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待て勇者、お前それジャングルでも同じ事言えんの? ~勇者に腹パン、聖女に頭突き、美少女騎士に回し蹴り~ 作者:吾勝さん

第三章

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第六十一話『ルパンしちゃうぞ?』

宜しくお願いします。




 第一回秋期戦略会議を無事に終え、翌九月二日の早朝、アカギの産卵が始まった。


 妖蟻の皇帝は一日に四度、卵を二個ずつ産む。
 妖蜂の女王も早朝の産卵だが、こちらは一日一回、一個の卵だ。

 事の起こりは数分前。
 昨夜から隣で寝ていたアカギが「ごめんなさい、出ちゃう」と、頬を染めて俺の退室を促した。一緒に寝ていたカスガはアカギの産卵を見守るようだが、彼女も間も無く本日の産卵が始まるので、この巨大なベッドから降りる必要は無い。

 イセとトモエが姉の傍に侍り、両族の侍女達が忙しく皇帝の部屋を出入りする中、俺は一人部屋の外へ出た。

 産卵を見守ってやりたいが、以前それをカスガに告げたところ「……馬鹿か貴様は」と言われたので、それ以降は一度も『産卵立会い』を口に出していない。

 夜はあんなに激しいのだが、産卵シーンを見せるのは御法度のようだ。

 いや、そういう問題じゃない。

 妖蟻や妖蜂、皇族や王族にとって産卵とは神聖なものなのだろうか、ゴブリン達は「生まれるので見て下さい!!」と言って来るのだが、同じ魔族であっても種族が持つ価値観は様々、「そう言うものなのだ」と思っておくに限る。

 ただ単に、カスガやアカギが産卵を俺に見られる事に対して『恥ずかしい』と思っていたり、産卵を男性や同族外の者に見せる事を『ハシタナイ』と考えているかも知れない。

 どちらにせよ、俺が部屋から出れば済むだけの話だ。
 喰い下がって室内に残る意味も無い。さすがにそれは気色悪い。

 俺と一緒に部屋から出たメチャと、物凄い笑顔のラヴを伴い、客室でトイレと洗顔を済ませ口を漱ぎ、ラヴの影沼から地蔵サイズの神像を取り出して朝の礼拝。

 礼拝を済ませたのち、皇城から出て中央広場まで移動。
 毎回ここで一般市民の眷属化を行っている。


 まだ午前五時を少し過ぎた頃だが、魔族達の朝は早い、既に大勢の魔族が市街に溢れている。妖蟻族だけではない、地下帝国へ避難して来た浅部魔族が勢揃いだ。

 初めて俺が訪れた妖蟻帝国で、他種族が堂々と通りを闊歩する風景など想像も出来なかった。笑えるほどにアンバランスだ。妖蟻と妖蜂以外、地下帝国の文化レベルに馴染めていない。

 服装から立ち居振る舞いから、何から何まで『場違い感』が拭えない。悪く言えば『見劣り』する。妖蟻と妖蜂、それ以外の浅部魔族とでは文化・教養の格差が激し過ぎる。

 妖蟻と妖蜂を除いて、浅部魔族には『上半身に衣服を纏う』という文化も無かった。身に着ける物と言えば粗末な革の腰巻程度。ハーピーやラミア、ナーガに至っては全裸である……が、全裸は素晴らしい文化なので、廃れない事を切に願う。

 だがしかし!! ヴェーダと言う名の文化破壊者が『チューブトップ』なる卑怯な女性用衣類の開発を巫女衆に指示した。

 あんな物、『胸に巻く腹巻』ではないかっ!!
 男装の麗人が胸に巻く『サラシ』から漂う背徳感すら無いっ!!

 見ろっ、あの可憐なラミアの乙女をっ!!
 大きな丸い二つの苺ケーキをタプンタプン揺らしながら俺に手を振りつつ、穢れを知らぬその小さな二つの野苺を摘んでくれと近付いて来るではないか…… 少なくとも俺にはそう見える。

 あのケーキを、あの苺を、下品な『腹巻』で潰せと言うのか!?

 お前の血は何色だぁぁ!?
 ヴェーダァァァァ!!


『彼女達の文化風習を否定しませんが、眷属の男性以外がアレを見ると抑えが利きません。それに、軍の規律が乱れますので』

「クッ、確かに、避難後はメーガナーダ予備軍が増えたと聞く……」

「け、賢者様ぁ、セッキョーしますか?」
「陛下、去勢しましょう」

「説教はメチャとジャキに任せるが、去勢はちょっと……」

『眷属化しても、ナオキさんが接触不可などの適切な命令を下さぬ限り、我慢の利かない愚か者は魅力的な女性にボディタッチを繰り返します。その対象が全裸の美女となれば…… 不幸が起きます』

