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 国の特別天然記念物で、絶滅の危険性が極めて高いコウノトリが、人工繁殖を経た放鳥によって少しずつ増えている。自然に定着したつがいからヒナも生まれ、野外で生息するコウノトリは6月、100羽を超えた。

 コウノトリは、多様な生き物がすむ生態系がなければ、定着も繁殖もできない。里山の自然が保たれていることを示す生きた鏡と言える。この取り組みを持続させ、より多くの個体が大空を飛び回る環境にしたい。

 兵庫県豊岡市では、地元の人々と市、県が協力して飼育や繁殖に取り組んできた。野生復帰のための放鳥を始めたのは12年前のことだ。この間、46都道府県で飛来が確認された。

 背中につけた発信器から、福井県で放鳥されて列島各地を舞い、海を越えて韓国へ渡り、北朝鮮まで羽をのばしていたオスもいることがわかった。繁殖地も徳島県や島根県に広がった。

 コウノトリはかつて全国各地で人の身近にいた。だが、明治期から狩猟によって減り、戦時中は営巣するマツが燃料用に伐採され、行き場を失った。

 長いくちばしで水田や湿地にすむカエルやドジョウ、魚、昆虫など大量のえさを食べる。農薬の影響で戦後も生息数が減り続け、71年に野生の個体が消滅した。人間の活動が、絶滅の危機に追い込んだと言える。

 豊岡では半世紀前から人工飼育に取り組んだが、親鳥の体がえさを介して農薬に侵され、卵からヒナがかえらなかった。そこで地元の農家が「コウノトリもすめる町に」と、無農薬・減農薬の農法を始めた。雑草を根絶やしにせず、収量が大幅に落ち込まない程度ならあってもいい、と発想を転換させた。

 冬も田に水をはり、春はオタマジャクシが育つまで水を抜かない。一年中、生き物がいる水田づくりにも努めた。すると、コウノトリのえさのカエルが害虫を食べてくれ、里山の食物連鎖が戻り始めた。コウノトリの野生復帰を支える中で、地域の人々も健やかに暮らせる環境の大切さに気づいたという。

 兵庫県立コウノトリの郷(さと)公園の山岸哲(さとし)園長は「人間は自分たちの都合で自然を改変し、多くの生き物を絶滅に追いやった。どうやって共生できるかをみんなで考えていきたい」と語る。

 環境省の今年のレッドリストで、絶滅のおそれのある「絶滅危惧種」の動物は1372種で、2年前より35種も増えた。

 在来の多様な生き物を守るため、里山の自然を取り戻し、保つ。それは多くの生き物の生息地を奪ってきた人間の責務だ。

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