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9.ハンドレッドシアター
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「私とコンビを組んで」
「ふぇら?」
スベルこと帝倉滑(みかぐらすべる)は、
ルーカこと竜崎(りゅうざき)龍(りゅう)華(か)に、
奇妙な告白をされた。
告白と言っていいのか判らないが、
兎にも角にも豚の角煮も奇妙だった。
今は放課後だ。
ここは教室だ。
クラスメイトは忍者の様な速度で、帰宅なり部活なりに消えていった。それゆえに、現在はこの二人しか残っていない。
無人の教室ではなく、
二人の教室である。
暗殺教室ではなく、
漫才教室である。
スベルの素っ頓狂な返事などはそっちのけで、ルーカは自身の話を進めていく。しかし、無表情な少女だ。まるでてんで、感情が読み取れない。恐らく、某メンタリストでも難しいのではないだろうか。彼女は黒髪ショートに切れ長な目、出る所は出ているという派手な容姿の持ち主だ。対して、スベルは黒髪に中肉中背という地味な容姿の持ち主である。
「じゃあ、私がボケで貴男がツッコミね」
「いやいや、勝手に話を進めないでよ!」
「コンビ名は『常夏上等!』ね」
「いやいや、ダサいし組まないから!」
「じゃあ、『熟睡上等!』?」
「いやいや、『隈無い』じゃなくて『組まない』だから! 幼女と妖女くらいに違うから!」
ルーカのボケにひたすらツッコむスベルだが、
「む? 呼んだか?」
ツッコむ方向を誤ったようだ。
返事をした者は、全裸に白い翼を生やした、白髪ロングの幼女だ。否、幼女というよりは妖幼女といったところだろうか。
「呼んでないよ! 誰だ貴女は! 貴女は誰だ!」
妖幼女は無い胸を張り、自己紹介を始める。
「儂は『面食い』という名の妖怪でな。そこのルーカの表情を食らった」
「ルーだって?」
「ルーじゃなくナンじゃろ。ボケる余裕はあるようじゃな。まあ、斯様な訳で、ルーカの表情を取り戻したくば、お主に契約を結んでもらおう」
「契約?」
スベルは聞き慣れない単語に眉を顰める。しかし、斯様な彼の心情を察してか否か、面食いは先を続ける。
「契約の内容は、お笑いのネタを百個用意すること。その百個を儂の前で披露し、儂が一度でも笑えればお主らの勝ち。笑えなければ儂の勝ち。儂が勝った場合はお主ら二人の命を頂く。お主らが勝った場合はルーカの表情を返そう。差し詰め、『ハンドレッド契約』といったところか」
ハンドレッドと聞き、某失敗アニメを彷彿としたスベルだが、すぐに思考を切り替える。誰もあれの話はしていないし、斯様な話をしている場合ではない。まさか、ルーカが斯様な事情を抱え込んでいたとは。確かに、お笑い好きを公言している割には笑わない変な子だとは思っていたが。
「い、いや、でもそれって、俺じゃなくても良いんじゃ」
「ふむ。まあ、確かにお主ではなくても良いんじゃが」
良いのかよ。とスベルは心中でツッコむが、面食いの続く言葉に度肝を抜かれる。
「お主が断ったら、ルーカは転校しなければならなくなる」
言葉を失った。
失言。
笑いが止まった。
笑止。
「ふぇら? それって、どういう?」
「ふうむ。ここの学校の、お主以外の全ての者に今と同じ話を持ち掛けた。結果は全滅。皆、同情はしても同行はしない。同じ情けを受けても、同じ道を行こうとはしない。ルーカは孤独じゃ。
独楽は独りで楽しむと書くが、ルーカはその独楽じゃな。一人で回転して楽しんでおる。一人で空回りして楽しんでおる。しかし、独楽は二つないと勝負はできない。お主はルーカと勝負する覚悟はあるか? ルーカと回転する覚悟はあるか? ルーカと遊ぶ覚悟はあるか? ルーカと楽しむ覚悟はあるか?」
スベルは面食いの言葉に面食らう。転校と軽々しく言うが、それはクラスメイトとしては非常に寂しい。また、スベルはルーカのような女子と話すことができて嬉しかった。できることならば、この嬉しさをずっと味わっていたい。この楽しさを二人で共有したい。独りで楽しむのが独楽ならば、二人で楽しむのは勝負独楽だ。
スベルは勝負などしたことがない。一つ上の兄はサッカー部で勝負三昧だろうが、スベルは兄とは違う。そもそも、勝負に向いている性格をしていない。しかし、だからといってクラスメイトの危機を知り、黙っていられるほどに腰抜けではない。確かに独りでは心許ない。しかし、漫才とは二人でやるものだ。そう、お笑いならば相方がいる。
ルーカが相方ならば、斯様な勝負も受けて立てる。
ルーカが相方ならば、斯様な試練も乗り越えられる。
「やるよ、面食い。俺は竜崎さんと一緒に、お笑いのネタを百個作り出す」
「帝倉君」
ルーカはスベルの誠意に心から感謝する。しかし、表情は変わらない。差し詰め、「一面相」といったところだろうか。
しかし、これからだ。
しかし、ここからだ。
スベルはルーカの表情を取り戻す。
ルーカはスベルとネタを作る。
恐らく、お笑いのネタを百個作るということは、想像以上に難しいことだろう。しかし、二人ならば不可能ではない。斯様な根拠のない自信が湧出するほどに、その時のスベルは舞い上がっていた。自身が大いなる決断を下してしまったことに気付く頃には、もう取り返しの付かないことになっていると知らずに。
「宜しい。では、スベル、ルーカ。お主らとハンドレッド契約を結ぼう」
これから始まるものは、
百の物語を作るための、
一つの物語だ。
百聞は一見に如かず。
一面相による百物語の開幕だ。
お後が宜しいようで。
「宜しい。では、スベル、ルーカ。お主らとハンドレッド契約を結ぼう」
面食いはそう言うが、スベルは半信半疑だ。
半分信じ、
半分疑っている。
確かにルーカは無表情だ。しかし、無表情だからといって、表情を食われたためだとは思わない。さらに、面食いとは言うが、普通の幼女にしか見えない。妖怪というのならば、妖術の一つでも使ってほしいものだ。
スベルはその旨を二人に伝える。そうすると、面食いは動く。彼女は先程まで机に尻を乗っけており、机が汚れていないか心配だった。しかし、彼女が机から降りても、机は綺麗なままだ。
「机の臭いを嗅いでみい」
スベルは嗅いでみるが、無臭だ。何の臭いも無い。
「これが妖術じゃよ」
「これがメンタリズムです」みたいに言い切られてしまった。
何処のメンタリストだろうか。
「解ったか? これが面食いが妖怪たるゆえん!」
「いや、ちょっと弱くないか? お尻を綺麗に拭いていただけかもしれないじゃないか!」
「儂は尻を拭かんタイプじゃ!」
「それはそれで問題だろ! タイプとかじゃないから!」
「君は尻を拭くタイプのフレンズなのかい?」
「尻を拭かない奴はフレンズですらないよ! フカンズだよ! お後が宜しいようで!」
スベルは面食いとの漫才に一区切りをつける。
「ほう、なかなかのツッコミじゃな。面白かったぞ。またやろう」
「くそ、ツッコミキャラが定着してきた! ボケにも興味があったのに! 面食いや竜崎さんがボケ倒してくるばっかりに!」
スベルは肩を落とす。しかし、そこでまだ問題は解消されていないことを想起する。
「いや、でも、今のだけじゃ面食いが妖怪なんて解らないよ! もっと何か無いのか?」
「ふうむ、そうさなあ。では、お主の表情を食らってみるか?」
「嫌だよ!」
「ルーカと一緒になれるぞ?」
「い、嫌だよ!」
「今少し考えたじゃろ。全く、ルーカ大好きじゃなお主。目の前に斯様なに可愛い幼女がいるというのに」
「だ、大好きじゃないよ!」
スベルは張本人(ルーカ)のいる場では、彼女への好意を否定しておくべきだと判断した。
「嫌いなの?」
「大好きだよ!」
しかし、ルーカにしおらしい態度を取られてしまうと、スベルは本音を吐露する他ない。
「おー、おー。早くもカップル成立かあ?」
「カップルじゃないよ!」
「カップルじゃないの?」
「カップルだよ!」
最早、トリオ漫才のようになってしまった。
最早、三人でネタを作った方が良いのではないだろうか。
「いや、トリオでは駄目じゃ。漫才はコンビが一番面白いというのが相場でな。さらに、儂は笑わせる側ではなく、笑う側でいたい。それゆえに、協力することはできんな。そもそもが儂を笑わせられるか否かという契約なのに、儂がネタを作っては意味が無いじゃろ?」
一応、筋は通っている。やはり、スベルはルーカと二人でネタを作る他ない。
「あのう、話を戻しますが、貴女は本当に妖怪なのですか?」
「まあ、確かにまだ妖怪らしいことはしとらんかったな。とはいえ、面を食らうのが駄目じゃとなるとなあ。まあ、あれでいいか」
面食いは机の上に立ち、そこで屈み込む。
「ふぇらああああああああああああああああ!」
面食いは踏ん張る。斯くして、尻から例のあれを捻り出す。机の上には、面食い産のカリントウがことりと置かれた。
「これだけではない」
これだけではないのかよ。とスベルは心中にてツッコむが、その次の事象に瞠目する。何と、カリントウが皆の机の上に置かれていた。差し詰め、「カリ分身」といったところだろうか。何という神秘的な光景だろうか。カリ雪だ。カリと雪の女王だ。
「ありのままの~、姿見せるぞよ~」
確かにありのままの姿だ。
「少しも寒くないぞ!」
否、時期外れゆえか、少し寒い。しかし、これで確定したことがある。面食いは少なくとも人間ではない。人外だ。恐らく、彼女は本物である。嘘は言っていなかったのだ。半信半疑だったが、今のを見て九分九厘信用することができそうだ。まあ、それでも一厘の疑念は捨て切れないが。
「これが妖術じゃよ」
「メンタリズムというよりはベンザリズムだけどね。ダイゴというよりはダイベンだけどね。お後が宜しいようで」
「誰がカリフラじゃ!」
「言ってませんよ!」
「儂がカリフラじゃ!」
「何の宣言ですか!」
「じゃあ、私は筋斗雲ね」
「乗っからなくていいから! 乗っかっていいの?」
「筋斗雲よーい」
「キュイーン、キュキュキュ」
「カリフラが使うのかよ!」
「棒よ、伸びろおおおおおおおおお!」
「俺、如意棒かよ! 確かに伸縮自在の棒は持ってるけど! お後が宜しいようで」
閑散とした教室に、三人はいる。段々と日が暮れてきており、徐々に暗くなってきている頃合いだ。妖怪である面食いは、人間であるスベルやルーカへ話し掛ける。否、語り掛けるの方が正しいかもしれない。
「昔、『エンタの神様』というお笑い番組で、『カンニング』という芸人コンビが『観客の前でウンコをする』、という芸を披露したことがあったじゃろ。まあ、あれは未遂に終わったようじゃがな。儂の場合は実際にそれを行い、妖怪の力で応用させたのじゃ。
二番煎じではあるが、被ってはいないと思う。儂は面食い。笑顔という素敵な面を生み出すお笑いが大好きじゃ。斯くして、それを食らうのもな。もっと楽しませてくれ。それこそ、『エンタの神様』になれるくらいに」
「エンタの神様」は、お笑い専門のテレビ番組だ。あらゆる芸人がネタを披露する場である。しかし、「エンタの神様」とは観るもの出るものであり、なるものではないと思うのだが。一体、面食いは何を言っているのだろうか。
スベルには理解できない。また、面食いは理解できないことを前提に話しているようにも思える。意地が悪い。食えない妖怪だ。面食いは食える妖怪だが。お後が宜しいようで。
「何だあああああああ! この様はああああああ!」
本田(ほんだ)ヒロコは絶叫する。何故なら、自身の教室に戻って来たら、皆の机の上にカリントウが置かれていたのだから。触ってみると生温かいことから、事件が起きてから斯様なに経っていないことが窺える。事件現場にいた容疑者は、
何を考えているか解らない竜崎龍華。
何で生きているか解らない帝倉滑。
この二人だ。ヒロコには、妖怪である面食いの姿は認知できない。それゆえに、本来ならば迷宮入りの事件を推理している訳だ。しかし、ルーカに斯様なことができるとは思えない。よって、犯人は彼だと結論付ける。
「犯人は帝倉君、貴男ね!」
ヒロコは漫画の探偵のように、格好良くポーズを決める。しかし、スベルとしては濡れ衣もいいところだ。むしろ、真犯人(めんくい)の尻を濡れ衣で拭いたいほどである。
「いや、俺じゃないよ」
「じゃあ、竜崎さん、貴女ね!」
「殺すよ?」
「じゃあ、帝倉君、貴男ね!」
「犯すよ?」
「貴方達は別件で逮捕されそうね! 殺人と強姦の罪で!」
「誰がバンだ!」
「強欲の罪なんて誰も言ってないんだけど!」
スベルとルーカのボケに、ヒロコは何とかツッコむ。この二人のボケは強烈すぎて、お笑い素人であるヒロコには付いて行くのがやっとだ。
「じゃあ聞くけど! このウン、カリントウは、貴方達が来る前に既に?」
「いや、俺達はずっとここにいたけど」
「じゃあ、犯行を目撃したのね!」
「したけど」
「犯人は?」
「面食い」
スベルはヒロコへ真実を告げる。しかし、当のヒロコはきょとんとしている。
「面食いって、イケメン大好きな女子ってこと?」
「ん、イケメンはどうだろ。お笑いは大好きみたいだけど」
「その子の名前は?」
「知らない。面食いとしか」
「面食いは名前じゃないでしょ」
「今度聞いてみるよ」
「友達なの?」
「ん、さっき会ったばかりだけど、友達といえば友達かな」
「それって、共犯なんじゃ?」
「いや、あいつ一人でヤってたから、俺らはただの傍観者だな」
「どういう子なの?」
「白髪ロングに全裸の翼が生えてる幼女」
「斯様な子いる訳ないでしょ!」
「いや、いるんだって」
「どこに!」
「そこに」
スベルは面食いのいる方を指差すが、ヒロコには何も見えない。
「幽霊?」
「妖怪」
「マジ?」
「マジ」
「ウンチの妖怪?」
「まあ、斯様なとこかな」
「おい、斯様なとこじゃないじゃろ。儂の渾名が『ウン子』になったらどうするんじゃ。可愛さ半減じゃろ」
「可愛さはゼロだから大丈夫だよ」
「誰と話してるの?」
「面食い」
「ガチ?」
「ガチ」
ヒロコには意味が解らなかった。面食いとは何だろうか。妖怪とは本当にいるのだろうか。スベルは嘘を吐いていないのだろうか。スベルには何が見えているのだろうか。
「そうだ。竜崎さん、貴女は何か見なかった?」
「いちごパンツ」
「私のパンツの柄を大発表しなくていいから!」
「果汁で黄ばんでた」
「私のパンツの状態を説明しなくていいから!」
ヒロコは呆れる。どうやら、ルーカと話しても埒が明かないようだ。不埒なだけに。お後が宜しいようで。
現在、教室には三人の生徒と一人の妖怪がいる。妖怪を一人と称していいのかは判らないが、一匹というのもあれだろう。一人の生徒は二人の生徒を疑っている。二人の生徒は無罪を主張している。真犯人である一人の妖怪は、傍観を決め込んでいる。一人の生徒には一人の妖怪を見ることができない。それゆえに、堂々巡りとなっている。
「だから、貴方達二人しかいなかったんでしょ!」
「うん」
「じゃあ、貴方達二人のどちらか、あるいは両方が犯人でしょ!」
「いや、違う」
「どう違うのよ! また面食いがどうのとか言うの? 妖怪ウォッチの見過ぎよ!」
「妖怪ウォッチをディスるのはやめろ!」
「貴方達をディスってるのよ!」
「シコってくれてたの?」
「誰も斯様なこと言ってないから! 何でちょっと嬉しそうなの?」
「パコってくれてたの?」
「誰も斯様なこと言ってないから! 何でちょっと嬉しそうなの?」
三人の生徒はトリオ漫才を展開する。そこで一人の妖怪が動く。
「やれやれ。このままでは、いつまで経っても帰れそうにないな。仕方ない。妖術を使うか。ドーン!」
一人の妖怪は一人の生徒に妖術を掛けた。それにより、一人の生徒の様子が急変する。
「ふぇらああああああああああ!」
一人の生徒は催眠にでも掛けられたように、ふらふらとした足取りで机の前に着く。斯くして、机の上のカリントウを見詰める。
一体、何を考えているのだろうか。
全体、何をするつもりなのだろうか。
一人の生徒は、あろうことかカリントウを手に取り、小さい口を大きく開いてそこに入れる。斯くして、もぐもぐと咀嚼し、ごくんと嚥下していく。一人の生徒はそれを繰り返していった。
この教室の生徒は三〇人近くいることから、カリントウは三〇個近くある。一人の生徒は一個では飽き足らず、二個、三個と再現なく食す。それを見た二人の生徒と一人の妖怪は、「今ならば逃げ出せる」と思い、教室を後にした。
「いやあ、本田には驚かされたなあ。まさか、面食いのカリントウを、あんなに美味しそうに食べるとはな」
「まるで儂のカリントウが不味いみたいな言い草じゃな」
「美味いの?」
「美味い」
本当だろうか。スベルは面食いを訝しむ。まあ、人間と妖怪は違うし、もしかしたら妖怪のそれは美味なのかもしれないが。しかし、それでも排泄物には変わりない。それを嬉々として食すようになっては、人間失格だろう。
その理屈で言うと、本田もそういうことになってしまうが、あれはどうやら面食いの妖術のようだ。それゆえに、本田は被害者といえるだろう。哀れだ。
「私も食べたい」
「今度な」
