その状況で、愛媛県と今治市が、2015年6月5日に、提案公募に応じて獣医学部新設を提案してきた。それを受け、2015年12月の諮問会議で、今治市が特区に指定された。指定目的の1つには、獣医学部新設が含まれていた。

 その後の分科会において、今治市の説明はさらに明確になった。特に2016年9月21日の「第1回今治市分科会」における、加戸守行・元愛媛県知事による説明は、自身が知事時代の鳥インフル対策で経験した研究機関不足の必要性を訴え、説得的だった。2016年9月30日の広島県・今治市特区会議では、今治市における獣医学部新設に関する詳細な提案を示している。

 2015年12月の時点では、特区のなかで今治市だけが、明確な計画を持つ提案者であった。したがって、2016年9月16日の特区WGヒアリングを含め、9月から10月前半にかけての文科省督促でも、我々関係者は今治市での新設を念頭に置いていた。

 一方で、2016年10月17日に、京都が具体案をWGに提案してきた。それまでは3月に関西区域会議において概要を1枚の紙で提案していただけだったが、この日、初めて具体的な提案がなされた。

 特区では、1つの区域で規制改革が認められれば、それが他の区域でも自動的に認められるのが原則だ。したがってこの段階では、最初にどの区域で獣医学部新設が認められたとしても、当時申請していた3区域すべてで同じように認められるはずだった。

文科省の「逃げの一手」を防ぐべく
獣医学部新設を急がせたWG

 ただし、1校目にはできるだけ早く新設してもらわなければならない。特区の評価は「速い」という点にある。事業者や自治体は多大なコストをかけて規制改革を提案している以上、スピーディに進めるのは当然のことだ。

 現に、2015年2月3日のWGでは、特区ではなく「獣医学部新設を全国規模で検討したい」という文科省高等教育局専門教育課長に対して、これを「遅延させるための逃げの一手」と受け取った筆者は、「タイミングの問題ですよね。もしそれが新潟も含めてすぐ決定されるのならば、特区にすることには特にこだわりません。しかし、そうではなくて決定が何年先などというのなら、新潟に関しては今すぐ決めてしまいましょう。それでまず先駆けにしましょう」と発言している。

 2016年11月の諮問会議決定では、「……獣医学部の新設を可能とするための関係制度の改正を、直ちに行う」とされている。これは、2015年度内の検討の約束を文科省が守らなかったことで、特区事業としての獣医学部新設が予定よりも遅れていたため、最初の事業者および自治体には最大限急いでもらうことを意図したものである。