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レベル1だけどユニークスキルで最強です 作者:三木なずな

第二章

128/128

128.砂金吐きの女の子

 屋敷までの途中、アウルムにぎゅって強くしがみつかれた。
 小柄な女の子だが、アウルムの体はどこもかしこも柔らかくて、おんぶしてるだけなのに俺は妙にドキドキした。

 帰り道のアウルムが静かだったのが幸いだった。話しかけられてたらドキドキしてるのがばれてたかも知れないからな。

 なんとかばれないまま屋敷に戻ってきて、敷地に入って玄関までやってきた。

「着いたぞ」
「うん……」

 アウルムは渋々って感じで俺の背中から降りた。
 このまま転移の部屋まで負ぶってった方が良かったのかな。

 そんな事を思っていると。

「リョータさん、お帰りなさい」

 屋敷の奥からエルザが出てきた。

「やあエルザ、来てたんだ」
「はい! マスターロックを運び入れてました。今日からこっちの方を出張所にしますね」
「これからもよろしく頼む」
「はい! それと……あの……」
「うん?」
「私、近いうちに引っ越しします」
「引っ越し? どっか他の街に行くのか」
「あああ! ち、違いますよ!?」

 エルザは慌てて両手を振った。

「そうじゃなくて、今住んでるところがこの屋敷からちょっと遠くて。リョータさんの所に派遣されるのが長引きそうだから思い切ってこの近くに引っ越そうかなって」

 一気にまくし立てるかのように説明をするエルザ。
 なるほど、そういうことか。

 エルザは今、俺のところに出向している様な状況だ。
 元は燕の恩返しっていう買い取り屋の店員だったんだが、俺と俺の仲間たちの稼ぎが大きくなってきたから、エルザがうちに派遣されてくる事になってた。
 異動で勤務地が遠くなったから引っ越したい、って事なんだ。

「それに……リョータさんの近くに……」
「ん?」
「な、なんでもない!」

 また慌てて手を振ったエルザ。
 何を言ったのか良く聞こえなかったけど……俺は考えた。

 そういう理由での引っ越しなら、いっそのこと。

「エルザ、よかったらこの屋敷に住まないか?」
「え?」
「見ての通り部屋がまだ余ってる。しばらく埋まりそうもない。だからエルザさえよければ――」
「本当にいいんですか!」

 エルザは食い気味で顔をほころばせた。

「もちろんだ。他の人ならともかく、エルザは特別だ」
「えっ、と、特別?」
「知らない中じゃないし、エミリーたちとも仲が良いしな」
「特別……特別って言ってもらえた……」

 エルザは自分の手を握って、うるうるした目でおれを見あげてきた。

「どうかな」
「こちらこそお願いします!」
「うん、じゃあ……部屋はどうしよう、エミリーに聞いた方がいいかな。多分もうエミリーが完全に支配してるはずだこの屋敷は」
「エミリーさんに聞いてきます、ついでに私の荷物も運んできます!」
「ああそんなにいそがなくても――っていっちゃった」

 エルザは身を翻して、冒険者顔負けの勢いで、風の様に走り去っていった。
 喜んでもらえたから、とりあえずよかった。

「いいな……羨ましい」
「ん?」

 アウルムが何かつぶやいたのが聞こえた。

「どうしたアウルム――っておい!」

 振り向いた瞬間俺は驚いた。
 こっちをじっと見つめているアウルムは、どういうわけか口から砂金を吐いていた。
 ぼろぼろぼろ、と口から輝く砂金がこぼれ出る。

「それどうしたんだアウルム」
「え? なにが?」
「何がじゃなくて、口から(きん)が出てるぞ」

 何を言ってんだ俺はって台詞だが、その通りの光景だからしょうがない。

「えっ――あっ本当だ」
「本当だって、気づいてなかったのか」

 アウルムは手の甲で口角をゴシゴシと拭った。
 砂金は一応止まったようだが、本当どうしたんだ?

