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240.有能メイド
くじ引き6巻8月15日発売です

光が収まった後、俺たちが屋敷に戻ってきていた。
見慣れた屋敷、久しぶりの屋敷。
その庭に立っていた。出かけた時と同じ場所だ。
「戻ってきた……んですか?」
「試してみるか」
異次元倉庫からワープの羽根を取り出した。
このアイテムは一度行ったことがある場所に瞬間移動できる、ただし時代ごとにわかれて記憶されているようだ。
過去に行ってたときはこの時代の場所には飛べなかった。
イオの腰を抱いて、まずはマラトンの泉の泉に飛ぶことを念じた。
ワープの羽根は反応しなかった。
次にオリクトの谷に飛ぶと念じた。
景色が一瞬で変わって、イオと一緒にオリクトの谷に飛んできた。
まわりが魔力によってカラフルな年輪の様な岩ができあがっている、オリクトというモンスターが住んでいる谷。
「元の時代……っぽいですね」
「元の時代だな。ほら、あいつが逃げ出してる」
「あっ、オリクト」
指さした先で、この谷の主オリクトが俺たちに背中を向けて一生懸命逃げ出していた。
「ああやってにげてるってことは、俺たちの事を知ってる、つまり元の時代のオリクトって事だ」
「そうですね。懐かしいです」
「あれに雷を落としてみろよ」
「え?」
イオが驚いた顔で俺を見る。逃げるオリクトに何も……って顔だ。
「エレノアからもらった力、それを持ち帰ってるかを知りたい」
「そっか。分かりました」
イオは頷き、俺から離れて魔法の杖を構えた。
魔力が高まる、彼女の服が吹かれてなびく。
「エレノアの黒雷!」
詠唱のあと、魔法の杖をオリクトめがけて突き出した。
空から黒い稲妻がオリクトに落ちる。不死身だが唯一雷だけに弱い谷の主は、黒い稲妻の一撃で体の半分が溶けた。
「す、すごい……」
魔法の威力に、放った本人が一番驚いていた。
「百雷陣より威力が高いな」
「はい……こんなにすごい魔法だったなんて……こんなのをもらってよかったのかな」
「素直に受け取っとけ。強力な魔法ってのはその分魔力を多く消費する。それを扱えるのならもらっても誰も文句は言わん」
「はい」
素直に頷くイオ、自分の手のひらをまじまじと見た。
本当にこれが自分の力? って行ってるように見える。
そんな彼女を連れて、ワープの羽根で屋敷に飛んだ。
俺の部屋に戻ってきたのとほぼ同時に、部屋のドアがノックされた。
「ご主人様、こちらにいらっしゃいますか?」
ミウの声だった。懐かしい。
「いるぞ、入れ」
「失礼します」
部屋に入ってきたミウは何故か俺を顔を見るなりきょとんとした。
「どうしたミウ」
「え? いえ何でもないです。イオさんにお客さんが。アグネさんとジュリアさんです」
「アグネとジュリアが?」
「通せ」
「わかりました」
ミウは一礼して、最後にもう一回だけ俺の顔を見てから部屋をでた。
どうしたんだ? 俺の顔に何か着いているのか?
