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待て勇者、お前それジャングルでも同じ事言えんの? ~勇者に腹パン、聖女に頭突き、美少女騎士に回し蹴り~ 作者:吾勝さん

第三章

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第六十四話『オッス、おらゴリラ!! 脳筋だゾ!!』

宜しくお願いします。

『ハードエ=スエム氏族』という名が出ますが
『ハード=エスエム氏族』の間違いでは御座いません。
『ロウ=エスエム氏族』も間違いでは御座いません。

『ハードエ=スエム氏族』に関しましては、
『ハード』と言う名のゴブリン氏族長が居ますので、区切りをズラしました。
『ロウ=エスエム氏族』に関しましては、単語の繋がりを求めただけです。




「お早う御座いますダーリン、あら、朝から『石ころクッキー』? 朝食はそれだけですか?」


 駐屯地の第一砦内最上階に在る自室の窓辺に立ち、日も昇りきらないうちから小石をポリポリ食べつつ、稲妻に照らされる雨雲を眺めていると、少し寝癖の付いたツバキがベッドの上から声を掛けてきた。


「朝食と言うか、暫らくは石や岩しか喰わん」
「それは…… オーケィ、皆にも伝えておきましょう」

「フフッ、ありがとう」
『大尉は良妻です』
「だな」


 多くを聞かない、語らずとも良い。まるで長年連れ添った夫婦のようだが、こう言った関係は気が楽で落ち着く。ツバキの方も感情に乱れは無い、国王である俺の行動に何か意味が有ると察してくれているようだ。


 称号【岩仙】=物理攻撃30%上昇・鉱物可食。


 この称号と『鉱物可食』の効果を話すだけの事なのだが、今優先すべきはその話を聞く事ではなく、別の事だとツバキは判断したのかも知れない。

 彼女は室内に増設された洗面所で顔を洗い、口を漱いで寝癖を整えると、いつものように背筋を伸ばして上品に歩み寄って来た。

 俺の右隣へ並んだ彼女は、雨の大森林を見つめて「みませんね」と呟き、俺の顔を見上げて目を閉じる。

 妖蜂族の素敵な風習『朝一の接吻抱擁』だ。
 なるほど、これは何を置いても優先すべきだな。

 ツバキのプックリとした薄紅色の唇と、舌先から溢れる妖蜂蜜をタップリ頂き、彼女の腰に右手を回してソファーへ誘導。

 FPで購入した紅茶を二人で静かに飲みながら、メチャとラヴが迎えに来るまでの短い時間を穏やかに過ごした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 防水処理が施された蜂糸布を張った大きな傘を差し、メチャとラヴを伴ってマハーカダンバの下へ行き、朝の礼拝を済ませて大雨に打たれる拠点改め『首都カンダハル』を巡廻。

 俺や古参の眷属が会議や小規模な話し合いで『ガンダーラ』の名を出す時、新眷属達は『国』と『最初の拠点』のどちらを指しているのか戸惑い、推測や話の前後から判断するといった苦労をしていたので、以前から考えていた『カンダハル』を最初の拠点周辺の名称とした。

 首都、拠点をそう呼んでも良いと思える状態となった為、少し寂しくはあったが俺も古参眷属達も拠点の改名を喜んだ。

 自分達が汗水垂らして築いた小さな集落が、四ヵ月足らずで大森林一の勢力が本拠地と定める場所となり、国となった後はその首都に納まった。

 ミギカラ達はそれを素直に喜び、誇りに思っている。たとえ出発点の名称が変わったとしても、その名は国名として残り、魔族の歴史に刻まれるのだと。

 とは言うものの、妖蟻族が増改築と拡張を繰り返したお陰で、今やあの頃の面影は微塵も無い。唯一変わっていないのは神像のみ、マハーカダンバでさえ成長し過ぎて『誰だお前?』状態である。


 パルテノン集会所の隣に出来た六階建ての食堂、向かいには九階建ての地下帝国直結型病院、診療所は跡形も無い。俺が作った鉄の鍋、どこかな?

