Google人材募集が求人情報サイトを駆逐する理由
Inc.:先日ローンチした「Google人材募集(Google for Jobs)」は、LinkedIn、Monster、CareerBuilderなどのサイトに掲載されている求人情報を、シンプルなGoogle検索ボックスを使って調べられるというもの。求職者にはうれしいサービスですが、求人ビジネスに携わっている企業にとっては要注意な存在です。Google for JobsはGoogle検索を素直に進化させたツールのようにも見えますが、今後の求人ビジネスを根本的に変えてしまうパワーを秘めています。
Google人材募集の仕組み
Googleは第三者の求人情報サイトから求人情報を収集してインデックスを作ります。カスタマーはGoogle検索を利用して、そうした求人情報を自由に検索できます。特定の業界を指定したり、最近投稿された求人に限定したり、エントリーレベルか管理職か、フルタイムかパートタイムかなど、さまざまな項目で絞り込んだ検索が可能です。応募したい求人が見つかったら、そこから第三者の求人情報サイトへ飛んで、応募ができます。
Googleの調査によると、米国の雇用主の約半数が人材不足に悩んでいます。一方の求職者は、検索エンジンが求人情報をうまく整理できていないせいで、あるはずの求人を見つけられずにいるのです。そこでGoogleは、隠れてしまっている求人情報を浮かび上がらせ、探しやすく分類して求職者へ提供しようとしています。
大手求人情報サイトにもたらされるメリット
短期的に見れば、Google人材募集はCareerBuilderやZipRecruiterなどの企業に大きな利益をもたらします。Googleからそうしたサイトへ大量のトラフィックが流れることになるからです。Indeed.comのような大手求人情報サイトは、Google人材募集のローンチ前から、トラフィックの大半をオーガニック検索(広告によらない通常の検索)から得ています。つまり、こうした求人情報サイトはGoogleを利用して求人情報のインデックスを作り、求職者に見せているわけです。
求職者が「ロサンゼルスにおけるプロジェクトマネージャーの仕事」といったフレーズでGoogle検索すると、たいていは大手求人情報サイトの情報が検索結果の上位に表示されます。すなわち、そうしたサイトはGoogleから大量のトラフィックをいただいているわけです。そして、何度か求人情報を検索しているうちに、カスタマーの多くがGoogle検索を経由せずに、求人情報サイトを直接見に行くようになります。Googleはこの流れを断ち切り、求職者を囲い込みたいのです。
トロイの木馬戦略
求人情報を検索できる機能を提供して、求人市場を開拓しようとした企業は、Googleが初めてではありません。むしろ、Googleは他社が自分のトラフィックを盗んでいくのをじっと見守ってきました。
Indeedが13年前にスタートしたときは、ただ求人情報をまとめただけのサイトでした。複数の求人情報サイトから求人情報を集めてきて、求職者が1つの場所でさまざまな求人を検索できるようにしたのです。当初、Monsterのなどの大手求人情報サイトは、求人情報を広めてくれるチャンネルが増えたことを喜んでいました。ところが、まもなく逆転現象が起こり始めます。
雇用主から求人情報を直接入手しているオリジナルの求人情報サイトよりも、IndeedのほうがGoogle検索で上位に表示されるようになったのです。IndeedはGoogleのおかげで大量のトラフィックを無料でゲットし、雇用主と直接取り引きする求人情報サイトの最大手となり、Monsterなどの先駆者を駆逐してしまったのです。
何年か後に、これと同じ戦略がZipRecruiterによって使われました。ZipRecruiterは、中小企業が求人情報を、Indeedを含む複数の求人情報サイトに一括で掲載できる素晴らしい機能を提供していました。しかし、求職者のトラフィックを第三者のサイトへ直接送るかわりに、求職者の履歴書や各種情報を自社サイトで入力してもらい、独自にデータベース化して、簡易的な応募者追跡システムを構築したのです。つまり、IndeedやGoogleから流れてくるトラフィックを利用して、求職者の巨大なデータベースを作り上げ、中小企業が求人情報を投稿するのを手助けするプロダクトから、Indeedと直接競合するような求人情報サイトへと急成長を遂げたのです。
Googleと提携しないことを選んだ企業がIndeedだけでないのは驚くべきことではありません。そうした企業は、求職者と直接つながっていることの重要性を理解しているのです。Indeedの社長は「Indeedがローンチしてから13年後に、Googleが、求人の検索こそが、多くの人の人生にとって最も重要な検索の1つであることにようやく気づいたのは喜ばしいことだ」とコメントしています。
