3 Lines Summary
- ・「最高」「最安」より「最愛」を
- ・「株主総会」ならぬ「お客様総会」
- ・店員はストーリーテラーたるべし
「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念を掲げてアパレルや雑貨の製造販売を手掛けているマザーハウス。ユニークな戦略で売り上げを伸ばしている。
その戦略のキーマンであり創業者のひとりで副社長の山崎大祐さんに「これからの小売」について語っていただく。(聞き手:NewsPicks佐々木編集長)
小売を変えた3つのポイントとは?
佐々木:
今日は 「アマゾン逆張り小売論」をテーマに、アマゾンが席巻する中でどうやってうまく差別化して伸びてるのかを聞きたいと思います。
具体論に入る前に、小売の世界が今どう変わっているのか見ていく上でのポイントを教えてください。
山崎:大きく分けると3つのポイントがあると思っています。
1つ目は「経済構造の変化」。分かりやすくいうと少子高齢化。日本の労働人口が減っています。その中で、物を買う必要がある人達というのは減っていく。ものが売れなくなっていくのは、ある意味で当然のこと。
2つ目が「価値観の変化」。特に、今の若い世代がモノを買わない。モノよりもコミュニケーションの時代なんですよね。
僕たちの世代(37歳くらい)がちょうど境目だと思うんです。小さい頃は、携帯電話もなくて、自分用のPCを持ったのも大学生からくらいですよね。僕らよりも若い世代は、コミュニケーションが先なんです。モノを持つのはコミュニケーションのため。コミュニケーションが重要になってくると、必要ではないものは買わないんです。
3つ目は「メインプレイヤーの交代」。モノが売れないという話で出てくるのは、だいたい百貨店の数字。
一方で、アマゾンを中心としたECなどは、売っているメインプレイヤーが変わっているので、そういった数字は表に出てこない。アマゾンも細かい正確な数字は出していない。そういったところも含めて、モノが売れていないように見えてしまう。モノが売れないという話になるのは当然かなと思います。
目指すは「最愛」
佐々木:
おもしろいですね。大きく変わっている中で、小売として差別化をはかるポイントは?
山崎:1つのキーワードは「最高か最安か最愛」。
「最高」のものというのは、品質面などで一番のもの。これは、ちゃんと残っていく。「最安」のものも、必要品として残っていく。
もうひとつは「最愛」。何かの価値観によって最も愛されるものを作る、ということはすごく大事だと思います。私たちが目指すのも「最愛」のブランドです。
佐々木:
日本は「最高」「最安」ばかりで、「最愛」のお店ってあまりないですよね。
山崎:
そこはポイントだと思っています。日本はもとものブランディングという視点が強くないですよね。
いわゆる失われた20年の間に、オペレーション改善をして、いかに安く売るかに重点を置いてきたからです。そうした結果、違う価値観で価値をつける、つまり「最愛」ですよね、愛されるブランドを作るとか、価格競争に巻き込まれないモノを作っていこうという会社が少ないように思います。
援助や寄付でなくチャンスを
佐々木:
2006年設立のマザーハウスがどういった取り組みを実践しているのか伺います。
山崎:
代表の山口(絵理子)が(当時25歳)、「途上国に援助をして力になりたい」とアジア最貧国のバングラデシュに単身行ったのですが、援助や寄付で助けるというのには違和感があって、むしろ彼らには、チャンスを与えればいいものを作る力があるのではないかと考えたそうなんです。
「現地にあるジュート(麻素材)を使って誇りあるプロダクトを作ろう」と始まったのが、マザーハウスです。バングラデシュでバッグを作り始めて、今では180名のスタッフが自社工場で働いています。
佐々木:
この10年でバングラデシュは変わった?
山崎:
私が初めて行ったのは2004年。空港を降りるとストリートチルドレンがたくさんいましたが、今では見つけるのが難しいくらいに減った。車も増えて不動産投資ブームとか、開発が進んでいる。
佐々木:
どんな商品を製造販売しているんですか?
