沖縄県が辺野古移設工事差し止め求め地裁に提訴

沖縄県は24日、アメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設工事の差し止めを求める裁判を那覇地方裁判所に起こしました。これに対し、国は全面的に争う見通しで、国と県の対立は再び法廷に舞台を移すことになりました。
普天間基地の名護市辺野古への移設工事は、ことし4月に海上で事実上の埋め立てとなる護岸工事が始まって、25日で3か月となります。

これについて、移設の阻止を目指す沖縄県は「海域には漁業権が設定されていて、県に海底の岩礁を壊す許可を得る必要があるのに、国は許可を得ず工事を進めようとしている」として、工事の差し止めを求める裁判を24日午後、那覇地方裁判所に起こしました。

また、裁判で決着がつくまでの間、工事を止めるよう求める仮処分も申し立てました。

これに対し、国は「地元の漁協が漁業権を放棄したため、漁業権はすでに消滅していて、許可を得る必要がない」として全面的に争う見通しです。

辺野古への移設計画をめぐっては、去年12月、翁長知事による埋め立て承認の取り消しの違法性が争われた裁判で県の敗訴が確定していますが、国と県の対立は再び法廷に舞台を移すことになりました。

翁長知事「無許可行為してまで建設は容認できず」

沖縄県の翁長知事は、24日夕方、県庁で記者会見し、「無許可の行為をしてまで新基地建設を拙速に進め、豊かな生物多様性を誇る辺野古の海を埋め立てようとする態度は、『沖縄県民に寄り添う』という発言ともかけ離れていて、到底容認することはできない。県としては、裁判所に対し、県の訴えが正当であることをしっかり主張・立証していく」と述べました。

菅官房長官「極めて残念」

菅官房長官は午後の記者会見で「極めて残念だ。現時点において訴状は届いておらず、内容を確認していないので、政府としてコメントすることは控えたい」と述べました。

また、菅官房長官は、記者団が「沖縄県が和解の趣旨に反していると考えているか」と質問したのに対し「当然そう思う。最高裁判決では翁長知事が行った埋め立て承認取り消しが違法だという司法判断を確認した。翁長知事も裁判で『行政の長として裁判所の判断に従う』と明言しており、国と沖縄県は、和解条項に基づいて、主文が示された場合は趣旨に従って互いに協力して誠実に対応することになっている」と述べました。

一方、菅官房長官は移設工事について「政府としては、事業を進めるにあたって必要となる法令上の手続きを適切に行っており、作業の安全に十分に注意し、関係法令に基づき、辺野古移設に向けた工事を進めていくということに変わりない」と述べました。

県と国の主張

漁業権が設定されている海域で、サンゴ礁など海底の岩礁を破壊する「岩礁破砕行為」をする場合には、沖縄県の漁業調整規則に基づいて、県の許可を得る必要があります。

県は、「工事を行っている海域には漁業権が設定されていて、国は許可を得る必要があるにもかかわらず、許可をえないまま工事を続けていて、今後、『岩礁破砕行為』を行うのは確実だ」としています。

これに対し国は、「地元の漁協が国からの補償金を条件に、ことし1月までに漁業権を放棄したため、漁業権はすでに消滅していて、許可を得る必要がない」と主張しています。

これまでの経緯

普天間基地の辺野古移設阻止を掲げて当選した翁長知事。
前知事が行った名護市辺野古沖の埋め立て承認を、おととし取り消しました。

これをめぐって、国と県は激しく対立し、裁判にまで発展しました。
去年3月、国と県はいったん和解したうえで、国が取り消しの撤回を求める「是正指示」を行いましたが、県は協議を通じて問題の解決を目指したいとして指示に応じなかったため、国が、去年7月、再び裁判を起こしました。

そして12月、最高裁判所は、翁長知事による埋め立て承認の取り消しは違法だとする判決を言い渡し、県の敗訴が確定しました。
判決を受けて翁長知事は12月26日、埋め立て承認の取り消しを撤回し、その翌日、沖縄防衛局は移設工事を再開しました。

移設工事は着々と進められ

ことし4月、沖縄防衛局は事実上の埋め立てとなる、護岸の造成工事に着手しました。着手から25日で3か月となり、海には石材が大量に投入され、護岸の長さは、およそ100メートルに達しています。

さらに先月からは、高波による護岸の浸食を防ぐため、波消しブロックの設置も進められているほか、別の場所での護岸の建設に向けた準備も始まるなど、移設工事は着々と進められています。

世論調査 移設反対が63%

NHKがことし行った世論調査で沖縄では、普天間基地を県内の名護市辺野古に移設することに反対する人が多いことが改めて示されました。

NHKは、ことし4月、全国の18歳以上の男女に対し、無作為に電話をかける方法で世論調査を行い、沖縄では55.5%に当たる1514人、全国では61.8%に当たる1003人から回答を得ました。

このうち、普天間基地の名護市辺野古への移設について聞いたところ、沖縄では『反対』が63%、『賛成』は27%で、『反対』が『賛成』を大きく上回りました。
全国では、『賛成』が『反対』を上回り、沖縄との考えの違いが浮き彫りになりました。

ただ、沖縄で、沖縄のアメリカ軍基地についてどうすべきか聞いたところ、「本土並みに少なくすべき」が51%と最も多く、「全面撤去」の26%を大きく上回りました。
また、沖縄では日米安全保障条約についても『重要だ』と答えた人が65%いました。こうした結果からは、沖縄では、日米安保体制やアメリカ軍基地の存在について一定の理解を示しながらも、普天間基地を県内に移設することには反対の人が多いことがわかります。

基地負担の大幅軽減見通したたず

現在、沖縄には、在日アメリカ軍専用施設のおよそ70%が集中していますが終戦直後は、むしろ本土側により多くの基地が置かれていました。

戦後、アメリカ軍は、沖縄だけでなく全国各地に基地をつくりました。
防衛省や沖縄県などの資料によりますと、昭和28年ごろ、アメリカ軍専用施設の土地面積は本土の13万ヘクタール余りに対し、沖縄はおよそ1万7000ヘクタールと実に90%近くが本土にありました。

しかし、その後、本土の基地は住民の反対運動などもあって整理縮小が大幅に進んだ一方、沖縄では逆に基地が増え、沖縄がアメリカ統治から本土に復帰した昭和47年当時、比率は逆転し、およそ60%が沖縄に集まっていました。

沖縄が本土に復帰したあとは、本土も沖縄も基地の整理縮小が進むものの、その減少割合は本土のほうが大きく、復帰の2年後の昭和49年ごろから沖縄に70%以上の基地が集中する状況が続いています。

沖縄の基地や施設の返還については、多くが同じ県内の別の場所に機能を移すことが条件になっていることなどから調整が難航していて、沖縄の基地負担の大幅な軽減は実現の見通しがたっていません。