そんな事を考えていると、アグネとジュリアが部屋に入って来た。
イオのパーティーの女の子たち、アグネはラフな格好で大剣を担いでて、ジュリアは控えめで清楚な聖職者な出で立ちだ。
「探しましたよ姉さん」
「ここにいたんですねお姉様」
二人は早速イオに駆け寄った。
「ごめんなさいアグネ、それにジュリアも。長い間留守にしちゃって」
俺との時間旅行、素敵な冒険の事を二人に謝ったのだが、された当の二人はきょとんとした。
「何を言ってるんだ姉さん。昨日もあったばかりだろ?」
「え? 昨日?」
「はい……お姉様と一緒にヘレネー王女殿下のご依頼を果たしてきたばかりですが……」
「それって、出かける前の日の……
「「え?」」
声を揃えて、首をかしげるアグネとジュリア。
イオは困惑した顔で俺を見た。
なるほどそういうことか。
「出かけた直後の時間帯に戻ってきたってことだろ。時間旅行だしな、よくある話だ」
「よ、よくあるんですね」
「ああ」
よくある話だ。浦島太郎とかな。
もちろん逆のパターンもよくあるのは言わなかった。
でもそうか、過去に行ってた日数関係ない、直後に戻って来れたって事か。
それは色々、都合がいいな。
「そんな事よりも姉さん、依頼が来たんだ」
「依頼?」
「はい、ギルドのSランクの討伐依頼。わたし達だけではどうしようもないので、是非お姉様に同行して頂ければと」
「Sランクの討伐……大変そうだね……」
イオはそんな風につぶやきつつ、俺をちらっと見た。
冒険者ギルドの依頼は、同じランクにも危険度の差がある。
討伐というのは文字通り何かを倒す依頼だから、当然同ランクの中でも一番危険度が高い。
それがSランクともなれば最高レベルの危険度なのは言うまでもないこと。
イオがちょっと不安になるのは分かる。
「行ってこい」
「え?」
「活躍してこいよ」
俺はそう言って、指を出して空中で稲妻が落ちるジェスチャーをした。
イオはそれを見て、ハッとした。
エレノアの黒雷、それをマスターしてパワーアップしたイオに活躍してこいって俺は行って、イオもそれを理解した。
「分かりました、行ってきます」
「おう」
イオは自信のついた顔で、アグネとジュリアを連れて外に出た。
Sランクの討伐は確かに危険度が最高レベルだが、イオなら大丈夫だろう。
(我を出し抜き、我の技を体得しているのだからな)
戻ってきてからずっと黙っていたエレノアが口を開いた。
(そしてわざと言えばもう一つあったな。ひかり)
(うん、やって見るね)
ひかりは元気よく言った後、刀身がわずかに光った。
直後、ドレイクの一匹が召喚された。
「なるほど、イオと同じこっちも一緒に連れてきたか」
(そういうことだな。ひかり、人の姿には変えられるか?)
(いけるよー)
召喚されたドレイクはすぐに人の姿、兵士の姿に変えさせられた。
過去でエレノアがひかりに教え込んでいて、戦場でも使った技だ。
イオ同様、過去で覚えた技は戻ってきてからも使えた。ひかりもしっかりパワーアップしていた。
それがちょっと嬉しかった、のだが――。
(よくやったひかり。これならいけるだろう)
(何がいけるの?)
(うむ、それはな……)
エレノアは声を押し殺した。
俺の頭の中に響く魔剣の声。聴覚ではないからか、珍しく何を言ってるのか聞き取れなかった。
(うん、分かった! おとーさんちょっと待っててね)
ひかりはそう言って、魔剣から人の姿に戻って、部屋から飛び出していった。
「おいひかり――行っちゃった……。なんなんだ?」
(今に分かる、このためにひかりにその技を教えたのだ)
エレノアはそうとだけ言って、口を閉ざしてしまった。
どことなく楽しげなのが分かるが、このために?
気にはなったが、エレノアが黙ってる以上どうせ聞いても教えてくれないだろう。
ひかりが「少し待て」と言ったんだ、なら少し待とう。
俺はベッドに腰掛けた。
本のちょっとだけつかれたかもしれない。
くじ引きで引いた過去への旅行が意外とつかれた。
今日は早めに休むか、なんて思ってるとひかりが戻ってきた。
「ただいまおとーさん」
「みゅー」
ひかりはチビドラゴンを抱っこしていた。
久しぶりに見る、ひかりとチビドラゴンのコンビ。
見てて和む二人のコンビは、つかれた体によく効いた。
「お帰り。どうしたんだ、その子を連れてきて」
「すぐに分かるよ。おーちゃん、準備はいい?」
「みゅー、みゅー」
チビドラゴンはみゅーみゅーなきながらひかりを見あげた。
何をはじめるんだろうか、そう思って黙ってみた。
ひかりはチビドラゴンを床に置いた。そのまま膝立ちになって、チビドラゴンと視線を高さを合わせる。
みつめあうひかりとチビドラゴン、直後、ひかりは体から淡い光を放つ。
光は明滅を繰り返して、チビドラゴンを包んだ。
なんだこれは、見た事ある光景だぞ?
