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第六十五話『ペロリ……これは、アホの味だ!!』
宜しくお願いします。
九月十一日、午後八時三十分。
地下帝国皇城アリノスコ=ロリ、最上階玉座の間。
午前中にヴェーダから『んもぅ、駄目な人』認定された後、神像を二体制作して午後四時前に地下へ入り、中央広場で眷属化を開始。
午後七時に本日の眷属化を終える。
三時間の眷属化作業で742名を眷属化出来た。
一分間で約四人の眷属化、まだまだ修行が足りないようだ。
中央広場の神像に二礼二拍手一礼し、皇城へ入る。
俺とメチャとラヴ、そしてササミ少佐が一緒に入浴。
一日の疲れを取ろうと思ったが、先日破瓜を迎えたラヴが悪い子だったので折檻した。疲れが残った。
ササミとメチャは両手で顔を覆いつつ、当然のように指の隙間から俺の折檻を覗いていた。俺のお仕置きは厳しい事で定評がある、ウブな彼女達には怖い思いをさせてしまったかも知れない。
そう言えば、ササミは風呂から上がった後のトイレが長かった、便秘かな?
風呂の後は玉座の間、と言う名の草原で食事。
丸いテーブルをソファーで囲むスタイル。
アカギとカスガ、イセとトモエも同席。メチャとラヴも同席したが、さすがにササミは同席出来ず、竜騎士隊と一緒に俺達を警護。夕食は交替で摂るようだ。
皆の食事は野菜と果物を中心としたヘルシーな物だったが、当然俺はラヴの【影沼】から取り出した鉱物を喰う。
メチャとラヴ以外が驚くかと思ったが、どうやら尊妻様が予め『食事は石』と告げていたようだ。しかし、アカギは俺の分も料理を用意していたので、有り難く頂いた。
食事の後は軽い歓談をして、現在に至る。
今は女帝と女王へ俺から質問タイム。
俺がアカギとカスガから学ぶ事は多い、帝王学などは最も学ぶべき事の一つだろう。歓談後はいつもこうして教えを請う。
今日最初の質問は『輜重兵』についてだ。
輜重は前線に送らねばならない軍需品の総称。それを扱うのが輜重兵、その集団が輜重隊だ。戦地の後方で様々な戦闘支援をする為の施設や活動等を総称する『兵站』、その兵站業務を輜重兵は担当する。
戦争の素人である俺でも兵站の大切さと言うものは理解出来る。それに携わる輜重兵の重要性は言うまでもない。
俺達が戦った領軍、メハデヒ王国軍に輜重兵科は存在しない。だが、軍需品輸送の概念は有る。しかし、先の戦いでは『輸送兵』を見なかった。
輜重車となる荷車も幌馬車も確認していない。
ラヴが軍属として隷属状態だった時は、輜重兵と同様の業務をさせられていた。囚われていた国は違うが、ダークエルフのアイニィ達も同じだ。
俺は領軍内にダークエルフの存在を疑ったが、辺境伯は大の魔族嫌い、ダークエルフを従軍させなかった。そこで俺は【影沼】を扱える人間の存在を考えたが、ヴェーダが『居ません』とアッサリ否定。
では物資を誰がどうやって運んでいる?
答えは辺境伯の隣に居た。
侍女が輜重兵、侍女が持つ異次元袋が輜重車。
辺境伯は教国戦で必要となる全ての物資を、たった一つの袋に入れていた。あの男は肝が太すぎる。
ヴェーダが蜂に奪って来させた異次元袋は、生意気にもロックが掛かっていた。さすが勇者のお手製と言ったところだが、ヴェーダが構造を分析した結果、ロックは『魔力認証型』だと判明。
速攻で蟻に『辺境伯か侍女の魔核を探せ』と指示を出し、爆発した辺境伯の居城から二人の欠けた魔核を入手。その魔核から漏れる魔力を使って袋を開けた。
袋の中には攻城魔導兵器の他に、辺境伯の私物と約十万八千食分の食材が入っていた。勇者お手製とあって大容量だが、明らかに食材が少ない。
一万二千の軍隊が三日間で喰い尽くす量だ。
騎士団九千人分だけの食材だったとしても四日しか持たない。
兵を起こすまでの準備期間に食材を用意出来なかったのか、しかし近隣の町や村で徴発した形跡は見られない。領軍が通過した後の町や村から大量の食材を空挺団が奪っている。
恐らく大森林で採取や狩猟、教国で略奪をする考えだったと思われる。それでも明らかに足りないが、辺境伯は獣人部隊と戦奴の食料確保を初めから考えていない。戦奴は麻の貫頭衣しか身に着けていなかったが、獣人達は腰袋や雑嚢に僅かな食料を詰め込んでいた。鬼だな、あの男は。
とにかく、その少な過ぎる食材を、安全を考えて分散させず、たった一つの袋に詰め込む結果となったのは、輸送隊が編成されていないのか、輸送手段が一つの異次元袋しか無かったからなのか、それとも、ただ辺境伯がアホだっただけなのか。
その辺りがハッキリしない。
そもそも、何故領軍は全軍が姿を見せていた?
