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待て勇者、お前それジャングルでも同じ事言えんの? ~勇者に腹パン、聖女に頭突き、美少女騎士に回し蹴り~ 作者:吾勝さん

第三章

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第六十三話『石ころ飛ばすヤツだろ?』

宜しくお願いします。




 九月二日。

 昨夜は夕食と入浴を挟み、深夜まで神像制作を続けて二体の神像を仕上げた。

 本日は早朝から彫像に励み、十時の休憩までに二体の神像を追加出来た。サイズはマハーカダンバに据えた神像と同じだが、ポーズが微妙に異なる。

 先日【岩仙術】の熟練度が上がったお陰か、彫り上げるスピードが速かった。彫像を続ければ、何らかの特技を取得しそうだ。

 昼食を摂ったあと、四体の神像を妖蜂族が一体ずつ駕籠に入れて東浅部各所に運び、四本の巨木を空挺団が空輸。

 神像と巨木はそれぞれ『クララ・ガ・タッタ』と三大公の居城が在る城郭都市の中央に運び、妖蟻族が掘った穴に巨木を植え、俺が神像を巨木の根元に設置して祀り、巨木が神像を取り込んで簡易結界の第一段階終了。

 最後に妖蟻族が造った地下水道で『聖泉アムリタ・ファヴァラ』から聖水を前述の四ヵ所に送り、新たに神木となった巨木の根が地下水道の聖水を吸収出来るようにしたのち、神木の傍に井戸を掘って地下水道に繋げ、釣瓶を設置して簡易結界の準備完了。

 その後、コボルト達が毎日制作している『手乗り神像』を妖蜂と妖蟻の大軍が各地に埋め込み、日暮れまでに簡易結界は完成した。

 俺は神像を据えた時点で地下帝国に移動。日課の眷属化に励んだ。

 精気を使い果たして地上へ帰還。
 風呂と飯を素早く済ませて就寝。

 日が変わって午前三時に目が覚める。

 メチャやラヴを起こさないようにして寝床を抜け出し、独りで礼拝を済ませたのち、拠点内を巡廻してから地下帝国用の神像制作に取り掛かった。

 昼食に入る直前で四体の神像が完成。
 モリモリ飯を食って昼寝。

 午後は地下帝国で昨日と同じ作業。
 神像と巨木の運搬は、土操作スキルを使った妖蟻族が担当、余裕で運んでいた。

 地下帝国内を照らす魔道具によるオレンジ色の光は、光合成生物に必要な光エネルギーを備えている。植物の必須栄養素となる元素も大気や土壌に十分含まれているので問題無い。

 帝都ドームの市民12万人と兵士や侍女8万人に見守られながら、中央広場に在る噴水の傍に巨木を植えて神木化。ほとんど枯れていた噴水は地下水道から聖泉の水が引かれ、噴水の池を聖水で満たす事が出来た。

 三内親王の領地も同様に、それぞれ4万人の市民が植樹の様子を楽しみ、噴水から溢れ出る聖水に歓声を上げた。

 しかし、簡易結界は十分に展開する事が出来なかったのが残念だ。

 魔竜がダンジョンマスターであり、『ダンジョン創造』と『ダンジョン化』という恐るべき特殊能力を有する以上、地下帝国を簡易結界で覆うのは魔竜対策で最も重要な事である。

 その為、簡易結界の完全展開不可という問題は早急に解決する必要が有る。

 地下帝国の領域は南浅部中央から北側、北浅部南側、そして東浅部西側と西浅部東側の広範囲に及ぶ。浅部の中央全てを領域に含むと言っていい。

 さらに、三国同盟の後、帝国は南浅部と東浅部に領地を拡大し、建国宣言後は浅部全域を支配域に入れる為の拡張工事を進めている。

 まったくと言っていいほど『手乗り神像』の数が足りない。
 神像と神木もあとどれほど必要なのか判らない。

 一応、皇城とその周辺、三内親王の居城とその周辺は簡易結界を展開させたが、帝都ドーム全体や三内親王の城郭都市全体に結界を展開するまでには至っていない。

 結界で護る範囲が広すぎる。
 コボルト達だけでは『手乗り神像』の制作が追い付かない。

 そこで、ドワーフや妖蟻と妖蜂の工兵達も『手乗り神像』の制作に動員する事にした。彫刻に自信が有る者も随時募集、報酬は例の『12FPセット』四食分だ。

 初日の公募は日が暮れた後にヴェーダや役人を使って行われたが、約1万2千人の応募が有った。九割が妖蟻族、七分五厘が妖蜂族。残りの二分五厘は他の浅部魔族だが、ゴブリンが最多だったのは言うまでも無い。