それがなんなのかって記憶を探っていると、チビドラゴンの姿がいなくなった。
「ひかり?」
「もうちょっと待ってて?」
ひかりはそういって、目を閉じて「むむむむ」と唸った。
するとチビドラゴンが召喚された。まるでドレイクのようにだ。
(ここからが本番だぞ)
「うん! ひかり頑張る」
「本番? どういう事だ」
(このためにひかりにあの技を教えたのだ)
エレノアはそう言って、まだ黙り込んだ。
ひかりの小さな体から更に光を放つ、その光はチビドラゴンを包む。
光が一際輝いた後、そこにいたのは。
「あれ? これって……あれれ?」
「オリビア!?」
「人の子!? ってなんで? あたしが成長するまでまだまだかかるのに、なんで?」
「……そういうことか」
俺はエレノアをみた。
ひかりにドレイク兵の召喚と外見を変える魔剣の技を教えたのはこのためだったのか。
ひかりの大の友達、チビドラゴン。
俺に逢いたくて生にしがみつき、レッドドラゴンになってまで転生した竜王オリビア。
彼女を魔剣の眷属にして、すぐに元の姿に戻せるようにしたんだ。
「……あっ、そういうことか」
「さすがに気づいたか」
「ひかりがこの技を覚えてるときに気づくべきだった」
「ごめんね、おかーさんが内緒にしとけって」
(くくく、いいサプライズになったろ?)
なったよ、まさかこんな形になるとは思ってなかったよ。
俺はオリビアを観た、オリビアも俺を見つめ返した。
竜王の目は涙が貯まり、今にもこぼれ落ちそうだった。
「逢いたかった!」
オリビアはそう言って、俺の胸に飛び込んできた――が。
プシュウ、って空気抜けの音が聞こえて、途中でオリビアはチビドラゴンに戻ってしまった。
俺の胸に飛び込んできたときはもう完全にチビドラゴンに戻っていた、犬に飛びつかれた様な気分だ。
「どういうことだ?」
「あれれ? もうちょっとおーちゃんを戻せるって思ったのに」
「ドレイク兵の時はかなり長持ちしたよな」
(さすがに竜王ともなるとこの数十秒が限界だな。もっと精進が必要だなひかり)
「そういうことか」
(ちなみに我ながら貴様が一回戦するくらいは余裕で持たせられるぞ)
「相変わらず魔剣の事になるとひかりとも張り合うんだなお前」
それがちょっとおかしかった。
チビドラゴン……オリビアは俺の腕の中でみゅーみゅーないた、悲しそうな顔だった。
俺は彼女の頭を撫でながら。
「焦るな、俺はここにいる」
と、言ってやった。
☆
ひかりがチビドラゴンをだいて、外に出て行った。
契約をして、形の上では魔剣ひかりの眷属になったが、二人の関係はまったく変わらなかった。
ひかりとチビドラゴン、いい友達関係を保っていた。
残った俺は部屋の中にいた。
さすがにちょっとつかれた。
この時代じゃ一日も経ってないが、俺は過去にいって長い旅をしてきた。
その分の疲れが一気に出た。
(今日はもう休め)
「そうする」
そのままベッドの上に倒れ込んでねよう――と思っていたら。
コンコン、とドアが控えめにノックされた。
「入れ」
応じると、ミウが入って来た。
俺の奴隷メイドは金色の皿に、何かを盛って持ってきた。
「どうしたミウ」
「これ、私がデルフィナ様から頂いた疲労にすごく効くお香です」
「そんなものもらってたのか。というかデルフィナのプレゼントって高そうだな」
「はい。この一つまみだけで屋敷一軒分はするみたいです」
「高えよ! どんなお香なんだよ」
「ご主人様のためにいつでも元気でいなさい、って言われて頂きました」
「あいついいところあるな……とは違うだろうな」
(うむ、デルフィナ嬢のことだ、何かの先行投資だろう)
「ミウを狙ってるんだろうな、わたさんがな」
おれがエレノアとそんな事を言ってると、ミウは皿を持ってベッドの横に来て、そこで火をつけた。
たかれたお香はたちまち煙を放ち、心地よい香りを届けてきた。
「ミウ?」
「その、ご主人様普段よりお疲れみたいだったから」
「――っ!」
驚いた。
そうか、さっきミウが部屋を出て行ったときに俺を二度見したのはそれだったのか。
(出来たメイドだな。誰も気づかなかった貴様のそれに気づくとは)
「当然だろ、ミウは最高のメイドだ」
「ふぇえ?」
エレノアの声が聞こえないミウは素っ頓狂な声を上げてびっくりした。
そのミウが愛おしかった。
俺はベッドに腰掛けたまま、彼女に手招きする。
「来いミウ」
「でもご主人様、お疲れなのに」
「だからだ、寝ながらもふもふするぞ」
「――っ、はい!」
ミウは尻尾をゆらして、大喜びでやってきた。
俺は彼女を抱き留めて、ベッドの上に倒れた。
お香はみるみる内に部屋を満たした、体から力が抜けていくのを感じながら。
俺は、ミウにもふもふを続けたのだった。
面白かったらブクマ、評価もらえると嬉しいです。
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