何故、体力を消耗する『歩行』という移動手段を採った?
「――それで俺は思った、人間は『異次元袋の使い方』を知らねぇのかな? って。ヴェーダから聞いた話だが、異次元袋の構造は【影沼】と同じ理屈らしい。全軍は無理でも、騎士団一つくらいなら異次元袋に入るだろ」
俺の言葉を聞いたアカギが首を捻り、カスガが微笑む。
他の者もラヴ以外はアカギと同じ反応を見せた。俺が言った事を理解したのはカスガとラヴだけのようだ。無論、ヴェーダは理解している。
アカギがカスガに視線を向け、カスガはラヴに視線を向けた。
「お主はどう思う、『影沼使い』のラヴ」
「変な二つ名をどぉ~もっ!! まったく…… そうですねぇ、使い方を知らないと申しますか、勘違いしておりますね」
「フッ、やはりな」
俺に凭れ掛かったカスガは、右肘を俺の左太ももに置き、形の良いアゴ先を左手の人差し指と親指で撫でながら、ラヴに話の続きを促した。
「簡単に申し上げますと、人間も獣人も、【影沼】や異次元袋に生き物を収納出来ると思っておりません」
「は?」
「クックック」
ちょっと意味が解らない。
カスガは笑っているが、他の者達は小首を傾げている。
「クック、然もありなん。以前から蟲を使って人間共を観察していたが、オカシイと思っていた。奴らは【影沼】を幼少時から巧みに扱えるダークエルフを捕らえ、頻繁に『荷持ち』させておるが…… 一度たりとも兵や馬を【影沼】へ入れた事が無い、その発想すらなかろう」
「発想が無い? マジで?」
「女王陛下の仰る通りです陛下、私は一度も『生き物』を入れろと言う命令を出されておりません、実際は蟻などが入っていたのですが。勿論、私も『生き物も入ります』とは申しませんでした」
自分が【影沼】に潜む事は『逃亡禁止』の命令で出来ませんでしたが、ラヴはそう言って話を終えた。人間の白痴度が俺の理解を超えている。
「オカシイぜそれ、お前と出会った時に【影沼】へテント収納してただろ、森でテント広げれば裏に小さい虫とか付いてるかもって誰も思わねぇのか? それ以前に…… おいヴェーダ、皆に細菌とか、微生物の事を教えて差し上げて」
『了解しました。少々お待ち下さい』
ヴェーダの脳内授業が開始。
終始笑顔だったカスガと、鼻風船を二回割ったイセを除き、細菌や菌類の画像に皆が驚いていた。
皆が微生物の存在を知ったところで俺の話を再開。
カスガとアカギ、そしてラヴは、俺の言わんとする事に気付いた様子だった。
「つまり、生物が入らんも何も、入れてるだろうがって話だ。別に微生物だけに限った話じゃない、ラヴも蟻が入っているのを見てそう思ってたんだろ?」
「そうですね、私の頬を張った騎士も【影沼】の中に婚約者から貰った『観葉植物』を鉢ごと入れておりましたが、蟻が巣を作っておりました。あの男はそれを知っても矛盾に気付かず放置しておりました」
「クックッ、愚かよな。人間共には蟻が木偶にでも見えるのか、それとも【影沼】へ収納可能とする生物を何らかの基準で分けておるのか…… フッ、小虫の事はさて置き、奴らは微生物を意識しておらんよ、存在を知っておったとしても小虫以下の生物に『生命』の有無を問わんさ」
基準を設けて分ける、か。
どちらかと言えば『蟻が木偶に見える』の方じゃないか?