求人情報の掲載にお金を払う企業は、応募者がどこからやってくるのかは気にしません。良い応募者を連れてきてくれる企業があれば、それが誰であれ、どこのサイトであれ、一瞬にしてお金を払う相手を乗り換えてしまいます。求職者との関係を押さえた企業が、数十億ドル規模の求人市場を押さえるということを、Googleは誰よりもよく理解しているのです。
仕事探しが機能不全に陥っている
私たちが今後のことを真剣に考えるのは、会社を辞めたり、解雇されたりしたときだけです。一方、人を雇おうとしている企業はいつも、有望な候補者を見つけるのに苦労しています。その理由の1つは、現在求職活動中の人にしかアクセスできないことにあります。それは、潜在的な人材プールのほんの一部でしかありません。
LinkedInは、消極的な求職者のためのプロダクトを構築する上で最高の仕事をしてきました。このプラットフォームは基本的に、プロフェッショナルなネットワークを構築するための場所ですが、主な収益源は企業や採用担当者が潜在転職者にアクセスできるようにすることから生みだされています。
LinkedInが求人の掲載とリクルーターツールにこれほど高額な課金ができるのは、同社だけが、消極的な潜在転職者と積極的な潜在転職者の両方にアプローチできるプロダクトを構築したからです。
しかし、カスタマーが実際にキャリアを前に進めたり、いろいろな企業で働くことがどんなものかを知ったりする助けとなるサービスはまだありません。また、カスタマーが目にする求人情報はおもに、企業がLinkedInへ直接投稿したものです。そうした求人はたいてい、高い専門性を有するプロフェッショナルを対象としています。
一方、求人市場でもっともお金を使っているのは、看護師やトラック運転手を募集している企業です。これが、Facebookが求人情報ビジネスに参入した理由の1つです。Facebookは企業ページに求人情報を投稿することを奨励しています。
機能不全に陥っている職探しと職紹介のプロセスを修復するためには、いくつかの条件がそろう必要があります。まず、積極的、消極的、両方の潜在転職者に幅広くアクセスできるプラットフォームが必要です。また、それは転職を考えている時だけでなく、そうでない時にも使いたくなるものであるべきでしょう。たとえば、どんな企業がどんなオフィスカルチャーを持っているのか、どの企業がどれくらいの給与を払っているのか、どの企業が自分に一番合っているのか、などを調べられるようにすることです。
また、雇用する側の企業にとっては、条件に合致する潜在的な候補者を見つけて、連絡をとるための機能が必要です。現在のところ、大勢の潜在的な候補者が、自分にぴったりの企業や求人があることに気づかずに終わっています。そして雇用主は求人募集のために、多くのお金を非効率的に費やしているのです。雇用すべき候補者を見つけられる、もっと優れたツールや方法が必要とされています。ここに、Googleが参入したというわけです。
Googleの本当の狙い
Googleは、ZipRecruiter、Monster、LinkedInといった企業が掲載する求人情報を、喜んで世に広めるつもりです。また、これらの企業にGoogleからのトラフィックを送り届け、収益を上げさせようとしています。Googleは求職者や潜在的な転職者との関係を押さえることが、最終的に市場を押さえることになるのを理解しています。
Googleは、自分にとって重要ではないプロセスについては、他社へ分け与えることにしたのです。それが誰であれ、仕事探しの入り口を押さえた企業が市場を押さえることになります。Google for Jobsとは、求職活動をするカスタマーに、Googleの上でもっと長い時間を過ごしてもらおうという目論見にほかなりません。
Googleはいずれ、雇用主のサイトから求人情報を直接取り込んでインデックスし始めるでしょう。同社はすでに、企業が自社サイトや求人情報サイトで条件に合う候補者を見つけるのを助ける、人工知能や検索技術を販売し始めています。
これらはすべて、カスタマーの検索を独占するというGoogleのシナリオの一部です。商品やサービスを検索するために、自社サイトにカスタマーを直接呼び込める企業だけがGoogleの競争相手となるのです。これが、Googleが価格比較サイトを完全に駆逐し、旅行サイトを混乱に陥れ、AmazonとFacebookだけが唯一最大のライバルとなっている理由です。
Indeed.comは正しかったようで、Googleは求人市場の重要性に気付いており、職探しをするカスタマーにとって、Googleよりも重要な求人サイトは存在しないことを知らしめるつもりなのは確かだと思われます。
Google for Jobs Is Secretly Out to Kill Job Sites|Inc.
Image: Google via Lifehacker US