食べたいのかよ。良いのかよ。色々とツッコみたくなるスベルだが、今日はもう疲れた。早く家に帰って癒されたいところだ。因みに今はもう帰路に就いている。ルーカは家が近いということもあり、帰る方向も同じなのだ。それゆえに、斯くして一緒に下校できている。
「そういえば、面食いは俺と竜崎さん、どっちの家に行くんだ?」
「む? 泊めてくれるのか?」
「いや、一応は契約を結んでる仲だし、友達だからさ」
「お主は良い奴じゃのう。メダルをやろう」
「これ、一円玉じゃないですか」
「一つの縁で結ばれておるからのう」
「ご縁があるから、で五円玉で良かったんじゃ」
「まあ、それがあればいつでも儂を呼べるぞよ。妖力を混ぜておいたからのう」
「ふうん」
スベルにはよく解らないが、そういうことなら大事にしようと思い、財布ではなくポケットに仕舞っておく。財布に入れると他の小銭と混ざってしまうためだ。ポケットだと無くしてしまう恐れや、忘れてしまう恐れがあるが、取り敢えずはここだ。片付ける場所に関しては、後でじっくりと検討するとしよう。これは貴重な一品だ。
「で、話を戻すけど、面食いはどっちの家が良い?」
「んー、どっちの家も行ったことがないからのう。取り敢えず、今日はスベルの家にするかのう」
「そうか」
スベルと面食いは交渉を成立する。妖怪を家に泊めるなど前代未聞だが、彼女の場合は問題ないような気がする。それは、彼女があまり妖怪らしくないためだろうか。それとも、スベルが彼女を信頼しているためだろうか。
恐らく、その答えを知るには、もう少し時間が掛かることだろう。それこそ、妖怪ウォッチの針を何周も回転させなければならないほどに。お後が宜しいようで。
スベルは面食いと自宅まで来た。ルーカとは途中で別れてしまった。まあ、いくら運命共同体とはいえ、いきなり家に招き入れることなどできないだろう。
男子的にも女子的にも、
倫理的にも道徳的にも問題がある。
否、もはや色々と問題を乗り越えてきた感はあるが。しかし、だからといって、わざわざ自身らから道を踏み外す必要はない。
事の成り行きでそうなるのと、
自発的にそうなるのでは話は変わってくる。
事故でそうなるのと、
故意でそうなるのでは話は変わってくる。
作為でそうなるのと、
無作為でそうなるのでは話は変わってくる。
造作でそうなるのと、
無造作でそうなるのでは話は変わってくる。
善意でそうなるのと、
悪意でそうなるのでは話は変わってくる。
それゆえの判断だ。
それゆえの決断だ。
それゆえの判定だ。
それゆえの決定だ。
判れば決める。
決めれば判る。
読めば判るが、
読まなければ判らない。
昔、「読めば解る」という帯の付いた漫画を読んだことがあったが、
読んでも解らなかった。
内容が、ではない。
面白さが、である。
恐らく、面白さが人間の理解を超えてしまったのだろう。
亜人なだけに。
お後が宜しいようで。
「亜人をディスるな!」
「亜人をディスらないよ!」
「亜人に謝れ!」
「亜人に謝らないよ!」
「亜人になれ!」
「亜人にならないよ!」
「亜人に殺されろ!」
「亜人に殺されないよ!」
「亜人を殺すな!」
「亜人を殺さないよ!」
「亜人を殺せ!」
「亜人を殺さないよ!」
「亜人に出ろ!」
「亜人に出ないよ!」
「亜人を出せ!」
「亜人を出さないよ!」
「亜人の尻を揉め!」
「亜人の尻は揉まないよ!」
「亜人の胸を揉め!」
「亜人の胸は揉まないよ!」
「亜人のマンコに指突っ込め!」
「亜人のマンコに指突っ込まないよ!」
「亜人をイカせろ!」
「亜人はイカせないよ!」
「亜人と語れ!」
「亜人と語らないよ!」
「亜人の開きを食え!」
「亜人の開きを食わないよ!」
「亜人に子種を託せ!」
「亜人に子種を託さないよ!」
「亜人にラッキースケベしろ!」
「亜人にラッキースケベしないよ!」
「亜人を朝ドラにしろ!」
「亜人を朝ドラにしないよ!」
「亜人にアヘ顔ピースさせろ!」
「亜人にアヘ顔ピースさせないよ!」
「亜人と握手しろ!」
「亜人と握手しないよ!」
「亜人のサインを貰え!」
「亜人のサインを貰わないよ!」
「亜人の乳首をコリコリしろ!」
「亜人の乳首をコリコリしないよ!」
「亜人とキスしろ!」
「亜人とキスしないよ!」
「亜人のスカート捲れ!」
「亜人のスカート捲らないよ!」
「亜人のパンツをずり下ろせ!」
「亜人のパンツをずり下ろさないよ!」
「亜人のリコーダー舐めろ!」
「亜人のリコーダー舐めないよ!」
「亜人の遊戯王カード盗め!」
「亜人の遊戯王カード盗まないよ!」
「亜人の靴隠せ!」
「亜人の靴隠さないよ!」
「亜人の椅子に顔を擦りつけろ!」
「亜人の椅子に顔を擦りつけないよ!」
「亜人の机に尻を置け!」
「亜人の机に尻を置かないよ!」
「亜人のランドセルを男子トイレに持ってけ!」
「亜人のランドセルを男子トイレに持ってかないよ!」
「亜人の自転車の鍵を捨てろ!」
「亜人の自転車の鍵を捨てないよ!」
「亜人のメロンパンをトイレに流せ!」
「亜人のメロンパンをトイレに流さないよ!」
「亜人に借りた金を返すな!」
「亜人に借りた金を返すよ!」
「亜人に借りた漫画を返すな!」
「亜人に借りた漫画を返すよ!」
「亜人の試験勉強を邪魔しろ!」
「亜人の試験勉強を邪魔しないよ!」
「亜人の家に行って、亜人抜きで楽しめ!」
「亜人の家に行って、亜人抜きで楽しめないよ!」
「亜人に今までの『無礼・非礼・失礼』を詫びるな!」
「亜人に今までの『無礼・非礼・失礼』を詫びるよ!」
「亜人って何だっけ?」
「読めば解る。お後が宜しいようで」
スベルは合鍵を使い、ドアのロックを外す。インターフォンを使わない理由は、恐らく誰もいないためだ。サッカー部の兄は練習で遅くなるだろうし、両親はまだ仕事中だろう。そのために、普段から持ち歩いているそれを取り出したという訳である。
スベルと面食いは中へ入る。当然ながら、「ただいま」も「お邪魔します」も言わない。面食いの姿は他の人間には見えないし、見えたとしても今はいないのだから。しかし、妖怪を見える人間というものはマイノリティだろう。
それを言うと、スベルはある意味では「天才」なのだろうか。しかし、面食いは「自惚れるな、スベル。儂がお主には見えるように『設定』しとるだけであって、お主が妖怪を見る才能があるとかそういうのではない」と辛口のコメントを寄せる。やはり、スベルも他の人間と変わらない。
凡人なのだろう。
常人なのだろう。
普通なのだろう。
普遍なのだろう。
通常なのだろう。
一般なのだろう。
常識なのだろう。
標準なのだろう。
モブなのだろう。
普遍的なのだろう。
常識的なのだろう。
一般的なのだろう。
標準的なのだろう。
常識人なのだろう。
一般人なのだろう。
路傍の石なのだろう。
ノーマルなのだろう。
エキストラなのだろう。
マジョリティなのだろう。
スタンダードなのだろう。
オートドックスなのだろう。
しかし、主人公だ。
しかし、主人公である。
しかし、主人公となった。
しかし、主人公になれた。
しかし、主人公となったのだ。
しかし、主人公になれたのだ。
しかし、主人公となったのである。
しかし、主人公になれたのである。
しかし、主人公の座を勝ち取った。
しかし、主人公の座を勝ち取れた。
しかし、主人公の座を勝ち取ったのだ。
しかし、主人公の座を勝ち取れたのだ。
しかし、主人公の座を勝ち取ったのである。
しかし、主人公の座を勝ち取れたのである。
主人公になれる者など一握りだ。
主人公になれた者など一握りだ。
主人公になった者など一握りだ。
主人公になれることは誇っていい。
主人公になれたことは誇っていい。
主人公になったことは誇っていい。
主人公になれることは誇っていいのだ。
主人公になれたことは誇っていいのだ。
主人公になったことは誇っていいのだ。
主人公になれることは誇っていいのである。
主人公になれたことは誇っていいのである。
主人公になったことは誇っていいのである。
主人公になれることは胸を張っていいことだ。
主人公になれたことは胸を張っていいことだ。
主人公になったことは胸を張っていいことだ。
主人公になれることは胸を張っていいことである。
主人公になれたことは胸を張っていいことである。
主人公になったことは胸を張っていいことである。
脇役がいなければドラマはつまらないが、
主人公がいなければドラマにはならないのだから。
しかし、主人公がいたからといってドラマになる訳ではない。
もしそうならば、この作品もドラマになっているはずだろう。
しかし、ドラマ化の予定はない。
脇役がいても、
主人公がいても、
面白くなければドラマにはならないのだから。
さて、帰ったことだし、ドラマでも観るとしよう。
スベルはそう思い、リビングのテレビを点けるのだった。
お後が宜しいようで。
Ah アクセルしようぜ ワールド Oh Oh
人並み外れた速さで 疾走(はし)りたいから
Ah アクセルしようぜ ワールド Oh Oh
町並み外れた所へ 進撃(すす)みたいから
Ah アクセルしようぜ ワールド Oh Oh
スベルは面食いとアクセルワールドの実写ドラマを観ていた。
まさか、ハルユキ役が加藤諒とは驚きだ。
よもや、黒雪姫役が橋本環奈とは愕きだ。
まさか、タクム役が山崎賢人とは驚きだ。
よもや、チユリ役が広瀬すずとは愕きだ。
キャスティングに色々と無理がある気はするが、そういうところがB級作品らしくてAWの作風とマッチしていた。川原礫に謝れ。すみません。「謝って済むのならば警察は要らない」というものは常套句だが、謝らないよりは謝った方が良いに決まっている。それで相手の気が楽になる面もあるのだから。
勿論、謝罪だけで足りない場合は、それ相応の代価を支払う必要があるだろう。そもそも、謝らなければならないようなことをするべきではない。謝らなければならないようなことをすること自体が誤っているのだ。お後が宜しいようで。
「いや、宜しくないじゃろ。いやあ、良いドラマじゃったなあ。まさか能美征二役が本郷奏多とはなあ」
「本郷君はさすがの演技でしたね。俺としては黒雪姫の衣装が際どすぎて興奮しました。橋本環奈ちゃんエロいなあ」
「うわあ、お主もう斉木を真っ直ぐな目で見れんな。見る度に勃起するじゃろ」
「それが良いんじゃないですか! 逆転裁判4のヒロインの名前は?」
「知らん。圭介か?」
「みぬき(見抜き)ですよ。お後が宜しいようで」
「いや、宜しくないじゃろ。勝手に締めるでない。しかし、まさかAWが実写化するとはな。海外ではなく日本の、映画ではなくドラマゆえに予算の少なさを感じたがな。所々CGだったり、オブジェや特殊メイクがチャチかったり」
「実写化されるだけラッキーですよ。この作品なんて、実写化されたくてもされないんですから」
「なにおう」
「やるかあ」
「と、ゴリラ倶楽部の喧嘩コントを始めたところで、仲裁役がいないとオチが着かんな」
「不毛ですね。ゴリラは剛毛なのに。お後が宜しいようで」
「宜しくない。勝手に締めようとするでない。しかし、能美を倒したところで終わりか。アニメと同じなんじゃな。てっきりアニメの先までやってくれるかと」
「そこが水商売の嫌らしい所ですよ。金払ってくれたら続きやるぞ的な」
「ああ。嫌らしい。殴っていいか?」
「いや、俺を殴ったところでシーズン2は始まりませんよ?」
「いや、儂が言った嫌らしいは、橋本環奈を性的な目で見たことに対してだ」
「そこですか! 結構戻りますね! それについては『済みません』としか言えませんよ」
「済みませんで済んだら済みませんは要らないのじゃよ」
「意味が解るようで解りません!」
「解りませんで解ったら解りませんは要らないのじゃよ」
「意味が伝わるようで伝わりません!」
「伝わりませんで伝わったら伝わりませんは要らないのじゃよ」
「もういいよ! どうもありがとうございました!」
スベルは面食いとの即興漫才にオチを着ける。全く、困った妖怪だ。
スベルの左手に鬼の手が備わっていたら、速攻で悪霊退散していることだろう。
スベルの右手に幻想殺しが備わっていたら、速攻で殴り飛ばしていることだろう。
スベルの左手に犬の腕輪が備わっていたら、速攻で喰い殺していることだろう。
スベルの右手に美鳥が備わっていたら、速攻で見抜きしていたことだろう。
お後が宜しいようで。
「しかし、何故急に敬語を遣うんじゃ?」
「ああ、えっと、セメルの影響で。別にお前は神様って訳じゃないから、タメ口でいいか」
「そうじゃな。儂はただの妖怪。しかも、お主の彼女の面を食らったクソ野郎じゃ。敬うべきではないな」
「そ、そうだな。じゃあ、タメ口でいくよ。いやあ、しっかし、AW面白かったなあ」
「そうじゃな。次は何観る?」
「腹減ったから何か食べねえ?」
「ほう。お主、料理ができるのか?」
「いや、俺はそんな得意じゃないな。外でラーメン食べにいこうぜ」
「ほう。それは面白そうじゃ」
「あ、でも、面食いって霊体だから、ラーメンは食えないのか」
「いや、『実体化』という能力がある。これを使えば、人間界に干渉することが可能じゃ」
人間界に干渉。少々恐ろしい口振りだ。面食いは実体化し、全裸の幼女が現れた。なお、翼は消えているようである。しかし、全裸はよくない。スベルがその旨を伝えると、面食いはワンピースを創造し、それを着用する。まあ、これならばラーメン屋に行っても問題はないだろう。
「じゃあ行くぞスベル。案内してくれ」
「おう。じゃあ行こうか」
スベルは面食いを連れ、家を出た。そして、歩を進める。ラーメン屋は歩いて十、二十分くらいの位置にある。自転車で行けばもっと速いのだが、何となくのんびり歩きたい気分だったのだ。日は沈み、周囲は静寂に包まれていた。車の通りも少なくなってきている。セメルと面食いは歩く。
ただひたすら歩く。そこで面食いは「足が疲れた」と早くも音を上げた。歩いてまだ数分しか経っていないにも拘らず。しかし、それも致し方ないといえる。妖怪である面食いは、自身の力で歩くということをしてこなかったのだろう。しかし、それならば話は簡単だ。
また霊体化すればいい。そうすれば疲れないのだから。セメルはその旨を彼女に伝える。そうすると彼女は、「な、成る程。その手があったか」と得心する。彼女は霊体化し、再び全裸に翼の状態に戻る。やはり、彼女にはこの格好がよく似合う。スベルは再び、面食いと歩を進める。
浮いている面食いは歩いていないために、歩を進めるという表現は適切ではないが、そんなことはどうでもいい。歩を進めることよりも、筆を進めることが最優先なのだから。お後が宜しいようで。
「バイトは結局駄目だった。作者に働くなと言ってるんだろうか」
「まあ、無理に働くことはない。これでニートから無職になった。それだけでも前進じゃろう。前例があれば前進前例じゃよ。お後が宜しいようで」
「いや、全然宜しくないでしょ。しかし、小説の書き方というのはよく解らないな。これで合ってるのか間違ってるのか」
「まあ、面白ければ良いのじゃよ。面白くないから駄目なんじゃがな」
「オーバーラップ大賞だけに絞ろうかなあ。これ、一次選考通りますかね」
「そういう生々しい内部事情を漏らす時点で、難しいじゃろうな」
「とはいえ、どうすれば通るのかなんて判らない。結局、審査員の気分次第じゃないですか」
「いや、審査員は恐らく、隅から隅まで読んで厳密に審査してくれているじゃろう。その上での一次落選じゃよ」
「面白ければ一次通る?」
「はずじゃよ。これはつまらない」
「どこら辺が?」
「何もかもが」
「なにおう」
「やるかあ」
「はあ、ゴリラ倶楽部の喧嘩コントをしていたら、余計に腹が減ってきた。早くラーメン屋に行こう」
「そうじゃな。儂も早くザーメンが食べたい」
一瞬、ラがザに聞こえたが、恐らく気のせいだろう。ラーメンをザーメンと間違えるような馬鹿はいないし、ラーメンは食べ物だがザーメンは飲み物だ。否、飲み物でもない。排泄物である。恐らく幼女で舌足らずな面食いは、ラとザの区別ができないのだ。
「ドドリアの隣にいるのは?」
「ザーボン」
「未来少年コナンのヒロインは?」
「ラナ」
可笑しい。ザもラも完璧だ。むしろ、何故にここまでオタク知識に詳しいのだろうか。答えられないことを前提に出題したにも拘らず。セメルは改めて面食いの凄さに愕然とする。オタク知識のある妖怪など、斬魄刀のある死神のようなものではないか。鬼に金棒、オナニーべらぼうとはこのことだ。
オナニーはべらぼうではない。先程からその手のネタが多いことが気掛かりである。下ネタは面白いが、面白いものも何度も繰り返されると飽きが来る。それゆえに適度と節度が肝要だ。さらに、下ネタはアニメ化した際にお茶の間に流せない。否、そもそもアニメ化しないが。お後が、否、お茶の間が宜しいようで。
「三木の野郎が『禁書三期あとちょっと待ってろ!』とか言ってたが、『もう少しお待ち下さい』だろ。日本語の遣い方も間違ってる奴でも編集って務まるんだな」
「まあ、そう言うな。ミッキーは禁書やSAOの担当をしたことにより、『ぼくには すごいちからが やどってるんだ』と勘違いしちゃってる痛い子なんじゃ。まあ、子供大人というか、大人の発達障害といったところか」
