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勇者召喚したら男子校生というヤツがクラスまるごと来てマジで失敗した【長編版】 作者:坂東太郎

『第一章:出席番号1番 愛川 光の悩み』

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第六話 担任と副担任が生徒からの相談を受ける


 放課後の教室に、ラスタと美咲先生が座っていた。
 特務課の伊賀は二人の後ろに立っている。あくまでも護衛なので。

 扉がガラリと開いて、一人の生徒が教室に入ってくる。

「うぃーっす。遅くなりましたー」

 2-A、出席番号1番、愛川光。
 ずいぶん軽い感じの登場である。

「さあ愛川くん! このところ元気ないって先生気付いてたの! 何か悩みがあるの? 先生、なんでも相談にのるんだから!」

 2-A、副担任、田中美咲。
 ずいぶんノリノリである。
 いまなんでもって言いましたね、とツッコむ者はいない。幸いなことに。

「あー、先生。特務課の護衛さんを通して学校に許可もらったんで、入れてもいいですか?」

「愛川くん?」

「……許可が出ているのならばかまわない」

 ラスタの了解を得た愛川が、そのまま後ろの扉を開け放つ。
 続いて入ってきたのは、二人の女の子だった。

「やはり姫様でしたか」

「あれ、お姫様はこんな雰囲気でしたっけ? どうしたんですか?」

 うつむいたまま顔を上げない姫様、困ったように頬をかく愛川もイスに座る。
 立っているのはラスタの後方の伊賀、愛川と姫様の後ろの侍女のニーナちゃんだけだ。

「あー、俺の悩みってのはさ、俺じゃなくて二人が元気ないことで」

 見ればわかることをあらためて言う愛川。
 女性経験はけっこうなものだが、こんなことは初めてなのだろう。
 姫様も侍女も異世界人なので。

「姫様、どうされたのですか?」

「ラスタ……(わたくし)、大変なことをしてしまったのです……」

 うつむいて下を見たまま、姫様が口を開く。
 美咲先生、せっかく「生徒の力になるんだ!」とノリノリだったのにスルーである。

「ええ、知ってます。失踪で大騒ぎでしょうね」

 ラスタ、一言で片付ける気か。

 ラスタにとって、元の世界にいられなくなった原因の一つなのだ。
 ラスタの対応がちょっと冷たいのもしょうがないことだろう。
 なにしろ王族の失踪に関わったとなれば、極刑は免れない。
 まあ国宝の盗難もエルフと獣人と侍女の連れ去りも、どれか一つでラスタの首が落ちるには充分な理由なのだが。

「え? その、ラスタ?」

「失礼しました姫様。生徒の悩みは私の悩み。……あれ、姫様は生徒ではなく」

「ラスタ先生、そんなこと言わないでください! ほら、相談に乗ってあげましょう! 愛川くんもお姫様も侍女さんも困ってるんですから!」

 ラスタを()する美咲先生。
 優しい女性である。めずらしく人に頼られて舞い上がってるのではない。たぶん。

「そうですね、私が送らなければ姫様はここにいないわけで、つまりはこれも私のせいですから。それで姫様、どうされましたか?」

 ラスタ、切り替えたようだ。
 この世界に来ることを望んだのは姫様本人なのに。
 ちなみに一歩引いているが、侍女のニーナちゃんも望んでこの世界に来ている。
 二人とも愛川と離れたくなかったらしい。ハーレム野郎である。

