クローズアップ現代

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No.38942016年11月17日(木)放送
「好調」コンビニに“異変”あり

「好調」コンビニに“異変”あり

「好調」コンビニに “異変”あり

1年間1日も休まず働き、週に3日は徹夜勤務。
なのに年収は290万円。
これ、ある人のケースですが、どんな職業か分かりますか?

答えは、コンビニ店のオーナー。
ライバル店の増加やアルバイトの人件費高騰などで、年々切り盛りが大変になっているといいます。

コンビニ店 オーナー 酒井孝典さん
「収入はどんどん減ってくる。
より環境は厳しくなってくると思います。」

年間10兆円を売り上げ、流通業界一人勝ちといわれる、コンビニで何が起きているのか?

小説「コンビニ人間」で芥川賞を受賞した村田沙耶香さんをゲストに迎え、コンビニの深層に迫ります。

“コンビニ人間”のリアル 身近な店に異変!?

大手コンビニチェーンの店のオーナーになって13年という酒井孝典さんです。
加盟している大手チェーンの本部に最近、異議を申し立てました。
契約内容の見直しなどを求め、交渉を申し入れたのです。
本部が好調な陰で、店の経営があまりに過酷だと感じたからだといいます。

コンビニ店 オーナー 酒井孝典さん
「いま現在、本部は毎年のように過去最高利益を出しています。
しかし加盟店の方は、いまのシステム的に利益が上がらない。
現状は、契約書通りの“共存共栄”関係ではないと思います。」

酒井さんがコンビニ本部と結んでいるのは、フランチャイズ契約。
経営のノウハウなどを提供してもらう代わりに、ロイヤリティーと呼ばれる料金を納めます。
契約上本部とオーナーは上下関係ではなく、対等な事業者同士とされ、共に相互発展を目指すとされていました。

契約時に本部から示されたガイドラインです。

年収の目安は、2年目で700万円余り。
自分の裁量で、年間52日の休日を取るという標準的なモデルが示されていました。
ところが、実際は大きく違っていました。

当初の予測ほど客は集められておらず、特に深夜など、売り上げは想定より大きく落ち込んでいます。
何とか利益を確保するために、できるだけ自分が店に出て、アルバイト代を削っています。
夜9時から翌日昼まで、徹夜の勤務が週に3日。
日中の勤務も合わせると週7日、店に出ています。

この1年、休みはゼロで、本部が標準として示した休日年間52日とはかけ離れています。

「丸1日、休んだというのは?」

コンビニ店 オーナー 酒井孝典さん
「ないです。
家族として日帰り旅行以外は行ったことがない。
行ったとしても、夜また店に出る。」

これだけ働いて、どれだけの年収を得ているのか。
まず、1年間の売り上げから原価を引いた総利益4,000万円弱のうち、契約に従い、50%近くを本部にロイヤリティーとして支払います。
更に、アルバイトの人件費や光熱費などを差し引くと、酒井さんの年収にあたる営業利益は300万円足らず。
ガイドラインで示された700万円の半分以下です。

この大手チェーンで、酒井さんと同じタイプの契約を結んでいる全国2,500店の経営状況が最近、初めて明らかになりました。
4割近い店舗の営業利益が、年間400万円を下回っていたのです。

コンビニ店 オーナー 酒井孝典さん
「十分な報酬を与えるような環境の契約内容に変える。
このままの今の環境ではコンビニ事業自体が難しくなってくるんじゃないかな。」

酒井さんが本部に交渉を申し入れることを決めた、もう1つの理由があります。

現在の有期契約が満了した後、本部に契約を更新してもらえず、職を失うのではないかという不安です。

本部が用意した契約書では、再契約するかどうかは本部の自由な判断によって決めると定められており、実際3割の店が再契約されていないことが分かりました。
40代で大手メーカーを辞め、退職金をつぎ込んで独立の夢を果たした酒井さん。
50代後半を迎えた今、ほかに転職することは難しく、再契約の基準を明確にしてほしいと本部に要望しています。

コンビニ店 オーナー 酒井孝典さん
「意に沿わない加盟店は再契約を本部の自由な判断でしてもらえないんじゃないか。
生活の糧がなくなる。」

オーナーの過酷さの一方で、絶好調といわれてきたコンビニ業界。
しかし、ここ最近新たな局面を迎えたと見られています。

全国の店舗数は、この5年間で2割以上増え、5万店を突破。
既に飽和状態ともいわれています。
既存店の来店客数は、7か月連続で減少。
限られた客を奪い合う、激しい競争の時代を迎えているのです。