「中二病とも言うよな。しかし、『あとちょっと』の意味も解ってなさそう。いつまで待たせるんだよ。こいつの悪いところは、皆の期待を平気で裏切るところだな」
「そうじゃな。まあ、馬鹿の話をしていても馬鹿になるだけじゃ。ここら辺で切り上げるとしよう」
「そうだな。お、見えてきた」
スベルと面食いの眼前には、目当てのラーメン屋があった。
スカトロラーメン スカトラ
看板にはそう記載されている。実に怪しく嫌らしい。スカトロというワードだけで、大半の人は避けて通るだろう。しかし、スベルや面食いは動じない。それはそうだ。何故なら彼らは変態なのだから。
「ところでスベル。儂は麺類が大好きなんじゃよ。面食いは麺食いでもあるからのう。お後が宜しいようで」
「いや、宜しくないよ。じゃあ、この店は打って付けという訳だな。よし、早速入ってみようぜ。怪しい店だけど、何か面白そうだ」
「エロいサービスを期待しておるな。全く、儂やルーカというものがありながら」
「面食いやルーカでは楽しめないようなエロさを求めています」
「なにおう」
「やるかあ」
「ゴリラ倶楽部の喧嘩コントは、仲裁役がおらんと成立せん。しかし、ゴリラ倶楽部とダチョウ倶楽部は似とるな。儂、何気にダチョウ倶楽部のファンなのじゃが」
「へえ、意外ですね。あいつらのネタって下らないんですが、意外とウケが良いですよね。真似する人多いし」
「単純だから真似しやすい。そういうキャッチーさが人気に繋がる。お主らも参考にすべきじゃな。エンタの神様を目指すなら」
それは、エンタの神様に出ることを目指すという意味なのだろうか。
それとも、お笑いの頂点を目指すという意味なのだろうか。
今のスベルには判断がつかない。しかし、いずれにせよ努力は必要だ。今のままではエンタの神様に出ることも、お笑いの頂点に立つことも叶わない。まずはルーカと共にお笑いのネタを百個作る。後のことはそれから考えよう。スベルもルーカも、まだお笑い芸人になると決めた訳でも、コンビを組むと決めた訳でもない。
これからだ。これからの努力次第で全てが決まる。まずはハンドレッド契約を完了させなければ未来はない。しかし、普通の芸人でも百個ネタを作ることなど困難ではないだろうか。
確かにそれくらいの量のネタを持っている芸人もいるが、それはトップクラスの天才に限られる。最近では一発屋の芸人が多いことから、面白いネタを一つ作ることでも難しいことが窺えるだろう。それを百個だ。はっきり言って無理難題である。しかし、ハードルは高いほど燃える。飛び越えたいと強く願う。飛び越えた時の達成感は大きくなる。
やってやろうではないか。
やってみようではないか。
スベルはルーカと共に百個のネタを作り、
面食いを爆笑の渦へ引きずり込み、
ルーカの表情を取り戻す。
それが叶ったら、
ルーカとお笑いライブに行き、
彼女の百点の笑顔を堪能するとしよう。
ハンドレッド契約なだけに。
お後が宜しいようで。
「面食い、俺と山手線ゲームしようぜ」
「いいじゃろう」
「じゃあ、先攻はお前に譲るぜ。来な」
「や!」
「まの!」
「て! くそ! もう一回じゃ! やま!」
「の!」
「て! くそ! もう一回じゃ! や!」
「フランケンシュタインは怪物を作った科学者の名前なんだよ。つまり、フランケンシュタインの恋は正しく言うと、フランケンシュタインの怪物の恋なんだよ」
「成る程な。しかし、スリムクラブのアレもフランチェンじゃなかったか?」
「そうですね。怪物くんのフランケンとかもありましたし、結構昔からある誤解のようです」
「誤解か。しかし、それが一般化し定着してしまった今、アレをフランケン以外で表現するのは難しいな。そもそも、何であやつには名前がないんじゃ。博士の名前には凝ってるくせに、手を抜くな」
「それ言ったら貴女だって面食いでしょうが。お後が宜しいようで」
「また敬語になっとったな」
「ああ、何か敬語になっちゃうなあ」
「直さんのか?」
「基本的に過去は振り返らない主義なんで」
「それは小説家的にどうなんじゃ?」
「出版するとなったら書き直しますよ。絶対ナル孤独者だって九割直したそうですし」
「それとこれを一緒にするな。レベルが全然違う」
「どれくらい?」
「1と5くらい」
「大差ないじゃないですか」
「禁書じゃよ」
「大差あるじゃないですか」
「ドラクエじゃよ」
「大差ないじゃないですか」
「AWじゃよ」
「大差あるじゃないですか」
「フローレイティアさんの階級は?」
「大佐。あ、少佐か」
「はっはっは、引っ掛かったな。18歳で大佐になれる訳ないじゃろ。どんな天才じゃ」
「それを言うなら18歳で少佐になれる訳ないでしょ。どんな天才ですか」
「なにおう」
「やるかあ」
「と、ゴリラ倶楽部の喧嘩コントをしても始まらん。今どこじゃ?」
「スカトラの前まで来ましたよ。入ります?」
「そうじゃな。入ろう」
スベルと面食いはスカトラへ入る。
そこには一体どのようなドラマが待ち受けているのだろうか。
そこには全体どのようなロマンが押し寄せているのだろうか。
チャンネルはそのままで。
「私、キモオタ小説を読もうと思うんですよ!」
「キモオタって何だよ。オタクは総じてキモいだろ。キモくなかったらオタクじゃないだろ。キモいからオタクなんだろ。キモくないオタクは最早オタクじゃないだろ」
「私、オタク小説を読もうと思うんですよ!」
「今時ライトノベルをオタク小説とか呼んでいる時点で、どれだけ狭い世界で生きているのかが解るな。ハルヒも知らんのか。禁書も知らんのか。SAOも知らんのか。オタクをまるで理解していない奴がオタクを語るな。オタクになってからオタクを語れ。オタクになってからオタクをディスれ。ていうかお前、漫画は好きだよな?」
「はい! ワンピとか超好きなんですよ!」
「ワンピの作者の名前は?」
「え、ええと、夏目漱石? いや芥川龍之介かな?」
「ワンピの載ってる雑誌の名前は?」
「え、ええと、週刊文春? 週刊新潮?」
「全然知らねえじゃねえか。周りが読んでるから話を合わせるために読んでるだけじゃねえか」
「すみません」
「まあ、娯楽なんだから楽しみ方は人それぞれだ。そこに文句をつけるつもりない。しかし、知りもしないのに貶すのは駄目だ。知った上で、解った上で、意見をする。それが筋ってもんだろう。斯くいう俺も、エロマンガ先生をよく知らないんだけどな。お後が宜しいようで」
「ちんこ」
「まんこ」
「おちんこ」
「おまんこ」
「おちんちん」
「おまんまん」
「ちんぽこ」
「まんぽこ。あ」
「儂の勝ちじゃな、スベル」
「くっそー、もう一回だ」
「わーん、面食えもーん!」
「どうしたんだい、スベ太くん」
「面白いアニメがないよー」
「金曜の夜を待てばいい」
「ドラえもんは飽きたよー」
「クレヨンしんちゃんがあるじゃないか」
「大して変わらないよー。面白いアニメを出してよ、面食えもん」
「仕方ないな。じゃあ、ゲオで借りてくるから」
「否、ゲオじゃなくてポケットから出してよ」
「君は変態か?」
「否、斯くいう仕組みじゃないの?」
「仕方ないな。じゃあ、ドラえもんから借りてくるから。お後が宜しいようで」
「いやあ、やはりやはり俺の青春ラブコメはまちがっているが最高に面白いんですよ」
「ふぇら? お主の青春ラブコメはまちがっておるのか?」
「でも、あれって僕は友達が少ないの上位互換なんじゃないかと」
「ふぇら? お主の友達は少ないのか?」
「読んだことないんですけど、妹さえいればいいもアニメ化されるようですね」
「お主、妹さえいればいいのか?」
「まあ、どんなラノベよりもこの作品の方が面白いんですけどね」
「ほう、それはどういうラノベじゃ?」
「もういいよ! どうもありがとうございました!」
「いやあ、寒い」
「四月じゃからな」
「俺には六月くらいに感じるよ」
「四月も六月もそう変わらんじゃないか。春じゃろ」
「だから寒いんですから」
「だから寒いんじゃよ」
「まあ、メタいことはこれくらいにしておきましょう。ラーメン食べれば温まりますし」
「そうじゃな。いい加減ラーメン屋に入るぞ」
スベルと面食いは軽く漫才を交わし、ラーメン屋へ入る。しかし、入ってみて色々と驚いた。店員が二人しかいない。また、中央に人一人乗れそうな回転テーブルがあり、そこを囲むように席が用意されている。
まるで、ポールダンスでも観ながら食事するような感じだが、ポールは存在しない。それならばストリップショーか何かだろうか。否、スカトロラーメンというネーミングから察するに、恐らくスカトロショーといったところだろうか。
この店は本当に大丈夫なのだろうか。
この小説は本当に大丈夫なのだろうか。
「お、お客さんが来た。いらっしゃい。ほら、肉(にく)麺器(めんき)、準備して」
肉麺器と呼ばれたもう一人の店員は女性だった。金髪ウェーブというラーメンヘッドに、餃子を象った帽子、差し詰めギョーザキャップが特徴的である。彼女は回転テーブルの上に乗った。そして、着ていたワンピースを捲し上げる。彼女は尻をラーメンの容器に近付けた。
何となく、何をするのかが読めてきたが、それは予想の斜め上を行く。彼女は踏ん張る。そして、尻から何かを出す。尻から出るものなど、大便以外には何もない。それゆえに、彼女のそれも大便のはずだ。
しかし、彼女のそれは異質だった。臭いとか汚いとか形が変とか、そういう次元ではない。臭くも汚くもなければ、形はむしろ美しい。それはラーメンの麺のようだった。そう、彼女は尻から麺を出すという、マジシャン顔負けのマジックを披露してみせたのだ。
「こ、これはどういうマジックですか?」
「マジックじゃないよ、お客さん。彼女は肉麺器。尻からは麺が出て、そして股からは」
股からは、スープが出た。具材は載っていないが、これで取り敢えずラーメンの出来上がりだ。
「はいよ、一丁上がり。食べてみてよ」
店長らしき男性は、スベルにスカトラを勧める。スベルは素直に頷き、未知の料理に挑戦した。果たして、どのような味がするのだろうか。スベルはまず蓮華でスープを掬い、口に運ぶ。その時、スベルの舌に衝撃が走った。味覚が暴走する。
「め、メチャクチャ美味い!」
「それは良かった。当たりを引いたみたいだね」
「ふぇら? 当たり?」
スベルは店長の言葉に首を傾げる。店長は説明する。
「ああ、彼女の出す味はランダムなんだ。その時の体調や様子、気分や調子によって様変わりする。美味い時もあれば不味い時もある。それがこの店が不人気な理由かもな」
言われてみれば、この店には客がまるでいない。しかし、不人気な理由は他にもあるような気がする。それは経営について素人な高校生が口出しすることではないが。今度は麺を啜る。麺も美味い。スープとの相性も良い。それは恐らく、同じ調子の時に排泄したものだからだろう。それゆえに味が似ており、絶妙にマッチしているのだ。
「これをロシアンラーメットと呼んでるんだ」
「な、成る程」
恐らく、ロシアンルーレットと掛けたのだろう。ラーメンは美味いが、ネーミングは上手くなかったようだ。お後が、否、お味が宜しいようで。
「カクヨムのクソ作家・板野かもがカクヨムコンテストで入賞ならずだってよ!」
「やったのう! あやつのアイドル小説はクソつまらんかったから当然じゃが。いやあ、他人の不幸は蜜の味とはこのことじゃわい!」
「そういえば、スカトラ美味かった?」
「ああ。美味かったぞ。板野かもの小説は上手くないがな。お後が、否、友美が宜しいようで」
スベルと面食いはスカトラを後にし、再び自宅へ歩を進めていた。まあ、彼らの言うように、板野かもの小説はライトノベルなのか大衆娯楽なのかはっきりとせず、落ちて当然の駄作だ。それゆえに、いくら読者人気が高かろうと出版までは行き着けないだろう。そもそも、本当に読者人気などはあったのだろうか。
板野かもが馬鹿の一つ覚えのようにレビューを書きまくるものだから、恩義を感じたユーザーがレビュー返ししてくれた結果、読者選考を突破できただけではないだろうか。板野かもの小説は根本的につまらない。まだこの小説の方が面白いくらいだ。しかし、板野かもは作者よりも自身の方が上だと思っていることだろう。
馬鹿は身の程を弁えない。
馬鹿は身の丈を知らない。
程を弁え、丈を知れば、作者くらいの小説は書けるようになるかもしれない。まあ、それでも二番煎じに過ぎないのだが。否、そもそも板野かもの小説は十、百番煎じくらいなのだから、作者の次ならばまだ新しい方といえる。お後が、否、作者のお後が宜しいようで。
「板野かもの作品って何かベタだよな。テンプレしか書けねえのか、こいつ」
「言ってやるな。テンプレが書けるだけでも凄いじゃないか。かもちゃん凄いでちゅねえ」
「テンプレ小説なんか、出版する意味もないけどな。既にあるんだから」
「まあ、その通りじゃな。テンプレ小説など売り出す意味も、売れる道理もない。じゃから個性が必要じゃ。人を惹き付ける強烈な個性が」
「あいつには作者の作品がどう映ってたのかな」
「自分より文章が下手、自分より構成が下手。そんな風に感じてたんじゃろう。敷かれたレールを走る者と、自分のレールを走る者。前者の方が圧倒的に楽じゃ。後者は難しい。その道が間違ってるのか正しいのか、手探りで見極めなければならない。
別にどちらが正解という訳でもない。板野かものような考え方も、作者のような考え方も道じゃ。王道と邪道というな。王の道か邪の道か。テンプレートかオリジナルか。果たしてどちらが正解なのか。現時点では判然とせん。どちらもまだゴールに行き着いていない宙ぶらりんの状態じゃからな」
「ふうむ。どちらが正しいかは今後で決まるか。なら、とっととこの作品を仕上げて公募に出さねえとな。あいつに先越されたら悔しいし」
「馬鹿にしながらも、見下しながらも、貶しながらも、卑下しながらも、きちんと認めるべきところは認めとるんじゃな。作者との勝負に逃げた卑屈な板野かもにとっては、その太陽のような温かさは痛々しいかもしれんな。
恐らく、あやつは作者のことなどまるで認めとらんし、相手にもしとらん。そこが作者と板野かもの度量の差か。誠に小さき男じゃ、板野かもは。作者の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいわい」
「飲んだら小説に個性が生まれて、作者との勝負にも逃げずに立ち向かうことができるようになるかもな」
「ふ、それができるようになったらもう板野かもではない。それこそ、個性が抜け落ちてしまっているよ。お後が、否、友美が宜しいようで」
面食いはスベルとの会話に一区切りをつけ、夜陰を切り裂くように歩を進める。夜の長田町は静寂に満ち溢れていた。視覚も、聴覚もまともに機能しない。しかし、斯くいう状態に心地良さを感じるのは何故だろうか。
それは恐らく、何もない状態こそが生命の始まりだからだろう。生命の始まりとは、光を手にした瞬間だ。ずっと深く暗い闇の中にいた者が、唐突に希望の光を握らされる。
それこそが誕生の瞬間だ。
それこそが生命の神秘だ。
しかし、未だに一次選考を通らない作者は、その光を知らない。
しかし、未だに一次落選を食らう作者は、第二の光明を知らない。
もしかしたら、知らないまま人生は終焉を迎えるかもしれない。
もしかしたら、板野かもの方が先に第二の光明を取得するかもしれない。
それは地獄だ。しかし、地獄ならば人生の中で何度も経験してきた。それはスベルや面食いも同様だろう。ここが地の果てならば、出口を求めて突き進むのみである。まだ終わってはいない。まだ始まってすらいない。少しくらい長いプロローグで絶望している場合ではない。手を伸ばせば届く。いい加減始めようではないか。お後が宜しいようで。
スベルと面食いは帝倉宅へ帰ってきた。夕食は外で済ませたために、後は風呂に入るくらいだろうか。しかし、ここで問題が一つある。
「なあ、面食い。お前って風呂に入る?」
「む、風呂は好きじゃぞ」
「いや、好きか嫌いじゃなくて、入るか入らないかで」
「好きじゃから入りたいのう」
「そうか。じゃあ、先に入るか?」
「お主と一緒に入りたい」
「前々からそうだとは思っていたけど、お前って痴女なの?」
「痴女とは何じゃ。儂はお主と一緒に風呂に入って、チンコを見たりマンコを見せたりしたいだけじゃよ」
「この上なく痴女じゃないか。痴女以外の何者でもないじゃないか」
「なあ、良いじゃろ? 別に減るもんでもないのじゃから」
減るものではない。確かにそうかもしれない。ただ一緒に入浴するだけなのだから。家族と思ってしまえば、そこまで不思議なことではない。そうだ。小学生の妹を風呂に入れてやる高校生の兄と考えれば、そこまで変態的でもないのではないだろうか。
「仕方ない。一緒に風呂に入るか、面食い」
「いやっほおおおおおおお!」
面食いは喜ぶ。ここまで喜ぶことなのだろうか。ただ一緒に入浴するだけではないか。それとも、彼女は何かを狙っているのだろうか。しかし、そうだとしてもスベルにはどうしようもない。
人間如きに妖怪様の所業をどうにかできるはずはないだろう。
浦飯幽助如きに乱童様の所業をどうにかできるはずはないだろう。