山崎:
ジュート(麻素材)が最初にできた商品ですが、いまはレザーバッグが人気です。すべて現地でオリジナルで開発しています。
お客様の男女比も男性が3割ほどで結構多いんですよ。2014年からインドネシア、スリランカでジュエリーも展開しています。
日本だけでなく伝統工芸に携わる職人が減っていて、現地の工芸品を日本のお客様に合うようにアレンジして作っています。
ジュエリーに使う金の生成や石の採掘から自分たちで行っているんですよ。
スタッフは「ストーリーテラー」
佐々木:
まさしくいまおっしゃったように、自分たちで作っているということをお客さんにも伝えていくんですか?
山崎:
私たちのお店のスタッフは、プロダクトにストーリーを乗せて伝えていく「ストーリーテラー」と呼んでいます。
ストーリーは必ずしも生産者だけのものではなくて、デザイナーやお客様とのやり取りの中で生まれるかもしれない。
多くの人とコミュニケーションをしてモノづくりをしているので、そこにストーリーが生まれるんです。
「株主総会」ならぬ「お客様総会」
佐々木:
ストーリーを伝える手段として、他にはどんな方法がありますか?
山崎:
HISと組んでツアーも行っている。ネパールの蚕を作っている村まで行くとか。
また、商品を購入していただいたお客様が集まる「お客様総会」を1年に1度開催しています。
ここでは、経営者がお客様から質問の集中砲火を受けるんです。2〜9万円のバッグを購入してくれたということは、会社を信頼し応援してくれているからだと思っているので、一緒に経営方針を話す場をもっているんです。
佐々木:
接客において、マザーハウスがお客さんと心が通うように心がけているポイントは?
山崎:
「主観」を大切にしています。どんな人もストーリーを持っていて、お客様と接したときに自分の思いや言葉を話せるかどうかをみんなに委ねています。だから紋切り型にならない。マニュアルが全くないので。
佐々木:
社員教育はどんなことをしている?
山崎:
全社員が生産地で一緒にものづくりを体験したりする「ファクトリービジット」を行ったり、朝の勉強会(8時〜9時過ぎまで)でディスカッションを行ったりしています。
コミュニティーとしての会社
佐々木:
山崎さんはお客様とのコミュニティーだけでなく、「コミュニティーとしての会社」も発信されていますよね。そう主張されるのはなぜですか?
山崎:
同じ思いを持って働く仲間のことが大好きなんです。人生のいろいろな場面〜ポジティブ・ネガティブどちらも〜において、思いを共有している仲間で助け合うことができるセーフティーネットとして会社が機能するべきだと思っています。
また、会社は助け合いのコミュニティーなだけでなく、一番大きなボーダーレスな存在です。国は民主主義的なプロセスなので、多数派の価値観が優先されます。
価値観が多様化している中で、国がさまざまな価値観を拾い上げられるかというと難しい。同じ価値観を持っている集合体が企業だとすると、コミュニティーとしての役割を担う時代にしていかなければならないと思っています。
小売を現場から変えていく
佐々木:
だからベーシックインカム制度を採用している?
山崎:
マザーハウスでは、高卒でも最低年収300万円を掲げています。設立当初、あるスタッフから「この給料では生活が苦しい」と言われて、実践してみたらその通りだったんです。毎日、立ち食いのかけそばで、ペットボトルの飲み物なんて買えなくて…マザーハウスのスタッフには人間的に成長してほしいので、きちんとした生活ができる水準を調べて年収300万円と設定しました。
小売業界の現場が疲弊していて、給料も安いんですが、僕らは変えていきたい。小売業界というのは、実は一番インパクトのある業界なんですよ。
モノを渡すだけでコミュニケーションが発生するじゃないですか。そこには社会を変えるメッセージがあるんですよ。だから、僕は現場から変えていきたいんです。
疲弊する小売業界の現状やマザーハウスが挑む次の世界についてはこちらから
https://www.houdoukyoku.jp/archives/0029/chapters/28977
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