 建物の窓に嵌る『妖蜂ガラス』、俺が命名したそれは、ほんの僅かに黄色を帯びた透明な物質であるが、これは妖蜂族に供与された物だ。

 妖蟻族も同じ物を作れるらしいが、カスガの面子も考慮して妖蜂族の提供を受けた。妖蟻族任せになりがちだった開発工事に、申し訳なく思っていたカスガも頭を抱えていたようだ。その気持ちは十分に解ります。

 このガラスは、妖蜂族の毒針から出される『妖蜂毒』と舌先から出る妖蜂蜜を混ぜて煮固めた物で、耐風圧・耐衝撃・耐衝撃破壊などの特性を備えている。

 厚みは6mmほどだが、頑丈で延性に富み、割れる事は稀。悪ガキが石ころを投げつけても安心だ。

 妖蟻族が作る『妖蟻ガラス』は、ほんのり水色を帯びている。
 しかし、どちらのガラスも魔族以外には無色透明に見えるとヴェーダが教えてくれた。蟲系魔族には他の魔族とは違った色で見えているようだ。

 先日、イセから手鏡サイズの『妖蟻ガラスの見本』を貰った際、それを俺の隣で見ていたトモエが、受け取った妖蟻ガラスを見て何かを読むように目を動かし、『女狐が』と言ってイセを睨んだ事があった。

 俺には見えない何かのメッセージを、イセがガラスに仕込んだようだが、何を書いたかは聞いても教えてくれなかった。そして翌日、トモエからも妖蜂ガラスの見本を貰った。可愛い熟女である。


 妖蜂ガラスが嵌った病院の窓からこちらを見る母子、あれは…… ハードの娘と孫か。あの娘の母親はハードがマナ=ルナメル氏族から奪ったシタカラの娘である。

 死んだシタカラの娘、数年前にその娘を奪った強者ハード、二人の間に出来た娘、強者ハードに護られて育った娘が産んだ赤ん坊…… 大森林の掟が生んだ結果か。因果なものだな。

 弱小氏族マナ=ルナメルの血脈は、こうやって南浅部のゴブリン氏族に分散している。

 今ではキングを生んだマナ=ルナメル氏族が大森林に住むゴブリン達の頂点に立ったわけだが、かつて女衆を奪われまくった結果、南浅部に住むゴブリン氏族のほぼ全てにキング・ミギカラの血が入る事になった。

 今後『ルナメル姓』を名乗れるのはミギカラの直系だけだが、妻ウエカラの一族やミギカラが娶った女性の一族といった外戚やミギカラの親族は、『マナ氏』を名乗って権勢を誇るだろう。


『ナオキさんが以前ミギカラ達の子に授けた氏姓は、ゴブリン達の中でマナ=ルナメルとは別の意味で権威の象徴となっています。そちらも権勢を振るうかと』


 そうだったのか、知らなかった。


『特に、『姓』を朝廷の臣で功績のあった者のみに与えると決まった秋期戦略会議以降、それが顕著になりました。今後、『氏』の下賜も控えて下さい』


 アカギとカスガが『姓』を議題に挙げたのは、俺が原因だったのか。

 なるほど、村長が氏姓を村人に考えてやる、という話ではなくなってしまったわけだ。大国の王が氏姓下賜の乱発をすれば、混乱を招きかねんな。

 心得た、控えるとしよう。


 病院の窓からこちらを見る母子に手を振り、その場を去った。

 あの赤ん坊は第一新世代、父親はハードエ=スエム氏族の男衆。
 つまり、あの子は俺が授けた『ロウ=エスエム』を名乗る事になる。

 あんなに小さな子が、いつの日か権勢を振るう時が来るのだろうか、ゴブリン社会だけでの話……とはいかないので放ってはおけない。『朝廷の臣』はゴブリンだけじゃないからなぁ……

 派閥が出来ても眷属同士なら問題は無い。尊敬される存在も大歓迎。しかし、眷属同士でアンタッチャブルな存在を作るのは考え物だ。

 ガンダーラの身分制度がどのような形になるのか分からんが、ヴェーダの知識を基にアカギやカスガ達と時間を掛けて考えよう。


 次は…… 軍馬や狼達が居る厩舎だ、ワイバーンも居るな。
 久しぶりにアイツらと遊ぼう。何して楽しもうか……



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「よっしゃ…… 喰うぜ」

「陛下、クララ山脈で採れた鉄鉱石はどちらに出しましょう?」

「ポリポリ、ゴックン。そっちの壁に並べてくれ」
「畏まりました…… ウフフ、美味しいですか? それ」

「ポリポリ、う~ん、不味くはない。美味いのもあると思う」

「け、賢者様ぁ、御髪おぐしを結い上げさせて頂きますぅ」

「うん、ありがとう」


 朝の巡廻が終わって第一砦に戻り、メチャやラヴと軽い稽古を済ませたあと、二人を伴い自室に戻って二度目の朝食。メニューは大森林産の石とクララ山脈産の鉄鉱石、デザートはハイジ山脈産の『ミスロリ銀鉱石』300gだ。

