中国が尖閣諸島の領有権を絶対にあきらめないのはなぜか
現在も、尖閣諸島の周辺の海域では中国の公船が領海への侵犯を繰り返し、さらに無人偵察機が尖閣諸島の領空を侵犯するなど、まさに一触即発、危機的状況に陥っています。
これに対して、日本政府は「尖閣諸島が日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らかであり、 現に我が国はこれを有効に支配しています」とし、「尖閣諸島をめぐって解決し なければならない領有権の問題はそもそも存在しません」と毅然とした対応をしてきました。
それにもかかわらず、中国側が尖閣諸島の領有権をめぐって強硬な姿勢をとってきた理由は一体何なのでしょう?
そもそも、中国の東シナ海における海洋戦略とはどのようなものなのでしょうか。
紛争の発端 ~尖閣諸島の海底には推定1000億バーレルの石油資源が存在?!~
尖閣諸島に対して、中華人民共和国(中国)は1971年12月に一方的に領有権を主張し今日に至っています。
1969年の国連の協力で東シナ海一帯の海底調査がなされた際、「東シナ海の大陸棚には、イラクの埋蔵量に匹敵する豊富な石油資源が埋蔵されている可能性がある」と報告されたことがそのきっかけです。
その海底に眠る豊富な石油資源を手中に入れたいという思惑から、中国は尖閣諸島に対して自分たちの領有権を主張し始めました。
しかし、尖閣諸島付近の海域に1000億バーレルの石油があるという報告自体が誤ったものであることが最近の調べでは分かっています。
石油の推定埋蔵量の値自体が調査技術の水準に直接的に影響されるものであるため、1000億バーレルという数字は技術の未熟な時代の推定にすぎないのです。
現在では、他の技術と同様に調査技術が進歩し推定埋蔵量の数字も変わっており、最近の政府の公式見解は32億バーレルだということです。
このことは、中国側もわかってはいるはずですが、それでも領有権の主張を弱めることはありません。
そこにある中国の真の狙いは一体何なのでしょう?
東シナ海の豊富な海洋資源を独占するための足掛かり
実はもっと広く東シナ海全体という範囲で見てみると、東シナ海の海底には、今後少なくとも100年は使用できる天然ガスが埋蔵されていることがわかっています。
最近のニュースでも話題になっていますが、中国はその天然ガス資源を独占するため、東シナ海の日中中間線の自国側海域で海洋開発のプラットホームを急速に増設させ、独善的なプラント開発を行っています。
そして、さらにいえば、この海域には数百年分のレアアースやメタンハイドレートが埋蔵されているとの調査結果もあり、もちろん豊富な漁業資源もあり豊かな漁場でもあるのです。
中国側は、これらをできる限り自国だけで独占したいと考えているわけです。
そのためにも、今の日中中間線の国境をもっと日本側に押し広げたいという思惑があるのです。
これら、東シナ海の資源を獲得できるかどうかの戦略的な重要なカギが尖閣諸島の存在なのです。
中国と日本の大陸棚の間には沖縄トラフが横たわり、尖閣諸島はその西側に存在します。
中国側としては、もし、魚釣島の帰属が日本にあるとみとめてしまうと中国と日本は大陸棚を共有することとなり、国際海洋法条約の規定により大陸棚の中間線で区分けされてしまいます。
そうなれば、中国は自らの管轄区域と海底資源を大幅に失うこととなります。
日本がこれら資源を手にすることによって資源大国になってしまい、中国にとって非常に脅威的な存在となってしまうという恐れを抱いているのです。
東シナ海・南シナ海の海洋支配と太平洋への進出を目指す中国にとって、尖閣諸島は戦略的な要所
尖閣諸島は台湾や先島諸島から約 200キロも離れ、中国本土からは 400キロ以上も離れた小さな無人島なのですが、実は軍事上の戦略においては非常に大きな価値をもっています。
中国軍は何年も前から「日本列島~南西諸島~台湾~フィリピン」を結ぶ線を「第一列島線」として定めており、「東シナ海~台湾周辺~南シナ海」の海洋支配を確実にし、他国の侵入を阻止する体制を作ろうとしています。
東シナ海は中国にとって、いわゆる「核心的利益」であり自らの制海権を確実なものとして他国の活動を全て排除したいと思っています。
中国海軍の艦艇は戦時には、台湾海峡を通れないので南西諸島のいくつかの海峡を通らないと太平洋には出られません。
ですが、現在、沖縄から台湾に向けて連なる南西諸島は日本領です。