コンビニ店 元オーナー 船引聰明さん
「一番近いですね、うちの店から400mぐらいかな。」

激化する競争の一端を、去年(2015年)オーナーを辞めた男性が明かしてくれました。

コンビニ店 元オーナー 船引聰明さん
「次から次(コンビニが)できましたから、そうなってくると(売り上げは)落ち放題です
。」

開店当初、業績は好調で、手元に残る利益が1,000万円を超えた年もあったといいます。

ところが、4年前から状況が一変。
ライバル他社のコンビニ3店が近所に次々オープンしました。
時を同じくして、船引さんと同じ系列のコンビニが2店舗、相次いで出店したのです。

船引さんの日々の売り上げはみるみる落ち込み、4年でほぼ半減。
去年の秋、やむなく経営から手を引きました。

コンビニ店 元オーナー 船引聰明さん
「同じマーク(同系列)が一番、厳しかったですね。
扱っているものが、まったく同じものだから。
一生懸命尽くしてきたつもりだったけど、裏切られたいう感じですね。」

こうした同じ地域に多くの店をオープンさせる本部の方針はドミナント、集中出店戦略と呼ばれてきました。

他社との競争に打ち勝って、チェーンの認知度を上げたり、商品配送の効率を上げたりする目的があり、店舗数は増え続けています。

本部が用意した契約書です。
集中出店を進める際は、既存店オーナーの「経営努力が著しく損なわれないよう配慮する」とあります。
しかし、店舗同士の距離など、既存店を守る具体的な制約がないため、実効性は乏しかったと船引さんは言います。

コンビニ店 元オーナー 船引聰明さん
「契約上(店を)何メートル以内には出しません、とかあれば言えますけれど、そういうものは、一切ないんで、やっぱり言えないですね、僕らぐらいの下のほうでは。」

「このままでは続けられない」。
沈黙を守ってきたコンビニオーナーたちが行動に出始めました。

コンビニ店 オーナー 酒井孝典さん
「本部との話し合い、団体交渉権が必要だと思います。」

契約更新の基準を知りたいと願っていた酒井さんも、その1人です。
本部との団体交渉を求めて、仲間と労働委員会に救済を申し立てました。

そして、ついに労働委員会が動きました。
本部とオーナーは事業者同士とはいえ、交渉力などに大きな格差があると判断。

オーナーは事実上、労働者に当たると初めて認め、大手2社に対し、団体交渉に応じるよう命じたのです。
これを不服とした大手2社は、中央労働委員会に申し立て再審査が行われています。

コンビニ店 オーナー 酒井孝典さん
「私自身は現在の(コンビニ)チェーン自体は嫌いではないです、大変好きです。
“社会のインフラ”といま言われている環境の土台の大元のオーナーがその環境で本当にいいんですか、というところなんですよね。」

絶好調のコンビニ 身近な店に いま異変?

ゲスト 木村義和さん(愛知大学法学部准教授)
ゲスト 村田沙耶香さん(芥川賞作家)

今回、オーナーたちと争っているコンビニ大手2社に取材を申し込みまして、ファミリーマートからは次のような回答が寄せられました。
「加盟者は経営から生じるリスクを負担する独立した経営者であり、労働者にはおよそ当たらないと考えている」ということです。
そして、業界最大手のセブン−イレブン・ジャパンは、中央労働委員会で審査中であることを理由に、回答を差し控えるとしています。

オーナーの方々は、本部との団体交渉が実現した場合、どんなことを要望したいのかというと、例えば具体的にこういったことがあります。
「契約更新の基準を明確にしてほしい」「近隣への出店を規制」「ロイヤリティーなどの見直し」といった契約内容の見直しです。
オーナーの方々が今、労働委員会に救済を求めている背景には、どういった事情がある?

木村さん:フランチャイズ契約では、本部とオーナーは対等な事業者同士だとされています。

ですが、実際にはどうか。
本部の方は、情報力・資金力・交渉力において、全ての面で加盟店オーナーより優越している。
これはまるで、経営者と労働者で言うところの労働者に近い存在だといったことが労働委員会で認められつつあると思います。
そこで労働者ということで、加盟店オーナーが団結して自らの要求を本部に言っていい、交渉していいといったことが認められたと考えております。

個人事業主でありながら、労働者の側面もあるというのは、どういうこと?

