Shrank WH, Patrick AR, Brookhart MA. Healthy user and related biases in observational studies of preventive interventions: a primer for physicians. J Gen Intern Med. 2011 May;26(5):546-50. PMID: 21203857

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21203857

 

観察研究で示された実効性がのちのRCTで否定されることがある。観察研究で示される有効性の過大評価には様々なバイアスの影響がある。

 

The healthy user effect

ある予防的治療を受けている人は、他の予防医療サービスを受けようとしたり、他の健康志向的な行動をとる傾向にあり、こうした振る舞いがもたらす影響をThe healthy user effectという。例えば、スタチンのような予防的薬物療法を受けている患者では、そうでない患者に比べてより多く運動し、より健康な食事を食べ、車を運転するときにシートベルトを着用し、タバコを吸わないなど、スタチンを服用していない人に比べて、より健康的な行動をする傾向にあると言うことである。その結果、他の関連する予防行動(例えば食事や運動など)を調整することなく予防治療(スタチン治療)の効果を評価する観察研究は、試験中の予防療法の効果(心血管アウトカム)を過大評価する傾向がある。

 

The healthy adherer effect

The healthy adherer effectは、予防的治療のアドヒアランスが良好な患者では、不良な患者よりも他の健康行動に関与する可能性が高い場合に生じる。例えば、1つの慢性薬物療法のアドヒアランスが良好な患者は、他の療法に対するアドヒアランスが良好である可能性が高く、推奨される癌スクリーニング検査や予防接種を受ける可能性が高いことが観察されている。[1][2][3]

 

こうした現象は、臨床アウトカムに対する服薬の影響の偏った推定値をもたらす可能性がある。 最も顕著な例は、RCTにおけるプラセボのアドヒアランス良好患者が、不良患者よりも死亡率が低かったという観察である。[4][5] アドヒアランスが高い患者では自動車事故や職場事故が少ないという研究さえある。[6] 服薬アドヒアランスと相関するこれらの行動を考慮しなければ、予防的薬剤の使用と予防的薬物療法のアドヒアランスは、アウトカムと強く関連していると結論してしまうだろう。

 

機能的状況及び認知機能の影響

認知機能障害は、患者の医師への関心や受診能力を制限し、また重度の身体機能障害は、医療機関への移動の障壁となり得る。高齢の女性を対象とした研究では、身体機能障害が高レベルの患者では(このような障害のない患者よりもおそらく病的である)、乳癌および子宮頸癌のスクリーニング受診率が有意に低いこが示されている。[7]このタイプの交絡は、死亡リスクに対するインフルエンザワクチン接種の防御効果についての説明としてよく引用されている。

 

コホート内症例対照研究[8]において、入浴介助の必要性などの機能的制限者では、インフルエンザシーズン中に死亡した人が多かったが、こうした人々では、インフルエンザワクチン接種可能性の低下とも関連していた。これらの要因を調整することで、全原因死亡に対するインフルエンザの推定防御効果は41%から29%に低下した。身体機能の状態または認知機能障害を考慮していない観察研究は、予防的治療の効果を過大評価するであろう。

 

処方行為の選択バイアス

医師は入院患者および外来患者の両方において、虚弱患者または終末期または急性疾患患者に予防的治療をしないことが多い。[9] スタチンを受けた患者の特徴を評価したある研究では「虚弱」患者は、虚弱でない患者と比較して脂質低下療法の受給率が26%〜33%低下し、この関係は少なくとも部分的に スタチン使用と死亡率との関係を示唆した。[10] インフルエンザの発症時に入院した患者では、ワクチン接種率が低く、死亡率も高い。[11]同様に、がんや末期腎疾患など重篤な併存疾患を発症する患者 予防療法を中止する可能性がより高い。

 

バイアスを評価するために

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3077477/table/Tab1/

 

新規治療開始者を対象にITT解析で検討する。

予防的薬剤の継続使用者を非使用者と比較する研究は、しばしば問題が多い。新規治療開始者である患者とは対照的に、継続使用者集団は、研究中の薬物のアドヒアランスに関して耐容性のある患者に富む傾向がある。これらの患者で、予防的治療が開始されアドヒアランスが良好である患者のみが残り、こうした観点から、明らかに同様の非ユーザとは異なる可能性がある。

(新規治療開始者とそうでない継続的治療開始者では、同じ薬剤群でもアドヒアランスが異なる可能性が高い。つまり継続治療群をE群とした場合、アドヒアランス良好者が多い。これはつまり、Healthy-adherer effectをもろに受けることになる)  こうした理由から、治療開始群と非開始群を比較する「新規ユーザー」デザインは好ましいと考えられている。

 

比較対照群に実薬群を用いる。

新しいユーザーデザインはhealthy adherer biasを軽減することができるが、healthy user biasが引き続き発生する可能性がある。 予防的治療を開始する患者と非開始患者の比較において、その背景差を減少させる1つの方法は、異なる予防的治療を開始した患者から比較群を選択することである。

(マクロライド系抗菌薬と死亡リスクを検討する場合、マクロライドの使用有無で比較してはかなり患者背景にバイアスが入り込んでしまう。マクロライドとペニシリンで比較したほうがフェアかもしれない)



[1] Med Care. 2009 Mar;47(3):334-41. PMID: 19194337

[2] Am J Epidemiol. 2007 Aug 1;166(3):348-54. PMID: 17504779

[3] Circulation. 2009 Apr 21;119(15):2051-7 PMID: 19349320

[4] Lancet. 2005 Dec 10;366(9502):2005-11. PMID: 16338449

[5] BMJ. 2006 Jul 1;333(7557):15. PMID: 16790458

[6] Circulation. 2009 Apr 21;119(15):2051-7. PMID: 19349320

[7] Arch Phys Med Rehabil. 1999 Jun;80(6):642-6. PMID: 10378489

[8] Int J Epidemiol. 2006 Apr;35(2):345-52. PMID: 16368724

[9] Epidemiology. 2001 Nov;12(6):682-9. PMID: 11679797

[10] J Clin Epidemiol. 2006 Aug;59(8):819-28. PMID: 16828675

[11] Ann Intern Med. 1992 Apr 1;116(7):550-5. PMID: 1543309