獣医学部新設の制限は、株式会社による農地保有の禁止などと並んで有名な岩盤規制だ。だから特区WGは、2013年の特区制度設立時から、「国家戦略特区がこれらの岩盤に穴を開けなかったら、国家戦略特区の存在意義を問われる」と考えていた。
国家戦略特区における獣医学部新設に関しては、新潟市が2014年7月に最初に提案した。これは重大な案件なので、WGは5回にわたり、各省の担当官を招いてヒアリングをした。しかし文科省は新設の道筋を示せず、新設制限が正しいという理由を説明できなかった。
第一に、需給条件が満たされない場合は、獣医学部の新設希望校に大学設置審の審査を受けさせないという文科省告示の正当性を説明できなかった。第二に、百歩譲って需給条件を付けるとしても、獣医学部の定員数が十分だということの説明ができなかった(そのため2015年2月3日のWGでは、筆者が文科省に対して、新潟の2016年度新設を急いで決めるように迫っている)。
この頃、WGとしては、獣医学部新設を特区改革項目とする方向性を決め、その第一歩として、「日本再興戦略(改訂)2015」に盛り込むことを目指すこととした。
獣医学部新設の検討を義務付けた
「日本再興戦略」に従わない文科省
その結果、2015年6月末の「日本再興戦略(改訂)2015」に、「2015年度中における獣医学部新設の検討」を成長戦略として入れて閣議決定することができた。これは必ずしも特区でなくてもよいから、何らかの方法での新設の検討を文科省に義務付けたものだ(なお、新設に当たっては、「石破4条件」が付けられた。これは、検討期限を切った上で、検討の際の留意事項を記載したものである)。
「新設の検討」というのは、新設ができるのならば「できる」と言い、新設ができないのならば理由を示す、ということである。
ところが文科省は、2015年度内に獣医学部新設を検討すると約束しておきながら、ずるずると2016年度に入っても検討に決着を付けようとしなかった。閣議決定に従わなかったのである。
特区側としては、2016年度中には告示整備や区域会議認定を行うべきだと考えていたので、業を煮やして、2016年9月16日に特区WGでヒアリングを行ったが、文科省は十分な検討をしていないことが明らかになった。そのため、事務局にはさらなる折衝を依頼し、山本幸三特区担当大臣にはさらなる督促をお願いした。