 給仕は主に【影沼】持ちのラヴが担当。とても楽しそう。
 メチャは俺の髪を木製の櫛でき、ポニーテールにするのがマイブームのようである。

 彼女達はまだ朝食を摂っていない。
 食堂へ行って食べて来いと言ったが、俺の世話を優先するようだ。

 ヴェーダに頼んで誰かに彼女達の朝食を運んでもらう事にする。

 その間、俺はひたすら石を喰う。

 以前、ヴェーダから鉱物可食の説明を受けておきながら、その利点を有効に活用しなかったアホ、それが私です。


 行者ぎょうじゃは孤独に耐えながら五千日間の修業を経て仙人となる。

 マグマの湯船に浸かって『火仙』となる者。
 氷山の頂で愛を叫び続け『氷仙』となる者。

 水中で瞑想し続け『水仙』となる者。
 土中で黙考し続け『土仙』となる者。

 そして、母なる大岩の中で筋トレと精神統一と言う名のエロ妄想を繰り返し『岩仙』となったアホ。

 彼らはその身に宿る精気を更なる高みへと至らせ『仙気』へと昇華させる為、辛い修業に耐えるのである。

 俺は何も知らずに18年間岩の中で過ごし、岩の中で出来る限りの修業を14年間続けてきた。

 修業日数は単純計算で五千百十日、閏年が三回入ってプラス三日。余裕で仙人に成れる修行日数だ。四歳までの期間も入れるともっと長い。

 これは恐らくアートマン様が『そうなるように』と、俺を岩に閉じ込めた状態でこの世に送り出して下さったのだろう。イモムシを虐殺した俺に対しての罰でもあったと思うが、深い愛情しか感じない。あふん。有り難う御座います。

 だがしかしっ!!

【親の心子知らず】を体現したアホとは正に俺の事っ!!

 行者は数少ない精気感知者、精気操者である。
 人は誰でも精気を宿すが、それを感じ取れないまま一生を終える。

 しかし、行者にとって精気感知は最終目的ではない。
 彼らはその先にある仙気昇華、そして神気を宿す事まで視野に入れている。

 それを実現する為、彼ら仙人は『可食』の能力で各々の体に必要なエネルギーを摂取し、仙人としての『力』を高めていく。

 俺は10歳になった頃から精気を感じ取っていた。この頃【行者】の称号を得たのだろう、ステータス確認は年に一度の楽しみだったので頻繁に確認していない。

 18歳で岩から出た時には岩仙になっていた。
 その日のうちにヴェーダを賜り、各ステータスの説明を受けたのは良い想い出だ。

 魔核を食べると恒久的に最大精気量が上がる、一時的なバフ効果も得る。

 食べる鉱物の種類によっては恒久的に身体能力上昇が見込まれ、特技・耐性・称号を獲得出来る。

 魔核も鉱物もその種類によって能力の上昇率が変わるが、デメリットは何も無い。食べれば食べた分だけ俺の『力』は増す。

 それなのに、何故アホな私は石や魔核をほとんど食べなかったのでしょうか?


『石を食べてもステータスに変化は無く、魔核を食べても最大精気量の上昇率は極僅かでしたから、重要視しなかったのでしょう。御自分の称号も、私の助言も』


 アッハッハ、最後はアレだね、キツいね。

 確かに、鉱物を食べれば各種能力上昇や称号獲得が可能だ。しかし、能力上昇は『見込み』であって絶対ではなく、食べる鉱物の種類によっては『腹の足し』になるだけだ。それは称号獲得も同じ、称号獲得の条件に適う鉱物でなければ意味は無い。

 俺はヴェーダの言う通り重要視していなかった。

 俺が何かを頭で考えると、俺の中に住むヴェーダにはその考えている事が分かる。しかし、俺は『重要ではない』と判断したモノを二度三度と掘り返して考える事をしないので、俺が思考しない以上、ヴェーダには俺が何を考えているのか分からない。

 狩りに出掛けた際に小腹が空くと、その辺の石を拾って食べていたのだが、それも結果的に良くなかった。ヴェーダからすると『ナオキさんも岩仙の自覚は有るのね』的な状態だったのではないだろうか。


『いいえ』
「あ、ハイ」

『仙人の説明をした時に、貴方がハナクソをホジリながら聞いていましたので、これ以上の説明は不要と判断したまで。結果はコレですが』

「すみませんでした。ですが、今回教えて頂いて感謝しております!!」

『認識の誤りに気付くまで放置しておけとアートマンが言っていましたが、余りにも悩んでおいででしたので、ついつい口が滑りました』

「クッ、男心を絶妙な角度で突いてきやがる。尊妻様は伊達じゃねぇな……」

『惚れ直しましたか?』

「馬鹿言ってんじゃねぇよ」


 まったく。

 直す必要なんて、どこにあるんだ?


有り難う御座いました!!
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