ブルーザー・ブロディ殺人事件The Murder of Bruiser Brody――フミ斎藤のプロレス読本#046【特別編】ブロディ・メモリアル・ストーリー

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 ホテルに帰ったマンテルがブロディの死を知ったのは、翌朝(7月17日)の午前7時半ごろだった。英語を話せるホテルのクラークに病院へ確認の電話を入れてもらうと、ブロディは集中治療室のベッドの上で午前5時40分に息をひきとったとのことだった。直接の死因は大量失血だった。

 17日に予定されていた興行はキャンセルとなったが、ブロディの死については団体サイドから選手グループにはなにも説明はなかった。マンテル、アトラス、スパイビー、ロン・スターらアメリカ人レスラーがホテルで待機していると、マンテルの部屋に地元の関係者から「島を出たほうがいい」と電話が入った。

 プエルトリコをツアー中だったアメリカ人グループのほとんどは、その日のうちに荷物をまとめてアメリカ本土行きの飛行機に乗った。

 ゴンザレスが殺人容疑でサンファン警察に逮捕されたのは事件から3日後の7月19日だった。ゴンザレスは12万ドルの保釈金のうちの10パーセントにあたる1万2000ドルだけを支払い、その日のうちに釈放された。凶器=物的証拠のナイフはついに発見されなかった。

 同年8月8日に予定されていた初公判は9月に延期され、その後も11月、12月と先送りされた。翌1989年1月23日にようやくはじまった裁判では、第一級殺人罪が業務上過失致死に軽減されたうえ、弁護側が主張する正当防衛――マリファナを吸って酩酊状態にあったブロディから暴行を受けたと証言――が認められ、ゴンザレスはスピード結審で無罪となった。

 検察側の証人として裁判で証言台に立つはずだったアメリカ人レスラーたちは、だれひとりとして公判には出廷しなかった。事件の真相は闇から闇へと葬り去られた。

 事件の翌日、警察の事情聴取に応じたマンテルは、公判での証言を申し出ていたが、アラバマ州バーミングハムのマンテルの自宅にサンファンの検察からの出廷通知書が郵送されてきたのは、なぜか公判の翌日の1月24日だった。

 あの日、ブロディと行動をともにしていたマンテルとアトラスが事件の詳細について語りはじめ、難解なパズルのかけらのようなコメントの数かずが“ネット活字”に変換されたのは1990年代の終わりごろになってからだった。

 “刺殺犯”ゴンザレスは数年後、WWCを退団してライバル団体IWAプエルトリコに移籍。その後、2006年に引退し、2012年には新団体WWL(ワールド・レスリング・リーグ)設立にも参画した。

 2014年、ゴンザレスの自宅が放火されるという事件があったが、“ブロディ殺人事件”との関連については不明とされる。

 1990年代にプエルトリコと日本を往復しながらプロモーター、団体プロデューサーとして手腕を発揮し、日本ではFMW、W☆ING、IWAジャパンといったインディペンデント団体の立ち上げと日本人レスラーの育成に深くかかわったキニョネスは、2006年4月、46歳の若さで死去した。

 71歳になったブロディはイメージしにくい。おそらく、親友ハンセンがそうであったように、21世紀がはじまるまえにみずからリングを降りることを選択していたのではないだろうか。しかし、どんなふうにして観客のまえから去っていったかは、これもまたイメージしにくい。

斎藤文彦

斎藤文彦

 1988年は“昭和63年”。昭和のスーパースター、ブロディは平成のジャパンを目撃することなく突然、天国へ旅立ってしまった。享年42。あれから29年という長い時間が経過している――。

※文中敬称略

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ


⇒連載第1話はコチラ

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