「それはイカンな、イカンぞ。笑い事じゃねぇ」


 だが、接触不可の命令なんてものは、犯罪者やロボットに下す命令だ。解決策は他にも有る、それを早急にガンダーラ全体へ浸透させねば……


『奔放過ぎる女性の貞操観念や、男性の女性に対する身勝手な認識を改めさせましょう』

「陛下、他種族との共同生活から生じる文化摩擦や風習の誤解など、こういった事による不幸な出来事は、老若男女問わず、少なからず発生しております。これらを迅速に解決へ導くには、民草に罪と罰を知らしめ、法治の概念を普遍的に根付かせる事が肝要かと存じます…… ヴェーダの受け売りですけど!!」

「ラ、ラヴちゃんスゴーイ」
『色々台無しですが』

「ハハッ、まぁ、ラヴの言う通りだな。罪と罰を明確に示して『ルール』を覚えてもらう事から始めよう。森の掟は個人の解釈次第で大きく意味が変わるが、具体的な行為や状況を記して制定された法は、勝手な解釈が難しい」

「都合良く曲解する者も現れるでしょうね」
「そ、そんな人は、私が三角絞めでセッキョーです!!」

「そうだな。だが、こっちにはカスガとアカギ、トドメにヴェーダが居るんだ、曲解なんぞさせんよ。猿でも解る法令を公布してやる」

『公布されたあとは、私が眷属達の行動を法令に照らしつつ説明しながら戒めます』

「どこの秘密警察だよ、眷属の監視は素行不良のヤツだけにしてくれ。だが、注意喚起と『巡廻』は定期的に頼む」


 ヴェーダの巡廻は一瞬で終わる、いつでもどこでも眷属の状況を把握出来るヴェーダが居れば、俺が『主の命令』を下さずとも、十分な防犯効果を期待出来る。

 だが、完全には防げないのが悩みどころだ。
 眷属達は俺の話をよく聞いてくれるが、眷属以外の者もこれから増えていく。

 それに、眷属であっても間違いは起こす。
 覗き見とか普通にするからなアイツら。

 眷属に関しては、俺が『主の命令』を下す、それだけで解決出来るのだが……

 完全なる防犯の為に、隷属魔法以上の強制力を有する『主の命令』を下され、それを一度でも受けた眷属は主体性を保った魔族と言えるのだろうか?

 仮に、命令を下す対象の意思を極限まで尊重させた『主の命令』を受けた眷属の男が、一人の女性に恋をして、紆余曲折の末に結婚を迎え、幸せな人生を送ったとしても、男が妻に対して本来してあげたかった事や、したかった事が全て叶えられていたのかと聞かれれば、俺は『分からん』としか言えない。

 たとえ全ての望みが叶えられずに死を迎える時が訪れたとしても、眷属である男は俺に文句を言わず笑って逝くだろう。対処不可能な受動的要素を抱えて死ぬ。主体性というパズルのワンピースが欠けている。

 これは恋愛だけの話じゃない、全ての出来事に『主の命令』は影響を及ぼす。

 与える影響を気にして個人に対する命令を毎回破棄し、その都度再命令…… なんてアホな事出来るワケが無い、眷属の数はまだまだ増えていく。

 最適解は何だ? 眷属達に俺が今求めるモノは何だ?


『法令遵守の精神ですね』


 そうだ、法令遵守を“心掛け”よ、これならどうだ?

“法は絶対”などと命令してしまえば、緊急時に融通の利かない状況に陥る危険性が有る。情状酌量など、個人の裁量に任される裁定ではマイナスになりかねない命令だ。

 法令遵守を心掛け、『情』を考慮すべき必要が生じる事案などは多人数で意見を出し合い、臨機応変に対処させればいい。問題が生じた時はヴェーダや俺が出るだけだ。


『法令を破るという主体性を失いますね』

「そんな主体性は要らん。法令遵守の命令を下す時、眷属達に聞くよ、『法を守るのが面倒なヤツは挙手』ってな。眷属以外にも聞いてみよう」

『挙手した者からその理由を聞いて、遵法の意義と大切さを説くのですか?』

「俺とお前でな。それでも理解を得られないなら是非も無い、法を守れない者とそうでない者を同じ場所には置けん。『無法地帯』に無法者を集めて放り込み様子を見るか、もしくは数日分の食料を与えてサヨウナラだ」

『なるほど。ですが、眷属達は法令遵守に異存は無いでしょう。仮に異存が有ったとしても、説教部屋で強制的に遵法戦士に出来ますし…… 宜しい、追放される者が出ないように、本日から遵法精神を育ませます』

「いつもスマンな。法令遵守の『命令』は、お前の教育後にするよ。それまではアカギやカスガと啓蒙活動だ、皆で力を合わせて焦らずじっくりやろう」


「陛下、皆が『眷属化の儀』を心待ちにしております」
「な、並んで下さ~い、お、押さないでぇ~」

「よっしゃ、今日も頑張るかぁ」


 メチャとラヴが広場に集まった魔族達を整理している。
 相変わらず妖蟻族の数が凄まじい。

 だが、今日の一番乗りは先ほどのラミアちゃんだ。
 彼女はお友達も連れて来ている。素晴らしい。

 やはり、この可憐な乙女達に無粋な『腹巻』は不要だな。

 眷属化は俺の両手を使って二人ずつこなしていく。
 では初めに、先頭のラミアちゃん達を…… オゥ……

 しっかし…… なんと見事な苺ケーキだ……

 では…… ピンと勃った左右の野苺に精気を……


『触れないように』
「……無論だ」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 妖蟻族の皇帝と妖蜂族の女王が産んだ卵は、産卵後すぐに孵化する。