否、それはどうにかできていたが、これは漫画ではない。ライトノベルだ。妖怪と戦う作品ではない。否、面食いを笑わせるか否かの戦いをしているのだから、これも妖怪と戦う作品で合っているのかもしれない。お後が宜しいようで。
スベルと面食いは風呂に入った。スベルは面食いの身体を洗ってやり、面食いはスベルの身体を洗わせてもらう。この言い方だとスベルの方が偉いようだが、面食いは心身共に幼女みたいなものであるために致し方ない。しかし、面食いの実年齢は恐らくスベルよりも上だ。それは口調や雰囲気などから読み取れる。しかし、やはり実年齢と精神年齢が噛み合っていないような気がする。
お婆さんがセイバーのコスプレをしてセイ婆と化しているような違和感がある。
お爺さんがベジータのモノマネをしてベ爺タと成っているような差異を感じる。
面食いは終始、スベルの股間に釘付けだった。
スベルは終始、面食いの裸体に釘付けだった。
女性は男性の股間のみに興味を持ち、
男性は女性の裸体全てに興味を持つ。
全てを包み込む度量の大きさ。
ストライクゾーンの広さ。
それこそが、男性というバッターの強さなのではないだろうか。
股間にバットを備えているだけに。
お後が、否、おちんちんが宜しいようで。
「言の葉は!」
「何を『君の名は!』みたいに言っとるんじゃ」
「君の名はばかり注目されて、言の葉はは全然注目されてないじゃないですか」
「君の名は効果で言の葉はも売れるかもしれんじゃろ」
「三の葉は!」
「三葉じゃろ!」
「君の名は三の葉はということは、言の葉はは誰の名前なんですか?」
「主の名じゃ。お後が宜しいようで」
「情弱アニメって何だよ。じゃあ情強アニメもあるのか? アニメに情報の強弱なんて関係あるのか? 情報に強くなりたいなら、アニメじゃなくてニュース番組でも観ろよ。馬鹿か」
「馬鹿じゃな。馬鹿としか言いようがない。ただ貶したいだけ、ただ悪態を吐きたいだけの馬鹿の戯言じゃよ。聞き流せ。受け流せ。そいつは全世界に恥を晒して興奮する変態野郎じゃ。ぽみしまれいとかいう三流大学生はな。今はぽみーか。いずれにせよネーミングセンスが死んでおるな。大丈夫か?」
「大丈夫な奴は情弱アニメなんて意味不明な言葉を造りませんよ。馬鹿です。キチガイです。ガイジです。ぽみしまれいは人間のクズです。今はぽみーか」
「カタイヒトにボコボコに殴られ、小説を書けなくなった弱者か。奴は情弱というよりも脆弱じゃな。お後が、否、お馬鹿が宜しいようで」
「はいむらさんの絵で、禁書を一から作り直してほしいなあ」
「結構大胆なことを言うのう。そんなにはいむらさんの絵が好きなのか?」
「好きっていうか、最近のラノベアニメはイラストレーターの絵を活かしていないことが多い気がするんだ。折角アニメになっても、自分の絵じゃないんだったら面白くないんじゃないかと」
「ほう。イラストレーターの心の問題か。しかし、それでもイラストレーターとしては嬉しいと思うぞ。知名度は上がるし、人気も上がる。それに、全く活かされんということはないじゃろ。禁書も原作の絵とは大分違うが、所々ではいむらさんらしさを出そうとしている気がする。ほれ、DVDボックスのイラストなどははいむらさんの書き下ろしじゃったりするじゃろ」
「確かにそうなんですが、俺ガイルもぽんかんさんだから良かったんじゃないですか。二期から完全に別物というか、禁書みたいになってましたし」
「制作会社の関係じゃな。まあ、二期の絵も一期の絵が活かされた結果なんじゃ。全く活かされないということはない。全く影響されないということはない。そもそも、自身の絵で書籍化されてるだけでも、イラストレーターにとっては嬉しいのではないか。アニメ化やゲーム化などは副産物に過ぎない。狙ってやるものではない。儂らは誰よりも何よりも面白い小説を書き上げる。それだけを志しておけばいい。結果は後から付いて来る」
「成る程。つまりこの作品も、最高最善最強を目指して書き続けていくという訳ですね」
「否、この作品はそこまで大層なことは考えなくていい。一次選考を通るか否かじゃ」
「目標小さくないですか?」
「まずはそこから乗り越えんと。一次選考もハードルじゃぞ」
「小さいハードルですね」
「忍者も初めは低い木を飛び越え、木の成長に伴い跳躍力を高めていったじゃろう。あれじゃよ」
「つまり作者も、まずは一次選考を通過することから始めるべきだと。先の長い話ですね」
「底の浅い話じゃがの。お後が宜しいようで」
スベルと面食いは風呂から上がった。夕食、入浴を済ませたために、後は眠くなるまで何かをすればいい。その何かというのは、
「ネタ作りするか」
スベルはお笑いのネタを作ることに決めた。ルーカはいないが、自身だけでも何か考えておくべきだ。恐らく、ルーカもそうしているはずだろう。面食いは「やるか!」とやや興奮気味に同調する。
彼女はお笑いが大好きだ。それゆえに、お笑いのネタを作ることも大好きなのだろう。スベルと面食いは、スベルの部屋へ向かった。彼の部屋は二階の奥にある。二人は階段を上り、そこへ向かう。着いた先は、本棚、観葉植物、パソコン、ベッドなどの設えてある一つの部屋だ。
「何か臭いな」
「男の部屋なんだから、仕方ないでしょ。まあ、適当にくつろいで下さい」
スベルはパソコンを起動させ、面食いは本棚から漫画を漁る。彼女はお笑いだけではなく、娯楽そのものが好きなようだ。彼女が手に取ったものは、「シオリエクスペリエンス」の1巻だった。シオリエクスペリエンスは、「キッドアイラック」の長田町田コンビによる漫画である。
ギターの神様と称されるジミヘンが、地味な女教師に憑りつくという物語だ。中々に攻めた内容であるために、作者本人も「映像化は難しい」と評している。しかし、面白さは抜群であり、まだ読んでいない方にはぜひ一読してもらいたいものだ。ギターやバンドに興味のない作者でもハマったのだから、専門的な知識がなくても楽しめることだろう。
しかも、最新9巻では意外なキャラにスポットが当てられているようであり、これまた見逃せない。秋になるのが楽しみだ。しかし、板尾はキッドアイラックを「三年以内に実写化させる」と宣言していたが、もう期限切れである。しかし、最近「菅田将暉を主演にしたい」と言っていたことから、まだ諦めてはいないようだ。
長田は作者が中学生の頃から憧れてきた人だ。中学生の頃、初めて「トト!」を読んだ時に魅了されたのである。この作品のイラストも長田に担当してもらいたいものだが、彼は多忙ゆえに難しいだろう。しかし、いずれは対談など出来たら嬉しい。それを糧に頑張ろう。
斯様なことを思いながら、スベルはワードを立ち上げるが、まるでネタが浮かばない。おかしい。長田のことならばここまで熱く語れたにも拘らず、お笑いのネタなどまるで浮かばないではないか。
というよりも、ネタの書き方が解らない。これはスベルとルーカが面食いを笑わせるためのものだ。つまり、漫才のネタである。父の影響で、M1のDVDは何度も見せられた。それゆえに、それがどういうものかは理解している。理解している上で、理解できない。
一体どうすれば漫才になるのだろうか。
全体どうすればネタになるのだろうか。
まず、ツッコミはスベル、ボケはルーカだ。ルーカが変なことを言い、それをスベルが指摘する。それが基本的なコンセプトだ。
しかし、一体斯くいうボケが良いのだろうか。
しかし、全体斯くいうツッコミが良いのだろうか。
そこでスベルは、自身がルーカのことを何も知らないことに気付く。パソコンの検索エンジンに掛けても、ウィキのページすら見当たらない。
ルーカとは何だろうか。
竜崎龍華とは誰だろうか。
考えれば考えるほどに泥沼へ嵌まる。嵌まった両足は動かすこともできず、胴体、両腕をも封じていく。胸元、首元までに達し、完全に身動きが取れなくなる。口元、鼻元まで泥に埋まれば、もう呼吸すらままならない。
為す術なく、目元、額、頭部までもが吸い込まれ、溺死していく。死体すら残らない。全ては闇に終わる。否、終わっても終わらない。斯様なところでは終われない。まだ32ページだ。あと48ページは書かなければ、オーバーラップ大賞に応募することはできない。それゆえに、ここが踏ん張りどころだ。ようやく中盤まで来た。
序盤という地盤を固め、
序盤という基礎を踏み、
ようやく中盤に差し掛かり、
基礎から応用に取り組める。
ここに来るまでは長かった。
ここに来るまでが長かった。
ようやく折り返しだ。
審査員の方は、駄文をここまで読んでくれて有難う。
作者は、駄文をここまで書き進められておめでとう。
ようやくだ。
ようやく来た。
ようやくである。
ようやく来たのだ。
ようやく来たのである。
ようやくここまで来たのだ。
ようやくここまで来たのである。
ようやくここまで来たのだ。
ようやく来たのである。
ようやく来たのだ。
ようやくである。
ようやく来た。
ようやくだ。
パンツみたいな形になり興奮するが、夢と股間を膨らませている場合ではない。スベルは今ネタ作りをしている。スベルのピンのネタならば、エログロの加減などが解るのだが、相方であるルーカは女子だ。うら若き女子高生だ。恐らく、パンツだの股間が膨らむだの、そういうネタはNGだろう。否、待て。それならば、逆にそうすればいいのではないだろうか。
「閃いたぜ、面食い」
「ふぇら? ルーカのパンツを見る方法か?」
「それも大事だが、もっと大事なことだ。俺はルーカの外面しか知らない。だから、内面を暴き出す」
「成る程。ルーカの衣服を奪い取り、裸体を鑑賞すると」
「惜しいが違う。裸体なんかより、もっと見えづらいところを見させてもらう」
「内蔵か?」
「違う」
「膣内か?」
「違う。まあ、見ていてくれ」
「やれやれ。オーバーラップの審査員が引かないレベルに抑えておけよ」
「ああ」
スベルは思い付いたネタを書き上げる。それを一階の印刷機でプリントアウトし、鞄の中に仕舞っておく。これを明日の学校でルーカに見せる。スベルは彼女の反応が今から楽しみだった。夜のせいか、股間が膨張してしまうが、面食いがいるために抜くに抜けなかった。
そして、スベルと面食いは一人用のベッドに二人で並んで寝る。男子高校生と女子小学生(見た目)という犯罪的な組み合わせだが、兄妹と考えれば問題はないだろう。それよりも、兄と妹が恋愛する小説は気持ち悪すぎるためにどうにかしてほしいものだ。
作者が妹に対するコンプレックスを抱くのは勝手だが、実際に妹がいる者にとっては不快でしかない。まあ、そういう叩きを考慮した上で書いているのだろう。そして、今の少子化の時代では正解かもしれない。
今時では、妹のいる男性というものは貴重かもしれない。ライトノベルとは青少年に夢を与えるものだ。それゆえに、妹のいない者に妹の素晴らしさを教えることは間違っていないかもしれない。しかし、だからといって兄と妹を恋愛っさせるというものは、ライトノベルということを差し引いても気持ち悪さが沈殿する。
妹とセックスするのだろうか。
妹と結婚するのだろうか。
否、するのだろう。
本当にしそうだからこそアウトローなのだ。
本当にしそうだからこそアブノーマルなのだ。
近親相姦などはしてはならない。
近親相姦などはするべきではない。
それを助長することも駄目だ。
それを喧伝することも駄目だ。
エロマンガ先生は駄目だ。
妹さえいればいいは駄目だ。
伏見つかさは駄目だ。
平坂読は駄目だ。
しかし、駄目ながらに良いところもある。
しかし、屑ながらに光るところもある。
それゆえの人気だ。
それゆえの支持だ。
この作品には人気も支持もない。当然だ。この作品は作者とオーバーラップの審査員しか知らないのだから。そして、審査員の君もどうせ一次選考で落とすのだから、君以外の誰に読まれることもないだろう。いくら作中でこの作品を持ち上げたところで、君が一次選考を通さないことは知っている。
そちらは作品を読んでいるのだろうが、作者は君のパターンを読んでいる。君は作者を高みから見下ろしているつもりだろうが、実際には作者は君を高みから見下ろしている。君は本当にこの作品の良いところと悪いところを理解しているのだろうか。半端な審査をした場合は裁判を起こすために、そのつもりで頑張って読んでほしい。
そちらも必死かもしれないが、こちらは就職している君よりも百倍必死なのだ。それゆえに、少しは考慮して頂きたいものである。落とすだけでは芸がない。予知しよう。君はこの作品に1か2しか付けず、一次選考を通さないと。こういうところをマイナスポイントにすると。
当たっていたらおまけとして一次選考を通して頂きたいものだ。まだ姦通していないのだ。穢れを知らないのだ。一次選考という処女膜を破り、最高の快感を覚えさせて頂きたいものである。処女の一発を。はじめの一歩を。プロボクサーではなくプロ作家にさせてほしい。マガジンではなくオーバーラップで働きたい。お後が、否、オーバーラップが宜しいようで。
「作者の母が『一緒くた』を『一緒くたん』って言うんだけど」
「まあ、そういう言い間違いはよくあることじゃよ。次言った時に正してやれ。それよりも、『肉汁』を『にくじる』と読む奴は何なんじゃろな。『にくじゅう』じゃろ。墨汁や果汁を『ぼくじる』や『かじる』とは読まんじゃろうに」
「ところで、ぽみしまれいとかいうキモオタクは、プリウスに轢かれて死んだんでしたっけ? 今はぽみーか」
「まだ生きとるぞ。チキン野郎に自殺する勇気などないじゃろ。あいつは一生誰からも愛されずに、何の功績も残せずに朽ち果てるだけじゃ。ゴミのような一生じゃな。一笑に付す。お後が、否、お馬鹿が宜しいようで」
「ああん! スベルの特別なスープを頂戴してしまった! あったかいんじゃからああああああああああああああああああああ!」
「クマムシはもう古い!」
スベルは面食いの寝言にツッコミを入れる。どうやら彼女は、スベルに凌辱された夢を見ているようだが、そんな気など毛頭ない彼にとっては濡れ衣もいいところだ。否、まあ衣は濡れてしまったのだが。精液によって。誰のかは言うまでもないだろう。そう、スベルは夢精してしまったのだ。
それは恐らく、昨日抜けなかったこと、エロいネタを書いていたことのダブルコンボがクリティカルヒットしてしまったのだろう。無理もない。スベルは高校一年生だ。多感な時期ゆえにそういうこともあるだろう。しかし、面食いが寝ていることは不幸中の幸いといえる。
今の内に証拠隠滅してしまおう。まずは濡れたところの確認だ。スベルのパンツ、ズボン、後は布団にも少し掛かってしまった。パンツとズボンは着替えればいいだけだ。布団は洗濯する必要がある。親や兄にバレるのは恥ずかしいが致し方ない。洗濯しないで放っておくと、汚く臭くなってしまい、それはそれで羞恥する羽目となる。
それゆえに、今の内に済ませておくのだ。洗うは一時の恥だが、洗わずは暫くの恥である。そんな言葉はないが。今生まれたが。スベルは一階の茶の間にて、パンツとズボンを着替える。そして、汚れた布団を洗濯籠に入れておく。後は母が洗濯してくれることだろう。
男であるスベルは、洗濯の仕方がよく解っていない。まあ、作者もよく解っていないようだし、問題はないのだろう。さて、これで問題は解決した。スベルは自室に戻ろうとするが、肝心なことを忘れていた。中々の量の精液だったが、面食いには掛からなかっただろうか。
否、掛かっても挿入している訳ではないのだから妊娠はしないだろうが、それにしても掛かっていてほしくない。もし面食いの身体や衣服に精液がこびりついていた場合、それをネタに揶揄われたり、距離を置かれてしまう恐れがある。それはまずい。スベルは素早く自室に戻るが、遅かった。
「おはよう、スベル。いやあ、いい朝じゃなあ。む、何じゃこの臭いは? 儂の体臭か? それにしては妙にイカ臭い。昨日はラーメンを。ラーメンといえば、これはさながらザーメ」
「ふぇらあああああああああああああ!」
スベルは面食いが真相へ行き着く前に止める。しかし、彼にザ・ワールドのような素敵な能力は備わっていない。せいぜい滑って場を統べる程度の能力者だ。スベルなだけに。お後が、否、お滑りが宜しいようで。
「正直、サクラクエストより、この小説の方が面白いよな」
「そうじゃな」
「よお、面食い。ヘヴィーオブジェクトの最終巻読んだ?」
「否、読んでないし出とらんじゃろうが。何をフライングゲットしておる。何をタイムスリップしておる」
「最後、クウェンサーがオブジェクトになって世界が平和になるんだよ」
「何じゃそのガンツみたいなオチは。定番すぎるじゃろう。主人公人柱エンドかよ」
「あったけえな、オブジェクトの中」
「それはHOではなくGTじゃろ。むしろHOGTじゃろ」
「クウェンサーがいたから楽しかった。ドジで明るくて、優しくて。そんなクウェンサーがみんな大好きだったから。これでヘヴィーオジェクトのお話はおしまい」
「勝手に終わらせるな! あやつらの戦争はまだ始まったばかりじゃ! お後が宜しいようで」
「ライトノベルで絵しか見ない奴は、漫画でも絵しか見ないんだろうな」
「そうじゃな。ラーメンでも麺しか食わないんじゃろうな。メンマもナルトも美味しいのに」
「漫画で絵しか見ない奴は、ナルトでナルトしか見ないんだろうな」
