300年前にある国家の宮廷魔術師筆頭まで登り詰めたツアイツ・フォン・ハーナウは実の父親である国王に濡れ衣を着せられて処刑された。
だが事前に情報を知りえた為に自力で転生の準備を行い自分の魔法迷宮を造り、其処に訪れた冒険者の子供として第二の人生をおくろうと計画する。
そして貴族の長男として新たな人生を手に入れたが……色々な問題が山積みだった。
第二の人生は自由に生きたい為に力を付けて一人前の冒険者を目指す、そんな物語です。
もともとは小説家になろうで連載されていた作品ということでレビュー。随分前に規約違反で小説家になろうをアカウントBANされた作者の小説です。
ハーメルンで大分前に復活しています。放置していたのですが、まとめて読んでみました。
基本的にはテンプレチートものですが、主人公がダンジョンで無双する場面を過ぎた当たりから凄まじく失速しています。
なろう小説のパターン「テンプレ部は良いが、展開した話に作者の力量が追い付いていない」の典型です。
▼あらすじ
ある王国の王子として生まれ、戦争で英雄と言われるほどの活躍をしたものの、彼を危険視した父王に冤罪で処刑された主人公。しかし魔法の力に依って未来へと転生を果たした彼は、古代に振るったゴーレム魔導士としての力で、二度目の人生をもっと自由に生きたい……と称していますが、作中での主人公の行動を見るとそうなのか疑問……。
▼序盤のダンジョン無双部分が白眉
なろうのテンプレ的な展開「昔強かった人物が力を継承しつつ復活」なのですが、ゴーレムを集団運用してダンジョンで富を得ていく経過は魅せるものがあります。
▼能力隠しコソコソ系だが、自ら設定をぶち壊し
キャラクターの設定は上手くいっていると思います。でも、それを生かせない人物描写の下手さが致命的な問題になっています。一番の問題は主人公リーンハルトのブレブレ感で、過去に魔導師団を率いていた、つまり戦闘組織のトップだった過去があるというのにいきなり、
笑っているがロップスさんは魔術師ギルドから信用されている、未だ若くレベルも低いけど真面目で責任感の有る組織では優遇されるタイプだ。
裏を返せば扱い易い人材なんだが突出した力が有っても言う事を聞かない連中など害悪でしかない、組織とは人が歯車となり全体を動かすらしい。(184話)
みたいな素人感覚で物事を評したり、わざわざ矛盾した言動をたびたび発するのは止めてほしいです。過去に力を恐れられて処刑されたにも関わらず、183話(転生してから相当の経験を積んだ辺り)になって、
思わず笑いが込み上げて来た、前は宮廷魔術師なんかにならないで自由に生きたいと考えていた、なるだけ権利者側には近付かないと。
だが自由に生きる為には相応の力が要る事も学んだ、考えが甘かったんだ。
突出し過ぎず有能で有る事を示せば事は有利に運ぶだろう、だが余りに能力を示し過ぎると出る杭の如く打たれる。
とかまるで学習しない発言をしています。その上こうなるのは、作中で幾度となく主人公が考えなしに力を見せびらかした経緯があったからで、「えー。この程度のことで周りは騒ぐの〜(チラッ」というのを何回も繰り返した果てなわけです。
この話は能ある鷹が爪を隠すコソコソ感が醍醐味だというのに、その部分に説得力が無くて作者が主人公を通して舐めプをすると話全体が緊張感を失ってしまうわけで……。
▼登場人物の感性が昆虫っぽい
理不尽な貴族が寄ってきて無茶な干渉してくる展開がゲップが出るほど多いです。ワンパタです。その無茶干渉貴族の中にもなんだかんだで親身になってくれる人達がいるのですが、これら迷惑な人達が良い人だろうと悪い人だろうと主人公の接し方や物の感じ方が平板で、「あー、面倒」という方向で描写が終わります。主人公の感情がどこについているのかわからなくて不気味です。異様に判断力が低いところもあって、あまり感情移入できるタイプの主人公ではありません。
勝手な意見ですが、作者が人の善悪好悪を八百屋の値札でも眺めるような感覚で見ているため、その感覚が主人公に投影されているのかな、と思います。逆に女性陣が主人公を眺める感覚も、「出世株」とか「将来有望」という目線しかなく、これまた不気味です。
しかし、そのように利益ずくでよってくる女性たちが色仕掛けとか真っ向勝負ばかりで、この辺りもゲップがでそうなワンパタになっています。
▼世界観として客観性が不足
典型的ななろう貴族的人物に無理を押し付けられたりしますが、その理不尽描写がその世界としてバランスしている所業なのかがわからず、読んでモヤっとします。
仕事を請ける為には強制的に魔術師ギルドに所属しろとか無理も言われず、コレットみたいに魔力測定や得意技の実演とかも見せずに済んだ。
183話の引用です。この作品、引用部のように主人公が「強制的に〜される」という描写や展開が非常に多いのですが、この引用部は例外的にそうされなかった部分です。ただしここ以前で、そもそも「魔術師ギルドに所属を要求される」と言う行為が、この世界でアリかナシか、という感覚が語られていないのです。既に言った通り、他人から理不尽行為を要求されるのはこの作品では日常茶飯事ですから、そのたびに、この問題でモヤッとしてします。
186話ですが、貴族から砦修理の依頼を受けている最中に、賊の集団に襲われ、多勢に無勢でピンチに置かれた場面から引用します。以下、砦修理の依頼を一緒に遂行している、魔術師ギルドから派遣された同僚魔術師の発言です。
「構わない、冒険者ランクCでレベル30の君が最大戦力だ。ローラン公爵家の人達に何か有れば僕等は問答無用で首を切られる、だから足掻くしかない。
でもミリアンとマックスは未だ幼い、彼等に預けて一緒に逃がすべきだろう」
ローラン公爵家が砦修理依頼をした貴族です。この同僚は、砦の偉い人物に被害があった場合、自分達(主人公も含む?)が何らかの責めを負って、首を斬られると言っているように読めます。
でも、「魔術師ギルドから派遣された土木工事作業員の魔術師」がなぜ首を斬られるのか皆目見当がつきません。中世ヨーロッパで言うと、危険地帯の砦修復に赴いた石工が、砦が襲われた責任を負わされて処断されるって変ですから、この世界特有の事情で補う必要があると思うのです……。
▼総合評価【★★★】
・組織の責任・力関係がわからない描写が多々あり
・主人公の行動がブレ、感情移入しにくい
・女性キャラに魅力がない
・話がすすむほど、主人公が何を望んでいるのかわからなくなってくる
・序盤はテンプレチートとしては成功していると思う
【ファンタジーの最新記事】
なろう の最近のランキング上位作品の多くは、もう少しマシな文章のような気がします。
話が進むうちに文章力が改善されていくんでしょうか、もう少し読み進めてみることにします。
記事内、辛い批判ばっかりで褒めてませんもんね、記事に書かれているとおり微妙作って事なのか。