 この日は植樹と同時に地下帝国内を回り、各地で眷属化を行った。

 地下での作業を終え、地上に上がってバスタイム。

 今日はエルフの男衆と一緒に入浴。
 ただし、少年アーベは女性達と共に女風呂へ入った。アーベだけは無条件で女風呂に立ち入り出来るが、彼が女風呂に入る姿は少しの違和感も覚えない。不思議だ。

 入浴後は皆で楽しく夕飯。

 現在、食事は野営感覚のバーベキュー状態だが、駐屯地の拡張に伴って兵舎を四つ建設中なので、数日後には屋内で食事を摂る事になりそうだ。

 各種族の家屋も拠点の北部から西側へ向け続々と建てられている。

 妖蜂と妖蟻を除く浅部魔族は1万190名、ナイトクロウラーを入れた場合はプラス88名。

 洞に住むハーピーの913名と、水濠に横穴を掘って住居を構えるナーガ1,242名は地上に家を建てる必要が無い。しかし、ナーガの横穴は妖蟻族が造ったので、機能性に優れ、快適で美しく頑丈だと聞いている。

 あと二日もすれば、浅部魔族の全員がマイホームを手に入れるだろう。

 妖蟻族が建てた土造建築は浅部魔族に馴染みが無い、だが、頑丈で綺麗なので皆は大喜びだ。それに、大森林で大火事の心配が一つ減って助かる。

 建設途中の兵舎を眺めながら夕食を終え、今日も深夜まで神像制作に励む。


 今日も中部と深部の動きは無い。
 俺達は今のうちにやれる事をやっておく。

 そう言えば、メハデヒ王国は大混乱のようだ。
 辺境伯の爆死と領軍壊滅の報が、遠く離れた王都や各地の領主に広まりつつある。

 北西の隣国メタリハ・エオルカイ教国と、東の隣国スーレイヤ王国も、国境沿いで起きた虐殺事件についてメハデヒ王国の駐在官に問い質しているらしい。ラヴやメーガナーダ達は良い仕事をしてくれた。

 南西の隣国アン・スラクース王国の動きは掴めていない。アカギとカスガも遠いアン・スラクース王国に蟲を飛ばしていないらしい。

 ヴェーダはキンポー平原の戦いが終わってすぐ、諜報の蜂を百匹ほどアン・スラクース王国に向かわせたが、王都まで辿り着けていない。通過した街や村では、メハデヒ王国の話題を上げる者は居なかったそうだ。

 メハデヒ王国側は、他の二国を無視して教国を一方的に非難しているようだが、この先どうなるのかは分からない。

 是非、隣接三国で血みどろのメハデヒ王国争奪戦を繰り広げて頂きたい。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 九月十日、早朝五時。

 大きな雷の音で目が覚める。
 三日連続での大雨、台風ではないが風が強い。

 隣に寝ているツバキやオキク達中隊長は、鳴り響き続ける雷に耳をピクピクと動かしてはいるが、起きる気配は見せない。

 地下帝国に神木を植えてから一週間が過ぎ、俺は28体の神像を彫り上げた。

 しかし、何の特技も取得していない。
 ヴェーダには『当然です』と呆れられた。

 魔族は人類よりスキル獲得が難しい。
 誰かに技術などを学ぶ場合のスキル修得は自力で取得するよりも早いが、人類はもっと早い。

 人類が彫像を三カ月も続ければ、熟練度1の彫刻スキル等を取得するらしい。魔族はその倍ほど時間が掛かる。

 俺は魔力を宿していないので、厳密に言えば魔族ではないが、人外枠はスキル獲得にハンデを負うのが『遊戯のルール』なのかも知れない。クソゲーってヤツだな。

 しかし、人類は基礎能力が低い為、早期に獲得したスキルの熟練度を必死で上げなければ、総合力の底上げに繋がらない。だが、これも魔族とは違って熟練度の上がりも早い。やっぱクソゲーだな。

 異世界人などは基礎能力も高い上に、スキル獲得も容易、尚且つ熟練度もガンガン上がるというフザけた遊戯設定だ。このクソゲーを考えた神をシバキ回したい。

 この設定でさらに、地味な筋力トレーニングやランニングなどの基礎的な身体強化で努力をされると、さすがにお手上げなのだが、勇者達はレベルとスキル熟練度を上げる事だけに集中する為、基礎能力がまったく上がらない。しかし、スキル熟練度が高いので総合力は高い。

 他人のスキルを奪いまくった挙句、結局そのスキルを使わずに死蔵するアホも居るそうだ。スキル熟練度も軒並み低いので総合力は殆ど上がらない。サイコパスの考えている事は本当に解らない。

