田玉恵美、仲村和代
2017年7月18日22時03分
民進党の蓮舫代表が18日、「二重国籍でないことを証明する」ため、戸籍の写しなどを公開した。本人も「本来は開示すべきではない」と認める、極めてプライベートな情報。「公党の代表」としての説明責任を理由として挙げたが、悪影響を懸念する声もある。
蓮舫氏が公開に踏み切る前から、批判は起きていた。「移住者と連帯する全国ネットワーク」など四つの市民団体は14日、「日本国籍を有していることが明白である以上、国会議員になることや民進党の代表になることに法的な問題はまったくない」としたうえで、「個人情報の開示を求めることは、出自による差別を禁じている憲法の趣旨に反する差別そのものである」と開示しないよう要請。18日午前には大学教授や弁護士が会見し、在日コリアン弁護士協会代表の金竜介弁護士は「外国にルーツがある人に政治家をやらせていいのか、と必ず波及する」と危惧を述べた。
懸念の背景には、戸籍制度が背負った歴史がある。明治維新直後の1872年に作られた「壬申戸籍」には、「士族」「平民」といった記載があり、前科まで記された。被差別部落の出身者であることがわかるような内容もあり、1968年に封印されるまで市町村役場で閲覧でき、結婚や就職の際の身元調査に利用されてきた。
1970年代には被差別部落の地名を記した「部落地名総鑑」が出回っていたことが明らかになり、就職の選考で戸籍謄本の提出を求めることは就職差別につながるとして、禁じられるようになった。2000年代以降も「総鑑」の電子版が出回ったり、戸籍情報の不正取得が発覚したりしている。
部落解放運動に関わってきた川口泰司・山口県人権啓発センター事務局長は「『差別につながる恐れのある個人情報は開示しない』というのが現在の到達点」と語る。蓮舫氏の説明を聞いて「婚外子など事情がある人ほど、戸籍を出すことが怖い。今回の決断は、『出せないなら、やましいことがある』という見方に屈してしまった。マイノリティーの側に立つ野党としての期待が裏切られた」と話した。
遠藤正敬・早稲田大台湾研究所客員次席研究員によると、戸籍制度は国民を「個人」ではなく、「家の一員」として管理する、世界でも珍しい制度。「民族や血統といった要素を国家が把握し、差別する役割を果たしてきた」という。その観点からも「二重国籍でないことの証明より、『真正なる日本人』の証しを求める意図を感じる」と、開示を求める動きが気になっている。
今回の開示要求を「マイノリティーが社会進出するときに出てくる、典型的な現象」とみるのは樋口直人・徳島大准教授(社会学)だ。米国でも以前、オバマ前大統領が「本当は米国生まれではないのではないか」という「疑惑」が広がった。現大統領のトランプ氏らが何度も出生証明の開示を求め、オバマ氏も11年、これに応じて沈静化をはからざるを得なかった。
「外国にルーツがある限り攻撃する人はいる。蓮舫氏は戸籍まで示し、『真正さ』を競う土俵に乗るべきではなかった」と樋口氏は話す。
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