「大丈夫か? もしかして体の調子が悪いのか?」

 ダンジョンの精霊だ、あまり長く外に連れ出すのはよくないのかも知れない。
 今日はひとまず連れて帰るか、と思っていたら。

「ねえリョータ、さっきの人、だれ?」
「さっきの人? エルザのことか」
「そう呼んでた」
「うーん、だれって言われても、仕事相手で、それで――」

 ふと、エルザにキスをされた時の事を思い出した。
 不意打ちの様な、一回きりのキス。
 それを思い出してしまって、耳の付け根まで一気に顔が熱くなった。

「……それで?」
「い、色々お世話になってる相手だ」
「ふーん。そっか……」

 アウルムは頬に手を当てて、何かを考え出した。
 体調はいいのか? ダンジョンに戻らなくていいのか?
 なんて考えていると。

「リョータさん」
「セレスト」

 今度はセレストが現われた。
 屋敷の外から戻ってきて、手に本やら紙やらを持っている。

「お帰り。どうしたんだそれは」
「図書館に行ってたのよ。ここシクロの全ダンジョンの特徴と情報をまとめてきたわ」
「全部?」
「ええ。イヴのおかげで全部の階層にいける様になったじゃない。その攻略法をね」
「それで持ち帰って勉強か。ありがとうないつも」
「ううん、これは違うよ。情報は全部覚えた。これはその情報をまとめるための参考書」
「まとめるための?」
「うん! リョータファミリーは個別行動をする事も多いじゃない。だから小冊子? それかもっと小さいものにまとめてみんなにもっててもらおうかなって」

 開いた口が塞がらなかった。そんな事を考えてくれてたのか。

「ありがとうセレスト。なんてお礼をしていいのやら」
「……お礼なんていいのよ。私が好きでしていることなんだから」
「いやしかし――んむ」

 唇に指を当てられた。セレストは俺の唇に人差し指を押しつけて、イタズラっぽく笑った。

「好きでしてることだから、いいのよ」

 そう言って更に微笑むセレスト。普段から美人な彼女は、ますます綺麗に見えて俺はどきっとした。

「この人も……?」
「そういえばリョータさん、この子は……うわ! 口からなんかでてる!」

 セレストが大声を上げて、アウルムの方をびっくりした顔で見つめた。
 俺もアウルムを見た、すると彼女がまた金を吐いているのが見えた。

「アウルム! また金を吐いてるぞ」
「え? あっ――」

 指摘されてまたゴシゴシと口角をふくアウルム。
 徐々に砂金が止まる、俺はその間セレストに説明した。

「彼女はアウルム、アウルムダンジョンの精霊だ」
「アルセニックの精霊と同じなのね」
「ああ。前に会ったときも、外に出たいって言っててな、転移が出来るようになったからアウルムから連れ出してシクロの街を見せてた」
「だから金を吐くのね……」
「それは俺も驚いてる。前はこんなことなかったんだが」

 一体どうしたんだアウルムは。

「ごめんください」

 また声がした、今度は来客らしかった。
 玄関のドアを開けると、そこにマーガレットと騎士のような部下たちがいた。
 ドアを開けてマーガレットが中に入ると、騎士たちが恭しいまま屋敷の外に残って、そっとドアを閉じた。
 中に入って来たマーガレットは俺の前に立ち、優雅に微笑みかけてきた。

「引っ越しおめでとうございますわ」
「もう聞いたのか。こっちが安定してから知らせようとしたんだが」
「今やリョータ・ファミリーの動向はシクロ中の注目の的ですもの、もう既に噂で持ちっきりですわ」
「そうなのか」

 苦笑いを禁じ得なかった。引っ越し一つで噂になるのはちょっとこそばゆかった。

「いい屋敷ですわね。温かくて優しくて。持ち主の人柄が出ていますわ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいが、温かくて優しいのは俺じゃなくてエミリーのおかげだ」
「リョータはいつもそんな風に謙遜をなさるのね」

 マーガレットはそう言い、そっと俺に体を寄せてきた。
 抱きつくまでは行かない、懐に飛び込んで体を寄せる。

 彼女の身体は小さくて柔らかくて、とてもいいにおいがした。
 頭がくらくらするくらいいいにおいだ。

「そんなところも大好きですわ」
「そ、そうか」
「ところで、こちらの砂を吐いてる方は初対面ですわよね」
「そういえばアウルムは初めてだな――って砂!?」

 三度アウルムを見る、何故か羨ましそうな顔でこっちを見てるアウルムはまた砂金を吐いていた。
 いやなんで? なにが原因で?

