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 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐる政府と沖縄県の対立が、再び法廷に持ち込まれる事態になった。

 きのうの県議会で、県が工事の差し止め訴訟を起こすことが賛成多数で可決された。

 県が敗訴した昨年暮れの最高裁判決で、法的な争いは決着したのではないか。そんな疑問をもつ人もいるかもしれない。

 だが、工事を進める国の手順に新たな疑義があることが、次第に明らかになってきている。その当否を司法に問おうという県の姿勢は理解できる。

 どんな疑義か。

 基地を造るには辺野古の海底の岩を破砕しなければならず、許可する権限は知事にある。前知事が出した許可は今年3月に失効した。これに対し国は「地元の漁協が埋め立て海域の漁業権を昨年放棄したので、もはや知事の破砕許可はいらない」として、工事に着手した。

 だが水産庁は過去に「漁協が放棄を議決しただけでは漁業権は消滅しない」と読める見解を示していた。これに従い、沖縄を含む各地の埋め立て工事は、知事による漁業権の変更手続きを経たうえで進められてきた。

 水産庁は見解を変えたのか。それはいつ、なぜか。県の照会に対し、納得のゆく回答は返ってきていない。先の通常国会では野党議員から「法治国家がとるべき手段とは到底考えられない」との声もあがった。

 行政の公正・中立、そして憲法が保障する適正手続きが、辺野古の埋め立てをめぐって、改めて問われているのだ。

 現地では、こうした疑念を置き去りにして工事が進む。このところ県内の首長選や議員選で翁長知事支持派が劣勢に立っていることもあり、一部にあきらめムードも漂う。半面、粘り強い抗議活動は依然続いており、県民を分かつ溝が広がる気配をみせているのは心配だ。

 沖縄は戦後、米軍基地を造るために「銃剣とブルドーザー」で土地や家を奪われた歴史をもつ。そしていま、自国政府の手で新たな基地が強引に建設されようとしていることへの、怒りと悔しさに直面している。

 国と地方の紛争処理を目的とし、有識者でつくる政府の委員会が、昨年6月に出した見解をいま一度思いおこしたい。

 「国と県は、普天間飛行場の返還という共通の目標の実現に向けて真摯(しんし)に協議し、双方が納得できる結果を導き出す努力をすることが最善の道である」

 くり返し訴える。政府は工事を中止し、県との話し合いのテーブルに着くべきである。

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