 俺は孵化したばかりの赤ん坊三人を抱いて、ほっこり。
 アカギの子が二人、カスガの子が一人、勿論女の子だ。
 そして妖蟲ではない、小さな手足と蟲腹が付いた人型である。非常に可愛い。

 母親が妊娠中にアハトマ種に進化した為、アカギとカスガが眷属化する以前に産んだ子供達とは容姿が違う。胎内で眷属進化を迎えた事による変化だとヴェーダは言った。ステータス上ではアハトマ種である。

 外見的な特徴としては、体色がアハトマ種より薄く、通常種より濃い。

 ゴブリンの子供達のように体も通常より大きく、各種能力も高いが、アハトマ種同士の親から生まれた子供より能力は劣るようだ。

 この子達は眷属の子なので自動的に俺の眷属となるが、この子達の意思次第で眷属化は解除出来る。その答えを聞くのは数年後、寂しい結果にならないように努力しよう。

 眷属進化した状態で生まれた子供は、俺が精気を注いでも進化する事は無い。既に眷属進化を果たした者に仙気や神気を流し込んでも意味は無い、眷属進化は一度きり、その後の進化は種族進化のみ。

 神気や仙気を俺が宿すようになった場合、その後の眷属進化は更にパワーアップする…… と言う事は無い。眷属化する際の時間短縮と、魔力以外の力を宿し易くなる程度だ。

 とは言うものの、利点は多い。魔力と精気を混ぜた火魔法や、魔力と精気と仙気を混ぜ合わせた魔法障壁等々、魔法の属性以外でも組み合わせが広がる。

 しかし、魔力以上の力を宿す者や知覚出来る者は多くない。

 精気以上の力を宿す者の多くは異世界人だ。
 しかも、アイツらは魔力も持っている。

 異世界から召喚された際、召喚に関与した神々から魔核をプレゼントされたらしい。

 だがそれは、神々の遊戯でゲームオーバーを意味する『世界の魔素枯渇』状態に陥った際、死ぬという事を意味する。

 異世界勇者の一部は、俺が有する【バッドステータス無効】と同じような効果を持つ【状態異常無効】なるスキルを所持するらしいが、先天的に所持していた俺とは違い、体内に魔核を埋め込まれたあとに授かったスキルなので、魔核を異物として扱えていない。

 つまり、魔核を体に宿した状態が普通なので、体内への異物混入が状態異常ではないと判断されている。魔核の体外魔素吸収も同様、標高の高い場所に行けば魔素が薄まり様々な状態異常を引き起こすが、異世界人はその原因となる魔核を排除出来ない。排除すれば死ぬ。

 しかも、先天性の物として埋め込まれた魔核が引き起こす状態異常は『生命維持活動による危険性の無い異状』もしくは『生理機能の一部』であると判断される為、【状態異常無効】スキルが機能しない。

 魔族の強者や魔人にも【状態異常無効】スキルを持つ者は要るが、スキルを持たない魔族も含めて周囲の魔素量と体外魔素吸収の因果関係を重々承知して行動している。

 しかし、異世界人や人類は、その辺りをトコトン無視して行動する。

 鑑定スキルをほぼ100%所持している異世界勇者などは、魔素の存在も魔核の役割も理解しているはずだが、コアの奪取や破壊をやめる気配は無い。

 おそらく『自分が生きているうちは枯渇しない』、『まだ先の話』、『大気中の魔素には十分な余裕が有る』などの考えから来る行動だろう。地球の大気汚染に関する考えに似ている。実際はもっと深刻な話だ。

 コアに大量の生気を注いで魔素放出量を増やさない限り、魔素の減少は止まらない。そして、そのコアは破壊され続けている。

 まったく、迷惑な話だ。

 この赤ん坊達が大人になる頃、大気に含まれる魔素の量はどれほど残っているだろうか……


「今のうちに増やしておかねぇとな」

「はい?」
「な、何をですかぁ?」

「魔素だよ、魔素」


 コテンと首を傾げるラヴとメチャ、カスガとアカギは俺と子供達を見て「あぁ」と苦笑している。

 そして、カスガがこんな事を言った。


「最低一つコアを確保出来れば、地下帝国に魔素を供給する事が出来るな。幸い、コアは目と鼻の先に在る、その上、確保出来る『家畜』の数は億を超えておる、ガンダーラだけなら魔素枯渇に悩まされる事はあるまいよ」

「ハハッ、そりゃ名案だが、大気の魔素が薄まってしまうと、君と世界を旅する計画は白紙になるな」

「フム、それは困る。何とかしてくれ、婿殿」
「あぁ、何とかしてみるよ」


 世界を旅するって何? と、皆から質問を受けるカスガを横目に、俺は子供達を抱きながら魔竜と契約を交わしたコアの事を考えた。

 是非、頂きたいものである。






有り難う御座いました!!
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