さらに、2016年11月の諮問会議決定に基づき、まず早期にとりあえず獣医学部ができ、その後それに他の大学が続くと予想していた。

 しかし「1校に限る」という条件が付けられたために、今治市に続いて他の地域で直ちに新設することは難しくなった。WGとしては、最初の突破口を作れば、1校も新設しない場合と比べて、その後の新設の可能性がはるかに向上すると考えていた。しかし、「1校に限る」という政治的な判断は、あくまで獣医師会の意向に沿ったものであり、「制限せずすべて開放」という立場の特区WGの側や、ましてや首相が主張したためではない。

首相は加計学園を優遇したのか?
報道の前提「3つの疑惑」は事実無根

 朝日新聞の6月28日の社説は、「(安倍首相が)親友が経営する加計学園を優遇したのではないか――」という疑惑が深まっているとしている。

 この疑惑は、次の3つの前提のいずれかが成り立つ場合には、持たれて当然のものである。

(1)正規の手続きを踏まずに、首相が特定の大学を選考するように仕向けた。

(2)国家戦略特区制度では、1つの特区で認められた改革は、自動的に他の特区でも適用される原則であるにもかかわらず、首相が当該特区以外には適用できないように1校限りとする圧力をかけ、親友が設立する学部以外の新設を妨げた。

(3)新設の申請をこれまでしたこともなかった学校法人が、理事長の親友が首相になったから学部の新設を申請した。

 しかし、この3つの疑惑の前提はいずれも成り立っていない。

 まず、選考は正規の手続きを踏んで行われており、諮問会議で議論されるまでに首相が選考に介入する余地は一切なかった。次に、これまで述べた経緯から明らかなように、1校に絞ったのは獣医師会側である。

 さらに、加計学園(今治市、愛媛県)は、理事長の親友が首相になったから学部の新設を申請したわけではない。第一次安倍内閣の期間には、加計学園は獣医学部の新設を申請しなかった。加計学園が初めて申請したのは、安倍氏が政治的に最も弱かった福田内閣のとき(2007年)だ。その後15回申請し、その度に文科省に理由もなくはね返され続けた。誰も安倍氏が首相に返り咲くとは考えていなかった民主党政権のときにも申請を続け、ついに鳩山政権時代に構造改革特区で新設を検討することが認められていた。