つの超低難易度魔窟に侵入する冒険者は総じて弱く精神も脆い。新人ならまだしも、ベテランでこのレベルの魔窟に通う冒険者は『敗者』、この世界では負け組だ。

 そんな彼らは人類を超越した存在である『魔人』に憧れる。コアと契約するだけで人類を超越出来るのだという愚かな発想だが、そんな考えしか出来ないから負け組なのだと嘲笑するしかない。

 そして、超低難易度の魔窟コアに手を伸ばして『夢』に触れた冒険者達は、ウンともスンとも言わないコアに絶望して夢追い人を辞め、肩を落としながら転送魔法陣に乗って地上まで戻り、蔑みが待つ場所へ帰るのであった……


「――と、そんな感じだ。契約者となった者は現れず、負け犬が去ったボス部屋に現れたのは……」


「指南役……堕ちた神か」
「邪神かしらぁ?」

『どちらも正解ですね』


 アカギはニッコリ笑い、カスガは小さな舌打ちを響かせた。可愛い音だな。


有り難う御座いました!!
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