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239.素敵な冒険
ドラマCD特装版、12/15発売です!

青空の下、体を寄せ合う俺とエレノア。
エレノアの体は小さかった、ちょっと力を込めて抱きしめたら折れてしまいそうなくらい小さく、細かった。
そんな体で俺の上に寝そべっていて、裸を押しつけてくる。
たまに思い出したかのように胸板をペチペチと叩いてくる。
「よくも」
「うん?」
「よくも女にしてくれたな」
「あまりにもいい女だったんでな」
「礼もわびもなしか」
「お礼はともかく、お詫びって必要か?」
「ああ必要だとも」
エレノアは体をくっつけたまま、顔だけを上げて俺をみあげてきた。
「わずかな甘露を支えに400年の空閨を強いられる女にわびの一つがあってもバチは当たるまい?」
「そうか、お前からしたら400年は待つことになるのか」
この時代に来たとき、イオはロドトスを見て、そいつを400年前の人間だと言った。
素敵な冒険ペアチケット。
くじ引きで引き当てた時間旅行の権利だが、旅行も冒険も終わりはくる。
終わった後、エレノアはこの時代に残り続けなきゃならん。
「……」
「どうした、急に難しい顔をし出して。何を考えている」
「お前をどうにかして俺の時代につれて――いて」
エレノアに胸板をかまれた。
声に出るほど痛くはない、ちょっとチクッとしただけだ。
それよりもいきなりかんできたエレノアをみた。
「何をするんだ」
「慮外者にお仕置きだ。そんな事など考えずともよい」
「だが――」
「我を連れ戻して未来に影響を与えてしまったらどうする。そのせいでひかりが生まれなくなったら貴様は責任がとれるのか?」
「むっ……」
痛いところを突かれた。
タイムパラドックスってのがある。時間旅行において、やったことで未来に影響を与えるような行動のことだ。
正直何をやって何がどう変わるのか分からないから今までは考えてこなかったが、エレノアを連れて帰るとあの時のエレノアがいなくなって、ひかりも生まれてこなかったって可能性がかなり大きい。
さすがに……それは……。
「我はこのまま残る。なに、400年など大した時間ではない、五・六人くらいの人生をいじっていればあっという間だ」
「ほどほどにな」
「善処しよう」
エレノアとのピロートークはお世辞にも色気のあるものじゃなかった。でもすごくエレノアらしくて、その話に付き合うのはいやじゃなかった。
「とりあえずはあの女からいじってみるとするか」
「あの女?」
「貴様が最初に次元の壁を切り裂いたきっかけになった女だ。名前はたしか――」
「タニアか?」
「そいつだ。さしあたってはそのタニアとやらに契約でも持ちかけるとしよう。契約の後魂は成仏出来ずに地上に縛られてしまうが、それも仕方ないことだろう」
「……」
おいおいほどほどにしろよ……という言葉がのど元まで出かかって、どうにか呑み込んだ。
まわりくどい言い方をしているが、エレノアはタニアを守ってくれるっていってるのだ。
だからタニアは幽霊になったのか。
「ありがとう」
「礼は不要だ。いっただろう暇つぶしだと」
「そうか」
「それにタニアが拒むかもかもしれんぞ? 我は全能ではない、魔剣なりのやりかたしかできんのでな。タニアの残りの人生は苦しんでもらわねばならん」
……ああ、そういうことか。
占い師アカンサの言葉を思い出した。
タニアの運命には『つらく、苦しい、永劫のような地獄の苦しみ』が待っている。
それを乗り越えた先は『吉が一で凶が九』とも言われた。
凶が九は俺が否定した。
将来俺と出会う以上、俺の女になる以上吉が十に決まってる。
地獄の苦しみは幽霊になってからの数百年だと思ってたが、本当はエレノアの事を指してたのかもしれないな。
「なんだ、ほどほどにとか、手心を加えてやれとか言わないのか」
エレノアは俺にくっついたまま、不思議そうに見あげくる。
「情をかわした女ではないのか?」
「帳尻が合うように。いやちがうな。お前との時間がまったく気にならないくらい後で幸せにしてやればすむだけのはなしだ」
「できるのか?」
「当然だ」
俺は即答した。
タニアも俺の女だから、何があっても幸せにするさ。
エレノアとくっついたまま話してると、青空に影がよぎった。
影は空中で旋回した後、ゆっくりと降りてくる。
ドラゴンの姿のオリビアだ。
「来たか。我もいるな」
「分かるのか」
「ああ、はっきりと。それにひかりの事も」
……つながった、のか?
オリビアにひかりが乗っているとしって、俺とエレノアは起き上がって服をきた。
元通りの姿にもどったのとほぼ同時にオリビアが着陸する。
彼女の背中からイオ、タニア、そしてひかりが降りてきた。全員が降りるとオリビアも人型の姿に戻った。
ひかりは魔剣のエレノアを抱きかかえてこっち走ってきた。
「おとーさん!」
「ごめんなひかり、投げつけたりして。大丈夫だったか?」
「おとーさんは大丈夫なの?」
「悪かったな心配をかけて」
「……一瞬で二度もわびたぞこの男」
俺の横でエレノアがあきれ顔でつぶやく。
「なんだそれ、どういう意味だ?」
「呆れただけだ」
「……?」
今の会話のどこに呆れる要素があったんだ?
