全コース意地の1位 「追い山」一番山笠・東流

櫛田神社入りで台上がりを務めた一番山笠・東流の垣波総務(中央)
櫛田神社入りで台上がりを務めた一番山笠・東流の垣波総務(中央)
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 義経人形が突き出す白刃が夜明けの張り詰めた空気を切り裂いた。博多祇園山笠のフィナーレ「追い山」があった15日、鬼神の速さで博多の街を駆け抜けた一番山笠・東流の全コースのタイムは、舁(か)き山笠七流で最速の29分17秒。東流の垣波利成総務(61)は、櫛田入りとの2冠を逃した悔しさをにじませながらも、追い山全コース7連覇という有終の走りに「舁き手が意地を見せてくれた。誰ひとりけが人を出すことなく行事を終えられてよかった」と表情を緩ませた。

 常勝を誇った櫛田入りの王座を失い、全コースだけの1冠に終わった昨年の追い山。一番山笠として必勝を期して迎えた今年は、2月に飾り山笠について不適切な会計処理が指摘され、例年、呉服町交差点に出す飾り山笠を断腸の思いで自粛した。

 「家族にも涙を見せたことはなかったが、あの夜だけは泣いた」と垣波さん。標題は固まっており、担当人形師は20年来の親友。1日の「注連(しめ)下ろし」神事は飾り山なしで行われ「あるべき物がない寂しさを感じた」と打ち明ける。

 沈んだムードを変えるには、全力で舁き山笠を走らせるしかない-。「一番山笠だからこそ勝たないかん。勇壮、華麗に、そして1秒でも速く」

 舁き山笠に乗せた源義経の人形に、勝ち戦を示す「松に日の出」の扇を持たせるなど勝利への欲求を形にし、自らを鼓舞してきた。

 10日の流舁き、11日の他流舁きと、実際に舁き山笠が動きだすと、舁き手の一体感は高まった。12日の「追い山ならし」は櫛田入り、全コースとも2位に終わったが、「この結果は必ず15日の追い山で生きる」と前向きに受け止めた。

 そして追い山本番。雪辱を期した櫛田入りはわずかにトップに届かず。だが、この敗戦が舁き手の心に火を付けた。「オイサ、オイサ」の掛け声に合わせ一糸乱れぬリズム感でぐいぐい加速。失速しがちなコースの後半には、沿道に詰めた年配者たちの叱咤(しった)激励を受け、須崎町の決勝点に最高タイムで駆け込んだ。

 「全コースの1位は死守しなければという思い。それが『1秒でも速く』という激しい走りにつながった」と垣波さん。若手には「櫛田入りは来年こそ30秒を切るという高い目標を設定して頑張ってほしい」と注文する。激動だった一番山笠の年。重責を終えた感想を問われると「安堵(あんど)感はある。やっと枕を高くして眠れるよ」と笑顔を見せた。

=2016/07/16付 西日本新聞朝刊=

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