「これを……(わたくし)、これを、持ってきてしまったのです」

「担任初日に気付いていたのですが、覚悟のうえではなかったのですね」

 天を仰ぐラスタ。
 だが、異世界組の顔色とは裏腹に、美咲先生と愛川はきょとんとしている。

 これを、と言いながら、姫様は机の上に手を乗せただけなので。

 ゴテゴテとした装飾の指輪がはまった、手を。

「ラスタ先生? えっと、どういうことでしょうか」

「美咲先生は知らなくて当然です。愛川はこれが何か認識しているか?」

「指輪ですか? ずっとつけてるなーと思ってましたけど」

「姫様、愛川にも言ってなかったんですか」

 愛川の返答に項垂れるラスタ。
 姫様と侍女は、しゅんと小さくなっている。
 ラスタはしばらく頭を抱えていたが、やがて美咲先生と愛川に向き直った。

「姫様の指にはまっている指輪は……()()()()()を示すものです」

 ラスタの言葉を聞いても、美咲先生と愛川はいまいち事情を呑み込めていない。
 現代日本の庶民にはピンと来なくてもしょうがないだろう。

「つまり現在も、姫様はアーハイム王国の第二位王位継承権を持っているのです。もし国王と第一位の皇太子に万が一のことがあれば、姫様がアーハイム王国女王となるわけです」

「は? え、おっさん?」

「ラスタ先生? でもお姫様は日本にいるんだし、継げませんよね?」

「この指輪は、(いにしえ)より受け継がれてきた魔道具だと聞きます。所定の手続きに従って破棄しなければ有効だと」

 ラスタの解説に、ますます小さくなる姫様と侍女。
 美咲先生と愛川も、マズいらしいことは理解できたようだ。

「マナはいまも宿っています。指輪の機能は生きているのでしょう。王族の秘ゆえ、どのような機能があるか知りませんが」

 小さく首を振るラスタ。
 元宮廷魔術師でも、ラスタは末席で細々と研究していた男だ。
 王族が持つ魔道具の詳細は知らされていないらしい。

(わたくし)にもわかりません。ただ、王位を継ぐには必要だとしか……」

「では、なんらかの意味があるのでしょう。それが、破棄されずに、ここにある」

 全員の視線が、姫様の指輪に集まる。指フェチではない。

「おっさん、なんとかなんねえの? ほら、立つ鳥跡を濁さずって言うし」

「すでに濁した者が言う言葉ではないな」

 チラとも見ずに愛川の言葉を切って捨てるラスタ。
 冷たい。だが事実である。

 頭を抱えるラスタを、みんなが見つめる。

 姫様が、侍女が、愛川が、美咲先生が。

 愛川と姫様と侍女の悩みを解決できるのは、魔法に詳しいラスタだけなのだから。

 はあっと息を吐き、天井を見つめ、ラスタが口を開いた。

()くしかあるまい」

「は? え? おっさん?」

 天国にではない。

「ラスタ! 往けるのですか!?」

「ラスタ先生、我々には往けないと言っていたではありませんか!」

「ええっと、みなさん? ラスタ先生?」

 性的な意味でもない。

「往ける。無論、いくつも条件があるが」

「はああああ!? おっさん、でも往って還ってこれないんじゃ意味ねえんだぞ!」

「往く条件をクリアすれば、問題なく還ってこられる」

 異世界へ。

「往って、還ってこられる……? ではこの指輪を破棄することも!」

「できるでしょう。ただし姫様、私は破棄の手続きには同行しませんよ? 捕まれば拷問のうえ刑死ですから」

「おお、すげえ、すげえよおっさん! だてにおっさんじゃないんだな!」

「ええい、おっさんと言うな! 私はまだ23才だ!」

 観念したように告げるラスタ、はしゃぐ姫様と愛川と侍女。
 特務課の伊賀はどこかと連絡を取り出して。

「はいっ! 私は行けるでしょうか! 私も、みんなが行った場所を知りたいです! そうすればきっともっとみんなとお話できるでしょうし!」

「美咲先生は往けません」

 美咲先生だけ、がっくりと項垂れるのだった。


 2-A、担任、ラスタ・アーヴェリーク。
 いくつも条件はあるものの、この教師、現代日本と異世界を往還できるらしい。

 これは行きて帰りし物語であるらしい。それも、何往復も。
 条件が気になるところである。
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