木村さん:それは、プロ野球で言うところのプロ野球選手会と球団本部との関係だと思います。
プロ野球選手は個人事業主ですが、選手が団結して球団本部と交渉することが認められております。
それに近いということだと思います。

コンビニはここ数年、ますます便利になってきていまして、いれたてのコーヒーや荷物の受取り代行などにとどまらず、防犯や買い物弱者対策、災害時の対応など、まさに社会インフラとも言うべき重要な役割を果たしています。
村田さんは、これまで数々のコンビニでアルバイト経験があり、受賞後の今もコンビニのアルバイトは継続されている?

村田さん:そうですね。
はい、続けています。

村田さんにとって、コンビニとはどんな場所?

村田さん:客としても、店員としても、私にとっては欠かせない場所です。
お客様について言えば、例えばお年寄りのお客様で遠くのスーパーに行くのがつらいというお客様が、お野菜が売っていて、近くにお店があって便利だとお声をかけてくださったりすることもあります。
24時間開いているので、夜中にお店を見るとほっとするとお声をかけて頂くこともあります。

コンビニで働いてきて、オーナーも間近で見てきたと思うが、どう見えた?

村田さん:オーナーさんによって、いろいろ違いがありまして、コンビニを右も左も分からない状態で始めているオーナーさんは、私の目から見ても大変そうに見えました。
または、今までいろんなコンビニで働いた経験があって、3店舗くらいお店を持ってオーナーをやっていらっしゃる方は、むしろ人を育てて店長にしてというふうにとてもスムーズにオーナー業務をこなしているように見えました。

今、オーナーたちが団体交渉を求めている訳だが、今後オーナー側の要望が認められるとすると、どういった影響が考えられる?

木村さん:本部とオーナーとの力関係に劇的な変化をもたらすと思います。
団体交渉が実現することによって、こういったような要求が認められるということになります。
確かに、24時間営業の店がなくなるといったような、消費者にとってのデメリットはあると思われますが、現在は加盟店の犠牲の上で、お店が成り立っているといったような面も私自身はあると考えております。
そういったことがなくなっていくと思います。
フランチャイズ産業、現在こういったコンビニだけではなくて、塾やホテルや介護福祉といったような、さまざまな分野に及んでおりますので今後、日本経済に大きな影響を与える可能性は非常に高いと思われます。

今、本当にさまざまな業種やサービスに拡大しているフランチャイズビジネスなんですが、中には思わぬ事態に巻き込まれるケースも出てきています。

コンビニだけじゃない “第二の人生”に人気殺到!

脱サラや早期退職後の独立を支援するイベントです。
コンビニを筆頭に、外食・学習塾・介護など、さまざまな分野に広がっている、フランチャイズビジネス。
40〜50代を中心に人気が高まっているといいます。

参加者 50代
「定年のない働き方をしたほうがいいんじゃないかと。
いろいろ経験してきたことが年齢的にもありますので、それを生かして、何かできればいいかなと。」

雇用の流動化が進む中、フランチャイズビジネスはその受け皿としても期待され、市場規模は24兆円まで拡大しています。

主催 リクルートキャリア 編集長 菊池保人さん
「ゼロからビジネスを作る起業というよりは、すでに成功したビジネスモデルがある、そのフランチャイズの本部と契約をすることで、自分が独立した時に成功する確率を高めるという選択をする方々が多い。」

第二の人生が暗転! フランチャイズの落とし穴

一方で思わぬトラブルも起きています。
40代半ばでメーカーを退職し、あるパソコン教室のフランチャイズ店オーナーとなった男性です。

「年収1,000万円取得可能」「経営難で閉鎖した店はゼロ」などと本部から説明を受け、加盟金など、270万円を支払いました。

パソコン教室 フランチャイズ店 元オーナー
「不採算で撤退した店がゼロだということは、みんな黒字で健全に商売をしているんだろうと、自分が、一からやるよりもリスクは少ないだろうと。」

ところが、教室がオープンすると、年収1,000万円どころか、肝心の生徒が集まらず、いきなり赤字に転落。

経営難による閉店がないという情報はうそで、実際には閉鎖が相次いでいました。

ノウハウが詰まっているはずのオリジナルテキストの一部も、ほかの企業の盗用である事が発覚。
結局1年で教室は閉鎖し、600万円以上の負債が残りました。

パソコン教室 フランチャイズ店 元オーナー
「(私たちが)加盟店にさえなれば、まとまった加盟料が(本部に)入るわけですから、加盟店が生きようが死のうが、関係はなくて、自分たちだけが、よければいいという怒り、憤りを感じますね。」