それに、カスガが最後に言った言葉が答えだと思う。
生命の有無を問わない、小さな虫を生物として認めていない、つまり『物』であるから異次元袋や影沼に収納出来ても不思議に思わない。
だとすると、やはりカスガの言った『基準を設けて分ける』が出てくるな。
どこからが『生物』であるのか。蟻と蜂は大きさがかなり違うが、蜂が収納出来ても驚かないのか、昆虫全般は驚かないのか、基準が分からん。
駄目だ、憶測の域を出ない。
ただ単に人類の白痴が酷いだけかも知れん。
『基準』の話はもっと情報を集めてからだ。
今は微生物の話に戻ろう。
「とにかく、人類が微生物の存在を知らんという事も考えられる、恐らく知らんだろう。しかし、異次元袋の製作者である勇者は微生物の事を知っていると思う。嫁や義父の辺境伯に教えたかどうかは知らんが。つまり、勇者の子孫である皇族王族も知っているかも知れんと言う事だ」
「でもナオキさん、勇者……異世界人共は皆『さいこぱす』であると、偉大なる姉上様が仰っていたじゃない。彼らは『阿呆』ではないの?」
「いやいや待てアカギ、サイコはクソだけどアホじゃねぇよ。アホでも気が触れた者でもないから社会に溶け込んで誰もその狂気に気付かない。だからサイコ野郎の周囲では事件が頻発する」
「ふぅ~ん、自分の狂気を隠すわけだから、どちらかと言えば狡猾で頭は回る方ねぇ」
「頭の回転と知識とは関係無いかも知れんが、嫁を貰える歳の人間なら微生物の存在は常識として知っているはずだ」
俺がそう言うと、俺の右隣に寝そべっていたアカギは「そっ」と言って肩を竦めた。
そして、俺の左頬を撫でながら頬笑みを浮かべるカスガは、アホな俺の思い込みを正す。
「その常識と知識は、お主の前世で得たモノであろう? 異世界人共は皆お主と同じ世界から来たのか? 以前お主が申しておった『同郷の転生者』と思われるチョーとか言うゴブリンは、お主と同じ常識や価値観を持っておったか?」
まったく、俺の周りに居る女衆は……
駄目男矯正師ばかりだな、惚れ死にさせてぇのか?
「あぁぁ、また下手打つところだった。有り難うカスガ。そうだな、微生物を知らない世界の人間かも知れんし、自分用に新たな常識を構築するチョーのようなヤツだっている。異世界人が皆似たような知識や常識を備えているという証拠も根拠も無い。ヴェーダ、異世界人の出身って、分かるか?」
『限定出来ません。ご質問の答えにはなりませんが、アートマンから送られる知識の中に、この惑星より文明レベルの低い惑星――異世界は存在しません、一応申し上げておきます』
「そりゃ…… 何とも言えねぇな。文明レベルがこの世界より高くても、微生物の存在を知る手段が有るとは限らん。それに、微生物が存在しない世界だって在るかも知れん」
『微生物が存在しない世界は神界のみです』
「それなら、手段の有る無しが奴らの常識と知識を判断する手掛かりだな」
「フフッ、ナオキよ、その話に答えは出らん。全ては憶測、異世界人の脳内事情など今は捨て置け。我々が今討議すべきは人類が持つ輸送手段とそれに関する奴らの認識、兵站に関する情報の精査だ」
「おっと、そうだな。現状で俺達が分かっている事から片付けようか」
ヴェーダと蟲達が集めてくれた情報は、その精度や質、信頼性が高い。その収集された情報と、俺達が現場で見聞きした情報を合わせ、決定的な証拠や納得出来る根拠の伴う答えを探し出す。
時刻は午後九時を回ったところだ。
今夜中に俺がアカギとカスガの考えを聞きたい問題は三つ。
輜重兵や兵站、ダークエルフの事などが最初の一つだ。
夜はまだ長い、じっくり御教示願いたい。
有り難う御座いました!!
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