「ナルトもナルトしか見ないじゃろうな。『ナルト』は『ナル』シス『ト』じゃからのう。お後が、否、お味が宜しいようで」
しおりを挟む 「ふぇら?」
スベルこと帝倉滑(みかぐらすべる)は、
ルーカこと竜崎(りゅうざき)龍(りゅう)華(か)に、
奇妙な告白をされた。
告白と言っていいのか判らないが、
兎にも角にも豚の角煮も奇妙だった。
今は放課後だ。
ここは教室だ。
クラスメイトは忍者の様な速度で、帰宅なり部活なりに消えていった。それゆえに、現在はこの二人しか残っていない。
無人の教室ではなく、
二人の教室である。
暗殺教室ではなく、
漫才教室である。
スベルの素っ頓狂な返事などはそっちのけで、ルーカは自身の話を進めていく。しかし、無表情な少女だ。まるでてんで、感情が読み取れない。恐らく、某メンタリストでも難しいのではないだろうか。彼女は黒髪ショートに切れ長な目、出る所は出ているという派手な容姿の持ち主だ。対して、スベルは黒髪に中肉中背という地味な容姿の持ち主である。
「じゃあ、私がボケで貴男がツッコミね」
「いやいや、勝手に話を進めないでよ!」
「コンビ名は『常夏上等!』ね」
「いやいや、ダサいし組まないから!」
「じゃあ、『熟睡上等!』?」
「いやいや、『隈無い』じゃなくて『組まない』だから! 幼女と妖女くらいに違うから!」
ルーカのボケにひたすらツッコむスベルだが、
「む? 呼んだか?」
ツッコむ方向を誤ったようだ。
返事をした者は、全裸に白い翼を生やした、白髪ロングの幼女だ。否、幼女というよりは妖幼女といったところだろうか。
「呼んでないよ! 誰だ貴女は! 貴女は誰だ!」
妖幼女は無い胸を張り、自己紹介を始める。
「儂は『面食い』という名の妖怪でな。そこのルーカの表情を食らった」
「ルーだって?」
「ルーじゃなくナンじゃろ。ボケる余裕はあるようじゃな。まあ、斯様な訳で、ルーカの表情を取り戻したくば、お主に契約を結んでもらおう」
「契約?」
スベルは聞き慣れない単語に眉を顰める。しかし、斯様な彼の心情を察してか否か、面食いは先を続ける。
「契約の内容は、お笑いのネタを百個用意すること。その百個を儂の前で披露し、儂が一度でも笑えればお主らの勝ち。笑えなければ儂の勝ち。儂が勝った場合はお主ら二人の命を頂く。お主らが勝った場合はルーカの表情を返そう。差し詰め、『ハンドレッド契約』といったところか」
ハンドレッドと聞き、某失敗アニメを彷彿としたスベルだが、すぐに思考を切り替える。誰もあれの話はしていないし、斯様な話をしている場合ではない。まさか、ルーカが斯様な事情を抱え込んでいたとは。確かに、お笑い好きを公言している割には笑わない変な子だとは思っていたが。
「い、いや、でもそれって、俺じゃなくても良いんじゃ」
「ふむ。まあ、確かにお主ではなくても良いんじゃが」
良いのかよ。とスベルは心中でツッコむが、面食いの続く言葉に度肝を抜かれる。
「お主が断ったら、ルーカは転校しなければならなくなる」
言葉を失った。
失言。
笑いが止まった。
笑止。
「ふぇら? それって、どういう?」
「ふうむ。ここの学校の、お主以外の全ての者に今と同じ話を持ち掛けた。結果は全滅。皆、同情はしても同行はしない。同じ情けを受けても、同じ道を行こうとはしない。ルーカは孤独じゃ。
独楽は独りで楽しむと書くが、ルーカはその独楽じゃな。一人で回転して楽しんでおる。一人で空回りして楽しんでおる。しかし、独楽は二つないと勝負はできない。お主はルーカと勝負する覚悟はあるか? ルーカと回転する覚悟はあるか? ルーカと遊ぶ覚悟はあるか? ルーカと楽しむ覚悟はあるか?」
スベルは面食いの言葉に面食らう。転校と軽々しく言うが、それはクラスメイトとしては非常に寂しい。また、スベルはルーカのような女子と話すことができて嬉しかった。できることならば、この嬉しさをずっと味わっていたい。この楽しさを二人で共有したい。独りで楽しむのが独楽ならば、二人で楽しむのは勝負独楽だ。
スベルは勝負などしたことがない。一つ上の兄はサッカー部で勝負三昧だろうが、スベルは兄とは違う。そもそも、勝負に向いている性格をしていない。しかし、だからといってクラスメイトの危機を知り、黙っていられるほどに腰抜けではない。確かに独りでは心許ない。しかし、漫才とは二人でやるものだ。そう、お笑いならば相方がいる。
ルーカが相方ならば、斯様な勝負も受けて立てる。
ルーカが相方ならば、斯様な試練も乗り越えられる。
「やるよ、面食い。俺は竜崎さんと一緒に、お笑いのネタを百個作り出す」
「帝倉君」
ルーカはスベルの誠意に心から感謝する。しかし、表情は変わらない。差し詰め、「一面相」といったところだろうか。
しかし、これからだ。
しかし、ここからだ。
スベルはルーカの表情を取り戻す。
ルーカはスベルとネタを作る。
恐らく、お笑いのネタを百個作るということは、想像以上に難しいことだろう。しかし、二人ならば不可能ではない。斯様な根拠のない自信が湧出するほどに、その時のスベルは舞い上がっていた。自身が大いなる決断を下してしまったことに気付く頃には、もう取り返しの付かないことになっていると知らずに。
「宜しい。では、スベル、ルーカ。お主らとハンドレッド契約を結ぼう」
これから始まるものは、
百の物語を作るための、
一つの物語だ。
百聞は一見に如かず。
一面相による百物語の開幕だ。
お後が宜しいようで。
「宜しい。では、スベル、ルーカ。お主らとハンドレッド契約を結ぼう」
面食いはそう言うが、スベルは半信半疑だ。
半分信じ、
半分疑っている。
確かにルーカは無表情だ。しかし、無表情だからといって、表情を食われたためだとは思わない。さらに、面食いとは言うが、普通の幼女にしか見えない。妖怪というのならば、妖術の一つでも使ってほしいものだ。
スベルはその旨を二人に伝える。そうすると、面食いは動く。彼女は先程まで机に尻を乗っけており、机が汚れていないか心配だった。しかし、彼女が机から降りても、机は綺麗なままだ。
「机の臭いを嗅いでみい」
スベルは嗅いでみるが、無臭だ。何の臭いも無い。
「これが妖術じゃよ」
「これがメンタリズムです」みたいに言い切られてしまった。
何処のメンタリストだろうか。
「解ったか? これが面食いが妖怪たるゆえん!」
「いや、ちょっと弱くないか? お尻を綺麗に拭いていただけかもしれないじゃないか!」
「儂は尻を拭かんタイプじゃ!」
「それはそれで問題だろ! タイプとかじゃないから!」
「君は尻を拭くタイプのフレンズなのかい?」
「尻を拭かない奴はフレンズですらないよ! フカンズだよ! お後が宜しいようで!」
スベルは面食いとの漫才に一区切りをつける。
「ほう、なかなかのツッコミじゃな。面白かったぞ。またやろう」
「くそ、ツッコミキャラが定着してきた! ボケにも興味があったのに! 面食いや竜崎さんがボケ倒してくるばっかりに!」
スベルは肩を落とす。しかし、そこでまだ問題は解消されていないことを想起する。
「いや、でも、今のだけじゃ面食いが妖怪なんて解らないよ! もっと何か無いのか?」
「ふうむ、そうさなあ。では、お主の表情を食らってみるか?」
「嫌だよ!」
「ルーカと一緒になれるぞ?」
「い、嫌だよ!」
「今少し考えたじゃろ。全く、ルーカ大好きじゃなお主。目の前に斯様なに可愛い幼女がいるというのに」
「だ、大好きじゃないよ!」
スベルは張本人(ルーカ)のいる場では、彼女への好意を否定しておくべきだと判断した。
「嫌いなの?」
「大好きだよ!」
しかし、ルーカにしおらしい態度を取られてしまうと、スベルは本音を吐露する他ない。
「おー、おー。早くもカップル成立かあ?」
「カップルじゃないよ!」
「カップルじゃないの?」
「カップルだよ!」
最早、トリオ漫才のようになってしまった。
最早、三人でネタを作った方が良いのではないだろうか。
「いや、トリオでは駄目じゃ。漫才はコンビが一番面白いというのが相場でな。さらに、儂は笑わせる側ではなく、笑う側でいたい。それゆえに、協力することはできんな。そもそもが儂を笑わせられるか否かという契約なのに、儂がネタを作っては意味が無いじゃろ?」
一応、筋は通っている。やはり、スベルはルーカと二人でネタを作る他ない。
「あのう、話を戻しますが、貴女は本当に妖怪なのですか?」
「まあ、確かにまだ妖怪らしいことはしとらんかったな。とはいえ、面を食らうのが駄目じゃとなるとなあ。まあ、あれでいいか」
面食いは机の上に立ち、そこで屈み込む。
「ふぇらああああああああああああああああ!」
面食いは踏ん張る。斯くして、尻から例のあれを捻り出す。机の上には、面食い産のカリントウがことりと置かれた。
「これだけではない」
これだけではないのかよ。とスベルは心中にてツッコむが、その次の事象に瞠目する。何と、カリントウが皆の机の上に置かれていた。差し詰め、「カリ分身」といったところだろうか。何という神秘的な光景だろうか。カリ雪だ。カリと雪の女王だ。
「ありのままの~、姿見せるぞよ~」
確かにありのままの姿だ。
「少しも寒くないぞ!」
否、時期外れゆえか、少し寒い。しかし、これで確定したことがある。面食いは少なくとも人間ではない。人外だ。恐らく、彼女は本物である。嘘は言っていなかったのだ。半信半疑だったが、今のを見て九分九厘信用することができそうだ。まあ、それでも一厘の疑念は捨て切れないが。
「これが妖術じゃよ」
「メンタリズムというよりはベンザリズムだけどね。ダイゴというよりはダイベンだけどね。お後が宜しいようで」
「誰がカリフラじゃ!」
「言ってませんよ!」
「儂がカリフラじゃ!」
「何の宣言ですか!」
「じゃあ、私は筋斗雲ね」
「乗っからなくていいから! 乗っかっていいの?」
「筋斗雲よーい」
「キュイーン、キュキュキュ」
「カリフラが使うのかよ!」
「棒よ、伸びろおおおおおおおおお!」
「俺、如意棒かよ! 確かに伸縮自在の棒は持ってるけど! お後が宜しいようで」
閑散とした教室に、三人はいる。段々と日が暮れてきており、徐々に暗くなってきている頃合いだ。妖怪である面食いは、人間であるスベルやルーカへ話し掛ける。否、語り掛けるの方が正しいかもしれない。
「昔、『エンタの神様』というお笑い番組で、『カンニング』という芸人コンビが『観客の前でウンコをする』、という芸を披露したことがあったじゃろ。まあ、あれは未遂に終わったようじゃがな。儂の場合は実際にそれを行い、妖怪の力で応用させたのじゃ。
二番煎じではあるが、被ってはいないと思う。儂は面食い。笑顔という素敵な面を生み出すお笑いが大好きじゃ。斯くして、それを食らうのもな。もっと楽しませてくれ。それこそ、『エンタの神様』になれるくらいに」
「エンタの神様」は、お笑い専門のテレビ番組だ。あらゆる芸人がネタを披露する場である。しかし、「エンタの神様」とは観るもの出るものであり、なるものではないと思うのだが。一体、面食いは何を言っているのだろうか。
スベルには理解できない。また、面食いは理解できないことを前提に話しているようにも思える。意地が悪い。食えない妖怪だ。面食いは食える妖怪だが。お後が宜しいようで。
「何だあああああああ! この様はああああああ!」
本田(ほんだ)ヒロコは絶叫する。何故なら、自身の教室に戻って来たら、皆の机の上にカリントウが置かれていたのだから。触ってみると生温かいことから、事件が起きてから斯様なに経っていないことが窺える。事件現場にいた容疑者は、
何を考えているか解らない竜崎龍華。
何で生きているか解らない帝倉滑。
この二人だ。ヒロコには、妖怪である面食いの姿は認知できない。それゆえに、本来ならば迷宮入りの事件を推理している訳だ。しかし、ルーカに斯様なことができるとは思えない。よって、犯人は彼だと結論付ける。
「犯人は帝倉君、貴男ね!」
ヒロコは漫画の探偵のように、格好良くポーズを決める。しかし、スベルとしては濡れ衣もいいところだ。むしろ、真犯人(めんくい)の尻を濡れ衣で拭いたいほどである。
「いや、俺じゃないよ」
「じゃあ、竜崎さん、貴女ね!」
「殺すよ?」
「じゃあ、帝倉君、貴男ね!」
「犯すよ?」
「貴方達は別件で逮捕されそうね! 殺人と強姦の罪で!」
「誰がバンだ!」
「強欲の罪なんて誰も言ってないんだけど!」
スベルとルーカのボケに、ヒロコは何とかツッコむ。この二人のボケは強烈すぎて、お笑い素人であるヒロコには付いて行くのがやっとだ。
「じゃあ聞くけど! このウン、カリントウは、貴方達が来る前に既に?」
「いや、俺達はずっとここにいたけど」
「じゃあ、犯行を目撃したのね!」
「したけど」
「犯人は?」
「面食い」
スベルはヒロコへ真実を告げる。しかし、当のヒロコはきょとんとしている。
「面食いって、イケメン大好きな女子ってこと?」
「ん、イケメンはどうだろ。お笑いは大好きみたいだけど」
「その子の名前は?」
「知らない。面食いとしか」
「面食いは名前じゃないでしょ」
「今度聞いてみるよ」
「友達なの?」
「ん、さっき会ったばかりだけど、友達といえば友達かな」
「それって、共犯なんじゃ?」
「いや、あいつ一人でヤってたから、俺らはただの傍観者だな」
「どういう子なの?」
「白髪ロングに全裸の翼が生えてる幼女」
「斯様な子いる訳ないでしょ!」
「いや、いるんだって」
「どこに!」
「そこに」
スベルは面食いのいる方を指差すが、ヒロコには何も見えない。
「幽霊?」
「妖怪」
「マジ?」
「マジ」
「ウンチの妖怪?」
「まあ、斯様なとこかな」
「おい、斯様なとこじゃないじゃろ。儂の渾名が『ウン子』になったらどうするんじゃ。可愛さ半減じゃろ」
「可愛さはゼロだから大丈夫だよ」
「誰と話してるの?」
「面食い」
「ガチ?」
「ガチ」
ヒロコには意味が解らなかった。面食いとは何だろうか。妖怪とは本当にいるのだろうか。スベルは嘘を吐いていないのだろうか。スベルには何が見えているのだろうか。
「そうだ。竜崎さん、貴女は何か見なかった?」
「いちごパンツ」
「私のパンツの柄を大発表しなくていいから!」
「果汁で黄ばんでた」
「私のパンツの状態を説明しなくていいから!」
ヒロコは呆れる。どうやら、ルーカと話しても埒が明かないようだ。不埒なだけに。お後が宜しいようで。
現在、教室には三人の生徒と一人の妖怪がいる。妖怪を一人と称していいのかは判らないが、一匹というのもあれだろう。一人の生徒は二人の生徒を疑っている。二人の生徒は無罪を主張している。真犯人である一人の妖怪は、傍観を決め込んでいる。一人の生徒には一人の妖怪を見ることができない。それゆえに、堂々巡りとなっている。
「だから、貴方達二人しかいなかったんでしょ!」
「うん」
「じゃあ、貴方達二人のどちらか、あるいは両方が犯人でしょ!」
「いや、違う」
「どう違うのよ! また面食いがどうのとか言うの? 妖怪ウォッチの見過ぎよ!」
「妖怪ウォッチをディスるのはやめろ!」
「貴方達をディスってるのよ!」
「シコってくれてたの?」
「誰も斯様なこと言ってないから! 何でちょっと嬉しそうなの?」
「パコってくれてたの?」
「誰も斯様なこと言ってないから! 何でちょっと嬉しそうなの?」
三人の生徒はトリオ漫才を展開する。そこで一人の妖怪が動く。
「やれやれ。このままでは、いつまで経っても帰れそうにないな。仕方ない。妖術を使うか。ドーン!」
一人の妖怪は一人の生徒に妖術を掛けた。それにより、一人の生徒の様子が急変する。
「ふぇらああああああああああ!」
一人の生徒は催眠にでも掛けられたように、ふらふらとした足取りで机の前に着く。斯くして、机の上のカリントウを見詰める。
一体、何を考えているのだろうか。
全体、何をするつもりなのだろうか。
一人の生徒は、あろうことかカリントウを手に取り、小さい口を大きく開いてそこに入れる。斯くして、もぐもぐと咀嚼し、ごくんと嚥下していく。一人の生徒はそれを繰り返していった。
この教室の生徒は三〇人近くいることから、カリントウは三〇個近くある。一人の生徒は一個では飽き足らず、二個、三個と再現なく食す。それを見た二人の生徒と一人の妖怪は、「今ならば逃げ出せる」と思い、教室を後にした。
「いやあ、本田には驚かされたなあ。まさか、面食いのカリントウを、あんなに美味しそうに食べるとはな」
「まるで儂のカリントウが不味いみたいな言い草じゃな」
「美味いの?」
「美味い」
本当だろうか。スベルは面食いを訝しむ。まあ、人間と妖怪は違うし、もしかしたら妖怪のそれは美味なのかもしれないが。しかし、それでも排泄物には変わりない。それを嬉々として食すようになっては、人間失格だろう。
その理屈で言うと、本田もそういうことになってしまうが、あれはどうやら面食いの妖術のようだ。それゆえに、本田は被害者といえるだろう。哀れだ。
「私も食べたい」
「今度な」
食べたいのかよ。良いのかよ。色々とツッコみたくなるスベルだが、今日はもう疲れた。早く家に帰って癒されたいところだ。因みに今はもう帰路に就いている。ルーカは家が近いということもあり、帰る方向も同じなのだ。それゆえに、斯くして一緒に下校できている。
「そういえば、面食いは俺と竜崎さん、どっちの家に行くんだ?」
