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【社会】

相模原障害者殺傷1年 識者の思い 生きていてよい、それが人権なんだ

植松聖被告から送られた手紙

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 相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者十九人が刺殺された事件で、殺人罪などで起訴された植松聖(さとし)被告(27)から三通の手紙が本紙に届いた。「意思疎通がとれない人間を安楽死させるべきだ」と、差別的な考えに変化はない。自らも障害があり、障害者支援に取り組む専門家は「価値があろうがなかろうが生きていてよい、それが人権なんだ」と、その考えを否定する。事件から二十六日で一年。「共生」を進めていけるのか、社会が問われている。 (宮畑譲、加藤益丈、加藤豊大)

 手紙で植松被告は「私の考える『意思疎通がとれる』とは、正確に自己紹介をすることができる人間」と定義。意思疎通がとれない重度・重複障害者は安楽死の対象にするべきだと、事件当時からの差別的な主張を繰り返した。

 脳性まひで車いす生活を送る熊谷晋一郎・東京大先端科学技術研究センター准教授(40)は手紙を一読した後、「意思疎通をとれることで『人間』と『非人間』を区別しているが、この論理は破綻している」とゆっくり言葉を絞り出した。「意思疎通とは人と人との間にある関係で、意思疎通がとれないのは被告にも責任がある。一方を抹殺する理由にはなりえない」

 熊谷さんは、自分勝手な線引きで人を評価する考え方は植松被告にとどまらないことに心を痛める。

 「理想から外れた人を攻撃するのは、ちまたにある排外主義なども同根。社会全体で能力主義がいわれ、自分の価値を証明し続けなければならず、等身大で生きづらい。価値があろうがなかろうが生きていてよい、それが人権なんだと認め合える社会にしないといけない」

 手紙で植松被告は「私の考えるおおまかな幸せとは“お金”と“時間”」「重度・重複障害者を育てることが、莫大(ばくだい)なお金と時間を失うことにつながります」とゆがんだ拝金主義もにじませる。

 NPO法人「自立生活センター東大和」理事長として障害者を支える活動を続ける海老原宏美さん(40)は「『幸せはお金と時間』という被告の主張が、障害者は不幸だという考えのベースになっているんでしょう。ここが一番間違っています」と指摘する。

 重度障害があり、人工呼吸器を二十四時間使いながら自立生活を送る海老原さん。「世話をされないと生きていけない人は世の中にいらない、そうなりたくない、と考える人はたくさんいる」。植松被告が手紙に記したのと同じような考え方が、社会に潜んでいることが気がかりだ。

 「障害は社会がつくっているという考えが浸透していない。自分が障害者でなくてよかったと多くの人が感じているのであれば、亡くなった十九人は浮かばれない」

◆植松被告が本紙に手紙

 植松被告からの手紙は、本紙記者が横浜拘置支所に勾留されている被告に出した手紙への返信として六月七日と十六日、今月二十日の消印で計三回届いた。B5判の便せん十三枚に遺族への謝罪や事件の反省の言葉はなく、襲撃の契機として、トランプ米大統領の演説を聞いたことなどを挙げた。

 手紙では重度障害者を「幸せを奪い、不幸をばらまく存在」などと主張。逮捕後の調べには「障害者はいなくなればいい」などと供述していたが、考え方は今も変わっていないことが浮き彫りになった。二回目の手紙では、殺害を思い立ったきっかけに、大統領就任前のトランプ氏の選挙演説と、過激派組織「イスラム国」の活動をニュースで見たことを挙げた。「世界には不幸な人たちがたくさんいる、トランプ大統領は真実を話していると強く思いました」とも記した。なぜそれらの出来事が事件に結びつくのか真意を手紙でただしたが、三回目の手紙で返答は記されていなかった。

 事件前に措置入院した当時、ナチスの優生思想を肯定していたとされる点について、手紙では、やまゆり園の職員に障害者差別の考えを話した際に「ヒトラーと同じだ」と指摘されて初めて知った、と説明した。

 手紙は論理が飛躍している部分もあるが、文体は丁寧で論旨はほぼ一貫していた。

 事件で息子の一矢(かずや)さん(44)が重傷を負った神奈川県座間市の尾野チキ子さん(75)は手紙を読み、涙を流した。「事件前からの差別思想が何も変わっていないとは。障害のある人も人に幸せを与える。当たり前のことがどうして分からないのか」と言葉を振り絞った。

<相模原障害者殺傷事件>  2016年7月26日未明、「津久井やまゆり園」に元職員の植松聖被告(27)が侵入。19人を刺殺、27人に重軽傷を負わせ、殺人容疑などで逮捕された。横浜地検は刑事責任能力があると判断、殺人罪など六つの罪で起訴した。公判日程は決まっていない。

 

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