〈時代の正体〉川崎ヘイトデモの人権被害拡大 ネット動画で差別扇動

ヘイトデモに参加した差別主義者を護衛する県警の警察官。「本邦外出身者に告ぐ 日本人に対してヘイトスピーチ、許さない」と敵愾心と排斥感情をあおるプラカードが多数掲げられた=16日、川崎市中原区

【時代の正体取材班=石橋 学】人種差別主義者が16日に川崎市中原区で実行したヘイトデモで生じた人権被害がインターネット上で拡大している。ユーチューブに投稿された複数の動画の視聴回数が3日間で少なくとも計6万回に達し、視聴者による差別書き込みが続く。差別扇動に利用するというデモの目的と、深刻な害悪が浮き彫りになっている。

 動画は複数の参加者が撮影、投稿したもの。チャーターしたバスで乗り付け、県警に護衛されながら約20人が約300メートル行進し、再びバスで走り去るまでを収めている。カメラは主に、沿道から「差別をやめろ」と抗議する市民に向けられ、進路をふさいで人権被害を食い止めようと試みる人々や排除する警察官の様子を写している。「極左暴力集団が発狂している」「テロリストが暴れ回っている」との実況や参加者の「全員朝鮮人だ」といった声、主催者の一人、瀬戸弘幸氏の「大成功。写真もいっぱい撮れた」との発言も収められている。動画の説明には「デモ行進を250人が襲ってくる。在日朝鮮人と極左集団の連中」との誹謗(ひぼう)中傷が記されている。

 動画はいずれも約15分ほどだが、視聴者がコメント欄に投稿した500件以上の差別書き込みが、その扇動効果を表す。「さっさと帰れよゴキブリ朝鮮人」「川崎市は朝鮮人のものではない」「妨害者は全員死ね」「妨害の朝鮮人が気持ち悪いです。日本人頑張れ」と敵愾(てきがい)心や排斥感情をあらわにするものから、デマを加えたり隠語を用いて「朝鮮人は不法移民!日本から叩(たた)き出しましょう!」「在コは一匹残らず処分しなければならない」と具体的な危害を呼び掛けるものまである。

 ヘイトデモは、在日コリアンの虐殺をうたう「日本浄化デモ」を繰り返してきた津崎尚道氏と極右政治団体日本第一党最高顧問の瀬戸弘幸氏が「もう一回やる」と計画。ヘイトスピーチはしないと「宣言」していたが、市民団体「『ヘイトスピーチを許さない』かわさき市民ネットワーク」は「予告自体がヘイト行為であり、差別目的は明らか。どんな名目であれ、どんな言動がなされようと、実行されれば差別扇動の材料にされる」とデモ申請を許可しないよう求めてきた。

 三浦知人事務局長は「心配していた通りの結果だ」と県公安委員会の許可判断や県警の対応に憤る。川崎市は公園や市民館といった公的施設でのヘイトスピーチを事前規制するガイドラインを策定中だが、「公園や会館を貸さないだけでは不十分。差別そのものを禁止する条例が必要だ。最も開かれた公道が差別扇動に堂々と利用された現実を見詰めなければならない。被害を拡大し続けているインターネット対策も急がれる」と話す。

 警察にお膳立てされ、かつ、守られながら行進する差別主義者の一団と、掲げられた外国人排斥のメッセージを発するプラカードやのぼり旗を現場で目の当たりにした在日コリアン3世の崔(チェ)江以子(カンイヂャ)さん(44)は「予告の時点から恐怖を味わわされ、当日は地獄を見た。終わってからも地獄が続いている」と話し、わずかな距離でもひとたび実行されたヘイトデモが引き起こす重大で取り返しのつかない被害を訴えている。

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