太平洋に出なければ、台湾を武力制圧する包囲作戦にも支障をきたしますし、太平洋に出てアジアにおける支配的地位を誇るアメリカ軍に対抗することもできません。
そこで、「第一列島線」を巡る中国の軍事作戦上の重要な海域は「沖縄諸島」、「先島諸島」ならびに「尖閣諸島」 の三つの地域です。
- 沖縄諸島は現在でも南西諸島防衛の中心として日米の主要な基地があり、ここは日米がしっかりと確保しているので、中国軍は手を出せません。
- 先島諸島には現在は軍事基地がないのですが、日本の実効支配化ですので、もし紛争ともなればすぐにでも警備体制を強化することができます。
そうなると、残るのは尖閣諸島というわけです。
沖縄諸島・先島諸島・尖閣諸島のすべてを日米両軍がしっかり押さえてしまえば、中国が目論む東シナ海の全域の支配と太平洋への進出はほぼ不可能になります。
したがって、中国としてはまず「尖閣諸島の確保」が絶対の条件となり、それを土台に支配と進出の態勢を固めてくるでしょう。
尖閣諸島はほとんどが小さな無人島であり、占拠することも比較的に容易で、海峡を牽制しその支配下に入れる作戦においては非常に大きな価値があるのです。
そして、尖閣諸島を手に入れた後はジワジワと南西諸島全域に圧力を加え、その周辺海域を支配下におき、やがては沖縄諸島を支配する行動に出るでしょう。
尖閣諸島への中国の領土的野心に直面した日本、解決すべき問題は多い
これまで見てきた通り、日本の国益という意味でも、尖閣諸島の価値は非常に大きいのです。
したがって、尖閣諸島の領有権に関しては冷静かつ毅然とした態度で臨み、中国に対して決してスキを見せないことが肝心です。
まずは、わが国が尖閣の領有権に対し確固たる姿勢を表明しておくと同時に、中国にこれ以上挑発的な行動をさせないような抑止力を保持しておかなければなりません。
ただ、日本の現在の自衛隊の軍事力だけで、20年もの間軍備拡張をしてきた中国の強大な軍事力に対抗できるかどうかという問題があります。
さらにいえば、自衛隊であっても平時での国境警備や監視のための実力行使は法律によって認められていません。そのため、国境海域の巡回には海上保安庁が出動しています。
国防のための自衛隊が、様々な足かせによって、外交上の切り札としての軍事力という役割を果たしたくても果たせないというのが現状なのです。
尖閣諸島の防衛のため日米の同盟強化と早急な共同計画を
今こそ、尖閣諸島、それだけでなく国境海域警備に係わる自衛隊が行動できる法基盤を整備するとともに、日米同盟の強化に全力を傾けなければなりません。
一方、アメリカも「尖閣諸島には安保条約5条が適用される」という姿勢を打ち出しており、集団的自衛権を行使して共同で日本を防衛する意思を示しています。
だからこそ、すぐにでも日米間で協議を開始し尖閣諸島周辺における対応について共同計画を定め、国境の島々を防衛するために必要な行動を実施することが求められています。
そのためには、わが国も自国の領土・領海を必ず守るという確固たる意志と強い覚悟が必要です。
自国を守ろうとしない国との同盟などはあり得ません。なので、同盟国とはいえ他力本願ではアメリカは決して日本を本気で守ろうとはしないはずです。
まずは、日本があらゆる手段を講じて対応すべきです。
国際法に則り冷静に毅然と対応し法治国家・民主主義国家としてのあり方を示し、国際社会に中国の行動が不当であるということを強くアピールできるような行動をすることが重要なのです。
東アジアの平和のためにも、今こそ、じっくりと腰を据えて領土・国防について考えるとき!
20年にわたる大規模な軍拡で領土拡大への自信をつけた中国が、今、その国益をむき出しにして行動し始めています。
これまでは、台湾とチベットに対してしか使ってこなかった「核心的利益」という言葉を尖閣諸島に適用し始めたことにも、それが顕れています。
中国が「尖閣諸島は本来、台湾の付属島嶼であり、したがって中国の領土である」と主張することは、中国にとっては尖閣諸島問題は台湾問題でもあるということです。
もし、尖閣諸島の実効支配が中国の手に落ちると、次に狙われるのは台湾であり沖縄です。
今後の東アジア地域に著しい混乱を招き日本が中国の軍門に下ってしまうのか、あるいは今後も平和を維持することができるのか、今こそ、領土や国防というものをよく考えるべき時なのかもしれません。
※ 希望日本研究所 第8研究室