喫煙しない妻の肺がん死亡率は、夫が喫煙者の場合、夫が非喫煙者の妻の2倍にもなる、と言う統計データを報告した、平山論文(文献1)は、副流煙の影響を初めて論じた論文として有名です(文献2)。
一方で、喫煙者から、信頼できないデータ、と批判があるようです。そこで、どのようなデータが報告されているか、読んで見ました。喫煙者の批判は的を射た物ではなく、難癖の類であると判断しました。
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1965年の秋に、6県で、計26万5118人(男12万2261人、女14万2857人)の40歳以上の成人にインタビューを行い、喫煙習慣を聞いたそうです。その対象者についてその後14年間(1966年~1979年)追跡調査を行い、346人の女性が肺がんで亡くなったそうです。そのうち245人が結婚していて、174人は、非喫煙者だったという事です。
結婚していて、非喫煙の女性9万1540人を、六つのグループに分けています。夫の喫煙状況で、非喫煙者、過去に喫煙していたか、現在の喫煙本数が19本以下、そして、喫煙本数が20本以上の三つに分け。それぞれを、夫が59歳以下か60歳以上で分けました。
死亡者数をそのグループの女性の数で単純に割り算して計算した肺がん死亡率は以下の様になります。
夫が一日に20本以上の喫煙者の場合は、夫が非喫煙者の場合の2倍程度、です。年齢依存を見ると、1965年時点で夫が60歳以上だった場合より、59歳以下だったの場合の方が、副流煙効果は大きい、と言う結果でした。
肺気腫が原因の死亡者が66人、子宮頸がんで死亡した妻が250人、胃がんが716人、虚血性心臓病が406人で、それらに対する夫の喫煙習慣との関係は、次図の通りだったとのことです。胃がん、子宮頸がん、心臓病には、副流煙の顕著な効果は見られません。
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喫煙科学研究財団なる組織があるようです。そのホームページで、平山論文を批判しています(文献3)。しかし、その批判は、的外れ、と言えます。
第1の批判は、肺がんの潜伏期は20年前後であるから、1965年の夫の喫煙本数ではなく、調査の20年前の1940年当時の喫煙習慣との相関を見るべきである。1940年当時は、喫煙が少なかった筈である。と言う物です。
後半の主張は、その通りです。これは、私のブログでも紹介しました(文献4)。
この批判が的外れなのは、平山論文で紹介された肺がん死亡者数が、1965年時点での数字でないからです。インタビューの後の14年間の1979年までの追跡調査の積算の死亡者数だからです。癌特有の長い潜伏期を反映した数字と考えて良いでしょう。
また、夫の喫煙習慣が、必ずしもずっと一定であったとは言えないですが、非喫煙者がヘビースモーカーになるなど、喫煙習慣が大きく変わる人の割合が多いとも考え難く、グループ分けがおかしいとは言えません。
更に、1965年当時の年齢が若いグループの方が、肺がん死亡率への副流煙の効果が大きいという、平山論文のデータは、当時、タバコの消費量が増大していた、と言う時代背景に、合致します。
第2の批判は、死亡診断書で死亡原因を分類するのはおかしい、病理学的診断でなかったから、死亡原因は、憶測に過ぎない、と言う物です。病理学的診断したデータでないと、信頼できない、と主張すると、得られるデータ数は極めて限られます。データ数が少ないと統計揺らぎが大きくなり、信頼性のある統計データになりません。単なる言いがかりです。死亡診断書で、信頼性は十分でしょう。
第3の批判は、職場に於ける曝露量の方が遙かに多く、家庭での被曝はごく僅かである、と言う主張です。非喫煙の妻の全被曝の内、家庭での被曝の割合が少ないにもかかわらず、夫の喫煙習慣により顕著な違いがあったことから、平山論文を批判しようとして持ち出したこの主張は、喫煙者の立場を悪くする主張です。
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平山論文に報告されたデータは、上に紹介したものが全てです。より詳細な調査が望まれます。また、その論文から30年以上が経過していますので、他にも多くの調査が行われているだろうと思います。適当な論文が見つかれば、ご紹介したいと思います。
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(参考文献)
1)
Takeshi Hirayama (2000-07). “Non-smoking wives of heavy smokes have a higher risk of lung cancer: a study from
British Medical Journal 282 (1981) 183
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2560807/pdf/10994269.pdf
2)
平山論文 wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B3%E5%B1%B1%E8%AB%96%E6%96%87
3)
受動喫煙に関する基礎的研究 春日 斉
http://www.srf.or.jp/histoly/frames/history-frame21.html
4)
2013年09月18日「日本のたばこ消費量の1920年からの推移データ見つかる。1925-30年の消費量は、ピークの1975年の1/5程度に過ぎなかった」
コメント
またぞろ、猪瀬知事の辞任は東電か原発ムラの陰謀論が出てきそうなので楽しみです。
> 東京都は東電の大株主です。
> ですから都知事が東電の経営に口出しするのは当然なんですが、
> 猪瀬都知事は東電病院の売却を執拗に要求していました、この執拗さにちょっと違和感を感じていましたが。
>
> 最近、都知事が5千万円の借用をした徳洲会が東電病院の買収に意欲が在ったのではと追及されています。
どうも、辞任するしかないですね。
都知事選は圧勝する予想だったので
何もする必要はなかったと思うのですが
万全を期そうとしたのでしょうね。
猪瀬氏はやり方が杜撰で、
政治には向いていないですね。
東京都は東電の大株主です。
ですから都知事が東電の経営に口出しするのは当然なんですが、
猪瀬都知事は東電病院の売却を執拗に要求していました、この執拗さにちょっと違和感を感じていましたが。
電力会社が送電線、電柱からの転落とか感電事故の危険が多く職業専門の病院を持つのは当然の理由があったと思うのですが
(私の近所の方も電柱工事の事故で車いす生活をしていました)、
今どき企業が病院を持つことの議論は別として。
最近、都知事が5千万円の借用をした徳洲会が東電病院の買収に意欲が在ったのではと追及されています。
この一件で猪瀬都知事は断然危うくなってきました。
次の知事はと顔ぶれを考えると言うとまたウンザリしますが、世の中気持ち良く行きませんね。
読売新聞 12月13日(金)15時23分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131213-00000638-yom-sci
と言う記事が有りました。
鳩山の福島原発の核爆発論文を載せた時を思い出します。
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2012年02月23日08:00 の記事
週刊誌に成り下がった週刊誌に成り下がったNatureに掲載の鳩山由起夫元首相の論文ーー宇宙人の本領発揮。38Cl, 238Pu, 242Cmが検出されたのは核爆発の証拠、と。
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