少子化なのに教室が足りない なぜ?

少子化なのに教室が足りない なぜ?
大阪市では今、中心部にある小学校で子どもの数が急増し、教室が不足する事態に直面しています。そこで市はことし5月からプロジェクトチームを立ち上げ、緊急対策に乗り出しています。少子化が問題となる中で、なぜ教室不足が深刻化しているのか、現場を取材しました。
(大阪放送局 泉谷圭保記者)
大阪市西区の市立堀江小学校は、大阪ミナミの繁華街、心斎橋にほど近い場所にある「都心の中の小学校」です。5年前700人だった全校児童は今は1000人余りでおよそ300人増えました。5年後にはさらに600人増えると予想されています。

ぎゅうぎゅう詰めの学校

大阪市西区の市立堀江小学校は、大阪ミナミの繁華街、心斎橋にほど近い場所にある「都心の中の小学校」です。5年前700人だった全校児童は今は1000人余りでおよそ300人増えました。5年後にはさらに600人増えると予想されています。
この学校では児童が参加する活動に影響が出ています。例えば、校庭で行うラジオ体操では、児童の列が長くなりすぎて入りきらない児童もいます。
保護者も集まる運動会はもっと大変です。ことし5月に開かれた運動会は、校庭が手狭になったため、プロ野球で使われるドーム球場を借りて開催されました。

さらに、給食後の休憩時間に、全校児童が一斉に校庭で遊ぶと危険な状況になりました。「フラフープをしていたら飛んできたボールが顔面に当たった」という児童もいました。

そこで今年度からはやむを得ず、上級生と下級生で時間を分けて校庭を使うようにしました。取材した児童の1人は「校庭が広くなってみんなで遊べるようになってほしい」と話していて、みんな窮屈だと感じていることが伝わってきました。

教室足りず増築などでしのぐ

児童が急増し、教室が足りない事態にも直面しています。堀江小学校は、これまで図工室や多目的教室を教室に転用し、しのいできました。それでも児童の急増に追いつかなくなった結果、校庭に新たな校舎を建てることになり、現在、工事が行われています。

教室が足りない事態はこの小学校だけではありません。大阪市によりますと、去年までの5年間で、市中心部にある3つの区にある7校で校舎の増築などを行い、63の教室を新たに設けたということです。
ところが、3つの区では5年後に26の小学校で143の教室が足りなくなると試算されているのです。

廃校の跡地がタワーマンションに

少子化の時代になぜこのような事態が起きているのか。調べてみると、都心部ならではの事情があることが見えてきました。大阪市の小学校の児童数は昨年度11万3000人で、35年前のほぼ半分に減っています。このため市は人口が減った都心部を中心に13の小学校を廃校にし、土地の売却を進めてきました。
ところが最近、利便性の高い都心部が住宅地として人気となり、タワーマンションが相次いで建設されています。しかも、大阪市が売却した小学校の跡地のうち、いくつかの場所でタワーマンションが建ちました。その結果、一気に人口が増え、移り住んできた大勢の児童が、残った小学校に集中したのです。

大阪市の担当者は「売却した当時の担当者は、最も妥当だと判断して土地を売ってきたと思うが、跡地にどんどん高層の建物が建つとは想定していなかった。小学校では、増えた児童を受け入れる教室を急いで確保せねばならず、切迫感を感じている」と話していました。

緊急対策に乗り出す大阪市

そこで大阪市はことし5月にプロジェクトチームを立ち上げ緊急対策に乗り出しました。その1つが、先進事例を学び、取り入れることです。
7月、大阪市の吉村市長は、埼玉県と東京の小学校を視察しました。このうち、埼玉県川口市の中心部にある小学校では、児童の増加に対応するため7階建ての新校舎を建てました。同じ敷地でも延べ床面積は従来の1.5倍になったと言います。高層階の教室では安全のため、手の届く高さにある窓が開かないようになっています。

校舎には、子どもたちが圧迫感を感じにくいよう、大きな吹き抜けが設けられたほか、通常より広い廊下は、集団活動をする際の広場としても利用できるなどの工夫がされています。
また、秋葉原の近くにある東京・千代田区の小学校は狭い土地を最大限活用しようと、プールは地下に、屋上は開閉式の屋根をつけて校庭として利用しています。
同じ建物には児童館や保育園も併設され、必要に応じて、さまざまな目的に活用できる設計です。視察を終えた吉村市長は、大阪市でも都心部の小学校で高層化を取り入れていきたいという考えを示しました。

児童数の予想を改める

さらにプロジェクトチームでは、児童の数を予想する方法を改めることにしました。これまで大阪市は主に、校区内で生まれた子どもの数をもとに児童の数を予測していました。今後はマンションの建設など、不動産の状況なども考慮することにしました。これにより20年先まで見据えた予測を立てることができるとしています。

また、急増した児童数は将来的に急激に減ることも考えられます。吉村市長は、新たな学校を建設する際は、長期的な予測で人数が減った場合を想定して、建物を別の公共的な目的に利用できるような設計が重要だとしています。こうした施設の建設も含めて、今年度中に方針を取りまとめることにしています。

型にとらわれない対策を

児童が急増し、教室の確保が難しい事態は、大阪だけでなく東京やその周辺の都心部でも起きています。自治体によってはマンションを建設する計画を受けた段階で、業者に土地を無償で提供してもらい、そこに学校の校舎を建てるという対策を始めるところも出ています。子どもたちの学習環境を確保するためにも、これまでの型にとらわれない新たな対策が求められています。