「む? 泊めてくれるのか?」
「いや、一応は契約を結んでる仲だし、友達だからさ」
「お主は良い奴じゃのう。メダルをやろう」
「これ、一円玉じゃないですか」
「一つの縁で結ばれておるからのう」
「ご縁があるから、で五円玉で良かったんじゃ」
「まあ、それがあればいつでも儂を呼べるぞよ。妖力を混ぜておいたからのう」
「ふうん」
スベルにはよく解らないが、そういうことなら大事にしようと思い、財布ではなくポケットに仕舞っておく。財布に入れると他の小銭と混ざってしまうためだ。ポケットだと無くしてしまう恐れや、忘れてしまう恐れがあるが、取り敢えずはここだ。片付ける場所に関しては、後でじっくりと検討するとしよう。これは貴重な一品だ。
「で、話を戻すけど、面食いはどっちの家が良い?」
「んー、どっちの家も行ったことがないからのう。取り敢えず、今日はスベルの家にするかのう」
「そうか」
スベルと面食いは交渉を成立する。妖怪を家に泊めるなど前代未聞だが、彼女の場合は問題ないような気がする。それは、彼女があまり妖怪らしくないためだろうか。それとも、スベルが彼女を信頼しているためだろうか。
恐らく、その答えを知るには、もう少し時間が掛かることだろう。それこそ、妖怪ウォッチの針を何周も回転させなければならないほどに。お後が宜しいようで。
スベルは面食いと自宅まで来た。ルーカとは途中で別れてしまった。まあ、いくら運命共同体とはいえ、いきなり家に招き入れることなどできないだろう。
男子的にも女子的にも、
倫理的にも道徳的にも問題がある。
否、もはや色々と問題を乗り越えてきた感はあるが。しかし、だからといって、わざわざ自身らから道を踏み外す必要はない。
事の成り行きでそうなるのと、
自発的にそうなるのでは話は変わってくる。
事故でそうなるのと、
故意でそうなるのでは話は変わってくる。
作為でそうなるのと、
無作為でそうなるのでは話は変わってくる。
造作でそうなるのと、
無造作でそうなるのでは話は変わってくる。
善意でそうなるのと、
悪意でそうなるのでは話は変わってくる。
それゆえの判断だ。
それゆえの決断だ。
それゆえの判定だ。
それゆえの決定だ。
判れば決める。
決めれば判る。
読めば判るが、
読まなければ判らない。
昔、「読めば解る」という帯の付いた漫画を読んだことがあったが、
読んでも解らなかった。
内容が、ではない。
面白さが、である。
恐らく、面白さが人間の理解を超えてしまったのだろう。
亜人なだけに。
お後が宜しいようで。
「亜人をディスるな!」
「亜人をディスらないよ!」
「亜人に謝れ!」
「亜人に謝らないよ!」
「亜人になれ!」
「亜人にならないよ!」
「亜人に殺されろ!」
「亜人に殺されないよ!」
「亜人を殺すな!」
「亜人を殺さないよ!」
「亜人を殺せ!」
「亜人を殺さないよ!」
「亜人に出ろ!」
「亜人に出ないよ!」
「亜人を出せ!」
「亜人を出さないよ!」
「亜人の尻を揉め!」
「亜人の尻は揉まないよ!」
「亜人の胸を揉め!」
「亜人の胸は揉まないよ!」
「亜人のマンコに指突っ込め!」
「亜人のマンコに指突っ込まないよ!」
「亜人をイカせろ!」
「亜人はイカせないよ!」
「亜人と語れ!」
「亜人と語らないよ!」
「亜人の開きを食え!」
「亜人の開きを食わないよ!」
「亜人に子種を託せ!」
「亜人に子種を託さないよ!」
「亜人にラッキースケベしろ!」
「亜人にラッキースケベしないよ!」
「亜人を朝ドラにしろ!」
「亜人を朝ドラにしないよ!」
「亜人にアヘ顔ピースさせろ!」
「亜人にアヘ顔ピースさせないよ!」
「亜人と握手しろ!」
「亜人と握手しないよ!」
「亜人のサインを貰え!」
「亜人のサインを貰わないよ!」
「亜人の乳首をコリコリしろ!」
「亜人の乳首をコリコリしないよ!」
「亜人とキスしろ!」
「亜人とキスしないよ!」
「亜人のスカート捲れ!」
「亜人のスカート捲らないよ!」
「亜人のパンツをずり下ろせ!」
「亜人のパンツをずり下ろさないよ!」
「亜人のリコーダー舐めろ!」
「亜人のリコーダー舐めないよ!」
「亜人の遊戯王カード盗め!」
「亜人の遊戯王カード盗まないよ!」
「亜人の靴隠せ!」
「亜人の靴隠さないよ!」
「亜人の椅子に顔を擦りつけろ!」
「亜人の椅子に顔を擦りつけないよ!」
「亜人の机に尻を置け!」
「亜人の机に尻を置かないよ!」
「亜人のランドセルを男子トイレに持ってけ!」
「亜人のランドセルを男子トイレに持ってかないよ!」
「亜人の自転車の鍵を捨てろ!」
「亜人の自転車の鍵を捨てないよ!」
「亜人のメロンパンをトイレに流せ!」
「亜人のメロンパンをトイレに流さないよ!」
「亜人に借りた金を返すな!」
「亜人に借りた金を返すよ!」
「亜人に借りた漫画を返すな!」
「亜人に借りた漫画を返すよ!」
「亜人の試験勉強を邪魔しろ!」
「亜人の試験勉強を邪魔しないよ!」
「亜人の家に行って、亜人抜きで楽しめ!」
「亜人の家に行って、亜人抜きで楽しめないよ!」
「亜人に今までの『無礼・非礼・失礼』を詫びるな!」
「亜人に今までの『無礼・非礼・失礼』を詫びるよ!」
「亜人って何だっけ?」
「読めば解る。お後が宜しいようで」
スベルは合鍵を使い、ドアのロックを外す。インターフォンを使わない理由は、恐らく誰もいないためだ。サッカー部の兄は練習で遅くなるだろうし、両親はまだ仕事中だろう。そのために、普段から持ち歩いているそれを取り出したという訳である。
スベルと面食いは中へ入る。当然ながら、「ただいま」も「お邪魔します」も言わない。面食いの姿は他の人間には見えないし、見えたとしても今はいないのだから。しかし、妖怪を見える人間というものはマイノリティだろう。
それを言うと、スベルはある意味では「天才」なのだろうか。しかし、面食いは「自惚れるな、スベル。儂がお主には見えるように『設定』しとるだけであって、お主が妖怪を見る才能があるとかそういうのではない」と辛口のコメントを寄せる。やはり、スベルも他の人間と変わらない。
凡人なのだろう。
常人なのだろう。
普通なのだろう。
普遍なのだろう。
通常なのだろう。
一般なのだろう。
常識なのだろう。
標準なのだろう。
モブなのだろう。
普遍的なのだろう。
常識的なのだろう。
一般的なのだろう。
標準的なのだろう。
常識人なのだろう。
一般人なのだろう。
路傍の石なのだろう。
ノーマルなのだろう。
エキストラなのだろう。
マジョリティなのだろう。
スタンダードなのだろう。
オートドックスなのだろう。
しかし、主人公だ。
しかし、主人公である。
しかし、主人公となった。
しかし、主人公になれた。
しかし、主人公となったのだ。
しかし、主人公になれたのだ。
しかし、主人公となったのである。
しかし、主人公になれたのである。
しかし、主人公の座を勝ち取った。
しかし、主人公の座を勝ち取れた。
しかし、主人公の座を勝ち取ったのだ。
しかし、主人公の座を勝ち取れたのだ。
しかし、主人公の座を勝ち取ったのである。
しかし、主人公の座を勝ち取れたのである。
主人公になれる者など一握りだ。
主人公になれた者など一握りだ。
主人公になった者など一握りだ。
主人公になれることは誇っていい。
主人公になれたことは誇っていい。
主人公になったことは誇っていい。
主人公になれることは誇っていいのだ。
主人公になれたことは誇っていいのだ。
主人公になったことは誇っていいのだ。
主人公になれることは誇っていいのである。
主人公になれたことは誇っていいのである。
主人公になったことは誇っていいのである。
主人公になれることは胸を張っていいことだ。
主人公になれたことは胸を張っていいことだ。
主人公になったことは胸を張っていいことだ。
主人公になれることは胸を張っていいことである。
主人公になれたことは胸を張っていいことである。
主人公になったことは胸を張っていいことである。
脇役がいなければドラマはつまらないが、
主人公がいなければドラマにはならないのだから。
しかし、主人公がいたからといってドラマになる訳ではない。
もしそうならば、この作品もドラマになっているはずだろう。
しかし、ドラマ化の予定はない。
脇役がいても、
主人公がいても、
面白くなければドラマにはならないのだから。
さて、帰ったことだし、ドラマでも観るとしよう。
スベルはそう思い、リビングのテレビを点けるのだった。
お後が宜しいようで。
Ah アクセルしようぜ ワールド Oh Oh
人並み外れた速さで 疾走(はし)りたいから
Ah アクセルしようぜ ワールド Oh Oh
町並み外れた所へ 進撃(すす)みたいから
Ah アクセルしようぜ ワールド Oh Oh
スベルは面食いとアクセルワールドの実写ドラマを観ていた。
まさか、ハルユキ役が加藤諒とは驚きだ。
よもや、黒雪姫役が橋本環奈とは愕きだ。
まさか、タクム役が山崎賢人とは驚きだ。
よもや、チユリ役が広瀬すずとは愕きだ。
キャスティングに色々と無理がある気はするが、そういうところがB級作品らしくてAWの作風とマッチしていた。川原礫に謝れ。すみません。「謝って済むのならば警察は要らない」というものは常套句だが、謝らないよりは謝った方が良いに決まっている。それで相手の気が楽になる面もあるのだから。
勿論、謝罪だけで足りない場合は、それ相応の代価を支払う必要があるだろう。そもそも、謝らなければならないようなことをするべきではない。謝らなければならないようなことをすること自体が誤っているのだ。お後が宜しいようで。
「いや、宜しくないじゃろ。いやあ、良いドラマじゃったなあ。まさか能美征二役が本郷奏多とはなあ」
「本郷君はさすがの演技でしたね。俺としては黒雪姫の衣装が際どすぎて興奮しました。橋本環奈ちゃんエロいなあ」
「うわあ、お主もう斉木を真っ直ぐな目で見れんな。見る度に勃起するじゃろ」
「それが良いんじゃないですか! 逆転裁判4のヒロインの名前は?」
「知らん。圭介か?」
「みぬき(見抜き)ですよ。お後が宜しいようで」
「いや、宜しくないじゃろ。勝手に締めるでない。しかし、まさかAWが実写化するとはな。海外ではなく日本の、映画ではなくドラマゆえに予算の少なさを感じたがな。所々CGだったり、オブジェや特殊メイクがチャチかったり」
「実写化されるだけラッキーですよ。この作品なんて、実写化されたくてもされないんですから」
「なにおう」
「やるかあ」
「と、ゴリラ倶楽部の喧嘩コントを始めたところで、仲裁役がいないとオチが着かんな」
「不毛ですね。ゴリラは剛毛なのに。お後が宜しいようで」
「宜しくない。勝手に締めようとするでない。しかし、能美を倒したところで終わりか。アニメと同じなんじゃな。てっきりアニメの先までやってくれるかと」
「そこが水商売の嫌らしい所ですよ。金払ってくれたら続きやるぞ的な」
「ああ。嫌らしい。殴っていいか?」
「いや、俺を殴ったところでシーズン2は始まりませんよ?」
「いや、儂が言った嫌らしいは、橋本環奈を性的な目で見たことに対してだ」
「そこですか! 結構戻りますね! それについては『済みません』としか言えませんよ」
「済みませんで済んだら済みませんは要らないのじゃよ」
「意味が解るようで解りません!」
「解りませんで解ったら解りませんは要らないのじゃよ」
「意味が伝わるようで伝わりません!」
「伝わりませんで伝わったら伝わりませんは要らないのじゃよ」
「もういいよ! どうもありがとうございました!」
スベルは面食いとの即興漫才にオチを着ける。全く、困った妖怪だ。
スベルの左手に鬼の手が備わっていたら、速攻で悪霊退散していることだろう。
スベルの右手に幻想殺しが備わっていたら、速攻で殴り飛ばしていることだろう。
スベルの左手に犬の腕輪が備わっていたら、速攻で喰い殺していることだろう。
スベルの右手に美鳥が備わっていたら、速攻で見抜きしていたことだろう。
お後が宜しいようで。
「しかし、何故急に敬語を遣うんじゃ?」
「ああ、えっと、セメルの影響で。別にお前は神様って訳じゃないから、タメ口でいいか」
「そうじゃな。儂はただの妖怪。しかも、お主の彼女の面を食らったクソ野郎じゃ。敬うべきではないな」
「そ、そうだな。じゃあ、タメ口でいくよ。いやあ、しっかし、AW面白かったなあ」
「そうじゃな。次は何観る?」
「腹減ったから何か食べねえ?」
「ほう。お主、料理ができるのか?」
「いや、俺はそんな得意じゃないな。外でラーメン食べにいこうぜ」
「ほう。それは面白そうじゃ」
「あ、でも、面食いって霊体だから、ラーメンは食えないのか」
「いや、『実体化』という能力がある。これを使えば、人間界に干渉することが可能じゃ」
人間界に干渉。少々恐ろしい口振りだ。面食いは実体化し、全裸の幼女が現れた。なお、翼は消えているようである。しかし、全裸はよくない。スベルがその旨を伝えると、面食いはワンピースを創造し、それを着用する。まあ、これならばラーメン屋に行っても問題はないだろう。
「じゃあ行くぞスベル。案内してくれ」
「おう。じゃあ行こうか」
スベルは面食いを連れ、家を出た。そして、歩を進める。ラーメン屋は歩いて十、二十分くらいの位置にある。自転車で行けばもっと速いのだが、何となくのんびり歩きたい気分だったのだ。日は沈み、周囲は静寂に包まれていた。車の通りも少なくなってきている。セメルと面食いは歩く。
ただひたすら歩く。そこで面食いは「足が疲れた」と早くも音を上げた。歩いてまだ数分しか経っていないにも拘らず。しかし、それも致し方ないといえる。妖怪である面食いは、自身の力で歩くということをしてこなかったのだろう。しかし、それならば話は簡単だ。
また霊体化すればいい。そうすれば疲れないのだから。セメルはその旨を彼女に伝える。そうすると彼女は、「な、成る程。その手があったか」と得心する。彼女は霊体化し、再び全裸に翼の状態に戻る。やはり、彼女にはこの格好がよく似合う。スベルは再び、面食いと歩を進める。
浮いている面食いは歩いていないために、歩を進めるという表現は適切ではないが、そんなことはどうでもいい。歩を進めることよりも、筆を進めることが最優先なのだから。お後が宜しいようで。
「バイトは結局駄目だった。作者に働くなと言ってるんだろうか」
「まあ、無理に働くことはない。これでニートから無職になった。それだけでも前進じゃろう。前例があれば前進前例じゃよ。お後が宜しいようで」
「いや、全然宜しくないでしょ。しかし、小説の書き方というのはよく解らないな。これで合ってるのか間違ってるのか」
「まあ、面白ければ良いのじゃよ。面白くないから駄目なんじゃがな」
「オーバーラップ大賞だけに絞ろうかなあ。これ、一次選考通りますかね」
「そういう生々しい内部事情を漏らす時点で、難しいじゃろうな」
「とはいえ、どうすれば通るのかなんて判らない。結局、審査員の気分次第じゃないですか」
「いや、審査員は恐らく、隅から隅まで読んで厳密に審査してくれているじゃろう。その上での一次落選じゃよ」
「面白ければ一次通る?」
「はずじゃよ。これはつまらない」
「どこら辺が?」
「何もかもが」
「なにおう」
「やるかあ」
「はあ、ゴリラ倶楽部の喧嘩コントをしていたら、余計に腹が減ってきた。早くラーメン屋に行こう」
「そうじゃな。儂も早くザーメンが食べたい」
一瞬、ラがザに聞こえたが、恐らく気のせいだろう。ラーメンをザーメンと間違えるような馬鹿はいないし、ラーメンは食べ物だがザーメンは飲み物だ。否、飲み物でもない。排泄物である。恐らく幼女で舌足らずな面食いは、ラとザの区別ができないのだ。
「ドドリアの隣にいるのは?」
「ザーボン」
「未来少年コナンのヒロインは?」
「ラナ」
可笑しい。ザもラも完璧だ。むしろ、何故にここまでオタク知識に詳しいのだろうか。答えられないことを前提に出題したにも拘らず。セメルは改めて面食いの凄さに愕然とする。オタク知識のある妖怪など、斬魄刀のある死神のようなものではないか。鬼に金棒、オナニーべらぼうとはこのことだ。
オナニーはべらぼうではない。先程からその手のネタが多いことが気掛かりである。下ネタは面白いが、面白いものも何度も繰り返されると飽きが来る。それゆえに適度と節度が肝要だ。さらに、下ネタはアニメ化した際にお茶の間に流せない。否、そもそもアニメ化しないが。お後が、否、お茶の間が宜しいようで。
「三木の野郎が『禁書三期あとちょっと待ってろ!』とか言ってたが、『もう少しお待ち下さい』だろ。日本語の遣い方も間違ってる奴でも編集って務まるんだな」
「まあ、そう言うな。ミッキーは禁書やSAOの担当をしたことにより、『ぼくには すごいちからが やどってるんだ』と勘違いしちゃってる痛い子なんじゃ。まあ、子供大人というか、大人の発達障害といったところか」
「中二病とも言うよな。しかし、『あとちょっと』の意味も解ってなさそう。いつまで待たせるんだよ。こいつの悪いところは、皆の期待を平気で裏切るところだな」
「そうじゃな。まあ、馬鹿の話をしていても馬鹿になるだけじゃ。ここら辺で切り上げるとしよう」
