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【社説】

週のはじめに考える 議会廃止の危機に抗う

 あなたの住む町や村から、議会がなくなってしまう…。過疎化や少子高齢化で議員のなり手が少なくなれば、そんな話が現実になるかもしれません。

 高知県北部の山間部にある大川村が、にわかに注目を集めています。村議会を廃止して、有権者自身が直接、村の予算案などの議案を審議する「村総会」設置の検討を本格化するというのです。その理由は議員のなり手不足です。

 村の人口は約四百人。離島を除く自治体としては全国最少です。村民の42%が六十五歳以上と高齢化が進み、現職村議六人の平均年齢は七十歳を超えています。

◆町村総会は1例のみ

 前回二〇一五年の村議選は無投票でした。村議の半数は七十歳代後半。次の一九年四月の村議選を機に引退したい人もいるようですが、後継者探しは難航している、といいます。

 欠員を埋められなければ、村議会の機能が損なわれ、村政の停滞が懸念されます。それが村総会検討の理由でもあります。

 そもそも、村総会とは何か。

 地方自治法は議会に代えて、有権者全体で構成する「町村総会」の設置を認めています。ただ設置されたのは、一九五一年からの四年間、東京・八丈小島(現在は無人)の宇津木村(現在の八丈町の一部)の一例だけです。

 村総会が注目を集めるのは過疎化や高齢化が大川村だけでなく、日本全体の問題だからでしょう。

 一五年の統一地方選では、町村議会選挙での無投票当選が全国で四分の一近くに上りました。町村総会は議員のなり手不足に対応する一つの方法ではあります。町村総会のような直接民主主義には、住民の意見を身近な行政に直接反映できる利点もあります。

 ただ課題も多くあります。

 まず、有権者が一堂に集まれるのか、という問題です。

◆候補者不足が深刻に

 村総会の成立には有権者の半数以上の出席が条件となります。公共交通が不便で病院や福祉施設に入っている高齢者も多い村で、三百人を超える有権者が集まれる場所や交通手段の確保が必要です。

 宇津木村の場合、有権者は三十〜四十人でした。大川村はその十倍。村総会に移行するには規模が大きいのかもしれません。

 また仮に総会が開催できたとしても、これまで議員が行っていた自治体行政をめぐる専門的な議論を有権者自身が行うとしたら、かなりの負担になります。有力者の発言に引きずられたり、議論が未消化のまま、首長や行政の追認機関になっては本末転倒です。

 参加者に報酬や交通費を支給すれば財政負担も大きくなります。

 「今のシステムのまま村総会に移行しても、住民の負担が大きくうまくいかない」

 調査・研究のために大川村を訪れた名古屋学院大学の榎澤幸広准教授(憲法学)は、こう問題点を指摘します。村総会の導入には、集落ごとに委員会を開いたり、議会経験者らによる有識者会議を設けたりすることで全村民が集まる回数を減らし、負担を軽減するなどの工夫が必要だと提言します。

 総務省も、町村総会の運営方法や町村議会活性化の方法などについて話し合う有識者研究会を近く設けるなど、解決すべき課題は山積しています。過疎化や少子高齢化への一対応策にはなり得ても、最善の策とは言えません。

 むしろ議会廃止の危機に抗(あらが)い、存続を前提に知恵を絞った方が建設的ではないか。大川村の場合も本音は議会存続で、議会が成立しない事態に備えた問題提起と考えた方が良さそうです。

 地域のことをどう決めるのかは議員のなり手不足に悩む自治体に住む人だけでなく、みんなで考える必要があります。

 例えば、議員の兼職問題です。

 小規模な自治体では報酬も少なく、仕事を辞めてまで選挙に立候補しようという人は少ないのが現実です。農家や自営業者などを除いて専業が前提になっています。

◆夜間や休日に開催を

 欧米などでは自治体議員はボランティアの場合が多いようです。

 地域に眠る経験や知見を、地域の活性化に生かすには、日本でも議員は専業でなく、仕事との両立を前提とした制度や意識に改める必要があるのかもしれません。

 企業などに勤めながら議員活動ができるよう法律や会社の規定を改めたり、一部市町村で実施しているように議会を夜間や休日に開いたらどうでしょう。それが定着すれば、女性や若年層を含め、多彩な人材が地方自治に参加できるようになるかもしれません。

 英国の政治家・ブライスは「地方自治は民主政治の最良の学校」と記しました。自分が住む自治体のことは、人任せにせず、住民自身が決める。その自覚を持つことが、民主主義を強くするのです。

 

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