「本当に大丈夫かアウルム」
「うぅ……」
「顔色があまりよくないな。今日はもう帰ろう。セレスト、俺は彼女を送ってくるから、マーガレットをひとまず応接間に案内して、エミリーにも何か出してもらって」
「ええ、分かったわ」

 セレストは穏やかに微笑みながら頷き、マーガレットを連れていった。
 俺はまだぶすっとしてるアウルムを地下室に連れていった。
 一旦金塊に戻して、アウルムダンジョンにつれて戻ろう。

 そう思って連れてきたんだけど、アウルムは俺をじっと見つめていた。
 その目にぎょっとなって、俺は動けなかった。

「ど、どうしたんだアウルム」
「ねえ、さっきの女達」
「え?」
「リョータとした?」
「したって……なにを?」
「あたしああいうの知ってる。ダンジョンにくるカップルがたまにそういう空気出してた。その後キスしたり裸で抱き合ったりとかしてた」

 どきん!

 ダンジョンにずっといて知識が乏しいアウルムはバカじゃない、むしろ知らないだけだ。知っていることは逆によく覚えている。
 セレストはともかく、確かにエルザとマーガレットとはキスをしている。

「やっぱりしたんだ」
「それは……まあ……」

 ちゅっ。

「……え?」

 何かを言うよりも早く、アウルムは俺の前でつま先たちになってキスをしてきた。

「な、なんで?」
「……」

 アウルムは答えなかった。
 代わりに恥ずかしいような、それでいて怒ってる様な赤い顔で俺を睨んだ。
 照れ隠しにも見える様な表情のあと、彼女は。

「じゃあね!」

 といって、自ら金塊に戻った。

「……」

 残された俺は、しばらくの間地下室で一人ぼうっとしたのだった。

     ☆

 アウルムをダンジョンにかえしたあと、俺は転送部屋を使ってテルル地下三階にやってきた。

 マーガレットにケーキを振る舞いたいって事で、エミリーは俺にカボチャを取ってきてくれって頼んだ。
 まだアウルムの事で頭が混乱してる俺は即座に引き受けて、テルルの地下三階にやってきた。

 ここに来てもまだ混乱してる。
 アウルムのあのキスの事ばかりを考えてた。

 正直悪い気はしない、アウルムは元から可愛いし、外に出れるようになってから割るようになって、ますます可愛くなってる。
 そんなアウルムからキスをされて嬉しくないわけがない。

 今度、もうちょっとしっかり話を聞こう。

 そう思って気持ちを切り替えた俺はモンスターを狩ることにした。
 カボチャをドロップするモンスター、コクロスライム。
 スライムのボディで地面をカサカサカサと這うそれは某G的な生物を彷彿とさせる。

 そこまで嫌いじゃないがいい気分じゃないから、触れないようにリペティションで倒した。

 倒されたコクロスライムはアイテムをドロップした。
 エミリーからオーダーされたカボチャ、そしてもう一つ。

 砂金が、一緒になってドロップされた。

「……え?」

 なんで砂金が? これってアウルムダンジョンのドロップ品だろ?

 もしかしてアウルムが吐いたものが体に着いてていま落ちたのか?
 そう思って別のコクロスライムにもリペティションを放った。

 するとやはりカボチャと砂金が一緒にドロップされた。

「どういうことだ……あっ」

 アウルムのキスを思い出した。
 俺の頭の中に、精霊の祝福、という単語が浮かんできたのだった。
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