焼肉屋さんではお互いにビールを1杯だけ飲み、お肉とご飯を頼んだ。
網が温まったので私がお肉を焼くと、こういうの慣れてないんです、と彼は言った。
私はまた彼の名前を教えてと言った。
「検索したら名前出てきますか?」
「出るから昔出ないように設定しました」
彼のLINEでの名前がヒロ(仮名)さんなので
「ねね、ヒロユキ(仮名)かヒロシ(仮名)でしょう」
「なんで分かったんですか」
どうやら当たったらしく、また、妹さんがユキ(仮名)という名前だ、といって喜んだ。
そしてまた付き合ってと彼が言ったので、私は肉を焼いていたトングを持ち、彼に向けて「まずは名を名乗れ」と言った。
(言い訳になるが海で泳いだ疲れが残っていたのかビール一杯で酔ってしまっていた。)
「名前なんて必要ないですよ。出会い方が大事なんです」
私はどうしても納得がいかず、もやもやしてしまった。
映画じゃあるまいし、と心の中でつぶやいた。
焼肉をご馳走してもらい、その後私は宿へ帰る気満々だったが、彼がちゃんと宿まで送ります、何もしませんから、というのでもう1軒だけ行くことにした。
私は「鉄のパンツを履く女」の自負があるので、ワンナイトラブを避けるために、さらに警戒心を強めて、宿に門限があり23時以降はシャワーのお湯が止められることを伝え、入ったバーでは酔わない為に暖かいお茶を頼んだ。
彼はマティーニを頼んでいた。ジェームスボンドみたいですね、というと彼は良く言われます、と喜んでいた。
彼は付き合ってくださいと、また言った。