「そうだな。お、見えてきた」
スベルと面食いの眼前には、目当てのラーメン屋があった。
スカトロラーメン スカトラ
看板にはそう記載されている。実に怪しく嫌らしい。スカトロというワードだけで、大半の人は避けて通るだろう。しかし、スベルや面食いは動じない。それはそうだ。何故なら彼らは変態なのだから。
「ところでスベル。儂は麺類が大好きなんじゃよ。面食いは麺食いでもあるからのう。お後が宜しいようで」
「いや、宜しくないよ。じゃあ、この店は打って付けという訳だな。よし、早速入ってみようぜ。怪しい店だけど、何か面白そうだ」
「エロいサービスを期待しておるな。全く、儂やルーカというものがありながら」
「面食いやルーカでは楽しめないようなエロさを求めています」
「なにおう」
「やるかあ」
「ゴリラ倶楽部の喧嘩コントは、仲裁役がおらんと成立せん。しかし、ゴリラ倶楽部とダチョウ倶楽部は似とるな。儂、何気にダチョウ倶楽部のファンなのじゃが」
「へえ、意外ですね。あいつらのネタって下らないんですが、意外とウケが良いですよね。真似する人多いし」
「単純だから真似しやすい。そういうキャッチーさが人気に繋がる。お主らも参考にすべきじゃな。エンタの神様を目指すなら」
それは、エンタの神様に出ることを目指すという意味なのだろうか。
それとも、お笑いの頂点を目指すという意味なのだろうか。
今のスベルには判断がつかない。しかし、いずれにせよ努力は必要だ。今のままではエンタの神様に出ることも、お笑いの頂点に立つことも叶わない。まずはルーカと共にお笑いのネタを百個作る。後のことはそれから考えよう。スベルもルーカも、まだお笑い芸人になると決めた訳でも、コンビを組むと決めた訳でもない。
これからだ。これからの努力次第で全てが決まる。まずはハンドレッド契約を完了させなければ未来はない。しかし、普通の芸人でも百個ネタを作ることなど困難ではないだろうか。
確かにそれくらいの量のネタを持っている芸人もいるが、それはトップクラスの天才に限られる。最近では一発屋の芸人が多いことから、面白いネタを一つ作ることでも難しいことが窺えるだろう。それを百個だ。はっきり言って無理難題である。しかし、ハードルは高いほど燃える。飛び越えたいと強く願う。飛び越えた時の達成感は大きくなる。
やってやろうではないか。
やってみようではないか。
スベルはルーカと共に百個のネタを作り、
面食いを爆笑の渦へ引きずり込み、
ルーカの表情を取り戻す。
それが叶ったら、
ルーカとお笑いライブに行き、
彼女の百点の笑顔を堪能するとしよう。
ハンドレッド契約なだけに。
お後が宜しいようで。
「面食い、俺と山手線ゲームしようぜ」
「いいじゃろう」
「じゃあ、先攻はお前に譲るぜ。来な」
「や!」
「まの!」
「て! くそ! もう一回じゃ! やま!」
「の!」
「て! くそ! もう一回じゃ! や!」
「フランケンシュタインは怪物を作った科学者の名前なんだよ。つまり、フランケンシュタインの恋は正しく言うと、フランケンシュタインの怪物の恋なんだよ」
「成る程な。しかし、スリムクラブのアレもフランチェンじゃなかったか?」
「そうですね。怪物くんのフランケンとかもありましたし、結構昔からある誤解のようです」
「誤解か。しかし、それが一般化し定着してしまった今、アレをフランケン以外で表現するのは難しいな。そもそも、何であやつには名前がないんじゃ。博士の名前には凝ってるくせに、手を抜くな」
「それ言ったら貴女だって面食いでしょうが。お後が宜しいようで」
「また敬語になっとったな」
「ああ、何か敬語になっちゃうなあ」
「直さんのか?」
「基本的に過去は振り返らない主義なんで」
「それは小説家的にどうなんじゃ?」
「出版するとなったら書き直しますよ。絶対ナル孤独者だって九割直したそうですし」
「それとこれを一緒にするな。レベルが全然違う」
「どれくらい?」
「1と5くらい」
「大差ないじゃないですか」
「禁書じゃよ」
「大差あるじゃないですか」
「ドラクエじゃよ」
「大差ないじゃないですか」
「AWじゃよ」
「大差あるじゃないですか」
「フローレイティアさんの階級は?」
「大佐。あ、少佐か」
「はっはっは、引っ掛かったな。18歳で大佐になれる訳ないじゃろ。どんな天才じゃ」
「それを言うなら18歳で少佐になれる訳ないでしょ。どんな天才ですか」
「なにおう」
「やるかあ」
「と、ゴリラ倶楽部の喧嘩コントをしても始まらん。今どこじゃ?」
「スカトラの前まで来ましたよ。入ります?」
「そうじゃな。入ろう」
スベルと面食いはスカトラへ入る。
そこには一体どのようなドラマが待ち受けているのだろうか。
そこには全体どのようなロマンが押し寄せているのだろうか。
チャンネルはそのままで。
「私、キモオタ小説を読もうと思うんですよ!」
「キモオタって何だよ。オタクは総じてキモいだろ。キモくなかったらオタクじゃないだろ。キモいからオタクなんだろ。キモくないオタクは最早オタクじゃないだろ」
「私、オタク小説を読もうと思うんですよ!」
「今時ライトノベルをオタク小説とか呼んでいる時点で、どれだけ狭い世界で生きているのかが解るな。ハルヒも知らんのか。禁書も知らんのか。SAOも知らんのか。オタクをまるで理解していない奴がオタクを語るな。オタクになってからオタクを語れ。オタクになってからオタクをディスれ。ていうかお前、漫画は好きだよな?」
「はい! ワンピとか超好きなんですよ!」
「ワンピの作者の名前は?」
「え、ええと、夏目漱石? いや芥川龍之介かな?」
「ワンピの載ってる雑誌の名前は?」
「え、ええと、週刊文春? 週刊新潮?」
「全然知らねえじゃねえか。周りが読んでるから話を合わせるために読んでるだけじゃねえか」
「すみません」
「まあ、娯楽なんだから楽しみ方は人それぞれだ。そこに文句をつけるつもりない。しかし、知りもしないのに貶すのは駄目だ。知った上で、解った上で、意見をする。それが筋ってもんだろう。斯くいう俺も、エロマンガ先生をよく知らないんだけどな。お後が宜しいようで」
「ちんこ」
「まんこ」
「おちんこ」
「おまんこ」
「おちんちん」
「おまんまん」
「ちんぽこ」
「まんぽこ。あ」
「儂の勝ちじゃな、スベル」
「くっそー、もう一回だ」
「わーん、面食えもーん!」
「どうしたんだい、スベ太くん」
「面白いアニメがないよー」
「金曜の夜を待てばいい」
「ドラえもんは飽きたよー」
「クレヨンしんちゃんがあるじゃないか」
「大して変わらないよー。面白いアニメを出してよ、面食えもん」
「仕方ないな。じゃあ、ゲオで借りてくるから」
「否、ゲオじゃなくてポケットから出してよ」
「君は変態か?」
「否、斯くいう仕組みじゃないの?」
「仕方ないな。じゃあ、ドラえもんから借りてくるから。お後が宜しいようで」
「いやあ、やはりやはり俺の青春ラブコメはまちがっているが最高に面白いんですよ」
「ふぇら? お主の青春ラブコメはまちがっておるのか?」
「でも、あれって僕は友達が少ないの上位互換なんじゃないかと」
「ふぇら? お主の友達は少ないのか?」
「読んだことないんですけど、妹さえいればいいもアニメ化されるようですね」
「お主、妹さえいればいいのか?」
「まあ、どんなラノベよりもこの作品の方が面白いんですけどね」
「ほう、それはどういうラノベじゃ?」
「もういいよ! どうもありがとうございました!」
「いやあ、寒い」
「四月じゃからな」
「俺には六月くらいに感じるよ」
「四月も六月もそう変わらんじゃないか。春じゃろ」
「だから寒いんですから」
「だから寒いんじゃよ」
「まあ、メタいことはこれくらいにしておきましょう。ラーメン食べれば温まりますし」
「そうじゃな。いい加減ラーメン屋に入るぞ」
スベルと面食いは軽く漫才を交わし、ラーメン屋へ入る。しかし、入ってみて色々と驚いた。店員が二人しかいない。また、中央に人一人乗れそうな回転テーブルがあり、そこを囲むように席が用意されている。
まるで、ポールダンスでも観ながら食事するような感じだが、ポールは存在しない。それならばストリップショーか何かだろうか。否、スカトロラーメンというネーミングから察するに、恐らくスカトロショーといったところだろうか。
この店は本当に大丈夫なのだろうか。
この小説は本当に大丈夫なのだろうか。
「お、お客さんが来た。いらっしゃい。ほら、肉(にく)麺器(めんき)、準備して」
肉麺器と呼ばれたもう一人の店員は女性だった。金髪ウェーブというラーメンヘッドに、餃子を象った帽子、差し詰めギョーザキャップが特徴的である。彼女は回転テーブルの上に乗った。そして、着ていたワンピースを捲し上げる。彼女は尻をラーメンの容器に近付けた。
何となく、何をするのかが読めてきたが、それは予想の斜め上を行く。彼女は踏ん張る。そして、尻から何かを出す。尻から出るものなど、大便以外には何もない。それゆえに、彼女のそれも大便のはずだ。
しかし、彼女のそれは異質だった。臭いとか汚いとか形が変とか、そういう次元ではない。臭くも汚くもなければ、形はむしろ美しい。それはラーメンの麺のようだった。そう、彼女は尻から麺を出すという、マジシャン顔負けのマジックを披露してみせたのだ。
「こ、これはどういうマジックですか?」
「マジックじゃないよ、お客さん。彼女は肉麺器。尻からは麺が出て、そして股からは」
股からは、スープが出た。具材は載っていないが、これで取り敢えずラーメンの出来上がりだ。
「はいよ、一丁上がり。食べてみてよ」
店長らしき男性は、スベルにスカトラを勧める。スベルは素直に頷き、未知の料理に挑戦した。果たして、どのような味がするのだろうか。スベルはまず蓮華でスープを掬い、口に運ぶ。その時、スベルの舌に衝撃が走った。味覚が暴走する。
「め、メチャクチャ美味い!」
「それは良かった。当たりを引いたみたいだね」
「ふぇら? 当たり?」
スベルは店長の言葉に首を傾げる。店長は説明する。
「ああ、彼女の出す味はランダムなんだ。その時の体調や様子、気分や調子によって様変わりする。美味い時もあれば不味い時もある。それがこの店が不人気な理由かもな」
言われてみれば、この店には客がまるでいない。しかし、不人気な理由は他にもあるような気がする。それは経営について素人な高校生が口出しすることではないが。今度は麺を啜る。麺も美味い。スープとの相性も良い。それは恐らく、同じ調子の時に排泄したものだからだろう。それゆえに味が似ており、絶妙にマッチしているのだ。
「これをロシアンラーメットと呼んでるんだ」
「な、成る程」
恐らく、ロシアンルーレットと掛けたのだろう。ラーメンは美味いが、ネーミングは上手くなかったようだ。お後が、否、お味が宜しいようで。
「カクヨムのクソ作家・板野かもがカクヨムコンテストで入賞ならずだってよ!」
「やったのう! あやつのアイドル小説はクソつまらんかったから当然じゃが。いやあ、他人の不幸は蜜の味とはこのことじゃわい!」
「そういえば、スカトラ美味かった?」
「ああ。美味かったぞ。板野かもの小説は上手くないがな。お後が、否、友美が宜しいようで」
スベルと面食いはスカトラを後にし、再び自宅へ歩を進めていた。まあ、彼らの言うように、板野かもの小説はライトノベルなのか大衆娯楽なのかはっきりとせず、落ちて当然の駄作だ。それゆえに、いくら読者人気が高かろうと出版までは行き着けないだろう。そもそも、本当に読者人気などはあったのだろうか。
板野かもが馬鹿の一つ覚えのようにレビューを書きまくるものだから、恩義を感じたユーザーがレビュー返ししてくれた結果、読者選考を突破できただけではないだろうか。板野かもの小説は根本的につまらない。まだこの小説の方が面白いくらいだ。しかし、板野かもは作者よりも自身の方が上だと思っていることだろう。
馬鹿は身の程を弁えない。
馬鹿は身の丈を知らない。
程を弁え、丈を知れば、作者くらいの小説は書けるようになるかもしれない。まあ、それでも二番煎じに過ぎないのだが。否、そもそも板野かもの小説は十、百番煎じくらいなのだから、作者の次ならばまだ新しい方といえる。お後が、否、作者のお後が宜しいようで。
「板野かもの作品って何かベタだよな。テンプレしか書けねえのか、こいつ」
「言ってやるな。テンプレが書けるだけでも凄いじゃないか。かもちゃん凄いでちゅねえ」
「テンプレ小説なんか、出版する意味もないけどな。既にあるんだから」
「まあ、その通りじゃな。テンプレ小説など売り出す意味も、売れる道理もない。じゃから個性が必要じゃ。人を惹き付ける強烈な個性が」
「あいつには作者の作品がどう映ってたのかな」
「自分より文章が下手、自分より構成が下手。そんな風に感じてたんじゃろう。敷かれたレールを走る者と、自分のレールを走る者。前者の方が圧倒的に楽じゃ。後者は難しい。その道が間違ってるのか正しいのか、手探りで見極めなければならない。
別にどちらが正解という訳でもない。板野かものような考え方も、作者のような考え方も道じゃ。王道と邪道というな。王の道か邪の道か。テンプレートかオリジナルか。果たしてどちらが正解なのか。現時点では判然とせん。どちらもまだゴールに行き着いていない宙ぶらりんの状態じゃからな」
「ふうむ。どちらが正しいかは今後で決まるか。なら、とっととこの作品を仕上げて公募に出さねえとな。あいつに先越されたら悔しいし」
「馬鹿にしながらも、見下しながらも、貶しながらも、卑下しながらも、きちんと認めるべきところは認めとるんじゃな。作者との勝負に逃げた卑屈な板野かもにとっては、その太陽のような温かさは痛々しいかもしれんな。
恐らく、あやつは作者のことなどまるで認めとらんし、相手にもしとらん。そこが作者と板野かもの度量の差か。誠に小さき男じゃ、板野かもは。作者の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいわい」
「飲んだら小説に個性が生まれて、作者との勝負にも逃げずに立ち向かうことができるようになるかもな」
「ふ、それができるようになったらもう板野かもではない。それこそ、個性が抜け落ちてしまっているよ。お後が、否、友美が宜しいようで」
面食いはスベルとの会話に一区切りをつけ、夜陰を切り裂くように歩を進める。夜の長田町は静寂に満ち溢れていた。視覚も、聴覚もまともに機能しない。しかし、斯くいう状態に心地良さを感じるのは何故だろうか。
それは恐らく、何もない状態こそが生命の始まりだからだろう。生命の始まりとは、光を手にした瞬間だ。ずっと深く暗い闇の中にいた者が、唐突に希望の光を握らされる。
それこそが誕生の瞬間だ。
それこそが生命の神秘だ。
しかし、未だに一次選考を通らない作者は、その光を知らない。
しかし、未だに一次落選を食らう作者は、第二の光明を知らない。
もしかしたら、知らないまま人生は終焉を迎えるかもしれない。
もしかしたら、板野かもの方が先に第二の光明を取得するかもしれない。
それは地獄だ。しかし、地獄ならば人生の中で何度も経験してきた。それはスベルや面食いも同様だろう。ここが地の果てならば、出口を求めて突き進むのみである。まだ終わってはいない。まだ始まってすらいない。少しくらい長いプロローグで絶望している場合ではない。手を伸ばせば届く。いい加減始めようではないか。お後が宜しいようで。
スベルと面食いは帝倉宅へ帰ってきた。夕食は外で済ませたために、後は風呂に入るくらいだろうか。しかし、ここで問題が一つある。
「なあ、面食い。お前って風呂に入る?」
「む、風呂は好きじゃぞ」
「いや、好きか嫌いじゃなくて、入るか入らないかで」
「好きじゃから入りたいのう」
「そうか。じゃあ、先に入るか?」
「お主と一緒に入りたい」
「前々からそうだとは思っていたけど、お前って痴女なの?」
「痴女とは何じゃ。儂はお主と一緒に風呂に入って、チンコを見たりマンコを見せたりしたいだけじゃよ」
「この上なく痴女じゃないか。痴女以外の何者でもないじゃないか」
「なあ、良いじゃろ? 別に減るもんでもないのじゃから」
減るものではない。確かにそうかもしれない。ただ一緒に入浴するだけなのだから。家族と思ってしまえば、そこまで不思議なことではない。そうだ。小学生の妹を風呂に入れてやる高校生の兄と考えれば、そこまで変態的でもないのではないだろうか。
「仕方ない。一緒に風呂に入るか、面食い」
「いやっほおおおおおおお!」
面食いは喜ぶ。ここまで喜ぶことなのだろうか。ただ一緒に入浴するだけではないか。それとも、彼女は何かを狙っているのだろうか。しかし、そうだとしてもスベルにはどうしようもない。
人間如きに妖怪様の所業をどうにかできるはずはないだろう。
浦飯幽助如きに乱童様の所業をどうにかできるはずはないだろう。
否、それはどうにかできていたが、これは漫画ではない。ライトノベルだ。妖怪と戦う作品ではない。否、面食いを笑わせるか否かの戦いをしているのだから、これも妖怪と戦う作品で合っているのかもしれない。お後が宜しいようで。
