やがて第二次安倍内閣になり、2013年に国家戦略特区ができた時点で、獣医学部の新設をどこかの大学が特区に申請して突破口を開いてくれればよいと我々WGは思っていたが、今治市はなかなか申請してこなかった(なお、日本獣医師政治連盟に立ち向かう今治の学校があるということは、規制改革関係者の間ではよく知られていた。しかし、理事長が安倍首相の親友であるということを私は知らなかったし、知っていた規制改革関係者はほとんどいなかったのではないかと思う。福田政権以来の新設申請の経緯を見ても、安倍首相との近さを示すものは何もなかった)。
特区では、1つの地域で規制緩和が認められれば、それが他の地域でも同様に認められる。それゆえ加計学園は、他地域での新設を待っていたのかもしれない。
新潟市の提案は具体化が進んでいなかったことが明白になっていた2015年の6月初旬になって、今治市は一般提案募集にやっと応募してきたのである。
加計学園が正当な手続きを踏み、
参入規制と戦った選択は正しい
さて、新潟が先延ばしとなった段階でも、加計学園は、理事長と首相との友人関係からあらぬ疑いがかけられないように、獣医学部新設を応募すべきではなかったのだろうか。遠慮を貫き続けるべきだったのだろうか。
現在の日本で獣医学部を新設することは重要な成長戦略であるから、どこかの大学が特区の仕組みを活用して、新設の突破口をつくってくれる必要があった。加計学園は、福田内閣以来、何度もはねつけられながらも規制改革提案を続けた。開きかけた岩盤規制の穴がまた閉じられそうになった時点で、加計学園は正当な手続きを踏んで設立申請を行った。永年続けてきた、既得権による参入規制との闘いを続行したのは、正しい選択だったと私は思う。
過去にも、国交省と総務省に規制緩和を要求して勝ち取ってきたヤマト運輸や、厚労省に対して医薬品のネット販売解禁を勝ち取ったケンコーコムといった会社がある。このような勇敢な会社は、彼らの成果にフリーライドした企業に比べて、社会的に大きな賞賛を受けるにふさわしいと思う。加計学園は、官僚の岩盤規制と闘ったヤマト運輸やケンコーコムと同じ社会的役割を果たしたのではないだろうか。
岩盤規制に立ち向かっていく事業者と自治体には、大変なエネルギーと時間と行政資源が必要である。メディアがそのような努力を応援せずに、突破口をつくる努力を潰す方向に加担してしまえば、どの事業者も自治体も規制改革など要望しなくなる。それは、政治に働きかけることによって利権を得続けてきた既得権者たちが、最も望むことであろう。