「メリークリスマス、友ちゃん。好きです」
「メリークリスマス。俺は普通」
「そっか」
「そうだ」
「クリスマス気分で浮かれてころっと来たりしない?」
「男が金使うだけの日に、浮かれたりしない」
「現実的だね、友ちゃん」
「ああ」

7832回。
クリスマス記念の告白。
失敗しちゃった。
残念だな。

友ちゃんと出会って、8回目のクリスマス。
今年も友ちゃんに、メリークリスマスって言えて嬉しいな。
今年も一緒にいれて、嬉しいな。

一緒に、すごせたりは、しないんだけどね。

「友ちゃん、今日のご予定は?」
「今日は、金田とかと男で集まる」
「うわ、むさいね」
「ほっとけ」
「藤田さんとは、別れたんだっけ?」
「とっくに」
「今回は早かったね」
「あんまりあわなかった」
「じゃあ私と付き合ったりしない?」
「しない」

7833回。

あんまり連発しないようにしないと。
残り少なくなってきたカウント。
大事に大事に、告白しよう。
一緒にいれる、限り在る時間を大事にしよう。

うーん、クリスマス効果とかないのかな。
ちょっとぐらい、浮かれてもいいのに。

「あ、そうだ、はい、友ちゃんクリスマスプレゼント」
「ああ、ありがとう」

そう言って、友ちゃんはなんでもないように受け取る。
よかった、自然に受け取ってもらえた。
ちょっと怖かったから、嬉しい。
ほっとした。

「チョコレートか」
「お酒入ってるから甘すぎないで、おいしいよ」
「そういえば、近頃お前のプレゼント、買ってきたケーキとかだよな」
「えへへ。私が作るより買ってきたほうがおいしいし」
「そりゃそうだ」

手作りって重いし。
物は残ってしまうし。

負担になりたくないから、すぐになくなってしまうものがいい。
いつか友ちゃんから離れる時が来たとき、少しでもウザくないように。。
私みたいなストーカーのあげたものを見て、顔をしかめたりしないように。
綺麗さっぱり、忘れてしまえるように、残るものはあげない。

友ちゃんは私のあげたチョコレートを鞄にしまいこむと、片手に持っていた紙袋を差し出す。

「じゃあ、はい」
「わ、大きいね。えへへ、ありがとう。今年は何かな」
「ケーキだって」

毎年友ちゃんもプレゼントをくれる。
友ちゃんのお母さんが作ってくれた、ケーキ。
お返しに、毎年作ってくれる。

友ちゃんがくれるものじゃないけど、それでも嬉しい。
お母さんの心遣いが嬉しい。
それを友ちゃんが渡しくてくれるのが、とてもとても嬉しい。

「ケーキ!嬉しいな。大事に食べるね。ありがとうって言っておいて」
「了解」

2人で歩く毎朝の通学路。
後、何回一緒に歩けるかな。
後、どれくらい、一緒にいてもいいのかな。
この背中を、見てられるのかな。

最後まで、拒絶されないといいな。

「たまには、なんか買ってやろうか」
「へ?」
「クリスマスプレゼント」

前を歩く大好きな背中は、後ろを見ないままそんなことを言った。
驚きすぎて、足が止まってしまう。
友ちゃんは気付かないまま2,3歩、歩いて、ようやく肩越しに振り返る。

「どうした?」
「え、あ、ううん。な、なんでもない」
「買ってやるけど、何がいい?あんま高いもんダメだけど」
「…………」

友ちゃんからもらえるんだったら、なんだって嬉しいんだろうな。
友ちゃんが、選んで、友ちゃんが渡してくれるなら、なんだっていいよ。
なんだっていい。

でも、望んでいいなら、一つだけ欲しいものあるよ。

それでも。

「……ありがと。でもいいよ」
「いいのか?」
「うん。いいよ。ありがとう。友ちゃん、大好きです」
「そうか」
「うん」

なんだって嬉しいよ。
そう言ってもらえただけで、十分なクリスマスプレゼント。
だから満足。
これ以上欲しがったら、きっと罰が当たっちゃう。
人間、ほどほどが一番。
贅沢はよくありません。

でもね。
でもね、望んでいいなら、一つだけ、欲しいものがあるの。

一度でいいから、クリスマスを一緒に過ごしてみたい。
並んで、街を歩いてみたい。
イルミネーションを、眺めてみたい。

「……友ちゃん。メリークリスマス」
「はい。メリークリスマス」

この聖なる夜を、一緒にいたいな。

一緒に、クリスマスを、楽しんでみたいです。






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