督促を経て各省協議が行われた結果、2016年11月9日の諮問会議で、「広域的に獣医師養成系大学等の存在しない地域」という条件付きではあるが、特区内では獣医学部が大学設置審にかけられることが正式に決まった。この諮問会議には文部科学大臣と農林水産大臣が出席し、この新設決定への同意を表明した。
「1校に限る」とされた獣医学部新設
背景に日本獣医師会からの圧力
ところが日本獣医師会は、2016年12月8日、山本大臣に対して、獣医学部新設を認める特区を「1ヵ所かつ1校のみに限ってほしい」という要請を行った。この間の状況は、日本獣医師会の藏内勇夫会長自身が次のように発信している。
「この間(筆者注:11月18日から12月17日まで)、私や日本獣医師政治連盟の北村委員長を始めとした本会の役職員は、できれば獣医学部新設決定の撤回、これが不可能な場合でもせめて1校のみとするよう、山本幸三地方創生担当大臣、松野博一文部科学大臣、山本有二農林水産大臣、麻生太郎自民党獣医師問題議員連盟会長、森英介同議員連盟幹事長など多くの国会議員の先生方に、本会の考え方にご理解をいただくよう奔走いたしました。
このような皆様方からの多数の反対意見、大臣及び国会議員の先生方への粘り強い要請活動が実り、関係大臣等のご理解を得て、何とか「1校に限り」と修正された改正告示が、本年1月4日付けで官報に公布・施行されました」(日本獣医師会(2017)「会長短信 春夏秋冬(42)」、2017年1月30日)
11月の諮問会議における条件では、当時までに提案されていた3地域はどこも開設できる文言になっていたことに危機感を感じた獣医師会側が、1校だけを認めさせる圧力をかけたのである。
その結果、山本大臣は、この条件は受け入れざるを得ないという政治判断を行い、2017年1月の内閣府・文科省告示では、1校に限るという文言が入った。以上が、獣医学部新設に関する審議過程の全体像である。
1つの区域で規制改革が認められれば
他の区域でも認められるのが原則
次に、個々の自治体からの提案の経緯を見よう。
2014年7月に新潟市が獣医学部新設を提案して以来、特区WGは各省との折衝を続け、2015年の「日本再興戦略」への検討事項として盛り込むべく準備をしてきたことは、先に述べたとおりだ。しかし新潟市からはその後、WGへの具体的な追加提案がなかった。