 願わくは、魔族狩りや養殖狩りを努力と勘違いしたまま、ゲーム感覚で三皇五帝のダンジョンに挑み、早めにくたばってくれる事を望む。




 三日も雨続きだと屋外作業が遅れる、などと言う事は無い。
 妖蜂族が築いた第一砦は増改築を終え、今では立派な城だ。

 拠点の東西南北に建設していた小さな砦も、水濠と巨大な壁に囲まれた要塞と化している。南には更に二つの砦が築かれ、その砦は八方にやぐらを擁し、高く分厚い壁と幅の広い水濠に囲まれた立派な物だ。

 ほぼ全て妖蟻族が築いた土造建築だが、新しく建てた木造の櫓にも妖蟻族がスキルと唾液で土のコーティングを施し、耐久力を上げている。

 さらに、砦や要塞の中庭には1mの神像を取り込んだ15mほどの神木が植えられており、水濠の周囲には『手乗り神像』が三重の輪となって埋められている。

 要塞や砦の中庭に移植された神木は巨木ではないので簡易結界の範囲は狭いが、神気の魔法障壁を破るのは至難の業だ。

 低ランクの冒険者や中部の魔族では、まず攻略出来ないだろう。

 浅部の南側には妖蟻族が落とし穴と土塁を『アホか』と言うほど設置しているが、現在は長城の城門が四つとも閉じられている為、森に侵入して罠に掛かった冒険者等は居ない。数頭の大イノシシが毎日落とし穴に落ちているようだ。

 俺達にも罠の場所は分からないが、ヴェーダが『前方に罠有り』と教えてくれるので、今のところ事故は無い。無論、眷属以外の立ち入りは禁止だ。普通に死んでしまうからな、あの底が見えない落とし穴は。


 屋外での作業、主に建築作業だが、予定された建築物は全て建て終わり、増改築も完了している。

 妖蟻族が次に地上で行っているのは開墾と整地、そして道路建設。地下帝国の拡張も同時進行だ。

 開墾と整地は最初にガンダーラから西浅部に掛けて行う予定で、邪魔な樹木は全て地下帝国に移植、岩石等は神木倉庫送りとなっている。

 道路建設はガンダーラから東浅部各所を繋ぐ為のもので、全長約290km、幅21mの道が完成する予定。道は両側を高さ3mの土壁で挟む。

 当初アカギは、俺とアカギとカスガ専用の『馳道ちどう』を建設すると言っていたが、秦の始皇帝じゃあるまいしと断った。しかし、馳道に設置する両側の壁はそのまま設置してもらった。

 一般市民が通る道なので、少しでも危険を減らしたい。両側の壁は危険な野生動物などからも国民を護ってくれるだろう。

 この道路には1km置きに地下へ繋がる避難所を設け、3km置きに見張り櫓を設置し、9km置きに森へ出る門を造る予定となっている。

 地下へ降りると巨大な地下道に出るが、ヴェーダが指揮する数万の蟻が地下道内を哨戒し、帝国へ繋がる地下道への入り口には駐屯所と小さな神木による簡易結界が張られている為、邪心有る者は侵入が困難だ。

 だが、どんなに厳重な防衛策を採っていたとしても、完璧ではない以上、潜入を許してしまうだろう。

 アートマン様の御力が戻り結界が完璧な物になれば、死角の無い球体の結界でガンダーラ全体を覆う事も可能なのだが、現状では如何ともし難い。

 本来ならば、加護を与えて下さる神に頼らず、自分達で対策を編み出すべきだが、如何せん実力不足、経験不足、努力不足、足りないモノが多い。

 満ち足りているのはヴェーダが与えてくれる知識と情報収集能力、そして現状把握能力と掌握能力。しかし、それも全てヴェーダの力、アートマン様から賜った力だ。

 ヴェーダと【言語理解・翻訳】の加護以外は、この世界に岩ごと産み落とされた際に俺の素質で得た特技と能力らしいが、ガンダーラの役に立っているのはアートマン様から賜ったヴェーダと加護の恩恵ばかりで、俺自体の能力はほとんど役に立っていない。

 FPで得られる恩恵は皆の信仰心、これも俺の力ではない。

 俺が他の者より勝るところを上げるなら、四歳から始めたアハトマイト割り筋トレで得た馬鹿力と、ひたすら瞑想する事で得た精神統一の二つ、それだけだ……


『異常なほど溢れ出るフェチモンもお忘れなく』

「あぁ…… お陰さまで美女を口説き易いよ……」


 フェチモンは有り難いが、他にも何か、何か有るはずだ……

 レベルを上げて強くなるとか、そういったモノではなく……

 ガンダーラの為に俺がもっとこう『有益な強さ』というか……


『そこまでお悩みなら一言…… そもそも、貴方が未だに精気しか宿していない事が不自然なのです』

「ん? 何で?」

『貴方は【岩仙】の称号持ちですよ?』


「え~っと、それが何?」


 雨は激しさを増している、それはあたかも俺のアホさ加減に泣くアートマン様の頬を伝って地に落ちた涙のようだった。号泣ですね。





有り難う御座いました!!

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