フランチャイズ関連の訴訟を数多く担当してきた弁護士は、立場の弱いオーナーを守るために規制が必要だと訴えています。

弁護士 中村昌典さん
「詐欺的な本部、あるいは志の低い本部が入ってきて、それが市場から、とう汰されないというのが一番根本的な原因かなと思います。
(オーナーを守る)実効性のある法律というのが、この日本でも必要なんじゃないかと。」

第二の人生が暗転 フランチャイズの落とし穴

村田さん、フランチャイズの現状を見て、どう思った?

村田さん:独立したいというふうに夢を見てフランチャイズ契約をした人が、こういう詐欺のようなトラブルに遭ってしまうというのは、とてもショックなことだと思いました。

こうしたトラブルは多い?

木村さん:どれだけ悪質かはケースごとに違いますが、こういったトラブルは相次いで起きております。
実際、裁判に発展した事件もございまして、その際、本部の責任が認められたといったような事案もございます。
ただ、加盟店オーナーは独立した経営者でありますので、発生した損害額の全額が認められるということはまずありません。

どうすれば、こうしたトラブルは防げる?

木村さん:フランチャイズの法整備が必要だと考えます。
アメリカの一部の州では、こういったフランチャイズ法がございます。
ポイントとなるのは、契約前と契約した後になりますが、契約前に情報を十分開示すると。
中には、本部が隠したくなるような訴訟件数とか、閉店数などが開示されます。
その後、契約した後も契約の更新の不当な拒絶を認めない。
正当な理由がなければ、契約更新を拒絶できないよと。
あと、契約解除できないといったような法規制がなされています。

今、こうした日本は変わろうとしている時期になっている?

木村さん:そうだと考えます。
フランチャイズ産業なんですが、これからも発展させないといけないと。
社会的インフラとまでコンビニは言われています。
そのために、こういった法規制によって、加盟店オーナーが利益を得られて本部、加盟店そして、そこを利用する消費者が幸せになるようなシステムを作り出すことが必要だと考えます。

日本には、こうした法律もなかったということだが、どう思う?

村田さん:海外でこういう法律があることは存じ上げなかったので、オーナーさんの立場を守るという意味で必要なことかもしれないなと思います。
一方で、こういうふうに団結することによって、コンビニが例えば24時間ではないっていう運営をするオーナーさんがいらっしゃったり、どんどんバラバラになって、コンビニのコンビニらしさが失われたりする可能性があるのではないのかなという、ちょっと不安な気持ちもあります。
でも、先ほどのオーナーさんが、コンビニエンスストアは、チェ−ンは好きだとおっしゃっていたのを聞いて、だから何かいい道が見つかるといいなと思っています。

皆さん、コンビニのことは好きで、本当に私たちにとって大事な場所なんですよね。
なので、これからいい方向にみんなで進んでいけたらいいですね。

質問
コーナー

Q1

長時間労働を解消するために、店のオーナーは、なぜアルバイトやパートを増やさないのか?

コンビニは24時間営業のため、夜勤もあります。人口減少が始まった今、特に深夜の時間帯の人手不足は深刻な状態です。アルバイト・パートの人件費は全体的に上昇傾向が続いています。利益を確保するためには、人件費を少しでも削減する必要があり、オーナーや家族が店に入ることが多いようです。
Q2

世界のフランチャイズ法制の現状は?

オーストラリアや、アメリカの一部の州、韓国などでは、フランチャイズ法制の整備が進んでいます。本部に比べると、交渉力や情報力で格差がある加盟者(店のオーナー)を保護し、産業全体の健全な発展を促すことを目的としています。アメリカでは連邦レベルで、本部から加盟希望者への契約前の十分な情報提供を義務づけています。本部と加盟店の間の過去の訴訟に関する情報や、直近で脱退した元加盟者の連絡先など、本部にとって不利に見える情報を含め、多岐に渡ります。さらに、州レベルで法律を制定し、正当な理由なく、契約解除や更新拒絶を行うことを禁じたり、加盟店のオーナーの団結を妨げないよう定めている州もあります。日本でも日本弁護士連合会や大学の一部研究者によって、日本版フランチャイズ法の制定へ向けた研究は進められてきましたが、具体的な取り組みにはなっていません。

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