不思議がりながらひかりからエレノアを受け取った。
(ゆうべはお楽しみだったな)
「なんだ、わかるのか。やっぱり自分のことだからか?」
(いいや、ただそこに女の顔をしたのがいるってだけだ。貴様に手籠めにされた女は決まってそういう顔をする)
「どういう顔だ?」
「おかーさんいま幸せ?」
ひかりが人型のエレノア、この時代のエレノアに聞く。剣のエレノアから(そういう顔だ)って言われた。
「うむ、それなりにな」
「おとーさんと一緒にいたから?」
「認めるのはやぶさかではないな」
「そっかー。えへへ-」
「なんだ」
「おとーさんとおかーさんが仲いいとひかりもしあわせ」
ひかりはそう言って天真爛漫にわらった。
エレノアは多少ぎこちないながらもひかりの頭を撫でてやった。
それは、くじ引き所でしか見られなかった親子の団らん。
その瞬間、人の姿のエレノアと、魔剣のエレノアの両方が同時に光り出した。
あたりを包み込むまばゆい光、目を開けてられないほどの光。
「なんだ? 何が起きてる」
「おい貴様、我を出せ」
「なに?」
(我を突き出せ)
外から内から、二人のエレノアから同じことをせっつかれた。
何が起きてるのか分からないまま、俺はエレノアを水平突き出す。
人のエレノアは刀身をしばらく撫でた後、刃に自ら手のひらを引いて引き裂いた。
「おかーさん!?」
「案ずるなひかり。力をそっちの我に譲渡しているだけだ」
「え?」
「我はこれから数百年の暇つぶしをする、そんな時間に力など不要だ。そっちが持っていた方が有効利用できるだろう」
「……だからこっちのエレノアはお前より力がよわかったのか」
たまに不思議に思っていた。
元の時代のエレノアはこっちの時代のエレノアに比べてあきらかにパワーダウンしてる。誤差ってレベルじゃなく、大体6から7割程度の力しかない。
エレノアはこの時の自分がピークだっていったけど、魔剣ってそんなピークとかあるのかってずっと思った。
それに対する回答がこれだった。
この時代のエレノアは元の時代のエレノアに力を譲渡した。それで俺と出会い、今までのエレノアはもとより弱かったってことだったんだ。
力を渡すエレノア、体が徐々に透明になって消えていく。
「エレノア!」
「案ずるな、肉体はもはや我に不要、元の魔剣にもどるだけよ」
「……そうか」
「むしろ貴様の方が心配だぞ? これからは我のフルパワーだ。いわば真・魔剣エレノア。貴様に扱いきれるかな?」
薄まっていくなか、エレノアはイタズラっぽく笑った。
「それこそ心配するな。お前を扱えるのは俺だけだ」
「くく、それは楽しみだ」
エレノアは笑いながら振り向いた。
「そこの娘よ」
「え? わ、私?」
指名されたイオは驚いた。
「あの一撃は見事だったぞ。稲妻を我が身に取り込んでの雷化だったな。完全に我を出し抜ける人間は、こやつと貴様の二人だけだ」
「わ、私は一瞬だけですから」
イオがあたふたする。
Sランク冒険者の大魔道士になった今でも彼女は控えめなままだ。
「可能性があるのは間違いない。貴様に道を開けてやる」
「道を?」
小首を傾げるイオ、そんな彼女にエレノアは手をすぃ、と伸ばした。
ほとんど消えかかっている手の先から微弱な魔力が放たれる。
次の瞬間、漆黒の稲妻がイオを撃ち抜く。
「きゃっ!」
「イオ!」
「案ずるな、今の我の魔力じゃ嫌がらせ程度だ。しかしこれで覚えられただろう?」
「え……?」
「……ああ」
俺は納得した。
この世界のルールの一つを思い出した。
魔法に適性があれば、その魔法を体でうけて生き残りさえすれば覚える事ができる。
777倍の適性を持つ俺はそれで色々覚えた。
そして、漆黒の稲妻。
イオもきっと適性はある、その証拠がエレノアの行動だ。
「その魔法を貴様にやる。好きに使え」
「――はい!」
そう言い残して、エレノアの姿は完全に消えた。
肉体が消え、代わりに地面に突き立てて魔剣エレノアが現われた。
それと同時に俺とイオの体が光った。
「こ、これは?」
「来た時と同じ光か!」
そろそろくるだろうと思っていたが、ここで来たか。
「ひかり!」
「うん!」
ひかりは大きく頷き魔剣に戻った。
俺とイオ、そして魔剣のひかり。
この時代にやってきたときと同じ組み合わせ。
エレノアがパワーアップして、イオが漆黒の稲妻を覚えた。
それで冒険が達成された、といわんばかりに俺たちの体が光り出した。
「カケルさん!」
「人の子……」
残されたタニアとオリビア。
俺はまずタニアに近づく。
タニアは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
そんな彼女の頬に手を添えて、キスをする。
「アカンサの言葉を覚えてるか?」
「はい……」
「乗り越えてみろ。その先の吉は十だ」
「分かりました」
タニアは涙を堪えて笑った。
エレノアの中から幽霊タニアが上半身だけ出して、昔の自分にガッツポーズ――応援をした。
次にオリビアの方を向く。
彼女は落ち着いていた。
「今生の別れだね人の子」
「あっさりとしたもんだな」
「時間はドラゴンのあたしにはあまり関係ないからね」
「そうか。また来世」
「また来世」
オリビアにもキスをした。
次に会うのは彼女が転生した姿、チビドラゴンのおーちゃんだ。
そのおーちゃんと仲がいいひかりが刀身を波打たせて友達に別れをつげた。
光がますます強まる。おれとイオを包み込む。
来た時とまったく同じ感覚で戻る。
視界がゼロの中、声が聞こえてきた。
「カケルさん……すごい冒険だった……ありがとう」
イオがそう言った後、唇に柔らかい感触を覚えた。
こうして、長い過去の旅が終わったのだった。
長いエレノア編ここで終了です。
次から元の時代にもどってヒロインたちが再登場します、引き続きよろしくお願いいたします。
ここまで面白かったらブクマ、評価もらえると嬉しいです。
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