スベルと面食いは風呂に入った。スベルは面食いの身体を洗ってやり、面食いはスベルの身体を洗わせてもらう。この言い方だとスベルの方が偉いようだが、面食いは心身共に幼女みたいなものであるために致し方ない。しかし、面食いの実年齢は恐らくスベルよりも上だ。それは口調や雰囲気などから読み取れる。しかし、やはり実年齢と精神年齢が噛み合っていないような気がする。
お婆さんがセイバーのコスプレをしてセイ婆と化しているような違和感がある。
お爺さんがベジータのモノマネをしてベ爺タと成っているような差異を感じる。
面食いは終始、スベルの股間に釘付けだった。
スベルは終始、面食いの裸体に釘付けだった。
女性は男性の股間のみに興味を持ち、
男性は女性の裸体全てに興味を持つ。
全てを包み込む度量の大きさ。
ストライクゾーンの広さ。
それこそが、男性というバッターの強さなのではないだろうか。
股間にバットを備えているだけに。
お後が、否、おちんちんが宜しいようで。
「言の葉は!」
「何を『君の名は!』みたいに言っとるんじゃ」
「君の名はばかり注目されて、言の葉はは全然注目されてないじゃないですか」
「君の名は効果で言の葉はも売れるかもしれんじゃろ」
「三の葉は!」
「三葉じゃろ!」
「君の名は三の葉はということは、言の葉はは誰の名前なんですか?」
「主の名じゃ。お後が宜しいようで」
「情弱アニメって何だよ。じゃあ情強アニメもあるのか? アニメに情報の強弱なんて関係あるのか? 情報に強くなりたいなら、アニメじゃなくてニュース番組でも観ろよ。馬鹿か」
「馬鹿じゃな。馬鹿としか言いようがない。ただ貶したいだけ、ただ悪態を吐きたいだけの馬鹿の戯言じゃよ。聞き流せ。受け流せ。そいつは全世界に恥を晒して興奮する変態野郎じゃ。ぽみしまれいとかいう三流大学生はな。今はぽみーか。いずれにせよネーミングセンスが死んでおるな。大丈夫か?」
「大丈夫な奴は情弱アニメなんて意味不明な言葉を造りませんよ。馬鹿です。キチガイです。ガイジです。ぽみしまれいは人間のクズです。今はぽみーか」
「カタイヒトにボコボコに殴られ、小説を書けなくなった弱者か。奴は情弱というよりも脆弱じゃな。お後が、否、お馬鹿が宜しいようで」
「はいむらさんの絵で、禁書を一から作り直してほしいなあ」
「結構大胆なことを言うのう。そんなにはいむらさんの絵が好きなのか?」
「好きっていうか、最近のラノベアニメはイラストレーターの絵を活かしていないことが多い気がするんだ。折角アニメになっても、自分の絵じゃないんだったら面白くないんじゃないかと」
「ほう。イラストレーターの心の問題か。しかし、それでもイラストレーターとしては嬉しいと思うぞ。知名度は上がるし、人気も上がる。それに、全く活かされんということはないじゃろ。禁書も原作の絵とは大分違うが、所々ではいむらさんらしさを出そうとしている気がする。ほれ、DVDボックスのイラストなどははいむらさんの書き下ろしじゃったりするじゃろ」
「確かにそうなんですが、俺ガイルもぽんかんさんだから良かったんじゃないですか。二期から完全に別物というか、禁書みたいになってましたし」
「制作会社の関係じゃな。まあ、二期の絵も一期の絵が活かされた結果なんじゃ。全く活かされないということはない。全く影響されないということはない。そもそも、自身の絵で書籍化されてるだけでも、イラストレーターにとっては嬉しいのではないか。アニメ化やゲーム化などは副産物に過ぎない。狙ってやるものではない。儂らは誰よりも何よりも面白い小説を書き上げる。それだけを志しておけばいい。結果は後から付いて来る」
「成る程。つまりこの作品も、最高最善最強を目指して書き続けていくという訳ですね」
「否、この作品はそこまで大層なことは考えなくていい。一次選考を通るか否かじゃ」
「目標小さくないですか?」
「まずはそこから乗り越えんと。一次選考もハードルじゃぞ」
「小さいハードルですね」
「忍者も初めは低い木を飛び越え、木の成長に伴い跳躍力を高めていったじゃろう。あれじゃよ」
「つまり作者も、まずは一次選考を通過することから始めるべきだと。先の長い話ですね」
「底の浅い話じゃがの。お後が宜しいようで」
スベルと面食いは風呂から上がった。夕食、入浴を済ませたために、後は眠くなるまで何かをすればいい。その何かというのは、
「ネタ作りするか」
スベルはお笑いのネタを作ることに決めた。ルーカはいないが、自身だけでも何か考えておくべきだ。恐らく、ルーカもそうしているはずだろう。面食いは「やるか!」とやや興奮気味に同調する。
彼女はお笑いが大好きだ。それゆえに、お笑いのネタを作ることも大好きなのだろう。スベルと面食いは、スベルの部屋へ向かった。彼の部屋は二階の奥にある。二人は階段を上り、そこへ向かう。着いた先は、本棚、観葉植物、パソコン、ベッドなどの設えてある一つの部屋だ。
「何か臭いな」
「男の部屋なんだから、仕方ないでしょ。まあ、適当にくつろいで下さい」
スベルはパソコンを起動させ、面食いは本棚から漫画を漁る。彼女はお笑いだけではなく、娯楽そのものが好きなようだ。彼女が手に取ったものは、「シオリエクスペリエンス」の1巻だった。シオリエクスペリエンスは、「キッドアイラック」の長田町田コンビによる漫画である。
ギターの神様と称されるジミヘンが、地味な女教師に憑りつくという物語だ。中々に攻めた内容であるために、作者本人も「映像化は難しい」と評している。しかし、面白さは抜群であり、まだ読んでいない方にはぜひ一読してもらいたいものだ。ギターやバンドに興味のない作者でもハマったのだから、専門的な知識がなくても楽しめることだろう。
しかも、最新9巻では意外なキャラにスポットが当てられているようであり、これまた見逃せない。秋になるのが楽しみだ。しかし、板尾はキッドアイラックを「三年以内に実写化させる」と宣言していたが、もう期限切れである。しかし、最近「菅田将暉を主演にしたい」と言っていたことから、まだ諦めてはいないようだ。
長田は作者が中学生の頃から憧れてきた人だ。中学生の頃、初めて「トト!」を読んだ時に魅了されたのである。この作品のイラストも長田に担当してもらいたいものだが、彼は多忙ゆえに難しいだろう。しかし、いずれは対談など出来たら嬉しい。それを糧に頑張ろう。
斯様なことを思いながら、スベルはワードを立ち上げるが、まるでネタが浮かばない。おかしい。長田のことならばここまで熱く語れたにも拘らず、お笑いのネタなどまるで浮かばないではないか。
というよりも、ネタの書き方が解らない。これはスベルとルーカが面食いを笑わせるためのものだ。つまり、漫才のネタである。父の影響で、M1のDVDは何度も見せられた。それゆえに、それがどういうものかは理解している。理解している上で、理解できない。
一体どうすれば漫才になるのだろうか。
全体どうすればネタになるのだろうか。
まず、ツッコミはスベル、ボケはルーカだ。ルーカが変なことを言い、それをスベルが指摘する。それが基本的なコンセプトだ。
しかし、一体斯くいうボケが良いのだろうか。
しかし、全体斯くいうツッコミが良いのだろうか。
そこでスベルは、自身がルーカのことを何も知らないことに気付く。パソコンの検索エンジンに掛けても、ウィキのページすら見当たらない。
ルーカとは何だろうか。
竜崎龍華とは誰だろうか。
考えれば考えるほどに泥沼へ嵌まる。嵌まった両足は動かすこともできず、胴体、両腕をも封じていく。胸元、首元までに達し、完全に身動きが取れなくなる。口元、鼻元まで泥に埋まれば、もう呼吸すらままならない。
為す術なく、目元、額、頭部までもが吸い込まれ、溺死していく。死体すら残らない。全ては闇に終わる。否、終わっても終わらない。斯様なところでは終われない。まだ32ページだ。あと48ページは書かなければ、オーバーラップ大賞に応募することはできない。それゆえに、ここが踏ん張りどころだ。ようやく中盤まで来た。
序盤という地盤を固め、
序盤という基礎を踏み、
ようやく中盤に差し掛かり、
基礎から応用に取り組める。
ここに来るまでは長かった。
ここに来るまでが長かった。
ようやく折り返しだ。
審査員の方は、駄文をここまで読んでくれて有難う。
作者は、駄文をここまで書き進められておめでとう。
ようやくだ。
ようやく来た。
ようやくである。
ようやく来たのだ。
ようやく来たのである。
ようやくここまで来たのだ。
ようやくここまで来たのである。
ようやくここまで来たのだ。
ようやく来たのである。
ようやく来たのだ。
ようやくである。
ようやく来た。
ようやくだ。
パンツみたいな形になり興奮するが、夢と股間を膨らませている場合ではない。スベルは今ネタ作りをしている。スベルのピンのネタならば、エログロの加減などが解るのだが、相方であるルーカは女子だ。うら若き女子高生だ。恐らく、パンツだの股間が膨らむだの、そういうネタはNGだろう。否、待て。それならば、逆にそうすればいいのではないだろうか。
「閃いたぜ、面食い」
「ふぇら? ルーカのパンツを見る方法か?」
「それも大事だが、もっと大事なことだ。俺はルーカの外面しか知らない。だから、内面を暴き出す」
「成る程。ルーカの衣服を奪い取り、裸体を鑑賞すると」
「惜しいが違う。裸体なんかより、もっと見えづらいところを見させてもらう」
「内蔵か?」
「違う」
「膣内か?」
「違う。まあ、見ていてくれ」
「やれやれ。オーバーラップの審査員が引かないレベルに抑えておけよ」
「ああ」
スベルは思い付いたネタを書き上げる。それを一階の印刷機でプリントアウトし、鞄の中に仕舞っておく。これを明日の学校でルーカに見せる。スベルは彼女の反応が今から楽しみだった。夜のせいか、股間が膨張してしまうが、面食いがいるために抜くに抜けなかった。
そして、スベルと面食いは一人用のベッドに二人で並んで寝る。男子高校生と女子小学生(見た目)という犯罪的な組み合わせだが、兄妹と考えれば問題はないだろう。それよりも、兄と妹が恋愛する小説は気持ち悪すぎるためにどうにかしてほしいものだ。
作者が妹に対するコンプレックスを抱くのは勝手だが、実際に妹がいる者にとっては不快でしかない。まあ、そういう叩きを考慮した上で書いているのだろう。そして、今の少子化の時代では正解かもしれない。
今時では、妹のいる男性というものは貴重かもしれない。ライトノベルとは青少年に夢を与えるものだ。それゆえに、妹のいない者に妹の素晴らしさを教えることは間違っていないかもしれない。しかし、だからといって兄と妹を恋愛っさせるというものは、ライトノベルということを差し引いても気持ち悪さが沈殿する。
妹とセックスするのだろうか。
妹と結婚するのだろうか。
否、するのだろう。
本当にしそうだからこそアウトローなのだ。
本当にしそうだからこそアブノーマルなのだ。
近親相姦などはしてはならない。
近親相姦などはするべきではない。
それを助長することも駄目だ。
それを喧伝することも駄目だ。
エロマンガ先生は駄目だ。
妹さえいればいいは駄目だ。
伏見つかさは駄目だ。
平坂読は駄目だ。
しかし、駄目ながらに良いところもある。
しかし、屑ながらに光るところもある。
それゆえの人気だ。
それゆえの支持だ。
この作品には人気も支持もない。当然だ。この作品は作者とオーバーラップの審査員しか知らないのだから。そして、審査員の君もどうせ一次選考で落とすのだから、君以外の誰に読まれることもないだろう。いくら作中でこの作品を持ち上げたところで、君が一次選考を通さないことは知っている。
そちらは作品を読んでいるのだろうが、作者は君のパターンを読んでいる。君は作者を高みから見下ろしているつもりだろうが、実際には作者は君を高みから見下ろしている。君は本当にこの作品の良いところと悪いところを理解しているのだろうか。半端な審査をした場合は裁判を起こすために、そのつもりで頑張って読んでほしい。
そちらも必死かもしれないが、こちらは就職している君よりも百倍必死なのだ。それゆえに、少しは考慮して頂きたいものである。落とすだけでは芸がない。予知しよう。君はこの作品に1か2しか付けず、一次選考を通さないと。こういうところをマイナスポイントにすると。
当たっていたらおまけとして一次選考を通して頂きたいものだ。まだ姦通していないのだ。穢れを知らないのだ。一次選考という処女膜を破り、最高の快感を覚えさせて頂きたいものである。処女の一発を。はじめの一歩を。プロボクサーではなくプロ作家にさせてほしい。マガジンではなくオーバーラップで働きたい。お後が、否、オーバーラップが宜しいようで。
「作者の母が『一緒くた』を『一緒くたん』って言うんだけど」
「まあ、そういう言い間違いはよくあることじゃよ。次言った時に正してやれ。それよりも、『肉汁』を『にくじる』と読む奴は何なんじゃろな。『にくじゅう』じゃろ。墨汁や果汁を『ぼくじる』や『かじる』とは読まんじゃろうに」
「ところで、ぽみしまれいとかいうキモオタクは、プリウスに轢かれて死んだんでしたっけ? 今はぽみーか」
「まだ生きとるぞ。チキン野郎に自殺する勇気などないじゃろ。あいつは一生誰からも愛されずに、何の功績も残せずに朽ち果てるだけじゃ。ゴミのような一生じゃな。一笑に付す。お後が、否、お馬鹿が宜しいようで」
「ああん! スベルの特別なスープを頂戴してしまった! あったかいんじゃからああああああああああああああああああああ!」
「クマムシはもう古い!」
スベルは面食いの寝言にツッコミを入れる。どうやら彼女は、スベルに凌辱された夢を見ているようだが、そんな気など毛頭ない彼にとっては濡れ衣もいいところだ。否、まあ衣は濡れてしまったのだが。精液によって。誰のかは言うまでもないだろう。そう、スベルは夢精してしまったのだ。
それは恐らく、昨日抜けなかったこと、エロいネタを書いていたことのダブルコンボがクリティカルヒットしてしまったのだろう。無理もない。スベルは高校一年生だ。多感な時期ゆえにそういうこともあるだろう。しかし、面食いが寝ていることは不幸中の幸いといえる。
今の内に証拠隠滅してしまおう。まずは濡れたところの確認だ。スベルのパンツ、ズボン、後は布団にも少し掛かってしまった。パンツとズボンは着替えればいいだけだ。布団は洗濯する必要がある。親や兄にバレるのは恥ずかしいが致し方ない。洗濯しないで放っておくと、汚く臭くなってしまい、それはそれで羞恥する羽目となる。
それゆえに、今の内に済ませておくのだ。洗うは一時の恥だが、洗わずは暫くの恥である。そんな言葉はないが。今生まれたが。スベルは一階の茶の間にて、パンツとズボンを着替える。そして、汚れた布団を洗濯籠に入れておく。後は母が洗濯してくれることだろう。
男であるスベルは、洗濯の仕方がよく解っていない。まあ、作者もよく解っていないようだし、問題はないのだろう。さて、これで問題は解決した。スベルは自室に戻ろうとするが、肝心なことを忘れていた。中々の量の精液だったが、面食いには掛からなかっただろうか。
否、掛かっても挿入している訳ではないのだから妊娠はしないだろうが、それにしても掛かっていてほしくない。もし面食いの身体や衣服に精液がこびりついていた場合、それをネタに揶揄われたり、距離を置かれてしまう恐れがある。それはまずい。スベルは素早く自室に戻るが、遅かった。
「おはよう、スベル。いやあ、いい朝じゃなあ。む、何じゃこの臭いは? 儂の体臭か? それにしては妙にイカ臭い。昨日はラーメンを。ラーメンといえば、これはさながらザーメ」
「ふぇらあああああああああああああ!」
スベルは面食いが真相へ行き着く前に止める。しかし、彼にザ・ワールドのような素敵な能力は備わっていない。せいぜい滑って場を統べる程度の能力者だ。スベルなだけに。お後が、否、お滑りが宜しいようで。
「正直、サクラクエストより、この小説の方が面白いよな」
「そうじゃな」
「よお、面食い。ヘヴィーオブジェクトの最終巻読んだ?」
「否、読んでないし出とらんじゃろうが。何をフライングゲットしておる。何をタイムスリップしておる」
「最後、クウェンサーがオブジェクトになって世界が平和になるんだよ」
「何じゃそのガンツみたいなオチは。定番すぎるじゃろう。主人公人柱エンドかよ」
「あったけえな、オブジェクトの中」
「それはHOではなくGTじゃろ。むしろHOGTじゃろ」
「クウェンサーがいたから楽しかった。ドジで明るくて、優しくて。そんなクウェンサーがみんな大好きだったから。これでヘヴィーオジェクトのお話はおしまい」
「勝手に終わらせるな! あやつらの戦争はまだ始まったばかりじゃ! お後が宜しいようで」
「ライトノベルで絵しか見ない奴は、漫画でも絵しか見ないんだろうな」
「そうじゃな。ラーメンでも麺しか食わないんじゃろうな。メンマもナルトも美味しいのに」
「漫画で絵しか見ない奴は、ナルトでナルトしか見ないんだろうな」
「ナルトもナルトしか見ないじゃろうな。『ナルト』は『ナル』シス『ト』じゃからのう。お後が、否、お味が宜しいようで」
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